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「日本児童文学の流れ」 - 国際子ども図書館

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子 どもの 文 学 の 新 周 期 ―1945-1960<br />

やりの 心 、つまり、 人 の 頭 を 殴 ったら 痛 いだろう<br />

と 思 える、その 痛 みが 感 じられる、 人 の 悲 しみを<br />

悲 しみとして 同 情 できる、そういう 感 覚 からはじ<br />

まっていると 思 います。<br />

私 は、ユーモア 小 説 をとても 大 事 だと 思 ってい<br />

ます。ユーモア 小 説 は、 一 分 野 として 現 在 も 続 い<br />

ていますが、 戦 後 直 後 にたくさん 出 ました。 当 時<br />

の 作 品 を、 一 度 読 んでみる 必 要 があると 思 います。<br />

作 家 の 遠 藤 寛 子 には、 日 本 の 数 学 者 たちのこと<br />

を 書 いた 非 常 に 優 れた 作 品 がいくつかあります<br />

が、この 作 家 が『 児 童 文 学 事 典 』( 東 京 書 籍<br />

1988)の 由 利 聖 子 の 項 を 書 いています。 彼 女 は 戦<br />

前 の 作 家 である 由 利 聖 子 の『チビ 君 物 語 』 他 を 紹<br />

介 し、 由 利 聖 子 の「 短 編 がユーモア 調 の 強 いのに<br />

対 し、 長 編 は 微 笑 の 中 に 感 傷 の 涙 を 誘 う 特 異 な 作<br />

風 で、この 点 サトウハチローとも 佐 々 木 邦 とも 一<br />

線 を 画 する」、「 出 版 界 の 戦 時 体 制 強 化 につれ、 作<br />

品 からユーモア 色 は 後 退 し、 成 長 小 説 的 傾 向 を 増<br />

した」と 書 いています。 戦 前 にも 由 利 聖 子 、サト<br />

ウハチロー、 佐 々 木 邦 といったユーモア 作 家 がい<br />

たということです。 戦 後 になって、 多 くの 作 家 が<br />

登 場 しました。 由 利 聖 子 の 作 品 は 戦 争 中 に 書 いた<br />

ものもほとんど 戦 時 色 がなく、 戦 争 が 終 わると 同<br />

時 に 新 しい 版 が 次 々に 出 版 されました。とても 上<br />

手 な 人 です。『チビ 君 物 語 』は 戦 前 の 作 品 ですが、<br />

今 読 んでもとても 感 心 します。 優 れた 作 家 でした。<br />

新 しい 作 家 たち<br />

ユーモア 小 説 を 戦 後 書 いた 人 をレジュメにいく<br />

つか 挙 げてあります。1950 年 の『ミス 委 員 長 』の<br />

伊 馬 春 部 、1953 年 の『ドクトル 先 生 物 語 』の 北 町<br />

一 郎 、1954 年 の『おさげ 社 長 』の 宮 崎 博 史 、『ゆ<br />

かいなクルクル 先 生 』の 猪 野 省 三 、1955 年 の『な<br />

でしこ 横 丁 』の 紅 ユリ 子 、1956 年 の『 青 空 チーム』<br />

の 五 十 公 野 清 一 。 図 書 館 にあったらお 読 みくださ<br />

い。 面 白 いですから、 気 軽 に 読 めますが、とても<br />

大 事 なことをいろいろ 教 えられます。<br />

まず 気 づくことは、この 時 期 のユーモア 小 説 作<br />

家 たちのほとんどが、 円 熟 した 年 齢 の 人 たちだと<br />

いうことです。 伊 馬 春 部 の 名 は、 年 配 の 人 たちは<br />

よく 知 っていると 思 います。NHK で「 向 こう 三<br />

軒 両 隣 り」という 長 いラジオドラマを 書 いた 人 で<br />

す。 当 時 、 有 名 な 人 でした。 宮 崎 博 史 は、 三 越 で<br />

したか、 宣 伝 部 長 まで 勤 めた 人 だと 思 います。こ<br />

ういう 人 たちは、 物 事 を 客 観 的 に 見 ていろいろな<br />

ものを 判 断 できる 分 別 を 備 えていると 思 います。<br />

そういう 人 たちがユーモア 小 説 を 書 いたのです。<br />

『ミス 委 員 長 』―ユーモア 小 説 の 先 見 性<br />

この 作 品 は、ちょっと 年 配 の 方 には 懐 かしさの<br />

ある 作 品 ではないでしょうか。ちょうど 映 画 がカ<br />

ラーに 変 わる 時 期 のことで、オールカラーとか、<br />

総 天 然 色 といった 言 葉 がとても 新 鮮 なひびきを<br />

持 っていた 時 期 にあたります。ある 高 名 な 作 家 が、<br />

ある 会 合 で、プロ 野 球 と 言 わずに、 職 業 野 球 と 言 っ<br />

ているのを 聞 いて、ひどく 懐 かしい 感 じがして、<br />

なんとなくうれしくなったことがあります。<br />

『ミス 委 員 長 』は、お 父 さんのサラリーマンが、<br />

部 下 の 罠 にかかって 減 給 されるところからはじま<br />

ります。それを 知 った 高 校 生 のヒロイン 明 子 は 高<br />

校 を 中 退 して、デパートに 勤 めます。 大 学 生 の 兄<br />

も、 山 勝 商 事 という 会 社 でアルバイトを 始 めます。<br />

ヒロイン 明 子 は 才 気 煥 発 な 娘 で、 傾 きかけたデ<br />

パートが 社 員 の 知 恵 をかりるために 募 集 した 企 画<br />

コンテストに 優 勝 し、 彼 女 の 企 画 が 採 用 され、し<br />

かも、それがあたって、デパートは 右 肩 上 がりに<br />

成 長 していきます。 明 子 はヒロインになります。<br />

明 朗 で 実 力 ある 彼 女 は、 雑 誌 にプロフィールが<br />

載 ったり、 映 画 に 誘 われたりするまでになります。<br />

若 い 娘 のサクセスストーリーです。 快 く 読 んで<br />

楽 しむことができます。いい 加 減 な 作 り 話 と 考 え<br />

る 読 者 も 多 いでしょう。しかし、ちょっと 考 えて<br />

みてください。 今 では 当 たり 前 のことですが、 戦<br />

後 直 後 に 職 業 に 就 いてサクセスしていく 女 の 人 な<br />

ど、そんなにいなかったではないですか。 予 言 性<br />

に 富 んだ 話 です。 女 性 の 地 位 を 向 上 させ、 女 性 の<br />

生 き 方 を 広 げていく、やがてやってくるであろう<br />

男 女 平 等 社 会 をちゃんと 予 言 しています。 少 女 小<br />

説 を 研 究 なさっている 方 々は、 少 女 小 説 の 中 にそ<br />

ういった 先 見 性 が、 実 にたくさんあることを 指 摘<br />

しています。 昭 和 25 年 当 時 、こういう 話 は、 女 性<br />

にとって 非 常 に 力 強 い 励 ましだったにちがいあり<br />

ません。<br />

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