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「日本児童文学の流れ」 - 国際子ども図書館

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子 どもの 文 学 の 新 周 期 ―1945-1960<br />

宮 崎 博 史 の『おさげ 社 長 』<br />

この 作 品 は、1954( 昭 和 29) 年 に 偕 成 社 が 出 し<br />

ています。ヒロインのおじいさんの 家 が 地 方 で 味<br />

噌 の 醸 造 をしています。 味 噌 の 醸 造 家 で、 素 封 家<br />

でもあります。ところが 後 継 ぎがいないのです。<br />

すると、 東 京 からやってきたおさげの 小 学 生 の 孫<br />

が「 私 が 継 ぐ」と 言 って 社 長 になって、いろいろ<br />

な 工 夫 をして 働 くという 話 なのです。これも 突 飛<br />

なアイディアで 面 白 く 読 めるだけの 話 と 言 ってし<br />

まえば、 確 かにそうかもしれません。しかし、『お<br />

さげ 社 長 』のような 話 の 基 礎 を 形 成 するモラルや<br />

生 活 感 覚 を 考 えて 見 ましょう。 地 方 の 味 噌 醸 造 家<br />

であるヒロインの 祖 父 母 の 人 柄 や 雰 囲 気 には、 近 ・<br />

現 代 日 本 の 中 産 階 級 が 築 き 上 げてきた 普 遍 的 な 生<br />

活 パターンが 見 て 取 れます。それは 西 ヨーロッパ<br />

的 な 人 権 主 義 的 な 考 え 方 とあまりずれては 感 じら<br />

れません。<br />

比 較 として、すぐに 思 い 当 るのは、『ノンちゃ<br />

ん 雲 に 乗 る』です。あのお 父 さんのモラルは、 大<br />

正 期 の 自 由 主 義 的 な、そして 民 主 主 義 的 な 雰 囲 気<br />

の 中 で 育 った 都 会 人 たちが 持 っていた 人 間 観 であ<br />

り、 家 庭 観 だと 思 います。それが 戦 後 の 混 乱 期 に<br />

理 想 の 家 庭 を 真 剣 に 考 えていた 人 たちにヒットし<br />

て、たくさん 読 まれたのだと 思 います。あの 作 品<br />

に 見 られるのはよき 家 庭 、よき 子 ども、よき 親 父 、<br />

よき 母 親 です。そして、それは、『ノンちゃん 雲<br />

に 乗 る』にだけではなく、 戦 後 に 現 れたユーモア<br />

小 説 のほとんどの 土 台 にあるものです。 日 本 の 民<br />

衆 社 会 が 長 い 間 形 成 してきた 人 間 観 や 日 常 生 活 の<br />

モラルなどを 含 んだ 基 本 的 な 生 き 方 が 見 られま<br />

す。<br />

ユーモアは、 子 どもの 文 学 の 基 本 的 要 素 である<br />

ことをしっかりと 教 えてくれるのは、 猪 野 省 三 が<br />

この 時 期 発 表 したユーモア 小 説 です。この 作 家 は、<br />

生 え 抜 きのプロレタリア 文 学 作 家 で、 政 治 的 に 偏<br />

向 した 作 品 もありますが、 先 見 性 の 豊 かな 作 家 で<br />

はなかったでしょうか。 戦 後 一 貫 してユーモアと<br />

物 語 性 を 作 品 で 主 張 し 続 けました。<br />

彼 は、1954 年 に 泰 光 堂 から『ゆかいなクルクル<br />

くる くるよし<br />

お<br />

先 生 』を 上 梓 しています。 来 眩 良 男 という「いま、<br />

東 京 にいて、 社 会 科 の 大 先 生 になっている」 主 人<br />

公 の 戦 地 生 活 と 復 員 後 の 教 師 生 活 をユーモラスに<br />

物 語 にしながら、 戦 後 の 生 き 方 のヒントを 伝 えよ<br />

うとしていました。 作 者 の 背 後 にあるイデオロ<br />

ギーが 素 顔 を 見 せることなく、なかなかに 読 める<br />

作 品 になっているのは、 彼 が「 生 き 生 きとした 力<br />

にみちた、ほんとうのユーモア」(はしがき)を<br />

心 がけたからでしょう。ユーモアは、 本 質 を 失 う<br />

ことなく、 先 鋭 なものを 柔 軟 に、 難 解 なものをや<br />

さしくして、 伝 達 の 範 囲 を 広 げてくれる 特 徴 を<br />

もっているのです。<br />

5 章 新 しい 時 代 に 向 かって<br />

大 正 期 から 昭 和 戦 前 期 にかけて、 日 本 の 子 ども<br />

の 文 学 の 主 流 を 形 成 したのは「 童 話 」と 一 般 に 考<br />

えられていますが、 戦 後 直 後 、「 童 話 」の 流 れも<br />

新 しく 変 わろうと 苦 闘 していました。<br />

『 赤 いコップ』( 児 童 文 学 者 協 会 編 紀 元 社<br />

1948 三 芳 梯 吉 絵 鈴 木 信 太 郎 装 丁 )がそれを<br />

はっきりと 示 してくれます。 編 集 委 員 である 木 内<br />

高 音 と 関 英 雄 と 塚 原 健 二 郎 は、この 作 品 集 刊 行 の<br />

主 意 を、「 少 年 小 説 」の 領 域 をはっきりさせること、<br />

少 年 小 説 と 童 話 の 相 違 をあきらかにすることだと<br />

述 べていました。そして、もう 一 つ 重 要 なのは「 童<br />

話 文 学 は、うしろにかならず 童 心 とファンタシイ<br />

の 世 界 をひかえている。 少 年 小 説 のほうは、 少 年<br />

のファンタシイを 描 いているものでも、 現 実 の 人<br />

生 記 録 として、 実 際 の 少 年 生 活 と 少 年 心 理 を 細 叙<br />

する 性 質 をもっている」という 部 分 でしょう。こ<br />

こで 使 われたファンタシイという 言 葉 は「 空 想 」<br />

「 幻 想 」という 意 味 で 使 われていて、ジャンルと<br />

してのファンタジーの 意 味 は 持 たないとしても、<br />

戦 後 、 子 どもの 文 学 世 界 でファンタジーという 言<br />

葉 が 登 場 したのは、このあたりがはじめてと 思 い<br />

ます。<br />

収 録 されている 作 品 は、 目 次 の 順 に 並 べると、<br />

次 のようになります。「 兄 とおとうと」( 奈 街 三 郎 )、<br />

「ラクダイ 横 丁 」( 岡 本 良 雄 )、「 冬 をしのぐ 花 」( 北<br />

川 千 代 )、「ぬすまれた 自 転 車 」( 猪 野 省 三 )、「 多<br />

賀 さんと 石 田 アヤ 先 生 」( 片 山 昌 造 )、「 寒 雀 」( 木<br />

内 高 音 )、「やなぎの 糸 」( 壺 井 栄 )、「 明 日 の 夕 焼 け」<br />

( 秩 父 芳 朗 )、「 風 船 は 空 に」( 塚 原 健 二 郎 )、「 赤 い<br />

コップ」( 打 木 村 治 )です。<br />

選 ばれた10 編 はすべてリアリスティックな 短 編<br />

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