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「日本児童文学の流れ」 - 国際子ども図書館

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子 どもの 文 学 の 新 周 期 ―1945-1960<br />

させるような、これは 大 変 優 れた 中 編 でした。も<br />

う 一 つ 記 憶 に 残 るのは「 少 年 と 符 号 」。これは、<br />

数 字 や 符 号 に 大 変 興 味 を 持 った 小 学 生 の 男 の 子<br />

が、 株 券 の 番 号 に 疑 問 を 持 ち、つまり 連 番 になっ<br />

ていないところを 見 つけて、 調 べていくうちに、<br />

証 券 を 中 心 とした 詐 欺 事 件 が 発 覚 するという 話 で<br />

す。これも 読 んでいてとても 面 白 かったです。な<br />

るほどと 深 くうなずかされました。 少 年 を 中 心 に、<br />

科 学 的 なきっかけで 何 か 事 件 が 解 決 されるという<br />

短 編 をいくつか 集 めているこの 本 は、 今 でもその<br />

まま 読 んで 面 白 いと 思 います。 携 帯 の 急 速 な 普 及<br />

は、 公 衆 電 話 を 多 用 する 物 語 を 時 代 遅 れにしてし<br />

まわないかといった 危 惧 を 私 たちは 持 つのです<br />

が、 作 法 の 確 かな 作 品 はびくともしません。アイ<br />

ディアの 独 創 と、 精 確 な 状 況 描 写 は、いつの 時 代<br />

の 読 者 をもうなずかせます。『 少 年 珊 瑚 島 』は 非<br />

常 に 優 れたエンターテインメントです。<br />

『 温 泉 場 のたぬき』( 土 家 由 岐 雄 著 小 峰 書 店<br />

1948)も、 今 読 んでも 楽 しめる 作 品 と 思 います。<br />

土 家 由 岐 雄 という 作 家 は、 皆 さんもご 存 知 でしょ<br />

う、『かわいそうなぞう』の 作 者 です。<br />

『 温 泉 場 のたぬき』は 枠 物 語 です。 山 の 村 にある<br />

温 泉 に 来 た 人 たちが、それぞれに、 自 分 で 経 験 し<br />

た 不 思 議 な 話 をきかせます。<br />

「こよいは 仲 秋 の 明 月 が、あたりの 山 はだや、<br />

温 泉 場 のやねがわらを、しろがね 色 にそめて、ひ<br />

ときわ 深 山 の 秋 のさびしさを 見 せております」と、<br />

写 実 を 土 台 に 定 型 化 した 美 しい 文 章 で、 第 一 話 、<br />

「 月 夜 の 温 泉 町 」が 紹 介 され、 続 いて「 手 品 つか<br />

いのはなし」「まゆ 商 人 のはなし」「お 人 形 つくり<br />

のはなし」「おしょうさんのはなし」「 興 業 師 のは<br />

なし」「おすもうさんのはなし」「 深 夜 のできごと」<br />

「ぬす 人 のはなし」「 子 だぬき 山 へかえる」と、9<br />

編 の 不 思 議 話 が 紹 介 されるのです。<br />

温 泉 場 のたぬきは、この 土 地 の 和 尚 さんに10 年<br />

間 世 話 になったお 礼 に、 佐 渡 へ 渡 って 金 掘 り 人 足<br />

のわらじに 付 いたわずかな 金 を 集 め、 和 尚 さんが<br />

人 々に 迷 惑 をかけずに 死 ねるだけの 金 を 送 ったた<br />

ぬきの 息 子 なのです。どの 話 も、ちょっと 不 思 議<br />

なことがおこり、 時 にはユーモラスな 楽 しさを 感<br />

じさせ、 時 にはしみじみと 心 に 染 みる、そして 時<br />

には 強 い 感 動 をよぶ10の 話 に、 北 田 卓 史 がユーモ<br />

ラスで 親 しみのもてるイラストレーションを 添 え<br />

ています。 忘 れられた 佳 編 でしょう。<br />

もう 一 つお 話 しておきたいのは、 作 家 火 野 葦 平<br />

が1949 年 に 出 版 した『 首 を 売 る 店 』( 桐 書 房 )です。<br />

この 時 期 、この 作 家 は 難 しい 立 場 にあったのでは<br />

ないかと 思 います。 戦 争 中 に『 麦 と 兵 隊 』が 人 気<br />

を 博 し、 戦 後 、 戦 犯 作 家 などと 言 われたときいて<br />

います。 表 題 の「 首 を 売 る 店 」は 一 種 のナンセン<br />

ス・ストーリーです。 首 を 売 る 店 があって、そこ<br />

で 皆 が 首 を 売 買 します。おばあさんやおじいさん<br />

は、もっと 別 の 首 が 欲 しくて 自 分 の 首 を 売 る。お<br />

ばあさんが 少 女 の 首 を 買 ってつける。また、 男 に<br />

なりたいおばあさんは、おじいさんの 首 をつける。<br />

そんな 風 にして、 誰 が 誰 だかわからなくなってし<br />

まうという、 大 変 愉 快 なナンセンスな 話 です。シェ<br />

イクスピアの『 真 夏 の 夜 の 夢 』は、 恋 人 が 入 れ 代<br />

わってしまう 喜 劇 ですが、こういう 変 身 ものは 昔<br />

からあって、しばしば、 笑 いの 中 に 風 刺 がこめら<br />

れています。けれど、「 遊 びに 出 かけた 時 計 屋 の 話 」<br />

は、 長 針 と 短 針 が、 真 夜 中 に 誘 われて 結 婚 式 に 出<br />

かけると、それは 森 の 精 と 沼 の 精 の 結 婚 式 だった<br />

といういかにも 童 話 的 な 話 です。2 人 の 針 が 出 か<br />

けて 行 った 結 婚 式 は、ふくろうや 狼 の 陰 謀 でめ<br />

ちゃめちゃになって、2 人 はほうほうのていで 逃<br />

げてきて、そしてやれやれと 時 計 に 戻 ります。そ<br />

の 間 、もちろん 時 計 は 止 まってしまっていたので、<br />

その 怠 けていた 時 間 に 追 いつくために、いつまで<br />

もいつまでもその 時 計 はチンチンいっていました<br />

という 終 わりは、なかなかしゃれていて 楽 しめま<br />

す。そんな 奇 妙 な 話 がこの 童 話 集 に 載 っているの<br />

です。 今 の 子 どもたちに 読 んでもらいたいですね。<br />

同 種 の 童 話 は、 平 塚 武 二 作 の「ウィザード 博 士 」<br />

や「 太 陽 の 国 のアリキタリ」などでしょう。 二 つ<br />

ともやはり、1948 年 の 作 品 です。「ウィザード 博 士 」<br />

はこんな 話 です。 世 界 的 に 有 名 なウィザードとい<br />

う 博 士 が、 皇 帝 陛 下 の 宮 廷 を 訪 ねて、 皇 帝 陛 下 に<br />

魔 法 を 見 せるようたのまれると、 宮 廷 中 が 真 っ 赤<br />

に 染 まり、 皇 帝 陛 下 は 何 を 見 てもみんな 真 っ 赤 に<br />

見 えてしまう 話 です。あの 頃 は 天 皇 制 が 大 きな 政<br />

治 問 題 になっていました。この 作 品 には、 天 皇 制<br />

に 対 する 風 刺 がこめられていたと 思 います。<br />

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