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「日本児童文学の流れ」 - 国際子ども図書館

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子 どもの 文 学 の 新 周 期 ―1945-1960<br />

何 かを 変 えていくという 力 はいっさいないのが 現<br />

実 です。しかし、こういう 話 の 中 では、 子 どもた<br />

ちがいろいろな 良 い 提 案 をして、 大 変 ものわかり<br />

の 良 い 町 長 さんや、 村 長 さんや、 町 会 議 員 や、 村<br />

会 議 員 がそれに 協 力 し、 自 分 たちの 理 想 の 遊 園 地<br />

を 作 るような 話 がよくあります。そういうことは<br />

現 実 にはほとんどありえない 話 だと 思 いますけれ<br />

ども、 一 つの 理 想 であり、 夢 であって、 嘘 だと 片<br />

付 けてしまうことはできません。そうあってほし<br />

いのですから。そういった 話 も 人 物 や 細 部 にリア<br />

リティがあれば、 読 みごたえあるものになるにち<br />

がいありません。ここに 紹 介 した 作 品 がそうした<br />

域 に 達 しているとは 言 えませんが、このタイプの<br />

長 編 小 説 も、 子 どもの 文 学 の 一 つの 形 として 大 切<br />

にしなくてはなりません。<br />

日 常 生 活 物 語<br />

1948 年 に 泉 本 三 樹 という 作 家 が『 峠 の 子 供 たち』<br />

という 小 説 を 書 いています。これも 農 村 が 舞 台 の<br />

子 どもの 生 活 物 語 です。まず、いつもにこにこし<br />

ていて、かけっこが 早 く、 釣 りの 名 人 である 善 三<br />

が 紹 介 されます。 善 悪 の 善 が 三 つ。 名 詮 自 性 、 名<br />

前 どおりの 少 年 です。まじめないい 子 で、 下 級 生<br />

を 大 事 にしたり、 同 級 生 と 仲 良 くしたり、 分 校 か<br />

ら 本 校 へ 通 っています。それが、 通 学 に3 時 間 く<br />

らいかかるので、 朝 早 く 起 きなければ 学 校 に 間 に<br />

合 いません。 本 校 へは4 年 生 になってからですが、<br />

妹 が 本 校 へ 行 くようになってから、 何 か 非 常 に 悲<br />

しげな、 寂 しげなつらそうな 顔 をするので 原 因 を<br />

さぐると、 本 校 の 連 中 に、 服 装 や 言 葉 やお 弁 当 な<br />

どを 馬 鹿 にされていたことがわかり、 善 三 は 妹 の<br />

ために 喧 嘩 をして、 学 校 へも 行 かなくなり、 急 に<br />

悪 い 子 になります。その 原 因 を 先 生 や 周 りの 人 た<br />

ちが 知 って、それからいじめた 子 どもたちも 後 悔<br />

して 仲 良 くなるのです。 山 村 を 舞 台 にした 子 ども<br />

たちの 日 常 を 書 いた 話 で、いじめとか 仲 違 いとか、<br />

事 件 のパターンは 決 まっていますが、 丁 寧 に 書 い<br />

てあるので 読 んでいて 納 得 できます。<br />

『ぼくのうらない』は、 磯 部 忠 雄 が1949 年 に 発<br />

表 したリアルな 短 編 小 説 です。「 私 の 夢 」では、<br />

女 の 子 が「 自 分 の 家 は、 闇 市 で 金 製 品 みたいなも<br />

のを 売 ってお 金 を 儲 けているけれども、そういっ<br />

たことをやめさせて、きちんとした 暮 らしをさせ<br />

てあげようと 思 います」というようなことを 作 文<br />

に 書 いたりしています。 時 代 はたしかにリアルに<br />

表 現 されているのですが、どこか 説 教 臭 があって<br />

あまり 面 白 くありません。<br />

思 想 や 政 治 といったものに 一 切 触 れないで、 少<br />

年 少 女 たちのさまざまな 生 活 を 書 いている 話 に<br />

は、こういった 話 が 多 く 見 られます。 既 成 社 会 の<br />

慣 習 、 道 徳 、 規 則 を 疑 問 なくうけいれて 生 活 する<br />

生 き 方 が 土 台 にあるので 新 鮮 味 がなく、 読 者 の 気<br />

持 ちも 弾 まないのでしょう。<br />

2. 少 年 たちの 冒 険 物 語<br />

子 どもに 向 けた 長 編 小 説 といえば、 当 然 冒 険 小<br />

説 ですが、この 分 野 では、20 世 紀 後 半 に 研 究 、 創<br />

作 に 活 躍 した 福 田 清 人 が1947 年 に『 岬 の 少 年 たち』<br />

を、 農 民 文 学 の 作 家 として 出 発 した 打 木 村 治 が<br />

1953 年 に『 生 きている 山 脈 』を 発 表 しています。<br />

『 岬 の 少 年 たち』の 奥 付 を 見 ると、 出 版 社 が「 大<br />

日 本 雄 辯 会 講 談 社 」と 書 いてあります。そして、<br />

イラストレーションは 内 田 巌 という 当 時 有 名 な 画<br />

家 でした。『おおきなかぶ』という 絵 本 の 文 を 書<br />

いた 内 田 莉 莎 子 の 父 親 です。「 大 日 本 雄 辯 会 講 談<br />

社 」と 内 田 巌 。 戦 後 そのものの 感 じがします。『 岬<br />

の 少 年 たち』はこんな 話 です。<br />

岬 の 村 の 少 年 ビンは、 釣 りの 帰 り 道 で、 鍋 を 火<br />

にかけて 料 理 をしている 老 人 に 会 い、 魚 を 分 けて<br />

あげます。 老 人 は、お 礼 に 赤 い 玉 と 青 い 玉 をビン<br />

に 渡 し、 赤 い 玉 は 勇 気 の 湧 く 玉 、 青 い 玉 はやさし<br />

さの 玉 だと 教 えてくれます。<br />

さて、ビンの 村 の 網 元 の 息 子 サブロは 毎 朝 遅 刻<br />

して 一 緒 に 登 校 する 村 の 仲 間 に 迷 惑 をかけている<br />

わがままな 少 年 。 赤 い 玉 をもらったビンは、サブ<br />

ロの 父 親 に 遅 刻 の 迷 惑 を 伝 えます。 小 さなトラブ<br />

ルのあげく、 偶 然 ビンの 青 い 玉 を 手 にしたサブロ<br />

の 父 親 は 突 然 おもいやり 深 い 人 となります。そし<br />

て、 仲 良 しになったビンとサブロは 昔 の 炭 鉱 跡 が<br />

海 賊 の 倉 庫 になっていることを 知 り、 潜 水 上 手 な<br />

友 人 と 協 力 して、 海 賊 を 捕 まえます。<br />

これはふつうの 少 年 小 説 ですが、 青 い 玉 、 赤 い<br />

玉 というスーパーナチュラルなものが 出 てくるの<br />

で、リアルな 小 説 というより 物 語 です。 独 創 的 な<br />

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