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「信託等の entity と国際課税:所得の帰属と前提問題」[編集 ... - 立教大学

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会 員 懇 談 会「 信 託 等 の <strong>entity</strong> と 国 際 課 税 : 所 得 の 帰 属 と 前 提 問 題 」[ 編 集 部 へ: 昨 年 の 題 名 を 意 識 して 8/29 の 時 から 変 更 しましたが、まずければ 8/29 の 時 の 題 名 で 構 いません]講 師 浅 妻 章 如 氏 ( 立 教 大 学 法 学 部 准 教 授 )日 時 平 成 24 年 8 月 29 日 ( 水 ) 午 後 1 時 30 分 ~3 時場 所 日 本 工 業 倶 楽 部 4 階 第 4 会 議 室立 教 大 学 法 学 部 、 浅 妻 章 如 と 申 します。 本 日 は 報 告 の 機 会 を 与 えていただき、ありがとうございます。 今 日 はいろいろ 専 門 的 な 方 もいらっしゃって、ちょっと 私 、ぼろを 出 すのが 怖 いのですけれど、よろしくお 願 いします。1.はじめに1なぜこのテーマかということで、 昨 年 Garron 事 件 を 報 告 させていただきまして、 今 年 に 入 り、 夏 に 何 か 報 告 しませんかと 尋 ねられた 際 に、「イギリスのhybrid <strong>entity</strong>の 判 例 が 面 白 いのではないかと 思 っていますけれども、それが 駄 目 でしたら 信 託 法 学 会 で 話 せなかった 信 託 の 話 も 一 応 あるにはあります。ただ、 昨 年 も 信 託 でしたからいかがなものでしょうか」といった 返 答 をしましたら、 両 方 やりましょうという 話 になりまして、びっくりしました。両 方 やるとしまして、まずSwift 事 件2 の 方 についてですが、イギリスの 居 住 者 がアメリカでLLCだかLLPだかの透 明 扱 いされる<strong>entity</strong>を 通 じて 課 税 を 受 けたことについてイギリスで 外 税 控 除 が 受 けられるかどうかという 判 例 だったと 思 いますけれども、これが 個 人 的 に 面 白 そうだなと 思 っていたのですが、 吉 村 政 穂 先 生 が 既 に 6 月 25 日に 報 告 されたということなので 3 、また 別 の 演 題 を 考 えているところなので 11 月 の 方 は 未 定 です 4 。今 日 は 信 託 税 制 ということなのですが、 今 年 の 6 月 10 日 に 信 託 法 学 会 で 租 税 法 研 究 者 が 報 告 の 機 会 をいた5だきまして、 註 のリンク 先 で 中 里 実 、 藤 谷 武 史 、 吉 村 政 穂 、 神 山 弘 行 、 渕 圭 吾 、 浅 妻 章 如 の 報 告 資 料 を 入 手 できます。もともと 信 託 税 制 、 信 託 の 国 際 的 な 側 面 について 興 味 を 持 ったのは、トラスト 60 の 研 究 会 ( 座 長 : 中 里 実 )に 参加 して、Garron 事 件 を 勉 強 して6 、それを 昨 年 ここで 報 告 させていただいた 7 ということがあります。その 後 、「2012 年 6 月 に 信 託 法 学 会 で 何 か 信 託 と 税 制 に 関 して 報 告 しないか」という 話 が 上 がりまして、 私 は 国際 課 税 をやりたいと 言 って、その 時 ちょうど 面 白 いなと 思 ったのがカナダのSommerer 事 件8 というものです。 信 託法 学 会 のためにSommerer 事 件 を 勉 強 して 準 備 したつもりだったのですけれど、よくよく 用 意 していくと、20 分 の報 告 時 間 でSommerer 事 件 を 説 明 するのは 難 しいということで、 信 託 法 学 会 では、 用 意 はしたのですが 報 告 はしないでおりました。どこかで 文 章 化 したいと 思 っておりましたところ、ではいうことで 日 本 評 論 社 「 法 律 時 報 」から今 度 書 かせていただくことになりました。 原 稿 としてはその「 法 律 時 報 」にまとめる 予 定 です 9 。信 託 法 学 会 の 方 は、 最 初 、 書 いたものがそのまま 載 るのだと 思 っていたのですが、 口 述 のテープ 起 こしだけが学 会 誌 に 載 るそうで、 原 稿 という 形 ではないそうですので、 今 日 は 信 託 法 学 会 で 話 せなかった 話 と、それから、10Smallwood 事 件 も 実 は 結 構 面 白 いなと 思 うようになりましたのでこちらも 扱 います。 註 にありますように、Avery1 Garron v. The Queen, 2009 TCC 450; 2010 FCA 309; 2012 SCC 14 (fixed). St. Michael Trust Corp. (as Trusteeof the Fundy Settlement and as Trustee of the Summersby Settlement) v. The Queen とも 呼 ばれる。 信 託 の 居 住 地が 信 託 受 託 者 の 居 住 地 国 であるバルバドスにある(のでカナダの 課 税 権 はカナダ・バルバドス 租 税 条 約 により 制限 される)という 納 税 者 側 の 主 張 を 斥 け、 信 託 の 管 理 ・ 支 配 (management and control)がある 所 に 信 託 の 居 住 地がある( 英 国 の De Beers v. Howe, [1906] AC 455 に 依 拠 )との 一 般 論 の 下 、 本 件 では 居 住 地 はカナダであると 判断 した 事 例 。 昨 年 報 告 した 後 、 最 高 裁 判 決 が 2012 年 に 出 た。2 Mr. Swift v. HMRC, [2010] UKFTT 88 (TC); HMRC v. George Anson, [2012] UKUT 59 (TCC). Swift 事 件 として 知 られていたが、Swift は 仮 名 であったようであり、George Anson が 正 しい 名 前 のようである。3校 正 註 : 吉 村 政 穂 「ハイブリッド 事 業 体 ・ 取 引 を 利 用 したスキームをめぐる 課 税 上 の 問 題 」 租 税 研 究 755 号 242頁 (2012.9)4校 正 註 :8 月 29 日 時 点 で 未 定 であったが、アメリカの PPL v. Commissioner, 135 T.C. 304 (2010); reversed by665 F.3d 60 (3d Cir. 2011) 及 び Entergy v. Commissioner, T.C. Memo. 2010-197; affirmed by 683 F.3d 233 (5thCir. 2012)の 2 事 件 の 紹 介 を 通 じて、 外 税 控 除 適 格 について 11 月 8 日 に 考 察 したいと 予 定 している。5 http://www.shintakuhogakkai.jp/activity/37.html6註 7 と 時 系 列 が 逆 になるが、 浅 妻 章 如 「 信 託 と 租 税 条 約 の 適 用 に 関 する 考 察 」 中 里 実 他 『トラスト 60 研 究 叢 書金 融 取 引 と 課 税 (2)』59 頁 (2012.7) (http://www.trust60.or.jp/content67.pdf)。7浅 妻 章 如 「 信 託 等 の <strong>entity</strong> と 国 際 課 税 : 居 住 概 念 等 を 足 掛 かりとして」 租 税 研 究 744 号 193 頁 (2011.10)8 Peter Sommerer v. The Queen, 2011 TCC 212 (appealed).9浅 妻 章 如 「 信 託 税 制 の 国 際 的 側 面 : 所 得 の 帰 属 など」 法 律 時 報 2012 年 11 月 号 掲 載 予 定 。10 HMRC v. Smallwood, [2010] EWCA Civ 778 (fixed). Dr. John F. Avery Jones (ジョン・F・エイブリー・ジョーン1


Jones 氏 が 日 本 に 来 られたときに 講 演 で 紹 介 されたということが「 租 税 研 究 」に 載 っていましたが、 残 念 ながらあまりそこでは 詳 しくは 報 告 されていなかったようでして、 更 に 増 井 良 啓 先 生 も 紹 介 されていますが、 改 めて 今 日 ここで 紹 介 することには 意 義 があるのではないかと 思 います。信 託 法 学 会 では Smallwood 事 件 で 居 住 地 の 認 定 は 管 理 支 配 地 基 準 で 決 まりましたというところだけをお 話 ししたのですが、その 前 提 問 題 の 方 が 実 はわれわれ 租 税 法 律 家 にとっては 面 白 い 問 題 なのではないかと 思 っています。その Smallwood 事 件 と、 元 々のターゲットだった Sommerer 事 件 について、 法 律 時 報 で 原 稿 化 の 機 会 をいただいたとはいえ 字 数 の 制 約 から 削 らざるをえないであろうことも 含 めて、 今 日 は 扱 いたいと 思 います。2.Smallwood 事 件2.1. 事 実 関 係 ・ 争 点英 国 モーリシャス ジャージーSmallwood family(beneficiary)===KPMG PMIL===LuteaMr&Mrs Smallwood (2nd trustee) (1st trustee)(settlor & 3rd trustee)|信 託 登 録|FirstGroup 株 &Billiton 株 ( 信 託 財 産 )―――┘11Smallwood 事 件 から 参 ります。 図 を 御 覧 下 さい。 最 初 、このSmallwoodさんという 方 が 財 産 を 持 っている。FirstGroup 社 とBilliton 社 という、これはイギリスの 公 開 会 社 のようですが、そこの 会 社 の 株 式 を 持 っていて、この株 式 を 信 託 財 産 として 拠 出 したということです。最 初 は、ジャージーのLutea 社 というところがtrustee( 受 託 者 )となって、FirstGroup 社 及 びBilliton 社 の 株 式 を 信託 財 産 としてsettlor( 設 定 者 )であるSmallwood 夫 妻 が 拠 出 して 信 託 (Trevor Smallwood Settlement)を 設 定 し、 受益 者 (beneficiary)はSmallwoodさんの 家 族 ということになっています。このFirstGroup 株 とBilliton 株 について、 処分 しましょうというときに、 単 純 に 処 分 してしまうとイギリスでキャピタルゲイン 課 税 をくらってしまいますので、これを 何 とか 回 避 しましょうということをKPMGから 提 案 を 受 けたという、そういう 事 実 関 係 のようです。イギリスでは、 所12得 税 とは 別 にキャピタルゲイン 税 法 (Taxation of Chargeable Gains Act) によって 課 税 されるということがあります。そこはあまり 今 回 は 気 にしなくていいと 思 います。イギリスのルールの 確 認 から。§2(1) TCGAで、ある 納 税 者 がある 年 度 の 全 部 又 は 一 部 において 英 国 居 住 者13である 場 合 については、 全 世 界 所 得 課 税 がされるというのが 原 則 ということになっています 。この「 一 部 において」というところが 後 で 鍵 となってきます。イギリスの 信 託 課 税 に 関 しては 日 本 とかなり 原 則 ・ 例 外 が 変 わっていまして、 受 託 者 に 着 目 して 課 税 関 係 が 決せられるということになっています。 日 本 とかアメリカとかでは 大 体 受 益 者 にパススルーして 課 税 関 係 が 決 まるのが 原 則 ですが( 日 本 所 得 税 法 13 条 )、イギリスは 受 託 者 (trustee)に 着 目 するのだということが 原 則 とされているようです。一 部 でも 英 国 居 住 者 であると 課 税 されるのであれば、では 全 期 間 非 居 住 者 であればイギリスで 課 税 されませんねというのがまず 1 つ 思 い 付 くところです。それについて 租 税 回 避 対 策 規 定 があるということで、 非 居 住 者 である 受 託 者 が 何 か 財 産 を 処 分 し、chargeable gain( 課 税 対 象 となるようなキャピタルゲイン)が 発 生 するような 場 合 について、§2(1) TCGA に 基 づけば 英 国 は 課 税 できないはずですが、 信 託 の settlor が 英 国 居 住 者 である 場 合 には、 英 国 の settlor が 何 か 租 税 回 避 をするために 外 国 の trustee を 使 っているのではないかなという 推 測 が 働 くわけです。そのような 場 合 について、 一 定 の 要 件 の 下 で、§86(4) TCGA 14 で、 外 国 居 住 者 たるtrusteeが 処 分 した 場 合 でズ)「 租 税 条 約 に 係 る 最 近 の 論 点 」 租 税 研 究 751 号 217 頁 (2012.5)(Smallwood 事 件 で Special Commissionersの 一 人 として 判 断 に 加 わった); 増 井 良 啓 「 信 託 と 国 際 課 税 」 日 税 研 論 集 62 号 『 信 託 税 制 の 体 系 的 研 究 ― 制 度と 解 釈 ―』227 頁 以 下 、261 頁 (2011.12) 参 照 。11英 国 信 託 税 制 について 藤 谷 武 史 「 海 外 の 信 託 税 制 (4)イギリス 信 託 税 制 」 信 託 243 号 28 頁 (2010) 参 照 。12英 国 では 所 得 税 法 (ITA: Income Tax Act)とは 別 のキャピタルゲイン 税 法 (TCGA: Taxation of ChargeableGains Act)によって 課 税 される。 浅 妻 章 如 「 付 論 英 国 : 事 業 資 産 買 換 救 済 、 米 国 : 同 種 交 換 」 海 外 住 宅 ・ 不 動 産税 制 研 究 会 編 著 『 欧 米 4か 国 におけるキャピタルゲイン 課 税 制 度 の 現 状 と 評 価 』121 頁 ( 日 本 住 宅 総 合 センター、2008)、 佐 藤 和 男 『 土 地 と 課 税 歴 史 的 変 遷 からみた 今 日 的 課 題 』389 頁 以 下 ( 日 本 評 論 社 、2005) 等 参 照 。13 [2010] EWCA Civ 778, para 3.14 [2010] EWCA Civ 778, para 3 より 抜 粋 。"86. Attribution of gains to settlors with interest in non-resident or dual resident settlements2


あっても、settlorである 英 国 居 住 者 にキャピタルゲインが 帰 属 するものとして 課 税 しますということが 書 かれてあるという、そういう 租 税 回 避 対 策 規 定 があるということです。§86(4) TCGA に 基 づくと、 外 国 居 住 者 である trustee が 実 現 させたキャピタルゲインについて、 英 国 の settlorにキャピタルゲインが 帰 属 するということですが、settlor が 外 国 居 住 者 である 場 合 という 要 件 が 書 かれてありますので、では 当 該 年 度 の 一 部 の 期 間 において 英 国 居 住 者 であるようにしましょうということを 考 えるようになります。それに 対 して、 今 度 は§77(1) TCGA 15 という 規 定 が 出 てくるようですが、それによってキャピタルゲインは 今 度 、受 託 者 ではなくsettlorに 帰 属 するものとして 課 税 するということが 規 定 されています。この§77(1)(b)のところですが、「be chargeable to tax for the year in respect of those gains」、「 問 題 となっている 課 税 対 象 のキャピタルゲインに 関 して、 当 該 年 度 において 課 税 される」という 文 言 にタックスプランニングが 着 目 しまして、 受 託 者 が 当 該 年 度においてキャピタルゲインについて 課 税 されるのではない 状 態 を 作 れば、そうすれば§77(1) TCGAは 発 動 しないのではないかということを 計 画 したということです。be chargeable ではない 状 況 を 作 るために 英 国 モーリシャス 租 税 条 約 の 13 条 4 項 に 着 目 して、これは OECD モデル 租 税 条 約 の 13 条 5 項 と 同 じように、 一 般 的 にキャピタルゲインは 源 泉 地 国 で 課 税 できませんという 規 定 ですが、この 租 税 条 約 の 規 定 で、モーリシャス 居 住 者 である 受 託 者 がイギリスにおいて be chargeable to tax ではないという 状 況 を 目 指 したというのが 今 回 の"round the World" scheme(「 世 界 一 周 」スキーム)の 概 要 のようです。英 国 の 課 税 年 度 は 4 月 6 日 始 まりなのですが、2000-2001 課 税 年 度 (2000.4.6~2001.4.6)の 途 中 において、Luteaが 受 託 者 であることをやめ、Smallwoodがsettlorとしての 指 図 権 を 行 使 してモーリシャス 法 人 であるKPMGPeat Marwick International Limited (PMIL)がsecond trusteeとなり、モーリシャス 法 に 基 づき 海 外 信 託 (offshoretrust)としての 登 録 を 受 けたとあります。second trusteeとなって、モーリシャス 居 住 者 が 受 託 者 であるときに、このタイミングでFirstGroup 株 とBilliton 株 を 処 分 し、キャピタルゲインを 実 現 させて、そのときは 英 国 モーリシャス 租 税(1) This section applies where the following conditions are fulfilled as regards a settlement in a particular yearof assessment --(a) the settlement is a qualifying settlement in the year;(b) the trustees of the settlement fulfil the condition as to residence specified in subsection (2) below;(c) a person who is a settlor in relation to the settlement ('the settlor') is domiciled in the United Kingdom atsome time in the year and is either resident in the United Kingdom during any part of the year or ordinarilyresident in the United Kingdom during the year;(d) at any time during the year the settlor has an interest in the settlement;(e) by virtue of disposals of any of the settled property originating from the settlor, there is an amount onwhich the trustees would be chargeable to tax for the year under s.2(2) if the assumption as to residencespecified in subsection (3) below were made.. . . . .(2) The condition as to residence is that --(a) the trustees are not resident or ordinarily resident in the United Kingdom during any part of the year.. . .(3) Where subsection (2)(a) above applies, the assumption as to residence is that the trustees are resident orordinarily resident in the United Kingdom throughout the year;. . . . .(4) Where this section applies --(a) chargeable gains of an amount equal to that referred to in subsection (1)(e) above shall be treated asaccruing to the settlor in the year."15 [2010] EWCA Civ 778, para 5 より 抜 粋 。"(1) Where in a year of assessment:(a) chargeable gains accrue to the trustees of a settlement from the disposal of any or all of the settledproperty,(b) after making any deduction provided for by s.2(2) in respect of disposals of the settled property, thereremains an amount on which the trustees would, disregarding s.3, be chargeable to tax for the year inrespect of those gains, and(c) at any time during the year the settlor has an interest in the settlement;the trustees shall not be chargeable to tax in respect of those but instead chargeable gains of an equal amount tothat referred to in paragraph (b) shall be treated as accruing to the settlor in that year." [ 下 線 : 浅 妻 ]ところで、Cleave, note 16, at 714 は、 本 件 において 仮 に HMRC が§77(1) TCGA に 依 拠 して 課 税 しようとするとしたらどうなるかという 問 題 について、 所 得 の 帰 属 の 問 題 として、CFC 税 制 (controlled foreign corporationlegislation)に 関 する 先 例 (Bricom 事 件 :Bricom Holdings Ltd v. IRC, [1997] STC 1179)を 引 用 しつつ、 検 討 し、そのロジックでは Smallwood 事 件 で HMRC は 勝 てないであろうと 論 じている。Bricom 事 件 は 浅 妻 ・ 註 50、379頁 でも 紹 介 した。3


条 約 13 条 4 項 で 英 国 は 課 税 できないはずだということを 考 えたという 内 容 です。これだと 英 国 のイギリスの§77(1)(b) TCGAにいうところのbe chargeable to taxではないよね、というところを 狙 ったということです。 16最 後 、2001 年 3 月 2 日 から 4 月 5 日 の 間 において、3 番 目 の trustee として Smallwood 夫 妻 が 受 託 者 となって、約 1 カ 月 間 イギリス 居 住 者 が 受 託 者 であるということで、 先 ほどの§86(4) TCGA、 受 託 者 が 或 る 年 度 の 全 期 間 において 非 居 住 者 であった 場 合 については、 英 国 の settlor にキャピタルゲインが 帰 属 しますという 規 定 を 回 避 しましょうというのがこの 3rd trustee の 狙 っているところのようです。というところで 事 実 関 係 は 大 体 終 わりということで、 納 税 者 側 の 主 張 としては、 問 題 となるキャピタルゲイン、 株式 譲 渡 益 が 600 万 ポンド(£6,818,390)ですか、 発 生 したときに 居 住 地 を 判 定 し、そしてそのときに 英 国 モーリシャス 条 約 によって 課 税 されないはずだということを 主 張 したのですが、 課 税 庁 側 (HMRC 側 )はどう 主 張 したかということについて、 両 国 が 課 税 権 を 持 つのだと 主 張 したということです。両 国 が 課 税 権 を 持 つといっても、 当 然 モーリシャスの 方 はキャピタルゲインに 課 税 しないわけですが、イギリスの 課 税 権 が 条 約 によって 禁 止 されるわけではなくて、 英 国 モーリシャス 租 税 条 約 13 条 4 項 、OECDモデル 13条 5 項 にいうところは、 源 泉 地 国 としての 課 税 権 を 規 制 しているだけであって、 居 住 に 基 づいて 課 税 するところについては 何 ら 手 を 加 えていないはずだから、イギリスが 居 住 地 国 として 課 税 することは 条 約 によって 禁 じられないはずである、とイギリス 課 税 庁 側 は 最 初 主 張 したということです。2.2. 裁 判 所 の 判 断Avery Jones さん( 註 10)がいらっしゃる Special Commissioners がまずどう 判 断 したかですが、SpecialCommissioners は 納 税 者 ・ 課 税 庁 双 方 の 主 張 を 斥 けたとなっています。結 論 としては、 課 税 庁 を 勝 たせたということですが、まず 納 税 者 側 の 主 張 はどういうものかといえば、 株 式 売 却時 に 非 居 住 者 であるという 主 張 ですが、そうではなくて、 株 式 売 却 があった 年 度 全 体 において 判 断 しなさいというふうに Special Commissioners は 考 えて、 納 税 者 側 の 主 張 を 斥 けたということです。 先 ほど 見 た§2(1) TCGA が、全 部 又 は 一 部 の 期 間 居 住 者 であれば 課 税 すると 言 っているのだから、そこは 株 式 売 却 時 だけではないのだと、そういう 判 断 です。そうすると、イギリス 及 びモーリシャス 両 方 が 居 住 に 基 づいて 課 税 権 を 持 つというところを SpecialCommissioners は 認 定 した 上 で、 条 約 の 4 条 1 項 に 基 づいて、 受 託 者 が 両 国 に 居 住 を 有 する、これは OECD モデルでも 4 条 1 項 で、まず 自 国 の 国 内 法 に 基 づいて 居 住 があるかどうかを 判 定 するわけですが、 自 国 の 国 内 法に 基 づいて 居 住 があるかどうかを 判 定 し、それはありますということになります。モーリシャス 法 に 基 づいても 居 住 がありますということで、dual residence( 二 重 居 住 )であると 問 題 状 況 を 設 定 し、その 上 で、 条 約 の 4 条 3 項 、OECD モデルでも 4 条 3 項 の tie-breaker 規 定 で、 個 人 以 外 の 法 人 等 についてはおおむね 管 理 支 配 地 基 準 で 決 めるわけですが、 英 国 モーリシャス 条 約 もその 例 に 倣 って、tie-breaker 規 定 に 基づいて place of effective management( 実 質 的 管 理 の 場 所 )がイギリスにあったといえるかどうかが 鍵 となるとSpecial Commissioners は 問 題 状 況 を 設 定 したということです。あとは、 事 実 認 定 の 問 題 ということになってきますが、いろいろモーリシャスでもそれなりの trustee meeting( 受託 者 会 議 )などがあるとはいうものの、 実 際 にはイギリスの Bristol で 管 理 支 配 があるということで、tie-breaker 規 定にいうところの 居 住 地 判 定 は 英 国 居 住 であると Special Commissioners が 判 断 したということです。これが High Court で 1 回 覆 ったのですが、Court of Appeals で 再 度 覆 りました。High Court においては dualresidence の 問 題 ではないとした 上 で、 単 独 のモーリシャス 居 住 者 であってイギリス 居 住 ではないというふうに 判断 したのですが、Court of Appeals は dual residence の 問 題 であるという Special Commissioners の 判 断 をまた 採用 したということです。ですが、dual residenceなのだけれども、4 条 3 項 にいうところのplace of effective managementがイギリスにあるかモーリシャスにあるのかについて、Court of Appealsの 3 人 の 判 事 の 中 で 意 見 が 2 対 1 で 分 かれて、 少 数 意 見を 書 いた 1 人 の 方 がかなり 長 く 17 管 理 支 配 はイギリスにないのだということを 書 いているのですが、2 対 1 でイギリスに 管 理 支 配 があると 判 断 したということです。事 実 認 定 の 話 については 我 々がどうこう 言 っても 仕 方 ない 話 ですが、その 前 提 問 題 として、 本 件 がイギリスから見 てイギリス 居 住 者 であるといえるのかどうか、それから 条 約 の 適 用 において dual residence の 問 題 となるのかどうか、それから tie-breaker 規 定 の 問 題 として 問 題 状 況 を 設 定 した Special Commissioners、それから Court ofAppeals の 判 断 枠 組 みが 妥 当 なのかどうかというところが、 我 々から 見 ると 興 味 関 心 の 対 象 ということになります。16当 事 者 の 狙 いにつき Brian Cleave, The Treaty Residence of Trusts in the United Kingdom and Canada: SomeThoughts on the Smallwood and Garron (or St Michael Corp) Cases, British tax review, (2011) no. 6, p. 705-715,at 706 を 参 照 した。17 [2010] EWCA Civ 778 の 中 で、 少 数 意 見 は 1~64 段 落 、 多 数 意 見 は 65~74 段 落 。4


3.Sommerer 事 件3.1. 事 実 ・ 争 点カナダオーストリア旧 受 益 者 Sommerer familiy==SPF=Sommerer 父 A新 受 益 者 : 非 営 利 組 織||Vienna 株 ――――――――――――┘続 きましてカナダ 18 のSommerer 事 件 、オーストリア 人 なのでドイツ 語 読 みで「ゾンメラー」さんだと 思 うのですが、Sommerer 事 件 に 移 りたいと 思 います。19この 事 案 で 問 題 となったのは、 委 託 者 課 税 ルール のような 規 定 がある 場 合 に、それが 条 約 優 先 という 建 前 の下 で 条 約 違 反 に 当 たるかどうかということが 争 点 となったものです。アメリカのgrantor trustルールについては、いろいろと 佐 藤 英 明 先 生 をはじめとして 多 くの 方 が 紹 介 されているところです。こういう 規 定 が 国 内 法 に 存 在 している 場 合 に、 委 託 者 課 税 ルールに 基 づいて 課 税 しますという 規 定 が 条 約 との 関 係 でどうなのかということです。事 実 関 係 として 図 をご 覧 ください。 原 告 Xは Peter Sommerer さんということで、オーストリアで 生 まれて、 問 題 となっている 課 税 年 度 においてはカナダ 居 住 者 であるということのようです。 途 中 、2004 年 から 2007 年 までウィーン 大 学 に 行 って 博 士 号 をとって、そのときはオーストリア 居 住 者 だったと 思 いますが、その 間 の 居 住 は 裁 判 に 影響 していないようですので、 本 件 では 取 りあえずXはカナダ 居 住 者 という 前 提 でずっと 話 を 進 めていきます。XさんとBさんが 結 婚 しているわけですが、Bさんはイギリス 人 で、やはりカナダ 居 住 者 であるということです。XとBとの 間 にDとEという 子 供 が 生 まれていて、その 他 にBの 連 れ 子 であるCがいるけれども、Cは Sommerer 家 の 血筋 を 引 いていないということで、この 後 話 から 外 れていきます。Xさんはカナダに 来 て 色 々ベンチャー 企 業 を 立 ち 上 げたということですが、Newbridge というところに 参 加 し、1990 年 に CEO となって、Newbridge の 関 連 会 社 である Vienna Systems Corporation という 会 社 の 普 通 株 の 25%を 取 得 したということです。これは、どうも Skype のような 音 声 をインターネット 上 でやりとりすることに 関 する 事 業 をしている 法 人 のようです。Xさんのお 父 さんである Herbert Sommerer さん( 以 下 、A)がオーストリアに、この 人 はずっとオーストリアにいるみたいですが、ファンドを 設 定 するということで、オーストリアシリング 100 万 が 幾 らなのかちょっとわかりませんが、Sommerer Privatstiftung(Sommerer Private Foundation)、(これがどういう 意 味 なのか 私 もよくわかりませんが、とりあえず「 私 的 基 金 」と 訳 しておきます、)SPFというものを 設 立 し、X、B、D、Eがその 基 金 の 受 益 者 とされたということです。Ultimate beneficiaries、とりあえず「 帰 属 権 利 者 」と 訳 しておきますけれども、その 基 金 が、SPF が 清 算 したときに財 産 が、(これはレジュメで 信 託 財 産 と 訳 してしまいましたが 信 託 かどうかがそもそも 問 題 なので、 財 産 というふうに 直 してください。SPF が 清 算 したときに 財 産 が、) 最 終 的 に 帰 属 することが 予 定 されている 者 が X と B であったということです。SPF を 設 立 したときに、X さんが Vienna 株 を SPF に 売 却 したということです。117 万 カナダドルということですが、このとき X としては、 株 は 売 るけれども、X が 会 社 に 対 する 支 配 権 みたいなものは 保 持 し 続 けようということで、 株式 売 却 なのだけれども 議 決 権 、 配 当 受 領 権 、 新 株 引 受 権 等 は 移 転 させないというつもりで、そういう 売 却 を 仕 組んだというつもりのようです。その 当 時 の 1 株 当 たりの 時 価 が 1.33 カナダドルということで、この 点 について 納 税 者と 課 税 当 局 の 間 で 争 いがないので、それは 時 価 だということでいいのだと 思 います。支 配 権 等 はXが 保 持 したまま、 株 に 関 する 権 利 を 半 分 だけ 移 すというつもりで 117 万 カナダドルというのは 1 株当 たり 0.665 ドルということのようです。そういうつもりで 株 式 売 却 をやったつもりであったところ、どうもカナダの 会社 法 に 照 らしてそういう 売 却 、 権 利 の 分 割 はできないと 法 律 家 からアドバイスされたということのようです。これはカナダの 会 社 法 の 話 で 私 は 太 刀 打 ちできないのですけれども、 最 近 の 2012 年 9 月 の「ジュリスト」でも 中 里 先 生と 神 田 先 生 と 太 田 弁 護 士 と 増 井 先 生 で、 会 社 法 と 租 税 法 の 統 合 的 考 察 が 重 要 ですねという 話 がありましたけれども 20 、その 一 環 です。18 カナダの 信 託 税 制 について 吉 村 政 穂 「 海 外 の 信 託 税 制 (5) カナダ 信 託 税 制 」 信 託 244 号 38 頁 (2010) 参 照 。19英 国 の§77(1) TCGA をめぐる 議 論 や、 占 部 裕 典 『 信 託 課 税 法 』47 頁 以 下 ( 清 文 社 、2001)における 各 国 法 の紹 介 を 参 照 。アメリカ 法 下 の 委 託 者 課 税 信 託 (grantor trust)については 佐 藤 英 明 『 信 託 と 税 制 』21 頁 ( 弘 文 堂 、2000)、 松 永 和 美 「 海 外 の 信 託 税 制 米 国 の 信 託 の 税 制 について」 信 託 238 号 29-75 頁 (2009)、47 頁 以 下 、 渕 圭吾 「 海 外 の 信 託 税 制 (2)アメリカ 信 託 税 制 の 諸 問 題 」 信 託 239 号 27-43 頁 (2009)、31 頁 以 下 等 参 照 。20中 里 実 ・ 太 田 洋 ・ 神 田 秀 樹 ・ 増 井 良 啓 「 会 社 法 から 見 た 租 税 法 の 意 義 ―― 研 究 者 の 視 点 ・ 実 務 家 の 視 点 」ジュリスト 1445 号 12 頁 (2012.9)5


会 社 法 上 それができないということで、 何 とかしなければいけないということで、SPF の Advisory Board(とりあえず「 諮 問 委 員 会 」と 訳 しておきます)でいろいろ 議 論 をしたということです。SPF に 移 転 してしまった 議 決 権 等 について、 一 旦 SPF からXに 議 決 権 等 を 戻 し、Xから SPF に 議 決 権 等 を 一 株 当 たり CDN0.66 で 売 ることとした、といった 混 乱 があります。そして 善 後 策 を 考 えることとなります。それから、Executive Board(「 執 行 部 会 」と 訳 しておきましたが、)がでてきます。X は Advisory Board の 一 員 ではあったのですが、Executive Board には 参 加 していないとあります。 最 終 的 な 決 定 権 限 は Executive Board の 方が 持 っているわけですが、 最 終 的 な 決 定 権 限 を 持 っている Executive Board が、1997 年 12 月 に Vienna 株 のうちの 15 万 株 、3 万 株 、3 万 株 を 3 人 に 売 却 し、その 後 Vienna 社 が Nokia 社 から 買 収 提 案 を 受 けて Nokia 社 に全 ての Vienna 株 を 売 ったということのようです。最 初 X さんから SPF に 1 株 当 たり 1.33 もしくは 0.665 カナダドルで 売 却 したところ、SPF は 最 終 的 には Nokia社 に 1 株 当 たり 9 カナダドルで 売 ったということで、これも 特 に 時 価 について 争 いはないようです。SPF が 幾 らで取 得 したのかについての 争 いはありますが、そのときの 時 価 が 1.33 であるとか、9.00 であるということについては特 に 争 いがないみたいです。そういう 形 でキャピタルゲインが 発 生 したということで、これについてカナダが 課 税 できるかどうかということです。カナダは 所 得 税 法 でキャピタルゲインについても 課 税 するとしているわけですが、レジュメに 条 文 を 載 せればよかったなとちょっと 後 悔 していますが 21 、カナダの 所 得 税 法 75 条 2 項 (§75(2) ITA: Income Tax Act)に 基 づきますと、 信 託 に 財 産 を 委 託 した 者 が 財 産 を 取 り 戻 せる 場 合 であるとか、 或 いはその 信 託 が 財 産 を 誰 に 渡 すかについて 指 定 できる 者 がいる 場 合 について、 或 いはそういった 者 の 同 意 なしに 信 託 が 財 産 を 処 分 できないような 場合 について、 図 でいうとXが 財 産 を 委 託 したわけではないのですが、XがSPFとの 関 係 で 財 産 を 取 り 戻 せるとか、財 産 を 誰 かに 渡 すことが 指 定 できる、 或 いはXが 同 意 しなければ 信 託 が 財 産 を 処 分 できない、そういった 状 況 であるというふうにカナダの 課 税 当 局 は 考 えて、 信 託 財 産 から 発 生 した 損 益 は、Xに 帰 属 するという 前 提 で 課 税 処分 を 打 ったということです。これは 必 ずしもアメリカ 流 の grantor trust ルールそのものではないですが、grantor trust ルールに 近 い 内 容 が§75(2) ITA に 定 められていると 理 解 できます。1 回 信 託 に 財 産 を 設 定 したのだけれども、 実 は 裏 から 委 託 者 が 手を 伸 ばせるような 場 合 、 或 いは 委 託 者 に 限 らず、その 信 託 について 色 々 手 を 出 せるような 人 がいる 場 合 に、その手 を 出 せる 人 に 損 益 が 帰 属 する 可 能 性 があるというのが§75(2) ITA の 規 定 ということです。ここで 問 題 となるのが、オーストリア・カナダ 租 税 条 約 13 条 5 項 で、これも OECD モデル 13 条 5 項 とほぼ 同 じ規 定 ですが、カナダが 課 税 することは 禁 止 されるのではないかということが 問 題 となったという、そういう 問 題 状 況です。3.2. 裁 判 所 の 判 断先 ほどSPFが 信 託 という 前 提 で 話 をしかけてしまってしくじりましたが、まずSPFが 信 託 かどうかということはそもそも 争 点 の 1 つとなっています。この 点 につきまして、 読 んでもちょっと 分 からなかったのですが、SPFは 信 託 ではないとあります。オーストリアは 大 陸 法 系 ですので、 確 かに 私 的 基 金 が 信 託 であるというのはちょっと 難 しいのかなという 気 がしますが、A(Herbert Sommerer: 原 告 Xの 父 )と、SPFと、それから 受 益 者 X、B、D、Eという 関 係(A、SPF、 受 益 者 の 関 係 )が 信 託 を 構 成 するのだ(the relationship between Mr. Herbert Sommerer, the SPF andthe beneficiaries constitutes a trust) 22 と 裁 判 所 は 言 っています 23 。信 託 というのはそもそも<strong>entity</strong>なのか、それとも 契 約 関 係 なのかということがどこの 国 でも 問 題 となるわけです21 2011 TCC 212, paragpraph 83 より 抜 粋[83] Subsection 75(2) of the Act provides:Where, by a trust created in any manner whatever since 1934, property is held on condition(a) that it or property substituted therefor may(i) revert to the person from whom the property or property for which it was substituted was directly orindirectly received (in this subsection referred to as "the person"), or(ii) pass to persons to be determined by the person at a time subsequent to the creation of the trust, or(b) that, during the existence of the person, the property shall not be disposed of except with the person'sconsent or in accordance with the person's direction,any income or loss from the property or from property substituted for the property, and any taxable capital gainor allowable capital loss from the disposition of the property or of property substituted for the property, shall,during the existence of the person while the person is resident in Canada, be deemed to be income or a loss, as thecase may be, or a taxable capital gain or allowable capital loss, as the case may be, of the person.22 なお、SPF が 受 託 者 (trustee)であるとも 言 っている。23 2011 TCC 212, para 82.6


、この 表 現 を 読 むと、すなわち 何 らかの 契 約 関 係 がトラストを 構 成 すると 考 えられているようです。条 約 が 優 先 するかどうかについて 裁 判 所 は、これは 条 約 優 先 の 建 前 があるので、 条 約 によってカナダは 課 税25できませんというところで 決 着 をつけています。2011 TCC 212 とあって、これはまだ 1 審 ですが、appeal されているようですけれども、 控 訴 審 、 最 高 裁 がどうなっているかはまだ 分 かりません。 多 分 まだ 出 ていないか、 見 落 としているかですが、 控 訴 審 以 降 はどうなのかはまだ 分 かりません。 取 りあえず 1 審 の 結 論 としては、カナダで 課 税 することはできないということです。条 約 優 先 なので、すぱっと 切 れているわけですが、では§75(2) ITAは 空 振 りですかということで、§75(2) ITAの 適 用 の 可 否 について 判 断 することは 必 要 ではない 傍 論 という 話 になってきます( 判 決 ではunnecessaryという 表現 )。あえて 傍 論 を 言 うとすると、XがAdvisory Boardの 主 要 な 一 員 であって 重 要 な 影 響 力 を 有 しているということは 認 定 できるけれども、 信 託 財 産 についての 帰 趨 を 決 する(determine to whom trust property would pass)、 誰 に渡 すかをXが 決 めることができるかどうかについては、Xはそういうことはできないと 裁 判 所 は 判 断 して、§75(2)ITAの 適 用 要 件 がそもそも 満 たされていないのだということです 26 。だから、§75(2) ITAを 適 用 しようとしても、それもそもそもできませんというふうに 裁 判 所 は 傍 論 として 述 べています。Advisory Board と Executive Board で、 名 前 からしても Advisory の 方 ではなくて、 決 定 権 は Executive Boardの 方 なので、Advisory Board の 一 員 であるにすぎない X としては、§75(2) ITA にいうところの determine towhom trust property would pass には 当 たらないという 判 断 です。個 別 具 体 的 な 判 断 はカナダの 裁 判 所 の 話 で 我 々がタッチするところではないのですが、この 問 題 状 況 は 我 々日 本 人 にとっても 面 白 いのではないかと 思 った 次 第 です。が 244. 考 察4.1. 前 提 条 件 1: 誰 に 着 目 するか昨 年 Garron 事 件 を 紹 介 しまして、それから 今 年 、 信 託 法 学 会 で 幾 つか 信 託 に 関 する 国 際 課 税 の 問 題 がありますという 紹 介 をして、そのときは 信 託 の 居 住 地 が 実 質 的 管 理 の 場 所 によって 判 断 された 事 例 がありますという 話で 終 わったのですが、その 前 提 問 題 がかなり 厄 介 だということに 思 い 至 りました。 前 提 問 題 がそもそも 国 によって大 きく 違 うわけです。イギリスでは 基 本 的 には 先 ほど 見 たように trustee に 着 目 して 課 税 関 係 を 決 する。 日 ・ 米 では 基 本 的 にはパススルーで 受 益 者 に 着 目 して 決 定 される。それから、カナダでは 原 則 として 信 託 が individual として 扱 われています。信 託 が individualというのが 直 感 的 にわかりにくいのですが、 要 するに、 信 託 が 1つの 被 課 税 主 体 、 課 税 される対 象 となるというふうに 考 えられているということです。 先 ほどの 信 託 が 契 約 関 係 をもって 信 託 と 認 定 できる、それが individual だというのがすごく 違 和 感 があるのですが、カナダではそういう 作 りになっているということです。日 ・ 米 、それからイギリス、カナダでかなり 着 眼 点 が 違 うということですが、そうすると、では 我 々 日 本 人 がイギリスとかカナダの 事 例 を 見 ても 仕 方 ないのではないかという 気 もするのですが、 逆 にいうと、アメリカの 方 は、トラストという 形 で 裁 判 にあまり 出 てこないのでなかなか 紹 介 するのも 難 しいということかもしれません。 逆 にイギリス・カナダは、trustee なりトラストが 課 税 対 象 者 となるので、 裁 判 の 表 に 出 てきやすいということで 目 につくということかもしれません。あと、レジュメで「 一 応 の 意 義 を 述 べるとすれば」などと 書 いてありますが、これははっきり 言 って 言 い 訳 でして、個 人 的 にSmallwood 事 件 なりSommerer 事 件 なりを 勉 強 してみたら 面 白 かったので 紹 介 しているというところで、第 一 の 意 義27 28とか 第 二 の 意 義 とか 書 いてありますが、ここは 後 付 け 的 な 話 で、 面 白 いから 勉 強 しているというところです。 後 でもう 少 しゆっくり 考 えて、 日 本 人 である 我 々にとってどういう 意 義 があるかは 落 ち 着 いてから 考 えたいと 思 います。誰 に 着 目 するかについて、まずそもそも 違 うということがある。これは 組 合 とかLLCとかLLPとかでもよく 問 題 となる 話 です29 。24浅 妻 章 如 「 海 外 の 信 託 税 制 (3)フランス 信 託 税 制 」 信 託 242 号 16 頁 (2010);Paul Matthews, The FrenchFiducie: And Now For Something Completely Different?, Trust Law International, vol. 21, no. 1, p. 17 (2007) 等参 照 。25 Id., para 122.26 Id., para 110.27日 本 人 も 外 国 信 託 を 使 うことがありうる。28本 稿 4.6. 所 得 の 帰 属 (attribution)の 問 題 を 検 討 する 意 義 。29 OECDモデル 租 税 条 約 コメンタリー1 条 パラ 2 以 下 、LPS(limited partnership)に 関 し 渕 圭 吾 ・ 判 解 ・ジュリスト1439 号 8 頁 (2012) 等 参 照 。7


4.2. 前 提 問 題 2: 者 (person)の 認 定次 にpersonをどう 認 定 するかという 問 題 。 昨 年 、「 信 託 や 組 合 等 , 法 人 格 がないものであっても,「 者 」に 含 められることが 多 いと 見 受 けられます」 30 と 安 易 に 言 ってしまいましたが、このときイギリスの 話 が 視 野 になかったのでこういう 表 現 をしてしまったのですが、イギリスの 問 題 を 視 野 に 入 れると、ちょっとこの 表 現 は 不 正 確 かなと 反 省 をしているところです。イギリスの 受 託 者 がpersonとなるというところについてですが、これがかなりややこしいという 話 です。というのは、31trusteeそのものがpersonとなる、これがDawson 事 件 で 確 立 したということですが、Dawson 事 件 では 3 人 trusteeがいまして、3 人 のうち 2 人 が 非 居 住 者 、1 人 が 居 住 者 であったという 事 案 で、 結 論 としてはtrusteeが 英 国 非 居 住者 であるという 判 断 です。3 人 いたうち 2 人 、 多 数 派 が 非 居 住 者 であるということで、 個 々の trustee の 居 住 の 判 定 +trustee についての 居住 の 判 定 という、2 段 階 の 構 えになっているわけです。1 人 1 人 の trustee の 居 住 地 判 定 と、それから、その trustee全 体 としての 居 住 地 判 定 という 2 段 階 の 構 えになっているわけです。法 人 に 例 えていうと、 例 えば 取 締 役 がどこに 居 住 しているか、 取 締 役 がどこで 管 理 しているかで 法 人 の 居 住 地を 決 めるといった、そういったイメージに 近 いのではないかと 推 測 されます。こういうDawson 事 件 の 判 決 があって、その 後 法 改 正 をして、1 人 でも 英 国 居 住 者 であればtrustee 全 体 として 英32国 居 住 者 扱 いとするというような 法 改 正 をしたということが 註 で 紹 介 されています。つまり、 厄 介 な 話 というのは、trustee というものが 単 一 の 継 続 的 団 体 となるというところで、§69 TCGA で、「trustees of the settlement shall・・・be treated as a single and continuing body of persons (distinct from the personswho may from time to time be the trustees)」、「 受 託 者 は(その 時 々の 受 託 者 とされる 者 と 区 別 される) 単 一 の 継続 的 団 体 として 扱 われる」、と 規 定 されていて、trustee といったとき、 個 々の trustee に 着 目 しているのか、1 つの信 託 に 関 する 1 つの 団 体 としての trustee なのかということについて 考 えなければいけないということです。そうすると、A さん、B さん、C さんという 弁 護 士 が 受 託 者 になっている 場 合 については、1 つの 受 託 者 というものを 観 念 した 上 で、その 1つの 受 託 者 が 英 国 居 住 者 であるかどうかという 判 断 をイギリス 人 はしているということになるようです。これはちょっと 日 本 ではあまり 馴 染 みのない 話 なので、 注 意 しなければいけないなと 思 いました。一 方 で、カナダの 方 は 信 託 が individual 扱 いされるということですので、 法 人 ではないかもしれませんけれども法 人 みたいな 被 課 税 主 体 として 考 えればよろしいのだろうと 思 います。4.3. 前 提 問 題 3: 二 重 居 住 問 題 であるか 否 かと 随 時 税 ・ 期 間 税そして、 前 提 問 題 3 としまして、 二 重 居 住 問 題 であるかどうかという 話 と、それから 随 時 税 なのか 期 間 税 なのかという 話 が、これがかなり 厄 介 な 問 題 だなと 思 った 次 第 です。Smallwood 事 件 におきまして、 最 初 イギリス 課 税 庁 (HMRC) 側 は、dual residence( 二 重 居 住 )の 問 題 として 管理 支 配 地 がイギリスにあるという 主 張 をしていなかったというふうに 先 ほど 述 べたわけですが、 最 後 、Court ofAppeals に 至 って、 嫌 々ながらそういうふうに 主 張 したとされます。これは 註33 にあるWood Holden 事 件 でplace of effective managementに 着 目 した 結 果 負 けた 事 例 があるので、place of effective managementの 基 準 でtrusteeの 居 住 地 を 判 断 するという 判 断 枠 組 みになってくると、Smallwood事 件 ではHMRCが 最 終 的 には 勝 ったわけですが、イギリスの 課 税 庁 の 課 税 権 の 保 持 という 観 点 からいくと、「 実質 的 管 理 の 場 所 」という 基 準 では 簡 単 にイギリスの 課 税 を 回 避 されてしまうという 懸 念 がHMRC 側 にはあるのであろうと 推 測 されます 34 。実 際 この 事 件 でも、 最 高 裁 の 3 人 の 判 事 のうちの 1 人 が、 実 質 的 管 理 の 場 所 はイギリスにはないのだと 判 断 しているので、 後 は 事 実 認 定 の 問 題 ですから 微 妙 な 話 なのだろうと 思 います。この 事 件 では 勝 ったわけですが、今 後 、では place of effective management をモーリシャスに 持 っていけばいいのでしょうという 話 になってくるわけですので、この 事 案 で、Smallwood 事 件 において HMRC が 勝 ったとはいえ、HMRC としては 必 ずしも 理 屈 の 上で 勝 ったという 喜 びには 浸 っていられない 状 況 のようです。ただ、HMRC の 主 張 を 素 直 に 受 け 止 めようとすると、レジュメに 書 いていますが、ちょっと 無 理 筋 なのではない30浅 妻 ・ 註 7、198 頁 。31 Dawson v IRC, [1990] 1 AC 1; [1989] STC 473; 62 TC 301.32 Dawson 事 件 及 び 1989 年 改 正 につき、Ian Ferrier & Matthew Hutton, TOLLEY’S UK TAXATION OF TRUST, 14 thed. 20.9 (Tolley 2004) 参 照 。33 Wood v. Holden, [2006] EWCA Civ 2634増 井 ・ 註 10、262 頁 ;Jonathan Schwartz, Avoidance and Tax Treaties: Current UK Experience, Bulletin forinternational taxation, Vol. 65, No. 8, p. 453-459 (2011); 今 村 隆 (Jonathan Schwartz)「【 海 外 論 文 紹 介 】 租 税 回 避と 租 税 条 約 : 最 近 における 英 国 の 経 験 」 租 税 研 究 753 号 325 頁 (2012.7) 参 照 。8


かと 思 うわけです。dual residence の 問 題 ではないのだと 主 張 しているわけですが、モーリシャス 居 住 者 であることについては 特 に 争 いはない。イギリス 法 から 見 てイギリス 居 住 者 であるとすると、 両 国 が residence に 基 づいて課 税 できるというのが HMRC の 主 張 ですが、その 主 張 を 認 めてしまうと、なぜ tie-breaker rule があるのかということが 空 振 りになってしまう 恐 れがある。当 然 HMRC 側 としては、モーリシャスは 居 住 があると 言 っているけれど、 株 式 譲 渡 益 に 課 税 しないのだから 別に tie-breaker rule は 必 要 ないでしょうと 考 えるわけですが、モーリシャスが 課 税 するかどうかと、tie-breaker rule が発 動 するかどうかというところが 繋 がっているのかというと、 一 般 的 にはそういうふうに 考 えられてこなかったのではないかと 思 われます。HMRC 側 の dual residence ではないという 主 張 、すなわち tie-breaker rule は 発 動 しないという 主 張 については、 無 理 筋 なのではないかなと 思 います。ここの 点 は、 日 本 でもそんなに 詰 めて 考 えられていない 問 題 だと 思 いますので、 考 慮 の 余 地 はあると 思 いますが、 暫 定 的 ながら 個 人 的 な 意 見 としては 無 理 筋 なのではないかと 思 っています。納 税 者 側 の 方 が、dual residence ではないのだ、tie-breaker rule の 発 動 ではないのだというふうに 主 張 しているわけですが、これは、 主 張 の 枠 組 みとしては 無 理 筋 では 当 然 ないわけですし、High Court もそう 判 断 していて、そこは 特 に 問 題 はないわけですが、 二 重 居 住 ではないという 議 論 を 組 み 立 てる 上 で 次 のような 議 論 があります。イギリスの 所 得 税 法 下 で、ある 課 税 年 度 の 一 部 において 居 住 者 である 受 託 者 についてその 一 部 について 課 税がされる。これが 所 得 税 法 の 話 だということですが、キャピタルゲインに 関 していうと、§2(1) TCGA の 規 定 というのは、ある 課 税 年 度 の 一 部 の 期 間 において 居 住 者 である 者 について 課 税 しますと、force of attraction( 吸 引 力 )を 発 動 させて、(force of attraction というのは 普 通 、 源 泉 地 国 課 税 ・ 恒 久 的 施 設 課 税 の 話 で 出 てくるわけですが)この 場 合 は 居 住 の 枠 組 みで force of attraction が 利 いてきて 課 税 すると 言 っている。ただし、この 規 定 はchargeability( 被 課 税 適 格 と 訳 しておく)を 基 礎 付 けているだけであって、 必 ずしも 株 式 を 譲渡 した 2001 年 1 月 の 時 点 において 英 国 居 住 者 であるということを 英 国 法 が 定 めているわけではないのではない35かというふうに、 註 のCleaveという 方 が 論 じています。つまり、Cleave さんの 主 張 としては、§2(1) TCGA によって 課 税 するということは 決 めているけれども、それが 居住 を 定 めている 話 ではない。だから 条 約 の 4 条 1 項 にいうところの 国 内 法 の 適 用 としてイギリス 居 住 者 であるという 話 にはなってこない、だから dual residence ではないのだという 主 張 です。これが 随 時 税 的 な 発 想 なのではないかと 見 受 けられるわけで、ちょっとイギリスのキャピタルゲイン 課 税 が 随 時税 か 期 間 税 なのかということははっきりよくわかりませんが、 所 得 税 は 恐 らくというか 間 違 いなく 期 間 税 であるに 決まっているわけですが、イギリスのキャピタルゲイン 課 税 が 随 時 税 であるのだという 主 張 に 基 づき、1 課 税 年 度 の全 体 において 居 住 地 がイギリスにあるわけではないのだという 主 張 を 構 築 していく。この 発 想 はまさに 随 時 的 な発 想 だなと 思 うわけですが、ただ(ここから 少 し 横 道 に 逸 れる)、イギリスの 居 住 の 判 定 というのはかなりむちゃくち36ゃだなというところが 註 にあります。これは 所 得 税 の 事 案 なので、キャピタルゲイン 課 税 の 文 脈 で 紹 介 するのはあまりよくないのかもしれませんが、Davies, James, and Gaines-Cooper という 事 案 があります。Gaines-Cooper さんに 関 しては、 川 田 先 生 が 紹 介 されているところで、イギリスの 90 日 ルールの 下 で 物 理 的 には 或 る 年 度 の 80 日 間 +αしかイギリスに 物 理 的 には 所在 していなかった Gaines-Cooper さんについて、 何 年 間 かの 平 均 を 取 ると 90 日 を 超 えているし、Gaines-Cooperさんがイギリスとかなり 深 い 関 わりを 持 っている、 奥 さんがイギリスに 住 んでいるとか、スポーツクラブに 登 録 しているとか、そういった 状 況 を 認 定 してイギリス 居 住 と 認 定 したという 事 案 があります。この 事 案 については 川 田 先 生が 紹 介 されていて、Gaines-Cooper さんの 判 断 についてもかなりむちゃくちゃだなと 思 うのですが、 日 本 の 裁 判 所だったら 自 国 居 住 だとは 言 わないのではないかというような 事 実 関 係 だったわけです。個 人 的 に 更 にむちゃくちゃだなと 思 ったのは、むしろ Davies さんと James さんの 方 でして、 物 理 的 には 2001年 3 月 に 移 動 したということですが、 外 国 でフルタイムの 職 に 就 いていたらイギリス 居 住 者 として 扱 いませんという規 定 があるという 状 況 の 下 で、4 月 6 日 の 時 点 でベルギーでフルタイムの 職 に 就 いていたという 認 定 がないので、イギリス 法 の 観 点 から 見 て、 問 題 の 課 税 年 度 ではイギリス 居 住 者 であるというふうに 扱 った 事 例 です。 物 理 的 にイギリスにいるわけではないのに 課 税 するというのも、それはそれで、かなりひどい 話 なのではないかと 思 ったのですが、そういった 形 でかなりイギリスの 居 住 の 判 定 ルールは 広 く 扱 われています。これらの 事 案 がひどいなと 思 ったのは、 事 実 認 定 のレベルだけではなくて、 法 令 にはほとんど 規 定 がないという状 況 下 で、ほとんど 通 達 レベルにしか 書 いてなくて(IR 20)、 通 達 だから 当 然 裁 判 所 は 拘 束 しないと 建 前 的 に 判決 文 でも 書 いてあるのですが、そう 言 っている 割 にはその 通 達 に 依 拠 して 判 断 しております。 何 だこの 裁 判 所 はと 思 ったのですけれども、イギリスではかなり 拡 張 的 に 居 住 を 認 定 する 裁 判 例 があるということです。35 Cleave, note 16, at 709-710.36 Davies, James, and Gaines-Cooper v. HMRC, [2010] EWCA Civ 83; 川 田 剛 「 居 住 者 ・ 非 居 住 者 と 住 所 ― 武 富士 事 件 との 関 連 で―」 国 際 税 務 2011 年 3 月 63 頁 。9


それは 所 得 税 の 話 だからということでキャピタルゲイン 課 税 の 事 案 についてはあまり 参 考 にならないかもしれませんが、 本 文 に 戻 りまして、 随 時 税 的 発 想 なのではないかというふうに 見 受 けられるところです。随 時 税 かどうかということについては、 日 本 で 昨 年 の 最 高 裁 判 決37 の、 不 動 産 譲 渡 損 失 を 利 用 できるかどうかという 問 題 について、 明 らかに 期 間 税 的 な 発 想 でもって 違 憲 の 主 張 を 斥 けたということがありました。 国 内 法 の 問題 としては 期 間 税 的 発 想 が 別 におかしいと 言 うつもりはありません。ただ、 必 ずしも 期 間 税 だから 全 部 いわゆる【 期 間 税 の 法 理 】ということで 12 月 31 日 までだったらいくらでも 法 改 正 していいというところまでは 最 高 裁 は 言 っていないように 読 めますので、 期 間 税 というところだけで 結 論 が 出 るわけではない 話 だろうと 見 受 けられます 38 。それは 国 内 法 の 問 題 ですが、 条 約 の 適 用 に 関 して、 随 時 税 か 期 間 税 かということが 利 いてくるのかどうかということです。2001 年 1 月 にモーリシャス 居 住 者 が trustee として 財 産 を 処 分 したというときに、その 2001 年 1 月 という 瞬 間 に着 目 して、 随 時 税 的 に 租 税 条 約 の 適 用 を 判 定 しなければいけないのか、それとも HMRC が 考 えているように、2000 年 4 月 6 日 から 2001 年 4 月 5 日 までの 1 年 間 の 間 でイギリス 居 住 者 として 扱 う 余 地 があるのかどうか。その 状 態 として 条 約 の 4 条 1 項 による 国 内 法 の 適 用 の 結 果 、 条 約 の 観 点 から dual residence の 問 題 となるのかどうかという、 条 約 の 適 用 に 関 して 随 時 税 なのか 期 間 税 なのかという 問 題 について、 今 まで、 少 なくとも 日 本 ではあまり 議 論 されてこなかったのではないかと 思 います。私 も、この Smallwood 事 件 を 見 て 初 めて 考 えた 問 題 で、 正 直 、 自 分 の 意 見 はまだ 固 まってないのですが、そこは 考 えていかなければいけないと 思 います。条 約 が 随 時 税 的 発 想 なのか 期 間 税 的 発 想 なのかについて、 規 律 していないというふうに 考 えることができるとすると、 専 らイギリス 国 内 法 に 基 づいてイギリスで 居 住 者 として 扱 われるかどうかだけが、 英 国 モーリシャス 条 約 4条 1 項 にいうところの 問 題 であるという 判 断 枠 組 みが 設 定 できるのではないかと、 現 在 暫 定 的 に 考 えています。イギリスの 国 内 法 においては 随 時 税 的 発 想 が 妥 当 するか、そしてこれが 国 内 法 の 問 題 なのか、それとも 条 約 の解 釈 に 関 するイギリスの 裁 判 所 の 判 断 枠 組 みかということはちょっとややこしい 問 題 ですが、 仮 に 英 国 国 内 法 を基 礎 として 条 約 の 適 用 に 関 する 判 断 枠 組 みを 考 えて 良 いとすると、 国 内 法 によって 何 らかの person のchargeability( 被 課 税 適 格 )が 基 礎 付 けられている。そうすると、 条 約 の 4 条 1 項 にいうところの「liable to taxation」(OECDモデル 4 条 1 項 「liable to tax」 要 件 に 相当 ) 39 に 合 致 するかについて、 条 約 の 適 用 上 、「 一 方 の 締 約 国 の 居 住 者 」とは、 当 該 一 方 の 締 約 国 の 法 令 の 下において、 住 所 云 々に 類 する 基 準 により 当 該 一 方 の 締 約 国 において 課 税 を 受 けるべき 者 であるかどうか、liableto taxationに 当 たるかどうかという 判 断 をするのだということになっていて、キャピタルゲインが 発 生 したのは 2001年 1 月 かもしれないけれども、イギリス 国 内 法 で 2000-2001 課 税 年 度 の 1 年 間 においてずっと 英 国 居 住 者 として扱 いますという 規 定 があって、 居 住 ではなくchargeabilityを 定 めただけという 主 張 に 配 慮 するとしてもchargeabilityがあるとして 扱 いますという 規 定 があって、イギリス 国 内 法 に 照 らして 条 約 のいう「liable to taxation」に 当 たりますということがいえるのであるとすると、イギリスの 裁 判 所 が 取 ったdual residenceの 問 題 ですという 判 断は、それなりに 是 認 する 余 地 があるのかなと 暫 定 的 に 思 っています。が、 註 に 挙 げましたliable to tax 要 件 に 関 して、 李 昌 熙 教 授 と 増 井 先 生 の「ジュリスト」の 論 文 がありますように、liable to tax 要 件 はややこしい 問 題 です。 個人 的 にはまだはっきりとした 意 見 は 煮 詰 まっておりません。この dual residence の 問 題 かどうかというところについて、 私 は、この 随 時 税 なのか 期 間 税 なのかという 発 想 で 考えてみたわけですが、こういうアプローチの 仕 方 がよろしいのかということについても、 正 直 自 信 がないところです。37最 一 小 判 平 成 23 年 9 月 22 日 民 集 65 巻 6 号 2756 頁 、 最 二 小 判 平 成 23 年 9 月 30 日 判 時 2132 号 39 頁 。38少 し 話 が 逸 れるが、やはり 随 時 税 と 期 間 税 の 発 想 の 妥 当 範 囲 として、5000 万 円 の 値 が 付 きそうなホームランボールを 拾 って 売 ることが 一 課 税 年 度 内 に 起 きた 場 合 につき、 一 時 所 得 と 譲 渡 所 得 の 課 税 関 係 を 別 々に 考 えるべきか、 一 課 税 年 度 内 の 純 資 産 増 加 に 着 目 して 所 得 分 類 を 考 えるべきなのかという 問 題 があることを、 浅 妻 章如 「756 号 ホームラン・ボールをきっかけとした 一 時 所 得 と 譲 渡 所 得 との 関 係 に 関 する 考 察 」 立 教 法 学 75 号 119頁 (2008)で 述 べた。そこでは 問 題 提 起 に 終 わったが、その 後 の 考 察 は、 浅 妻 章 如 「 相 続 等 の 財 産 無 償 移 転 に 対する 課 税 のタイミングについて」『トラスト 60 研 究 叢 書 金 融 取 引 と 課 税 (1)』155 頁 (2011.4)にまとめた。39 OECDモデル 租 税 条 約 4 条 1 項 「この 条 約 の 適 用 上 、「 一 方 の 締 約 国 の 居 住 者 」とは、 当 該 一 方 の 締 約 国 の法 令 の 下 において、 住 所 、 居 所 、 事 業 の 管 理 の 場 所 その 他 これらに 類 する 基 準 により 当 該 一 方 の 締 約 国 において 課 税 を 受 けるべきものとされる 者 ( 当 該 一 方 の 締 約 国 及 び 当 該 一 方 の 締 約 国 の 地 方 政 府 又 は 地 方 公 共 団体 を 含 む。)をいう。ただし、 一 方 の 締 約 国 の 居 住 者 には、 当 該 一 方 の 締 約 国 内 に 源 泉 のある 所 得 又 は 当 該 一方 の 締 約 国 に 存 在 する 財 産 のみについて 当 該 一 方 の 締 約 国 において 租 税 を 課 される 者 を 含 まない。」[ 下 線 :浅 妻 ]の 下 線 部 が「liable to tax」 要 件 などと 呼 ばれる。 李 昌 煕 ・ 増 井 良 啓 「 租 税 条 約 上 の 居 住 者 概 念 は 全 世 界 所得 課 税 を 要 件 とするか―― 各 国 裁 判 例 の 分 析 ――」ジュリスト 1362 号 121 頁 (2008.9.1) 参 照 。10


どういう 順 序 で 租 税 条 約 の 適 用 に 関 する 課 税 問 題 を 検 討 していくか、どうフローチャートを 書 くかということについて、なかなかそういう 順 序 というものがはっきり 見 える 形 で 条 約 で 規 定 されていないという、そういう 難 点 があるわけです。この 点 に 関 しまして、グラクソ 事 件 で 最 高 裁 ( 註 47)が、 原 則 として 日 本 のタックスヘイブン 対 策 税 制 はシンガポール 条 約 に 違 反 しないとしたのですが、【 日 本 のタックスヘイブン 対 策 税 制 は 租 税 回 避 対 策 規 定 としては 合 理 性があるから 条 約 違 反 ではないのです】と 読 めるかのような 作 文 もしています。そうすると、では 国 内 法 に 合 理 性 があるかないかという 判 断 を、 条 約 違 反 かどうかの 判 断 のどこかの 順 序 でしなければならないのか、という 印 象 を 抱いてしまうわけです。私 は 裁 判 所 が 合 理 性 という 留 保 をつけたことに 反 対 であり 40 、あの 判 示 部 分 は 最 高 裁 が 確 認 的 に 言 ったにすぎないと 私 は 思 っているのですが、 確 認 的 な 意 義 にとどまらない 意 義 があるとすると、 順 序 をどういうふうに 考 えるかということについてかなり 分 かりにくい 問 題 になってしまうということがあります。4.4. 居 住 地 認 定 の 問 題居 住 地 認 定 は 実 質 的 管 理 の 場 所 だということです。ただ、 注 意 しなければいけないのは、カナダの 方 は、カナダとバミューダだと 思 いますが、カナダ・バミューダ 条 約 で tie-breaker rule がないので、カナダの 所 得 税 法 の 解 釈として 実 質 的 管 理 の 場 所 に 着 目 するという 事 案 でありました。一 方 で、イギリスの 事 案 というのは、 建 前 的 にはイギリスの 国 内 法 では 問 題 なくイギリス 居 住 者 ですという 前 提 、これは 納 税 者 側 は 争 ったわけですが、 裁 判 所 の 判 断 によれば、イギリスの 国 内 法 によれば 問 題 なくイギリス 居 住者 であるという 前 提 の 下 で、dual residence の 解 決 として tie-breaker rule で 条 約 の 居 住 地 判 定 として 実 質 的 管 理の 場 所 を 判 断 基 準 としたという、そういう 違 いがあります。ですから、カナダの 事 案 もイギリスの 事 案 も、 結 論 からいえば 実 質 的 管 理 の 場 所 に 着 目 したということになるわけですが、その 位 置 付 けは、 国 内 法 の 問 題 として 判 断 したカナダと、 条 約 の 問 題 として 処 理 したイギリスという 大きな 違 いがあるということです。 414.5. 居 住 地 認 定 後 の 問 題 : 受 益 者 (beneficial owner)、 条 約 特 典 制 限 (limitation on benefit)そして、person なり 居 住 地 なりが 判 定 できたとした 上 で、 次 、 条 約 の 便 益 を 受 ける 資 格 があるかどうかに 関 しては、beneficial owner 概 念 もしくは limitation on benefit の 話 が 出 てくるわけです。これについては 昨 年 も 少 し 触 れたところですが、ただbeneficial owner 概 念 で 課 税 当 局 が 納 税 者 側 の 主 張 を 斥けることができるかということについては、どうも 外 国 の 裁 判 例 の 積 み 重 ねを 見 ると、かなり 課 税 庁 側 に 厳 しい 判42断 が 積 み 重 なっているように 見 受 けられるところです。それは 註 のPrévost 事 件 などが 代 表 的 な 例 として 挙 げられるところです。43日 本 でbeneficial owner 概 念 で 裁 判 をしたというのは、ちょっと 記 憶 にないのですが、 日 本 ガイダント 事 件 では、 一 応 の 形 式 としては、 日 本 の 居 住 者 からオランダ 居 住 者 に 所 得 が 流 れていくということになっていましたところ、その 背 後 にアメリカ 居 住 者 がいるのではないかということで、 日 蘭 租 税 条 約 ではなく 本 当 は 日 米 租 税 条 約 が適 用 されるのではないかという 問 題 が 潜 在 的 にはありました。ただ、あの 事 件 で 課 税 庁 側 は、そもそもbeneficial40合 理 性 を 審 査 するまでもなく、タックスヘイブン 対 策 税 制 が 仮 に 適 用 除 外 要 件 なくあらゆる 日 系 資 本 外 国 法人 の 所 得 を 日 本 株 主 の 所 得 に 加 算 するものとして 設 計 されていたとしても、 租 税 条 約 違 反 にはならない、と 私 は考 えてきた。41 Smallwood 事 件 では「 実 質 的 管 理 の 場 所 」 基 準 が 条 約 で 明 示 されているのに 対 し、Garron 事 件 では 法 規 に明 示 されている 基 準 ではなく 英 国 判 例 の 基 準 を 借 用 している、という 違 いもある。また、 個 人 以 外 について 常 に「 実 質 的 管 理 の 場 所 」 基 準 が 妥 当 すると 考 えることはできない。 法 人 についてであるが、 居 住 地 認 定 基 準 の 違 いを 利 用 する google 関 連 会 社 の 例 として、Stephanie Berrong, Google’s OverseasTax Shemes Raise Questions, 60 Tax Notes International 813 (December13, 2010); Edward D. Kleinbard,Stateless Income, 11 Florida Tax Review 699 (2011) (http://ssrn.com/abstract=1791769)(アイルランド 法 を 準 拠 法とし 管 理 支 配 はバーミューダでなされている 子 会 社 が、アイルランド 法 から 見 るとバーミューダ 法 人 でありアメリカ法 から 見 るとアイルランド 法 人 である、というもの) 等 参 照 。42 The Queen v. Prévost Car Inc., 2008 TCC 231; 2009 FCA 57 ( 確 定 )。スウェーデンと 英 国 の 自 動 車 メーカーが、オランダ 法 人 たる 持 株 会 社 を 通 じてカナダの 自 動 車 メーカーの 株 式 を 取 得 していた 事 案 において、カナダ 源 泉配 当 に 関 する beneficial owner がオランダ 法 人 ではないという 課 税 庁 の 主 張 が、 裁 判 所 によって 斥 けられた。一 審 判 決 ながら Velcro 事 件 (Tax Court of Canada, February 24, 2012)でも 課 税 庁 が 負 けたと 報 じられている。Louise Summerhill & Jack Bernstein, Tax Court of Canada Reverses Reassessments in Velcro, 65 Tax NotesInternational 725 (March 5, 2012) 参 照 。43東 京 高 判 平 成 19 年 6 月 28 日 判 時 1985 号 23 頁 ( 確 定 )。11


owner 概 念 で 勝 負 をかけておりませんで、 条 文 を 見 ても、beneficial owner 概 念 がそもそも 文 言 としてない 話 だったと 思 いますので、 課 税 庁 側 がbeneficial owner 概 念 で 勝 負 をかけなかったことも 仕 方 ないのかなと 思 っております。beneficial owner 概 念 で 租 税 回 避 を 塞 ぐというところは 現 在 のところ 難 しい 状 況 で、ではlimitation on benefit 44 しかないという 状 況 なのですが、これは 今 後 、 条 約 改 正 がどうなっていくかの 話 で、ここは 私 としては 特 に 何 か 情 報があるわけではありません。4.6. 所 得 の 帰 属 (attribution)そして、 今 日 の 一 番 述 べたかった 所 得 の 帰 属 の 問 題 ですが、ここがかなりややこしいという 話 です。Sommerer 事 件 の 判 決 文 では、 条 約 があるのでカナダは 課 税 できませんということで 結 論 を 出 していて、 私 は、後 で 述 べますようにこの 判 断 は 妥 当 なのではないかと 思 っていますが、 条 約 が 国 内 法 に 優 先 するというのが 日本 人45 にとっては 当 然 の 前 提 であるわけですけれども 46 、 条 約 が 国 内 法 に 優 先 するということから、 直 ちに 国 内法 による 課 税 が 条 約 によって 無 効 化 されるということは 必 ずしもいえないのではないかと 思 っております。その 例47がまさにグラクソ 事 件 だったわけです。私 はカナダの Sommerer 事 件 判 決 は( 少 なくとも 条 約 優 先 という 部 分 については) 妥 当 であると 思 っている 一 方で、 日 本 のグラクソ 事 件 判 決 も 妥 当 であると 思 っています。ということはすなわち、 条 約 が 国 内 法 に 優 先 するという 当 然 の 前 提 の 下 においても、 国 内 法 にある 課 税 を 条 約 が 禁 じない 場 合 があるということです。この 話 がなかなかうまく 伝 わらないのですが、 私 は、 条 約 の 規 律 の 範 囲 の 問 題 なのではないかと 思 っています。条 約 が 日 本 とかシンガポールとかの 課 税 関 係 の 全 てを 律 しているわけではなくて、 条 約 はあくまでも 部 分 的 に 日本 なりシンガポールなりの 課 税 権 を 制 約 しているにすぎないとすると、 条 約 に 書 かれていない 範 囲 の 問 題 については 各 国 が、( 一 般 国 際 法 に 違 反 すればちょっと 別 ですけれど、 一 般 国 際 法 に 違 反 しない 限 りにおいては、)もう 好 き 勝 手 に 課 税 権 を 行 使 できると 私 は 考 えているので、 条 約 の 規 律 の 範 囲 ということが 重 要 な 問 題 なのではないかと 思 っています。この 条 約 の 範 囲 、 条 約 がどこを 規 律 しているかということについて、attribution という 概 念 がかなり 多 義 的 に 使 われているということが 議 論 の 混 乱 の 元 ではないかと 個 人 的 には 思 っています。一 般 的 に attribution といいますと、 信 託 の 場 合 には 所 得 税 法 13 条 、 一 般 的 には 所 得 税 法 12 条 で、 実 質 的 帰属 がどうのこうのという 話 をするわけですが、グラクソ 事 件 も、attribution の 変 更 だということができないわけでもないところです。シンガポール 子 会 社 に 帰 属 する 所 得 を 日 本 の 株 主 の 所 得 として attribution を 付 け 替 える 国 内 法の 規 定 というふうに 考 える 人 がいるわけです。この 点 で 私 と 師 匠 の 中 里 実 先 生 とで 激 しい 対 立 をしたわけですが、 私 がグラクソ 事 件 は 条 約 違 反 ではないと 考えている 理 由 は、あれ(タックスヘイヴン 対 策 税 制 )はタイミングの 話 であると 考 えているからです。そのことを 一 所 懸 命 意 見 書 に 書 いたのですが、グラクソ 事 件 で 国 が 勝 ったので、 私 としては 結 果 には 満 足 しているのですが、 残 念 ながら 一 般 論 に 関 して 最 高 裁 を 説 得 するには 至 らなかったので、やはり 説 明 が 下 手 だったのだなと 反 省 して、もう 少 し 何 とかうまい 説 明 がないかと 考 えているところで 板 書 します。A● ●B ●C 株 主 ・ 組 合 員 等└─┼──┘┌─┤ ▲と◆の 間 : 移 転 価 格 税 制 の 問 題| | ◆と◇の 間 : 恒 久 的 施 設 帰 属 利 得 (と 外 税 控 除 )の 問 題I▲ ◆D─◇G ▲◆は 会 社 ・ 組 合 ・ 信 託 等 の <strong>entity</strong>兄 弟 本 支会 社 店 店例 えば 所 得 税 法 12 条 の 問 題 としてロースクールで 時 々 扱 うのは、 例 えば 子 供 名 義 の 預 金 口 座 があって、そこにお 金 が 振 り 込 まれるけれども、 実 質 的 にその 口 座 について 管 理 しているのが 親 であるという 場 合 については親 の 所 得 として 扱 いますという 話 です。これは、タイミングの 話 は 全 然 関 係 がないわけです。 問 題 となっている 所44日 米 租 税 条 約 22 条 ( 平 成 16 年 条 約 第 2 号 )。45日 本 国 憲 法 98 条 2 項 。46後 法 優 先 の 国 では 当 然 の 前 提 ではないが、 今 回 は 条 約 優 先 の 前 提 で 議 論 を 進 める。47最 判 平 成 21 年 10 月 29 日 民 集 63 巻 8 号 1881 頁 。フィンランドの KHO (Korkein hallinto-oikeus) 596/2002(2002:26), 20 March 2002, 及 びフランスの Schneider case, Conseil d’Éta, 28 juin 2002, N o 232 276 を 含 め、この問 題 に 関 する 論 考 は 多 いが、 差 し 当 たり、Nicolas Garfunkel, Are All CFC Regimes the Same? The Impact of theIncome Attribution Method, 59 Tax Notes International 53 (July 5, 2010); 青 山 慶 二 「CFC 税 制 はどこでも 同 一 の内 容 か; 所 得 帰 属 方 法 のインパクト」 租 税 研 究 2011 年 1 月 233 頁 参 照 。12


得 が 本 当 に 子 供 の 所 得 なのか、それとも 本 当 は 親 の 所 得 であるところを 子 供 の 架 空 口 座 を 作 ってやっているのかという 話 です。 私 はこれを 便 宜 的 に 横 の 帰 属 の 問 題 と 表 現 しています。その 他 に、 例 えば A さん、B さん、C さんという 株 主 がいたとして、 株 主 が D 会 社 を 持 っている。D という 会 社 に帰 属 する 所 得 について、 日 本 では 原 則 的 に、 日 本 だけではありませんが、 実 現 主 義 が 採 られているので、 配 当するまでは 株 主 には 課 税 されないというのが 原 則 ですけれども、しかしこれが 例 えば 外 国 法 人 であるような 場 合については、タックスヘイブン 対 策 税 制 で、 外 国 の 会 社 に 帰 属 する 所 得 であっても、 一 定 の 要 件 の 下 では 株 主に 所 得 が 帰 属 するものとして 扱 う。これについて 昔 、 金 子 宏 先 生 はみなし 配 当 課 税 だという 説 明 をしておられましたが、 中 里 先 生 が、みなし 配 当課 税 というには 配 当 扱 いしていないからおかしいという 反 論 をした(その 後 金 子 先 生 も 少 し 表 現 を 改 めた)ということがあります。 確 かに 配 当 扱 いはしていないのですけれども、しかし 会 社 から 株 主 に 何 らかの 形 で 利 益 が 移 転します 48 。 移 転 するというのは 配 当 以 外 の 経 路 でもいろいろ 利 益 というのは 処 分 できるわけですので、 将 来 配 当を 受 け 取 るまで、 将 来 にわたってAさん、Bさん、Cさんが 所 得 の 実 現 を 繰 り 延 べることをタックスヘイブン 対 策 税制 は 否 定 して、 会 社 に 帰 属 する 所 得 について、もう 株 主 に 所 得 が 発 生 したものとして 扱 うとックスヘイブン 対 策 税制 は 規 定 しているわけです。このときに、タックスヘイブン 対 策 税 制 については、その 趣 旨 がどうなのかということについて 色 々 理 解 の 対 立があるわけですけれども、もともとアメリカでタックスヘイブン 対 策 税 制 ができたときに、 理 想 としては、 今 度 はこちら( 株 主 ABCが 所 在 するところ)がアメリカだったりするわけですが、アメリカの 株 主 が 支 配 している 外 国 法 人 ( 図のD)について、 租 税 回 避 的 であろうがなかろうが、とにかく 全 てアメリカ 資 本 外 国 法 人 の 所 得 について 自 動 的 に株 主 に 所 得 が 帰 属 するものとして 課 税 するというのがサリー 教 授 (Stanley S. Surrey)の 理 想 だったわけです。その 理 想 をやろうとすると、アメリカ 企 業 が 外 国 に 子 会 社 を 作 ったときに、アメリカ 系 の 企 業 がフランスとかオランダの 会 社 との 競 争 において 負 けてしまうからそれは 勘 弁 してくれということで、 租 税 回 避 的 な 場 合 に 限 るという(passive とか active とかを 区 別 するという)そういう 話 になってきたわけですが、 私 はその 点 について 次 のように 考えています。ここ(D)に 所 得 をため 込 むことについて、いつでもアメリカの 国 内 法 に 基 づいて 課 税 することは、 別 に 配 当 することを 要 件 とせずに 課 税 することは、 許 されていて、それは 一 般 国 際 法 上 も 許 されているし、 条 約 上 も 特 にそれを 禁 止 する 規 定 はないと 思 っています。passive か active かということに 着 目 してアメリカがタックスヘイブン 対 策 税 制 を 及 ぼすか 及 ぼさないかというのは、あくまでもアメリカの 立 法 政 策 の 話 で、その 話 を 日 本 は 真 似 たわけです。ただ active か passive かではなくて、<strong>entity</strong> レベルで 判 定 するという 違 いはあるのですが、 日 本 はいつでも 会 社 の 所 得 について 株 主 の 所 得 として 扱 うことは 許 されるという 前 提 で、あとは 政 策 論 として、どういう 場 合 に 会 社 の 所 得 を 株 主 の 所 得 として 扱 うかについて、 線 引 きをしているという、そういう 理 解 です。これが 縦 の 帰 属 という 話 で、 実 現 主 義 の 下 では 配 当 するまで 課 税 されないのが 原 則 ですけれども、 別 に、 実 現主 義 は 必 ず 採 用 されなければいけない 原 則 だとかいうわけではなくて、 実 現 主 義 を 採 るかどうかさえあくまでも立 法 政 策 だと 私 は 思 っていますので、 実 現 主 義 に 則 らなければいけないというルールは 特 に 一 般 国 際 法 とか 租税 条 約 には 無 い 筈 だと 思 っています。だから、 日 本 がシンガポールの 法 人 について 課 税 処 分 を 打 つことについては、それは 別 に 条 約 は 規 律 していないと 思 ったわけです。その 話 を 私 は【 規 定 の 欠 缺 】だと 中 里 先 生 には 申 し上 げたところです。なのですが、 残 念 ながら、レジュメに 書 いていますように、 学 会 の 定 説 には 至 っていないので、 皆 さんがこの 説明 を 聞 いて、グラクソ 事 件 は 条 約 の 欠 缺 の 話 だと 思 っていただけるかどうか。これからの 説 得 の 話 なのですが、 例 えば、この 会 社 が G という 支 店 を 持 っている 場 合 に、G 支 店 に 幾 ら 所 得 が帰 属 するかという 話 があるわけです。これについて、 私 は「 横 の 帰 属 」と 表 現 しているわけですが、それはまさに(D 社 がある)E 国 と(G 支 店 のある)F 国 との 間 でどのように 課 税 権 を 配 分 するか。これはタイミングの 問 題 ではなくて、タイミングとしてはG 支 店 が 稼 いだ 瞬 間 にE 国 がD 社 全 体 の 所 得 に 含 めて 課 税 することが 当 然 のごとく 許 されているわけです。タイミングとしては 全 く 同 じタイミングなわけです。あとは、 課 税 権 の 配 分 として、G 支 店 に 帰 属 する 所 得 についてE 国 は 外 税 控 除 なり、 或 いは exemption methodなり 何 らかの 条 約 に 基 づく 義 務 としての 二 重 課 税 排 除 をしなければいけないという 制 約 が 出 てくるけれども、それは 横 の 帰 属 であって、 縦 の 帰 属 ではないと 理 解 しているわけです。或 いは、 兄 弟 会 社 があって、E 国 でD 社 、H 国 で 兄 弟 会 社 がI 社 とすると、D・I 間 で 何 か 取 引 をやったときに 移転 価 格 税 制 が 発 動 して、 何 か 取 引 の 価 格 がおかしいという 場 合 については 所 得 が 本 当 はどちらなのかという 話を 一 生 懸 命 IとDの 関 係 するH 国 とE 国 との 間 で 争 うわけですが、これも 別 に 兄 弟 会 社 とか 親 子 会 社 でもいいの48校 正 註 : 後 のQ&Aにもある 通 り、「 移 転 」という 表 現 はまずかった。 会 社 が 利 益 を 得 るということは 自 動 的 に 株主 にとっても 未 実 現 利 益 が 生 まれたことを 意 味 する、などと 表 現 すべきであった。13


いうことが 許 されるか 51 。 会 社 の 所 得 を 株 主 に 実 現 原 則 を 取 っ 払 って 課 税 することは 許 されると 思 うのですが、この 配 分 割 合 については 横 の 帰 属 なので、それはちょっといかがなものかと 思 うわけです。例 えば、Aが 所 在 するJ 国 とBが 所 在 するK 国 があるとして、 条 約 の 話 としてJ 国 とK 国 との 間 で、 私 法 上 Aに 帰属 すると 見 せかけられている 所 得 を、K 国 がBの 所 得 として 課 税 するとなると、それは 横 の 帰 属 の 規 律 だから、もろに 条 約 の 規 制 に 引 っ 掛 かってくるのではないかと 思 います。あくまでBに 対 してK 国 が 勝 手 に 国 内 法 で 課 税 しているのですと 言 っても、( 縦 の 帰 属 はいくらでも 変 えていいと 私 は 思 っているわけですが、) 横 の 帰 属 まで 変 えていいとは 思 えないわけです。というところで、Lang 教 授 の 議 論 については、グラクソ 事 件 とか、 或 いは Schneider 事 件 とかに 関 してだけ 言 うならば 納 得 するけれども、 全 部 を 鵜 呑 みにするのは 危 険 ではないかということを「 立 教 法 学 」で 書 いたことがあります。それをもう 少 しわかりやすく 説 明 しようと 思 って、このような 図 が 描 けるのではないかと 思 ったということです。4.7. 国 際 取 引 を 阻 害 しないという 建 前 と 実 際 とのズレ4.7 は、まとめでして、 残 り 時 間 もないので 割 愛 します 52 。Q&A(Q1) 幾 つかコメントさせていただきたいのですけれど、Court of Appeals を 最 高 裁 と 一 貫 して 言 っておられるのですけれども、 違 っていると 思 います。2 年 前 からですけれども 最 高 裁 は 最 高 裁 でイギリスにはありますし、Courtof Appeals は 高 裁 だと 思 います。それは 大 した 話 ではないです。4.1.の、カナダでは 原 則 として 信 託 が individual として 扱 われるという 話 というのは、これは 相 続 税 がないことと何 らかの 関 係 があるのかなと 思 いましたが、もし 何 かあればコメントをお 願 いしたいと 思 います。それから、4.1.の 最 後 のパラグラフで、 実 務 でやっていますと、〔 校 正 註 : 日 本 人 が 信 託 関 連 の 外 国 判 例 を 勉 強することの〕「 一 応 の 意 義 を 述 べるとすれば」どころではなくて、ものすごく 重 要 な 意 義 がいっぱいあって、 外 国 の信 託 類 似 の 仕 組 みを 利 用 することが 非 常 に 盛 んに 行 われていますので、この 研 究 自 体 には 大 変 な 意 義 があると思 います。それから、4.3.ですが、4.7.のところでもあったのですけれども、residency と source rule の 問 題 は 一 応 きちんと 分けて 考 えるとすると、residency があるなし 関 係 なく、non-resident に 対 しても source rule で 課 税 するということがあり 得 るわけですから、ここのパラグラフのように 書 いてしまうと、そこに 混 乱 がかえって 生 じてしまうのではないかと思 うのです。それで、そのことはまた、4.3.にあります 随 時 税 か 期 間 税 かの 問 題 で、 租 税 条 約 の 問 題 を 取 り 扱 っていないのではないかという 話 です。租 税 条 約 独 自 の 時 間 的 枠 組 みはないのです。それはなぜかというと、 要 するに、Model Convention を 作 るときに 各 国 制 度 の 連 中 がやって 来 て、 自 分 の 国 の 租 税 法 に 対 して 何 か 影 響 を 及 ぼすようなことを 勝 手 に 決 められるようなことは 困 るから、そういう 話 をごちゃごちゃにしないように、 要 するに 二 重 課 税 が 生 じているかどうなのかという 点 についてのみ 判 断 するのです。それを 租 税 条 約 の 中 で 時 間 的 枠 組 みを 決 めて、そういう 論 理 のチェーンの 中 で 決 めていくということは、やってもいいですけれど、 話 がまとまるわけがないし、 実 益 もないということから、やらないのです。それはどうしてかというと、それは enforcement が 集 まって、シャトー・ド・ラ・ミュエット(Château de la Muette)で話 をするから、そういう 方 法 論 を 取 るしかないということなのです。51国 内 で 完 結 する 事 案 であれば、 同 族 会 社 行 為 計 算 否 認 規 定 が、 横 の 帰 属 の 問 題 として、 私 法 上 Dに 帰 属 すると 見 せかけられている 所 得 について、Bに 帰 属 するものとして 課 税 することがある。52報 告 時 のレジュメから 抜 粋 ――或 る 国 で 潜 在 的 に 積 み 重 なってきた 利 益 について、 当 該 国 の 居 住 者 が 何 とか 課 税 を 回 避 しようとして、 外 国 の信 託 等 の <strong>entity</strong> を 利 用 しようとしている、という 共 通 した 構 図 がある。つまり、 国 際 取 引 を 阻 害 しないようにするために 各 国 の 課 税 権 を 縛 るという 制 度 ( 国 内 法 であったり 条 約 であったり)の 建 前 と、 関 係 ないところで 租 税 回 避 が企 まれている。だから 居 住 ・ 源 泉 の 二 大 枠 組 みで 課 税 権 を 縛 る 現 行 法 ・ 条 約 の 構 造 が 悪 いのだ、と 言 いたくなるところではあるが、 制 度 の 建 前 に 沿 った 取 引 の 方 が 当 然 に 主 流 であろうことを 考 えると、 角 を 矯 めて 牛 を 殺 すような 真 似 をすることには 躊 躇 いもある。信 託 等 多 様 な <strong>entity</strong> に 関 して 国 際 的 に 検 討 されつつあるものの、 課 税 ルールの 国 際 的 調 和 への 機 運 はまだ盛 り 上 がっていない。 規 定 の 経 路 依 存 もあろう。 現 在 は 劇 的 な 変 革 よりも 定 義 ・ 解 釈 の 積 み 重 ねの 段 階 である。また、 多 重 課 税 防 止 ・ 租 税 回 避 防 止 のための 一 般 ルール 創 設 も 難 しそうである。15


( 浅 妻 ) 必 ずしも 配 当 が 前 提 とされるわけではなくて、 株 主 が 株 式 を 売 り 払 う、 株 式 譲 渡 益 の 形 で 実 現 させることもあるわけです。そこは 経 路 としては 色 々あるので、 実 現 原 則 を 取 っ 払 うかどうかというだけです。(Q2) 前 提 としては、どういう 形 にしろ、 配 当 でなくても 何 でもいいのですけれど、いずれ 子 会 社 が 親 会 社 に 何 らかの 形 で 所 得 を 移 転 するであろうということが 前 提 になっているわけですか。( 浅 妻 ) はい、そうです。ただ、それは 所 得 の 移 転 ではないのです。 所 得 の 移 転 ではなくて、 子 会 社 の 所 得 は自 動 的 に、 株 主 にとっても 所 得 であるということです。(Q2) その 前 提 が 取 れるのは、そういう 親 子 関 係 がある 場 合 だけですか。 縦 の 帰 属 の 関 係 というのは。そういう法 律 関 係 があることを 前 提 にしているわけですか。( 浅 妻 ) はい。(Q2) 他 に 縦 の 帰 属 の 関 係 というのは、どういう 場 合 が 他 にあり 得 るわけですか。( 浅 妻 ) 典 型 的 には 信 託 と 受 益 者 、 組 合 と 組 合 員 。 或 いは LLC と・・・。(Q2) それはどういう 法 律 関 係 が 前 提 になっているわけですか。 縦 の 帰 属 を 成 り 立 たせしめる 論 理 的 前 提 として。( 浅 妻 ) 煮 詰 めていません。 5454校 正 註 : 簡 潔 に 表 現 すれば、debt/equity で、debt なら 横 の 帰 属 、equity なら 縦 の 帰 属 と 考 えている。 金 銭 貸 付や 著 作 権 利 用 許 諾 は debt の 関 係 であり 移 転 価 格 税 制 など 横 の 帰 属 の 問 題 となる。 組 合 と 組 合 員 との 関 係 について、 組 合 員 を equity holder と 呼 ばないものの、しかしその 関 係 は equity の 関 係 であると 多 くの 人 が 考 えていよう。debt か equity かという 線 引 きは clear cut ではないため、 私 は「 煮 詰 めていません」としか 答 えられなかった。例 えば、 営 業 者 と 匿 名 組 合 員 との 関 係 については、 任 意 組 合 よりも 金 銭 貸 付 に 近 いと 私 法 上 考 えられている( 渕 圭 吾 「 匿 名 組 合 契 約 と 所 得 課 税 ――なぜ 日 本 の 匿 名 組 合 契 約 は 租 税 回 避 に 用 いられるのか?」ジュリスト1251 号 177 頁 (2003))。 従 って 匿 名 組 合 員 は debt としての 権 利 を 保 有 していると 考 えることにも 理 由 がないわけではない。しかし、 非 居 住 者 たる 匿 名 組 合 員 に 対 し 国 内 の 事 業 所 を 以 って 恒 久 的 施 設 を 認 定 することが 当 然 に許 されると( 日 本 はともかく) 世 界 では 考 えられている(ガイダント 事 件 ・ 註 43 の 前 提 としてのオランダの 考 え)ことは、 匿 名 組 合 員 が equity の 関 係 にあることを 前 提 としていると 考 えられる( 非 居 住 者 たる 金 銭 貸 付 人 が 借 受 人 から 高 い 利 子 を 受 けて 借 受 人 居 住 地 国 の 課 税 ベースを 削 ろうとも、 当 該 国 が 恒 久 的 施 設 課 税 をしようとしないのは、金 銭 貸 付 人 が debt の 関 係 にあるためであると 考 えられる)。 私 は、【 非 居 住 者 たる 匿 名 組 合 員 に 対 し 恒 久 的 施 設課 税 を 及 ぼす 世 界 の 常 識 は 租 税 条 約 の 解 釈 として 導 けない】という 異 端 的 考 えを 持 っているが、それはともかく、営 業 者 と 匿 名 組 合 員 との 関 係 は 縦 の 帰 属 として 扱 ってよい( 営 業 者 が 匿 名 組 合 員 に 利 益 を 分 配 していない 時 点において 匿 名 組 合 員 の 居 住 地 国 が 匿 名 組 合 員 に 所 得 ありとして 課 税 することは、 条 約 違 反 とならない)と 見 込 んでいる。debt か equity かと、 横 か 縦 か、が 1 対 1 で 対 応 しているかについても、 確 信 は 持 てない。例 えば、 問 屋 ( 商 法 551 条 )と 依 頼 人 との 関 係 について、 私 法 上 の 権 利 義 務 が 問 屋 に 帰 属 するといえども、 所得 税 法 12 条 の 適 用 結 果 として 当 然 に 依 頼 人 に 所 得 が 帰 属 する( 商 法 551 条 の「 他 人 の 為 めに」という 文 言 が 根拠 となると 推 測 される)と 考 えられている。しかし 所 得 税 法 12 条 の 問 題 であるということが 直 ちに 横 の 帰 属 の 問 題であることを 基 礎 づけるとは 限 らない。 一 旦 所 得 を 問 屋 に 帰 属 させ、 清 算 してから 依 頼 人 に 所 得 が 帰 属 する( 問屋 はpass throughではなく pay through の 扱 い)、という 所 得 税 法 体 系 が 考 えられないではないし、そういう 体 系 の可 能 性 に 照 らせば、 問 屋 ・ 依 頼 人 間 は 縦 の 帰 属 と 捉 えられるのではないかと 思 われる。そして 前 段 落 の 疑 問 に関 し、そもそも 問 屋 ・ 依 頼 人 間 が debt か equity かという 問 題 の 立 て 方 自 体 が 可 能 か 分 からず、debt か equity かと横 か 縦 かとが 対 応 しているか、 論 じにくい 領 域 もあろう。17

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