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「日本児童文学の流れ」 - 国際子ども図書館

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十 五 年 戦 争 期 の 絵 本 ― My Choices<br />

の 距 離 感 の 美 的 表 現 に 一 篇 の 趣 意 が 集 約 され<br />

る。<br />

自 分 が 成 長 するにつれて 母 が 遠 ざかっていく。<br />

しかし 母 というものは、どこまでも 消 えることな<br />

く、 風 景 としてずっと 見 えている。あまり 遠 くに<br />

行 ってしまって、 悲 しみの 彼 方 へと、 行 ってしまっ<br />

ている。その 思 い 出 の 母 を、「 捜 り 打 つ 夜 半 の 最<br />

弱 音 」、 悲 しみ、 哀 切 の 情 が、 紛 れもなくそこに<br />

あるのです。<br />

堀 田 善 衛 もまたこう 解 説 しています。<br />

この 四 行 によって 出 発 をしたときに、すでに<br />

詩 人 としての 彼 の 一 切 は 完 結 してしまっている<br />

のである。と、こういうことを 言 うと、 吉 田 一<br />

穂 はおそらくおれの 築 き 上 げた 全 形 而 上 学 を 無<br />

視 するか、と 言 って 怒 るであろうが、そのこと<br />

の 検 討 は 別 におこなうことにして、 彼 は 全 生 涯<br />

をかけてこの 処 女 作 の 四 行 に 向 って 形 而 上 学 的<br />

に、あるいは 反 歴 史 的 に 成 熟 して 行 くのであっ<br />

て、 処 女 作 の 四 行 によって 詩 人 としての 一 切 が<br />

完 成 し 完 結 しているということほどにも、 彼 の<br />

栄 光 を 物 語 るものはないのであり、( 後 略 )<br />

と 言 っています。この 代 表 作 は、 実 は 処 女 作 では<br />

ないけれども、 最 初 にこういう 詩 を 詠 ってしまっ<br />

たら、 後 はこれを 越 えるのはきわめて 難 しい。し<br />

かし、この 四 行 があれば、 詩 人 として 不 滅 である、<br />

と 激 賞 し、 同 時 にこういうものを 書 いてしまうと、<br />

この 人 の 後 の 一 生 というのは、 半 歴 史 的 に 逆 行 し<br />

ていかなくてはならない 宿 命 を 持 っている、とい<br />

うのが 堀 田 善 衛 の 意 見 ですね。<br />

吉 田 一 穂 はおおよそこういう 詩 人 でした。かな<br />

り 高 踏 的 な 詩 を 書 く 人 でしたが、 子 どもに 向 けて<br />

は、『ウミヘ』、『ウシヲカフムラ』、『ハナサキミ<br />

ノル』で 見 ましたように、ひじょうにわかりやす<br />

い、そして、 一 字 一 句 を 心 に 反 芻 しながら 読 むと、<br />

イメージが 大 きく 広 がっていく 詩 を 書 きました。<br />

それをまた、 佐 藤 忠 良 や 島 田 訥 郎 といった、 一 穂<br />

の 世 界 を 的 確 、 見 事 に 絵 として 描 ける 画 家 を 選 び<br />

出 して、 彼 の 絵 本 を 作 り 上 げているのです。こう<br />

いう 作 家 が 戦 中 に 存 在 していたのです。<br />

上 野 をうたった「 北 の 門 」<br />

たまたま 私 たちが 今 いるこの 図 書 館 、 私 は 学 生<br />

時 代 にここへ 調 べに 来 た 憶 えがあって、とても 懐<br />

かしいですが、 吉 田 一 穂 さんに、 上 野 駅 近 くを 歌 っ<br />

た「 北 の 門 」という 詩 があるのです。 戦 後 は、 東<br />

北 から 就 職 に 出 てくる 人 はみな 東 北 本 線 で 来 て、<br />

上 野 駅 で 降 り、そこからそれぞれの 事 業 主 のとこ<br />

ろへ 向 かいました。その 意 味 で、 上 野 は 貧 しい 東<br />

北 を 東 京 へ 迎 え 入 れる 北 の 門 でした。 人 が 死 ぬと<br />

北 枕 というように、 北 は 死 をも 意 味 します。 北 の<br />

門 から 死 者 は 出 て 行 くという、そういう 考 えもあ<br />

るので、 上 野 はそういう 滅 びの 門 でもありました。<br />

「 北 の 門 」はこう 歌 われています。<br />

息 荒 く、 雪 を 被 つた 列 車 が 入 つてくる。<br />

なま<br />

東 北 訛 りが 続 々と 吐 き 出 される。<br />

人 混 みにまぎれこみ、<br />

魔 府 の 渦 に 吸 ひこまれ、<br />

何 処 とも 知 れず、 消 え 去 つてゆく。<br />

ここで、 上 野 駅 に 上 京 してくる 東 北 人 、 自 分 も<br />

含 めてそういう 人 たちの 姿 を 書 いています。<br />

ふるさとを 失 った 動 物 園 の 標 本 たち、<br />

わな<br />

餌 づけられた、その 日 暮 しの 罠 から、<br />

ぬ<br />

鉄 柵 から、この 門 から 抜 け 出 しやうもない。<br />

捕 らえられた 動 物 たちも、 逃 げようもなく 動 物<br />

園 に 閉 じ 込 められている。 人 間 も 東 京 にやって 来<br />

ては、「 魔 府 の 渦 」の 中 に 巻 き 込 まれていく。 動<br />

物 たちと 同 じではないか。<br />

望 郷 の 無 籍 者 たちに、 星 の 見 える 空 もなく、<br />

腐 つた 大 川 が、その 東 を 流 れてゐた。<br />

隅 田 川 でしょう、これは。 幻 滅 の 都 会 ですね。<br />

やんごとなきおかたからの 金 五 円 と、 白 木 の 函<br />

を 抱 いて、<br />

ぼんしょう 寛 永 寺 の 門 を 出 た 時 、 梵 鐘 の 鐘 が 鳴 つた。<br />

これは、 一 穂 の 弟 が 東 シナ 海 で 戦 死 して、 遺 骨<br />

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