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「日本児童文学の流れ」 - 国際子ども図書館

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「タブーの 崩 壊 」とヤングアダルト 文 学<br />

とわざわざ 強 調 マークつきで 書 いてあります。「い<br />

ま 子 どもたちに 何 が 起 きているのか 日 本 ではま<br />

だ 知 られていない「 小 児 うつ 病 」を 解 明 した 初 め<br />

ての 本 。」とあるんですね。 今 や、 子 どものカウ<br />

ンセリングがあたり 前 になってしまって、 学 校 で<br />

事 故 や 事 件 があると、まず 心 のケアが 必 要 だとい<br />

うふうにたいていのニュースや 解 説 でも 言 いま<br />

す。それが 適 当 なのかという 話 と 別 の 問 題 です。<br />

1991 年 の 段 階 で「 子 どもだってうつ 病 にかかる」<br />

とか、「 学 校 へ 行 けない」とか、そういう 文 句 が<br />

本 のコマーシャルとして 成 立 したということで<br />

す。それから 十 数 年 しか 経 っていないのですけれ<br />

ども、 状 況 は 随 分 違 っていると 思 います。このこ<br />

とを 踏 まえつつ、 時 代 を 前 に 遡 る 感 じで 話 を 受 け<br />

取 っていただいた 方 が、 何 が 崩 壊 したのかという<br />

のがわかるかと 思 いますので、 二 つ 例 を 挙 げてみ<br />

ました。<br />

それではレジュメを 見 ていきたいのですが、<br />

「1 . タブーの 崩 壊 」という 話 題 は、 児 童 文 学 をリ<br />

アリズムとファンタジーとナンセンスというよう<br />

に 仮 に 三 つに 分 ければ、リアリズムの 作 品 の 話 と<br />

いうことになります。もちろん、この 時 代 の 児 童<br />

文 学 のすべてが「タブーの 崩 壊 」という 話 題 をめ<br />

ぐっていたわけではなくて、リアリズム 系 列 の 作<br />

品 の 傾 向 についての 話 であるということです。<br />

「タブーの 崩 壊 」というこの 言 葉 は、1970 年 代<br />

の 半 ばあたりから 使 われていました。この 言 葉 が<br />

広 まっていくきっかけは、 雑 誌 の『 日 本 児 童 文 学 』<br />

です。 東 京 の 神 楽 坂 にある 日 本 児 童 文 学 者 協 会 の<br />

機 関 紙 ですね。 現 在 も 隔 月 刊 で 出 ておりますが、<br />

この 当 時 は 毎 月 出 ておりました。1978 年 5 月 号 の<br />

特 集 が「タブーの 崩 壊 」で、その 副 題 が「 性 ・ 自<br />

殺 ・ 家 出 ・ 離 婚 」というものでした。 編 集 長 は、<br />

鳥 越 信 さんです。<br />

この 特 集 は、 最 初 、 子 どもの 現 実 を 考 えるとい<br />

う、もう 少 しキャッチフレーズ 的 ではないタイト<br />

ルで 編 集 を 始 めたのだということです。 編 集 して<br />

いく 段 階 で、 従 来 、 子 どもが 読 者 であることを 考<br />

えてあまり 児 童 文 学 が 書 いてこなかった「 性 ・ 自<br />

殺 ・ 家 出 ・ 離 婚 」といった 問 題 を 書 くことの 話 に<br />

なっていると 気 がついたので、タイトルを「タブー<br />

の 崩 壊 」に 変 えたということです。タブーとはそ<br />

の 場 で 口 にすることがためらわれるような、ふさ<br />

わしくない 話 題 を 指 すわけです。もちろん、 児 童<br />

文 学 の 場 合 、いわゆる 禁 忌 のように 明 確 にこれを<br />

ここで 口 にしてはいけない、などというような<br />

はっきりとした 決 まりがあったわけではありませ<br />

ん。 漠 然 と、 作 者 の 側 、 編 集 者 の 側 で、 子 どもを<br />

読 者 として 考 えた 場 合 になんとなく 避 けてきた、<br />

暗 黙 の 了 解 と 受 け 取 ってください。<br />

こういう 特 集 が 組 まれた 背 景 は 何 かというと、<br />

日 本 の 創 作 でいうと 今 江 祥 智 さんの『 優 しさごっ<br />

こ』ですね。 他 にもいくつかあります。( 注 : 岩<br />

瀬 成 子 『 朝 はだんだん 見 えてくる』 理 論 社<br />

1977、 末 吉 暁 子 『 星 に 帰 った 少 女 』 偕 成 社 1977<br />

など。)それから、 翻 訳 でいうと、 例 えば、ウル<br />

ズラ・ヴェルフェルの『 灰 色 の 畑 と 緑 の 畑 』。こ<br />

れは、ドイツ 文 学 です。 翻 訳 は、 野 村 さんです。<br />

グリム 童 話 の 翻 訳 もされています。 創 作 の 方 と 翻<br />

訳 の 方 と 両 方 から 作 品 が 出 て 来 てしまったことに<br />

どう 対 応 するかというきっかけで 出 て 来 た 特 集 な<br />

のです。<br />

今 江 祥 智 さんの『 優 しさごっこ』は、その 後 、<br />

新 潮 文 庫 にもなって、 中 身 はかなりよく 知 られて<br />

います。 作 品 の 始 まってすぐのところで、しばら<br />

く 友 人 の 山 荘 に 避 暑 に 行 っていた 母 親 のことを、<br />

父 親 が 連 れて 帰 ってくるので、 娘 はおじさんと<br />

いっしょに 新 幹 線 の 京 都 駅 まで 迎 えに 行 くんだけ<br />

れども、 結 局 、 帰 ってこない。そこから、 父 親 と<br />

娘 の 二 人 暮 しが 始 まる。 冒 頭 から 両 親 が 別 居 離 婚<br />

するという 話 が 出 てくるのですね。その 後 、その<br />

二 人 がどうやって 気 を 遣 い 合 って、 生 活 をしてい<br />

くかということになります。それを『 優 しさごっ<br />

こ』というふうに 名 付 けた 作 品 です。<br />

他 に 海 外 の 児 童 文 学 は、 神 宮 輝 夫 訳 でタウンゼ<br />

ンドの『アーノルドのはげしい 夏 』、 木 村 浩 ・ 新<br />

田 道 雄 訳 でロシア 児 童 文 学 のワジム・フロロフ『 愛<br />

について』、それから、ウルズラ・ヴェルフェル<br />

の『 灰 色 の 畑 と 緑 の 畑 』などが 次 々 出 版 されてい<br />

きました。 翻 訳 の 児 童 文 学 を、 大 人 は、これはド<br />

イツの 作 品 、これはロシアの 作 品 というように 分<br />

けるのですが、 子 どもの 読 者 は 自 分 にとって 読 む<br />

ことができる 作 品 という 意 味 で、 日 本 の 創 作 とほ<br />

とんど 区 別 していません。 大 学 で 授 業 していると、<br />

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