平成 23 年度 - 筑波技術大学

慢 性 閉 塞 性 肺 疾 患 に 対 する Whole body vibration training
( 全 身 振 動 訓 練 )の 臨 床 的 研 究
平 成 23 年 度
筑 波 技 術 大 学 大 学 院 修 士 課 程 技 術 科 学 研 究 科
保 健 科 学 専 攻
稲 村 真 治

目 次
第 Ⅰ 章
緒 言
Ⅰ-1 慢 性 閉 塞 性 肺 疾 患 の 研 究 背 景 と 目 的 …………………………………1
第 Ⅱ 章 COPDの 臨 床 ( 文 献 的 考 察 )
Ⅱ-1 COPDの 概 念 と 歴 史 的 変 遷 ………………………………………………3
Ⅱ-2 COPDの 疫 学 ………………………………………………………………5
Ⅱ-3 COPDの 病 因 ………………………………………………………………6
1) タバコ 喫 煙 ……………………………………………………………6
2) 酸 化 ストレスの 役 割 …………………………………………………6
3) プロテアーゼの 役 割 …………………………………………………6
Ⅱ-4 COPDの 病 理 と 呼 吸 生 理 …………………………………………………7
1) COPDの 病 理 ……………………………………………………………7
2) COPDの 呼 吸 生 理 ………………………………………………………7
Ⅱ-5 COPD 患 者 の 臨 床 症 状 と 検 査 所 見 ……………………………………10
1) 臨 床 症 状 ………………………………………………………………10
2) 身 体 所 見 ………………………………………………………………11
3) 検 査 所 見 ………………………………………………………………11
Ⅱ-6 COPDの 診 断 ……………………………………………………………12
Ⅱ-7 COPDの 病 期 分 類 ………………………………………………………12
Ⅱ-8 COPDの 治 療 ・ 管 理 ……………………………………………………12
1) 薬 物 療 法 ………………………………………………………………12
2) 呼 吸 リハビリテーション……………………………………………13
3) 酸 素 療 法 ………………………………………………………………13
4) 外 科 療 法 ………………………………………………………………13
5) 禁 煙 ……………………………………………………………………13
6) ワクチンによる 感 染 予 防 ……………………………………………13
第 Ⅲ 章
COPDの 呼 吸 リハビリテーション
Ⅲ-1 総 論 ……………………………………………………………………14
Ⅲ-2 全 身 振 動 訓 練 …………………………………………………………16
Ⅲ-3 呼 吸 器 疾 患 における 全 身 振 動 訓 練 の 意 義 …………………………17

第 Ⅳ 章
慢 性 閉 塞 性 肺 疾 患 に 対 するwhole body vibration training(WBVT)
の 臨 床 的 研 究
Ⅳ-1 研 究 目 的 ………………………………………………………………… 18
Ⅳ-2 研 究 方 法 ………………………………………………………………… 20
1) 対 象 ……………………………………………………………………20
2) 倫 理 ……………………………………………………………………20
3) COPD 患 者 の 呼 吸 リハビリテーションプログラム…………………21
4) 評 価 方 法 ………………………………………………………………23
5) 統 計 解 析 ………………………………………………………………24
Ⅳ-3 結 果
1) 実 験 開 始 前 の 検 査 関 連 項 目 の 群 間 比 較 ……………………………25
2) 全 身 振 動 訓 練 の 効 果 の 群 間 比 較 ……………………………………25
Ⅳ-4 考 察 ………………………………………………………………………27
第 Ⅴ 章
結 論 ……………………………………………………………………29
謝 辞 …………………………………………………………………………………30
参 考 文 献 ……………………………………………………………………………31
図 、 表 ………………………………………………………………………………36

筑 波 技 術 大 学
修 士 ( 理 学 療 法 学 ) 学 位 論 文

第 Ⅰ 章
緒 言
Ⅰ-1 慢 性 閉 塞 性 肺 疾 患 の 研 究 背 景 と 目 的
慢 性 閉 塞 性 肺 疾 患 (chronic obstructive pulmonary disease;COPD)とは、
長 年 の 喫 煙 習 慣 や 大 気 汚 染 などによる 毒 性 物 質 の 吸 入 により、 気 道 の 炎 症 性 の
狭 窄 や 肺 胞 の 破 壊 が 生 じ、 換 気 機 能 やガス 交 換 障 害 など、さまざま 障 害 を 呈 す
る 疾 患 である。 代 表 的 な 症 状 は、 慢 性 的 な 咳 や 痰 、 労 作 時 の 息 切 れである。 病
初 期 においては 安 静 時 には 症 状 の 自 覚 がなく、 階 段 昇 降 や 少 し 走 った 時 に 軽 い
息 切 れを 感 じる 程 度 であるが、 進 行 すると 歩 行 時 や 会 話 中 にも 息 切 れを 感 じる
ようになる。さらに 進 行 すると 息 苦 しさのために 日 常 生 活 の 行 動 の 自 由 が 制 限
される。そのため、 大 変 な 身 体 的 ・ 精 神 的 苦 痛 を 伴 う 疾 患 である。
本 邦 の 疫 学 調 査
1) による COPD 有 病 率 は 40 歳 代 3%、50 歳 代 5%であるに 対 し
て、60 歳 代 12%、70 歳 以 上 17%と 年 齢 とともに 増 加 しており、 今 後 、 高 齢 者
人 口 の 増 加 とともに 患 者 数 はますます 増 えるものと 予 想 される。そのため、 今
後 、 本 症 に 対 するより 有 効 な 治 療 ・ 予 防 法 の 確 立 と QOL(quality of life) 向
上 のための 新 たな 治 療 法 の 開 発 は 急 務 の 課 題 になっている。
一 方 、1980 年 代 には 5 年 生 存 率 で、40~50% 程 度 であった COPD 患 者 の 予 後 は、
1990 年 代 には 70~80%としだいに 改 善 してきている 2) 。これには、 在 宅 酸 素 療
3、4)
法 、 吸 入 ステロイド 5) 6)
などの 薬 物 療 法 、 外 科 療 法 などの 治 療 法 の 導 入 とと
もに 呼 吸 リハビリテーションが 大 きく 貢 献 している。
COPD 患 者 は 肺 機 能 障 害 から 惹 起 される 呼 吸 困 難 のために 日 常 活 動 量 が 減 少 し、
身 体 機 能 の 失 調 ・ 低 下 (deconditioning)が 生 じ、さらに 呼 吸 困 難 を 増 悪 させ
てしまう 悪 循 環 に 陥 る。 呼 吸 リハビリテーションはその 悪 循 環 を 断 ち 切 るのに
効 果 があり、EBM の 観 点 から 1997 年 のアメリカ 胸 部 医 師 学 会 とアメリカ 心 血 管 ・
呼 吸 リハビリテーション 協 会 によるガイドラインで、COPD 患 者 の 呼 吸 困 難 の 軽
減 、 運 動 耐 容 能 の 改 善 、 健 康 関 連 QOL の 改 善 の 効 果 は 明 らかになっている。さ
らに、COPD 患 者 では、 全 身 性 炎 症 、 栄 養 障 害 、 骨 格 筋 機 能 障 害 、 抑 うつなどを
合 併 することが 多 く、 全 身 疾 患 としての 包 括 的 な 治 療 の 重 要 性 が 指 摘 されてい
る 7) 。これらの 症 状 にも 呼 吸 リハビリテーションは、 薬 物 療 法 とともに 有 効 な 治
療 とされている 8)~10) 。
全 身 振 動 訓 練 (whole body vibration training; WBVT)は 、1960 年 代 に Vladimir
Nazarov らによって 考 案 された 主 に 下 肢 筋 に 高 頻 度 振 動 刺 激 を 加 える 新 しい 筋
力 訓 練 方 法 である 62) 。これまでの WBVT に 関 する 研 究 報 告 は 決 して 多 いものでは
ないが、バスケットボール 選 手 で 膝 伸 展 筋 力 とスクワットジャンプ 高 の 増 加
64) 、
女 性 プロバレーボール 選 手 で 筋 電 図 の 波 形 の 増 大 による 瞬 発 力 の 向 上 などが 報
告 されている 51) 。 患 者 を 対 象 とした 研 究 では、 慢 性 脳 卒 中 片 麻 痺 患 者 およびパ
ーキンソン 病 患 者 で 歩 行 能 力 とバランス 機 能 の 改 善 などが 報 告 されている 56、65) 。
呼 吸 器 疾 患 患 者 を 対 象 とした 研 究 では、 呼 吸 困 難 を 伴 う 成 人 嚢 胞 性 線 維 症
1

(cystic fibrosis;CF) 患 者 で、ジャンプ 力 、 筋 収 縮 速 度 の 改 善 が 報 告 されて
いる 57、58) 。しかし、COPD 患 者 の WBVT の 応 用 的 研 究 は 極 めて 少 ない。そこで WBVT
は、 労 作 時 呼 吸 困 難 を 訴 えることが 多 い COPD 患 者 には、 従 来 の 訓 練 法 よりも、
より 呼 吸 リハビリテーションの 訓 練 方 法 として 効 率 的 でより 負 担 の 少 ない 訓 練
方 法 になりうるのではないかと 考 え、 本 研 究 を 行 った。
2

第 Ⅱ 章 COPD の 臨 床 ( 文 献 的 考 察 )
Ⅱ-1 COPD の 概 念 と 歴 史 的 変 遷
現 在 の COPD をさすと 考 えられる 労 作 時 息 切 れと 肺 の 過 膨 張 を 特 徴 とする 疾 患
は、1685 年 に Willis により 初 めて 単 一 疾 患 概 念 として 記 載 された 11) 。イタリア
の 解 剖 学 者 ジョバンニ・モルガーニは 1761 年 、この 疾 患 患 者 の 肺 は 剖 検 時 に 開
胸 してもしぼまないことを 記 載 し、1819 年 フランスの 内 科 医 レンネックは「 肺
の 過 膨 張 状 態 で 肺 組 織 の 委 縮 を 伴 う 疾 患 」として「 肺 気 腫 emphysema」を 命 名
した。その 後 、1949 年 にティフェノーが 開 発 した 呼 吸 機 能 検 査 法 により、 本 症
の 肺 の 過 膨 張 や 気 流 制 限 は 定 量 的 に 評 価 されるようになった。
1950 年 代 、 世 界 的 な 人 口 増 加 と 高 齢 化 、 大 気 汚 染 や 喫 煙 習 慣 の 増 加 などによ
り、 労 作 時 息 切 れや 喀 痰 の 増 加 を 特 徴 とする 疾 患 患 者 が 増 加 した。その 疾 患 は
イギリスでは「 慢 性 気 管 支 炎 chronic bronchitis」、アメリカ 合 衆 国 では「 肺
気 腫 emphysema」と 呼 ばれ、ともに 気 流 制 限 を 特 徴 とするものであるが、 呼 称
の 異 同 が 問 題 となっていた。そのため、 慢 性 気 管 支 炎 、 肺 気 腫 、 気 管 支 喘 息 な
どに 関 する 用 語 、 定 義 、 分 類 の 統 一 を 目 指 し、1958 年 Ciba Guest Symposium が
開 催 された。この 会 議 で、 慢 性 気 管 支 炎 は 咳 や 痰 の 持 続 期 間 等 の 臨 床 症 状 に 基
づくものであり、 肺 気 腫 は 病 理 形 態 学 的 用 語 であることが 提 言 された 12) 。
アメリカ 胸 部 疾 患 学 会 (American Thoracic Society;ATS)は 1962 年 に 慢 性
気 管 支 炎 、 肺 気 腫 、 気 管 支 喘 息 の 三 つの 定 義 について 討 論 したが、 統 一 した 見
解 は 得 られなかった。しかし、1964 年 に Burrows と Fletcher らによる 共 同 研 究
から、 慢 性 気 管 支 炎 ・ 肺 気 腫 を 包 括 した 概 念 として COPD という 用 語 が 提 唱 され
た 13) 。1965 年 に ATS で 臨 床 症 状 や X 線 所 見 、 生 理 学 的 検 査 所 見 に 基 づいて、 従
来 の COPD は 以 下 の 3 つのタイプに 分 類 された。
1A type: 肺 気 腫 型 (pink puffer)
2B type: 慢 性 気 管 支 型 (blue bloater)
3X type:A、B の 混 合 型
1970 年 代 半 ば 以 降 、COPD 患 者 を 対 象 として 肺 の 病 変 形 成 や、 病 変 と 呼 吸 機 能
の 詳 細 な 比 較 研 究 が 続 けられた。この 過 程 で、 慢 性 気 管 支 炎 の 主 徴 である 喀 痰
症 状 や 気 管 支 腺 の 肥 厚 は 気 流 閉 塞 と 有 意 な 関 係 になく、 気 流 閉 塞 には 細 気 管 支
病 変 と 肺 気 腫 が 密 接 に 関 与 していることが 明 らかにされた。これに 準 じて 1992
年 にカナダで 初 めて COPD の 診 断 と 治 療 のための 診 療 ガイドライン 14) が 作 成 され、
その 後 、 世 界 各 国 でほぼ 同 じ 内 容 のガイドラインが 作 成 されるようになった。
さらに、1997 年 、COPD 患 者 数 が 増 加 傾 向 にあるため、WHO が 中 心 となり、COPD
の 予 防 と 治 療 を 目 的 として、Global Initiative for Chronic Obstructive Lung
Disease(GOLD)という 国 際 機 関 が 発 足 し、2001 年 COPD ガイドラインが 発 表 さ
れた 15) 。このガイドラインから COPD を 肺 気 腫 、 慢 性 気 管 支 炎 、 末 梢 気 道 病 変 な
3

どの 個 々の 疾 患 概 念 に 分 類 したり 異 同 を 論 じたりはせず、COPD は 一 つの 疾 患 単
位 として 扱 われるようになった。
2007 年 の GOLD の 定 義 では COPD は「 予 防 可 能 ・ 治 療 可 能 な 疾 患 であり、 個 々
の 患 者 の 病 期 には 肺 以 外 の 全 身 症 状 も 影 響 する。 肺 症 状 は、 完 全 には 可 逆 的 で
ない 気 流 制 限 を 特 徴 とする。この 気 流 制 限 は 通 常 進 行 性 で、 有 害 な 粒 子 やガス
に 対 する 肺 の 異 常 な 慢 性 炎 症 反 応 と 関 連 している 疾 患 」とされている。これま
では 気 流 制 限 は 非 可 逆 的 と 考 えられていたが、 治 療 によりある 程 度 改 善 し、そ
の 結 果 、 症 状 ・ 運 動 耐 容 能 ・QOL などに 改 善 が 見 られることが 分 かってきている。
ちなみに、 日 本 呼 吸 器 学 会 の COPD 診 断 と 治 療 のためのガイドライン 第 3 版 では、
COPD は、「タバコ 煙 を 主 とする 有 害 物 質 を 長 期 に 吸 入 暴 露 することで 生 じた 肺 の
炎 症 に 基 づく 末 梢 気 道 病 変 や 気 腫 性 病 変 が 複 合 的 に 作 用 し 進 行 性 の 気 流 閉 塞 を
示 す 疾 患 である。 慢 性 の 咳 、 痰 や 労 作 時 の 息 切 れが 特 徴 的 症 状 である」と 定 義
されている。
4

Ⅱ-2 COPD の 疫 学
1997 年 、WHO と 世 界 銀 行 による 疾 病 負 荷 の 研 究 (Global Burden of Disease
Study)では、COPD は 2020 年 に 世 界 の 死 亡 原 因 別 死 亡 率 の 3 位 になることが 推
定 されている 16) 。また、WHO の 世 界 死 亡 原 因 統 計 は、COPD は 2005 年 の 世 界 の 死
因 の 第 4 位 ( 年 間 約 300 万 人 )であるが、 今 後 10 年 間 でさらに 30% 増 加 すると 予
測 している 17) 。
ラテンアメリカの 5 つの 主 要 都 市 でのスパイロメトリーを 用 いた 疫 学 調 査 で
は、いずれの 都 市 においても 有 病 率 が 10%を 超 えていた(メキシコシティ 11.9% 、
カラカス 13.0%、サンパウロ 14.9%、サンティアゴ 14.5%、モンテビデオ 19.4% )
と 報 告 されている 18) 。
2001~2006 年 の 世 界 12 カ 国 ( 中 国 、トルコ、オーストリア、 南 アフリカ、ア
イスランド、ドイツ、ポーランド、ノルウェー、カナダ、アメリカ、フィリピ
ン、オーストラリア)の 疫 学 調 査 では、GOLD の stageⅡ 以 上 の COPD 有 病 率 は 平
均 10.1%( 男 性 11.8%、 女 性 8.5%)であった。 喫 煙 率 が 高 い 国 ほど 有 病 率 も
高 い 傾 向 にあった 19) 。
本 邦 では 2000 年 9 月 から 12 月 にかけて、 福 地 らによる 一 般 住 民 を 対 象 とし
た 大 規 模 疫 学 調 査 (Nippon COPD Epidemiology; NICE study)が 実 施 された 1) 。
解 析 の 結 果 、1 秒 量 (forced expiratory volume in 1 sec;FEV 1 )/ 努 力 性 肺 活
量 (forced vital capacity;FVC)

Ⅱ-3 COPD の 病 因
1) タバコ 喫 煙
COPD の 病 因 に 関 しては1COPD 患 者 の 90%が 喫 煙 者 ないし 喫 煙 経 験 者 であるこ
と、2 喫 煙 感 受 性 者 では 1 秒 量 の 経 年 的 低 下 率 が 非 喫 煙 者 に 比 べて 2~5 倍 高 い
こと、3 喫 煙 量 に 依 存 して 1 秒 量 の 経 年 的 低 下 率 が 増 加 すること、4 禁 煙 によ
り 1 秒 量 の 経 年 的 低 下 率 が 減 少 すること、5 喫 煙 量 に 依 存 して 肺 気 腫 の 頻 度 が
高 いこと、6 喫 煙 者 では COPD による 死 亡 率 が 非 喫 煙 者 の 10 倍 高 い 21) ことが 報
告 されており、タバコ 喫 煙 が 最 大 の 発 症 因 子 であることが 示 唆 されている。そ
の 他 の 外 因 性 発 症 因 子 としては、 大 気 汚 染 や 職 業 上 の 粉 塵 、 窒 素 酸 化 物 や 硫 黄
酸 化 物 などの 化 学 物 質 への 暴 露 が 考 えられている 22、23) 。
2) 酸 化 ストレスの 役 割
肺 は 直 接 外 界 に 接 している 臓 器 であるため、 外 因 性 のさまざまな 汚 染 物 質 の
吸 入 からは 逃 れることはできない。タバコ 喫 煙 者 においてはタバコの 煙 由 来 の
酸 化 物 質 に 曝 されている。また、 肺 は 外 界 からの 刺 激 物 質 に 対 しての 防 御 機 構
が 発 達 しているため、 刺 激 物 質 に 反 応 して 浸 潤 してきた 炎 症 細 胞 や 肺 胞 マクロ
ファージなどの 細 胞 から 発 生 するオキシダントも 多 い。 通 常 は 肺 の 細 胞 は 酵 素
的 ・ 非 酵 素 的 システムにより、これらの 酸 化 ストレスから 守 られているが、 過
剰 なオキシダントやアンチオキシダント 不 足 により、 両 者 のバランスがオキシ
ダント 優 位 に 傾 くと 酸 化 ストレスが 発 生 する。 酸 化 ストレスは 肺 を 直 接 損 傷 す
るだけでなく、 肺 の 炎 症 を 増 悪 させるため、COPD の 病 因 に 重 要 であると 考 えら
れている 24) 。
3) プロテアーゼの 役 割
COPD 患 者 では、 肺 の 構 成 成 分 を 分 解 する 種 々のプロテアーゼとそれを 阻 害 す
るアンチプロテアーゼのバランスが 崩 れることにより、 肺 胞 における 結 合 組 織
の 主 要 構 成 要 素 であるエラスチンが 分 解 され、 気 腫 性 変 化 を 生 じさせるとの 説
もある。また、プロテーゼインヒビターの 一 種 であるα 1 アンチトリプシンの 欠
損 症 では COPD を 高 率 に 発 症 することが 知 られており、その 内 因 性 因 子 としての
役 割 が 示 唆 されている。 但 し、 本 邦 での 発 症 率 は 極 めて 少 ない。その 他 の 内 因
性 因 子 として 遺 伝 素 因 、 気 道 過 敏 性 、 加 齢 等 が 報 告 されている (25~30) 。
6

Ⅱ-4 COPD の 病 理 と 呼 吸 生 理
1) COPD の 病 理
COPD 患 者 の 肺 組 織 を 観 察 すると、 以 下 のような 所 見 がみられる。1 中 枢 気 道
の 扁 平 上 皮 化 、2 分 泌 腺 の 肥 大 や 過 形 成 による 気 道 内 腔 の 狭 窄 、3 末 梢 気 道 の
線 維 化 を 伴 う 閉 塞 性 細 気 管 支 炎 による 気 道 壁 の 肥 厚 と 狭 窄 、4 肺 胞 壁 の 破 壊 に
よる 気 腫 性 病 変 、これらが 混 在 している。この1~4の 病 理 学 的 異 常 により、
肺 弾 性 収 縮 力 と 気 道 支 持 力 (radial traction)が 低 下 するため、 気 道 がつぶれ
やすくなり、 気 流 が 制 限 されると 考 えられている 31) 。
COPD は、 気 腫 型 と 非 気 腫 型 に 分 けられるが、 病 理 学 的 には、 従 来 の 疾 患 名 で
ある 肺 気 腫 と 慢 性 気 管 支 炎 に 分 けられる。 肺 気 腫 肺 は 肺 胞 壁 が 失 われ、そのた
め 毛 細 血 管 床 の 多 くの 部 分 が 破 壊 される。 血 管 を 含 んでいる 肺 実 質 の 連 なりが、
大 きく 拡 張 した 気 腔 を 交 差 して 走 っている。 末 梢 気 道 は 狭 窄 し、 曲 がりくねり、
その 数 が 減 少 している。さらに、 気 道 の 壁 は 薄 く、 委 縮 している。また、 大 き
な 気 道 も 減 少 している。 図 2 に 気 腫 型 COPD の 気 道 の 病 理 学 的 な 気 道 病 変 を 示 す。
慢 性 気 管 支 炎 の 組 織 学 的 所 見 で 特 徴 的 なのは、 大 きな 気 管 支 の 粘 液 腺 肥 大 と、
末 梢 気 道 の 明 らかな 慢 性 炎 症 性 変 化 である。1 粘 液 腺 の 肥 大 は、 腺 と 壁 の 厚 さ
の 比 (Reid 指 数 )として 表 され、 正 常 では 0.4 未 満 であるが、 重 症 慢 性 気 管 支
炎 では 0.7 を 超 える。2 過 量 の 粘 液 が 気 道 内 に 認 められ、 半 固 形 の 粘 液 栓 が 小
気 管 支 を 閉 塞 する。さらに、3 細 胞 浸 潤 や 壁 の 浮 腫 といった 炎 症 性 変 化 により、
末 梢 気 道 は 狭 小 化 する。4 肉 芽 組 織 がみられ、 気 管 支 周 囲 の 線 維 化 がみられる。
5 気 管 支 平 滑 筋 の 増 加 が 認 められる。
上 記 のような 病 理 学 的 変 化 の 結 果 、 図 2 のように 肺 弾 性 収 縮 力 の 低 下 、 末 梢
気 道 の 虚 脱 を 防 ぐ radial traction の 減 少 により、 気 道 が 閉 塞 しやすくなる。
2) COPD の 呼 吸 生 理
1 呼 吸 機 能
COPD 患 者 にスパイロメータを 用 いて 呼 吸 機 能 を 測 定 すると、FEV 1 、FVC、1 秒
率 (percent of forced expiratory volume in 1 sec;FEV 1 %)、などが 減 少 す
る。これは、 気 道 内 腔 の 過 量 粘 液 、または 炎 症 性 変 化 による 気 道 壁 の 肥 厚 、radial
traction の 減 少 など、いずれかの 原 因 により 気 道 が 閉 塞 されていることを 表 し
ている。FVC の 減 少 は、 異 常 に 高 い 肺 気 量 レベルで 呼 気 時 に 早 い 段 階 で 気 道 閉 塞
が 起 こることにより、 残 気 量 (residual volume;RV)が 増 加 するためである。
COPD 患 者 がスパイログラムの 検 査 をする 際 、 努 力 呼 気 時 にほとんどの 肺 気 量
位 で 流 速 が 著 しく 減 少 し、 呼 気 時 間 が 延 長 する( 図 3)。この 原 因 の 一 部 は 気 腫
7

肺 の 肺 弾 性 収 縮 力 の 低 下 である。 COPD 患 者 は、 末 梢 気 道 病 変 による 気 道 狭 窄
や 肺 弾 性 収 縮 力 の 低 下 により、 気 道 抵 抗 が 高 く、 胸 腔 内 圧 が 陽 圧 となる 呼 気 時
には、 気 流 制 限 が 顕 著 となり、 呼 出 時 間 が 延 長 する。 体 動 時 などの 換 気 需 要 が
増 加 すると 呼 吸 数 の 増 加 により、 呼 気 時 間 が 短 縮 し、 呼 出 が 終 了 する 前 に 吸 気
が 始 まる。その 結 果 、 肺 内 の 空 気 を 十 分 に 呼 出 できずに 空 気 捉 え 込 み(air
trapping)が 生 じ、 肺 が 過 膨 張 する。 肺 の 過 膨 張 は RV を 増 加 させて 最 大 吸 気 量
を 減 少 させるため、 呼 気 終 末 肺 気 量 を 増 加 させて 換 気 量 を 減 少 させる。これが
動 的 肺 過 膨 張 (dynamic hyperinflation)である。また、COPD 患 者 では 呼 気 気
流 制 限 により 呼 気 終 末 時 でも 気 道 圧 が 大 気 圧 より 陽 圧 ( 内 因 性 positive end
expiratory pressure ;PEEP)となるため、 呼 出 障 害 が 高 度 であるほど 内 因 性 PEEP
が 上 昇 して、さらに dynamic hyperinflation が 高 度 となる。この dynamic
hyperinflation は、 横 隔 膜 の 平 低 化 を 来 すため、 換 気 メカニクス 上 、3 つの 不
効 率 な 点 が 生 ずる。1つは、 曲 率 半 径 が 大 きくなるため、ラプラスの 法 則 (P=
2T/r;P は 経 横 隔 膜 圧 、T は 横 隔 膜 張 力 、r は 曲 率 半 径 )から、たとえ 同 じ 横 隔
膜 張 力 であったとしても、 肺 が 過 膨 張 している 場 合 は、 半 径 が 大 きくなるため、
経 横 隔 膜 圧 は 弱 くなる。2 つ 目 は、 肺 の 過 膨 張 は 横 隔 膜 の 長 さを 短 くするため、
筋 の 長 さ- 張 力 関 係 により 収 縮 力 が 減 少 する。3 つ 目 は、Zone of apposition( 下
部 胸 壁 に 付 着 する 横 隔 膜 肋 骨 部 )が 減 るため、ピストン 運 動 の 効 率 が 悪 くなる。
COPD 患 者 は、 以 上 の 理 由 により、 労 作 時 に 換 気 量 が 頭 打 ちとなり、 呼 吸 困 難
のために 運 動 能 力 低 下 を 来 す 場 合 が 多 い。
2ガス 交 換 障 害
換 気 血 流 比 不 均 等 分 布
. .
COPD 患 者 では、 換 気 血 流 比 (ventilation perfusion ratio;V A /Q) 不 均 等 か
. .
ら 低 酸 素 血 症 となる。V A /Q 不 均 等 が 動 脈 血 酸 素 分 圧 (partial pressure of
. .
arterial oxygen;PaO 2 )の 低 下 を 招 く 理 由 は 図 4 に 示 すように、 高 い V A /Q をも
. .
つ 領 域 からは 少 ない 量 の 血 液 が 流 れ 込 み、 低 い V A /Q をもっている 領 域 からは 多
. .
くの 血 液 が 流 れ 込 むために 3 つの 領 域 からの 血 液 が 混 合 すると、 低 い V A /Q をも
つ 領 域 の 血 液 が、 酸 素 含 量 が 少 ないために、 血 中 の 酸 素 含 量 が 減 少 する。これ
は、 図 5 の 酸 素 解 離 曲 線 が、 非 直 線 的 な S 字 状 の 形 態 をしていることから 説 明
. .
できる。 高 い V A /Q をもつ 領 域 は 高 い 酸 素 分 圧 (PO 2 )をもっているが、PO 2 が 増 加
しても 酸 素 飽 和 度 はわずかしか 増 加 せず、その 血 液 の 酸 素 含 量 の 増 加 はあまり
. . . .
みられない。V A /Q 不 均 等 によって、PaO 2 の 低 下 を 引 き 起 こすのは、V A /Q の 低 い
領 域 の 影 響 である。
. .
V A /Q 不 均 等 の 理 由 は、 肺 気 腫 における 肺 構 築 の 破 壊 ( 肺 毛 細 血 管 床 の 破 壊 )
によって、 血 流 不 均 等 分 布 が 生 じることや 慢 性 気 管 支 炎 における 気 道 の 異 常 に
8

より、 換 気 不 均 等 が 生 じるためである。
. .
V A /Q 不 均 等 によるガス 交 換 障 害 の 影 響 を 減 少 させる 因 子 が2つある。1 つは、
近 接 している 肺 胞 間 (Kohn 孔 )や 末 梢 気 道 間 (Lambert 管 )には、それぞれ 相
互 に 連 絡 経 路 があり、 側 副 換 気 が 存 在 している 36) 。そのため、 重 症 な 気 道 病 変
があって、 気 道 の 一 部 が 完 全 に 閉 塞 してしまっても、 側 副 換 気 により、 多 少 換
気 を 確 保 できるため、シャント 血 流 を 少 なくすることができる。
2 つ 目 は、 低 酸 素 性 肺 血 管 攣 縮 である。 肺 胞 気 PO 2 の 低 下 に 対 して 起 こる 局 所
的 な 反 応 で、 換 気 不 良 領 域 、または 無 換 気 領 域 への 血 流 を 減 少 させることによ
り、 動 脈 血 低 酸 素 血 症 を 是 正 させる 働 きをもっている。
拡 散 障 害
拡 散 能 力 を 低 下 させる 原 因 として 肺 胞 毛 細 血 管 膜 の 機 能 障 害 、 肺 胞 毛 細 血 管
膜 (ガス 交 換 面 積 )の 減 少 、 肺 毛 細 血 管 床 ・ 肺 毛 細 血 管 血 量 の 減 少 、 換 気 血 流
不 均 等 分 布 があげられる。COPD 患 者 の 場 合 は、 肺 胞 隔 壁 と 肺 胞 毛 細 血 管 網 の 破
壊 によって 拡 散 面 積 が 減 少 し、 拡 散 能 力 が 低 下 する。
9

Ⅱ-5 COPD の 臨 床 症 状 と 検 査 所 見
1) 臨 床 症 状
呼 吸 困 難
病 初 期 には 労 作 時 にのみ 息 切 れ 等 の 呼 吸 困 難 を 訴 えるが、その 程 度 は 病 変 の
進 行 とともに 悪 化 する。 重 症 になると 安 静 時 にも 呼 吸 困 難 が 出 現 する。 呼 吸 困
難 の 程 度 は 呼 吸 機 能 障 害 の 程 度 と 相 関 し、FEV 1 が 予 測 値 の 30% 以 下 になると 安
静 時 にも 呼 吸 困 難 が 出 現 する 37) 。また、COPD 患 者 では 呼 吸 器 感 染 やストレスに
よる 疲 労 が 原 因 で 呼 吸 困 難 が 急 速 に 進 行 する 増 悪 がみられることが 多 い。 軽 症
の COPD 患 者 では、 急 性 増 悪 により 本 症 と 診 断 されることもある。
日 常 診 療 で 呼 吸 困 難 の 程 度 を 客 観 的 に 評 価 するのに、MRC(British Medical
Research Council)の 質 問 票 が 国 際 的 によく 用 いられる。
咳 嗽 、 喀 痰
咳 嗽 、 喀 痰 は、 主 に 慢 性 気 管 支 炎 に 随 伴 する 症 状 で、 起 床 時 から 午 前 中 にか
けて 多 く、 病 初 期 から 出 現 することがある。 咳 嗽 は、 通 常 、 粘 性 痰 を 伴 う 湿 性
咳 嗽 である。 咳 嗽 、 喀 痰 は、 喫 煙 や 大 気 汚 染 などの 種 々の 刺 激 によって 誘 発 さ
れる。 呼 吸 器 感 染 を 合 併 すると 喀 痰 が 膿 性 に 変 化 し、 量 も 多 くなる。
喘 鳴
喘 鳴 とは、 喘 息 患 者 でよく 聞 かれるゼイゼイ、ヒューヒューする 異 常 な 呼 吸
音 ( 連 続 性 ラ 音 )である。 安 定 期 の COPD 患 者 では 安 静 呼 吸 時 には 聴 取 できない
が、 強 制 呼 気 時 や 運 動 時 に 聞 かれることがある。 進 行 した COPD 患 者 では、 安 静
呼 吸 時 にも 聴 取 されることがある。COPD 患 者 は 気 道 炎 症 のために 気 道 過 敏 性 が
亢 進 していることが 多 く、 感 染 や 喫 煙 、 大 気 汚 染 物 質 などの 刺 激 物 質 の 吸 入 で
喘 鳴 を 誘 発 されやすい。
やせ
気 腫 型 COPD 患 者 では 非 気 腫 型 COPD 患 者 に 比 べて、 有 意 にやせがみられるこ
とが 報 告 されている 38) 。
その 他 の 症 状
COPD 患 者 では、 呼 吸 困 難 のため 日 常 生 活 動 作 や 運 動 が 制 限 されるため、 下 肢
筋 の 筋 力 や 持 久 力 が 低 下 している。また、 社 会 活 動 への 参 加 が 困 難 なことが 多
いため、 抑 うつ 傾 向 が 強 く、 抑 うつ 状 態 は 呼 吸 困 難 を 増 悪 させる。 低 酸 素 血 症
や 高 CO 2 血 症 を 伴 う 患 者 では、 興 奮 、 不 隠 など 様 々な 精 神 神 経 症 状 を 示 すことが
ある。 高 CO 2 血 症 では、 朝 方 の 頭 痛 がみられることが 多 く、 昏 睡 状 態 の 前 兆 の 可
能 性 がある。
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2) 身 体 所 見
視 診
末 梢 気 道 の 狭 窄 と air trapping により、 肺 は 呼 気 時 でも 過 膨 張 となり、ビア
樽 状 の 胸 郭 と 後 彎 になる。 胸 郭 横 径 より 前 後 径 が 大 きくなり、 側 面 における 肋
骨 位 置 は 水 平 近 くとなり、 肋 骨 角 も 拡 大 する。 過 膨 張 肺 により 横 隔 膜 の 位 置 が
下 がり 平 低 化 する。 重 症 COPD 患 者 では 呼 吸 補 助 筋 の 肥 大 がみられる。
COPD に 肺 高 血 圧 が 合 併 すると 肺 性 心 から 右 心 不 全 を 惹 起 し、 頸 静 脈 が 怒 張 す
る。 進 行 した 気 腫 型 COPD 患 者 ではその 他 、フーバー 徴 候 や 口 すぼめ 呼 吸 、 奇 異
性 呼 吸 がみられる。
触 診
重 症 気 腫 型 COPD 患 者 では 過 膨 張 肺 による 横 隔 膜 平 低 化 と 縦 隔 下 方 偏 位 により
剣 状 突 起 下 に 心 拍 最 強 点 がよく 触 知 される。
打 診
肺 気 腫 病 変 があり 過 膨 張 になると 鼓 音 となる。 臓 器 が 胸 壁 より 離 れるため、
心 輪 郭 は 不 鮮 明 となる。 肺 肝 境 界 は 低 位 となる。
聴 診
肺 気 腫 病 変 による 含 気 の 増 加 、ブラ( 径 1cm を 超 える 薄 い 隔 壁 をもつ 嚢 胞 )の
増 加 に 応 じて 全 肺 野 で 呼 吸 音 が 減 弱 する。また、 呼 気 の 延 長 、 呼 気 時 の 連 続 性
ラ 音 や 気 道 内 に 分 泌 物 が 貯 留 すると 水 泡 音 が 聴 取 される。
3) 検 査 所 見
呼 吸 機 能 検 査
気 管 支 喘 息 を 除 外 診 断 するため、 気 管 支 拡 張 薬 吸 入 後 のスパイロメトリーを
測 定 し、FEV 1 %が 70% 未 満 であることを 確 認 する。さらに、 最 大 吸 気 位 からで
きるだけ 速 く 最 大 呼 気 位 まで 呼 出 させたフローボリューム 曲 線 を 記 録 し、 下 に
凸 の 曲 線 と 呼 気 量 、 気 流 速 度 を 確 認 する。( 図 3 参 照 )また、 肺 拡 散 能 低 下 や 肺
コンプライアンスの 上 昇 も 気 腫 型 COPD で 重 要 な 所 見 である。
画 像 所 見
胸 部 単 純 X 線 写 真 は COPD を 診 断 する 際 に 他 疾 患 の 除 外 と、 比 較 的 進 行 した 肺
気 腫 病 変 や 気 道 病 変 を 検 出 するために 用 いられるが、 病 初 期 の 診 断 的 意 義 は 少
ない。 肺 気 腫 の 進 行 例 では、 肺 野 の 透 過 性 の 亢 進 、 横 隔 膜 の 低 位 ・ 平 低 化 、 心
臓 が 滴 状 心 となり、 心 胸 郭 比 が 減 少 する。また、 肺 野 末 梢 血 管 影 は 狭 小 化 する。
側 面 像 では、 胸 骨 後 腔 の 拡 大 、 心 臓 後 腔 の 拡 大 、 横 隔 膜 の 平 低 化 が 認 められる。
CT 画 像 は、 肺 気 腫 病 変 では 隔 壁 の 見 られない 無 構 造 の 低 吸 収 域 として 描 出 さ
れる。また、ブラの 検 出 率 が 高 い。
高 分 解 能 CT では、 肺 気 腫 の 最 小 単 位 である 数 mm 径 の 病 変 内 の 構 造 まで 判 別
できる 解 像 度 があるため、 比 較 的 早 期 の 肺 気 腫 病 変 を 検 出 することが 可 能 にな
っている。
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血 液 所 見
COPD 患 者 は 呼 吸 器 感 染 症 により、 症 状 が 増 悪 する。 血 沈 、 末 梢 血 中 の C- 反 応
性 蛋 白 (C-reactive protein;CRP)などの 炎 症 反 応 物 質 の 増 加 、 白 血 球 数 の 増
加 は 感 染 による 気 道 炎 症 の 増 強 を 意 味 しており、 入 院 治 療 や 抗 生 物 質 治 療 を 開
始 する 判 断 基 準 となる。また、 低 酸 素 血 症 を 認 める 患 者 ではエリスロポエチン
が 分 泌 され 多 血 症 を 伴 っている 場 合 があり、 重 症 例 の 指 標 となる。
Ⅱ-6 COPD の 診 断
COPD の 診 断 には、 日 本 呼 吸 器 学 会 COPD 診 断 と 治 療 のためのガイドライン
が 広 く 用 いられている (39) ( 表 1)。
COPD は 呼 吸 困 難 、 咳 嗽 、 喀 痰 、 喘 鳴 を 主 徴 とする 疾 患 であるが、1 気 管 支 拡
張 薬 吸 入 後 でも FEV 1 %が 70% 未 満 であり、2X 腺 画 像 検 査 や 呼 吸 機 能 検 査 、 心
電 図 等 により、 表 2 に 示 すような 気 流 閉 塞 をきたす 疾 患 が 除 外 できれば 本 症 と
診 断 される。
Ⅱ-7 COPD の 病 期 分 類
COPD の 診 断 には、FEV 1 /FVC が 用 いられるのに 対 して、 病 期 分 類 で FEV 1 を 用 い
るのは、 進 行 した COPD 患 者 では、 努 力 呼 気 時 に、air trapping が 起 こるために、
FVC も 低 下 してしまうためである。
COPD の 重 症 度 は 個 人 によって 大 きく 異 なる。また、 重 症 度 の 違 いによって 治
療 法 の 選 択 肢 も 大 きく 異 なる。そのために、COPD は 表 3 のように 病 期 分 類 され
る。
Ⅱ-8 COPD の 治 療 ・ 管 理
安 定 期 の COPD 患 者 の 治 療 ・ 管 理 は 呼 吸 機 能 と 臨 床 症 状 の 両 者 を 考 慮 して、 重
症 度 を 総 合 的 に 判 断 したうえで 治 療 法 を 選 択 する。
1) 薬 物 療 法
COPD 患 者 に 対 して、 気 管 支 拡 張 薬 は 症 状 を 軽 減 させ、 運 動 耐 容 能 を 向 上 させ、
QOL を 改 善 させる。さらに、 吸 入 ステロイドは 比 較 的 重 症 の COPD 患 者 で 増 悪 の
頻 度 や 重 症 度 を 低 下 させることが 報 告 されており 40, 41) 、GOLD や 本 邦 のガイドラ
インでは 重 症 以 上 で 増 悪 を 繰 り 返 す 症 例 に 推 奨 されている。また、FEV 1 などの
呼 吸 機 能 に 明 らかな 改 善 が 認 められない 場 合 でも、 気 管 支 拡 張 薬 により 肺 の 過
膨 張 が 軽 減 されると、 運 動 耐 容 能 や QOL の 改 善 が 認 められる。
12

気 管 支 拡 張 薬 には、 抗 コリン 薬 、β 2 刺 激 薬 、テオフィリン 薬 があり、おのお
のの 作 用 機 序 は 異 なる。 薬 剤 の 選 択 は、 個 々の 患 者 での 薬 剤 の 反 応 性 と 副 作 用
で 決 定 されるが、 通 常 多 剤 併 用 で 用 いられる。
2) 呼 吸 リハビリテーション
次 項 で 述 べる。
3) 酸 素 療 法
長 期 酸 素 療 法 は 生 命 予 後 の 改 善 、 肺 高 血 圧 の 改 善 などについて 高 いエビデン
スが 示 されている。 酸 素 療 法 の 適 応 の 決 定 は、PaO 2 が 55Torr 以 下 の 場 合 、およ
び PaO 2 60Torr 以 下 であっても 睡 眠 時 または 運 動 負 荷 時 に 著 しい 低 酸 素 血 症 を 来
し、 医 師 が 在 宅 酸 素 療 法 を 必 要 であると 認 めた 場 合 、 適 応 となる。 適 応 患 者 の
判 定 にはパルスオキシメータを 用 いてもよい。
4) 外 科 療 法
COPD 患 者 に 対 する 外 科 治 療 には 肺 容 量 減 少 手 術 と 巨 大 肺 嚢 胞 切 除 術 、 肺 移 植
がある。
5) 禁 煙
禁 煙 は COPD 患 者 の FEV 1 の 低 下 率 を 非 喫 煙 者 と 同 程 度 に 改 善 し、 症 状 の 進 行 を
最 も 効 果 的 に 抑 え( 図 6)、 患 者 の QOL と 予 後 を 改 善 しうる 治 療 法 である。
禁 煙 指 導 の 方 法 には、 薬 物 療 法 、 行 動 療 法 またその 併 用 があるが、 受 診 時 に
毎 回 短 い 問 診 をし、 依 存 性 がみられる 例 ではニコチン 置 換 療 法 を 行 うとよい。
6)ワクチンによる 感 染 予 防
ワクチン 接 種 の 目 的 は、 感 染 防 御 に 必 要 な 免 疫 を 誘 導 し、 感 染 発 症 の 予 防 な
いしは 感 染 重 症 化 の 予 防 をすることである。COPD 患 者 が、 呼 吸 器 感 染 症 に 罹 患
すると 重 症 化 することが 多 いことから、インフルエンザワクチンと 肺 炎 球 菌 ワ
クチンの 接 種 は 特 に 重 要 であり、 患 者 自 身 はもちろんのこと、 家 族 や 介 助 者 も
接 種 することが 望 ましい。
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第 Ⅲ 章
COPD の 呼 吸 リハビリテーション
Ⅲ-1 総 論
呼 吸 リハビリテーションとは、「 呼 吸 器 の 病 気 によって 生 じた 障 害 をもつ 患 者
に 対 して、 可 能 な 限 り 機 能 を 回 復 、あるいは 維 持 させ、これにより、 患 者 自 身
が 自 立 できるように 継 続 的 に 支 援 していくための 医 療 である」 43) と 定 義 されてお
り、 呼 吸 困 難 、 日 常 活 動 量 の 減 少 、 社 会 的 孤 立 、 抑 うつなどの 悪 循 環 を 形 成 し
ている COPD 患 者 に 対 して、 日 常 生 活 を 心 身 にわたり 良 好 な 状 態 に 改 善 させるこ
とが 目 的 である。
COPD 患 者 の 多 くは、 呼 吸 生 理 の 項 で 述 べたように、 運 動 誘 発 低 酸 素 血 症 によ
る 化 学 受 容 器 刺 激 や 乳 酸 の 早 期 産 生 などの 多 くの 換 気 需 要 があるにも 関 わらず、
dynamic hyperinflation による 吸 気 筋 の 機 械 的 負 荷 の 増 加 や 内 因 性 PEEP のため、
換 気 量 を 増 やすことができず、 呼 吸 困 難 のために 運 動 が 制 限 される。その 結 果 、
身 体 活 動 量 低 下 から deconditioning 状 態 となり、 少 しの 労 作 で 呼 吸 困 難 を 生 じ
る 悪 循 環 を 形 成 する。
呼 吸 リハビリテーションは、 運 動 耐 容 能 の 改 善 、 呼 吸 困 難 の 軽 減 などの 効 果
が 2003 年 より GOLD でエビデンスレベル A と 最 も 高 く 証 明 されている。また、
呼 吸 リハビリテーションは 非 薬 物 療 法 として 独 立 した 治 療 法 とされ、より 早 期
からの 介 入 が 支 持 されており、その 効 果 は 薬 物 療 法 に 上 乗 せすることができる
とされている。
呼 吸 リハビリテーションの 内 容 は、コンディショニング、 全 身 持 久 力 訓 練 、
筋 力 増 強 訓 練 、 日 常 生 活 動 作 (activities of daily living;ADL) 訓 練 から 構 成
されるが、COPD 患 者 は 同 じ 呼 吸 機 能 でも 呼 吸 困 難 の 強 さ、 運 動 耐 容 能 が 個 々で
大 きく 異 なることもあり、 開 始 に 際 しての 訓 練 構 成 は 患 者 の 重 症 度 により 異 な
る。
コンディショニング
特 に 重 症 COPD 患 者 では、 呼 吸 パターンの 異 常 や 胸 郭 を 含 む 全 身 の 筋 肉 や 関 節
の 柔 軟 性 の 低 下 、 筋 の 短 縮 や 過 緊 張 などが 認 められるため、コンディショニン
グを 実 施 する。その 内 容 は、 口 すぼめ 呼 吸 や 横 隔 膜 呼 吸 を 行 う 呼 吸 訓 練 、 呼 吸
補 助 筋 のストレッチやマッサージを 行 うリラクセーション、 呼 吸 筋 力 が 低 下 し
ている 症 例 への 呼 吸 筋 トレーニング、 呼 吸 筋 ストレッチ 体 操 や 徒 手 胸 郭 圧 迫 法 、
関 節 モビライゼーションなどの 胸 郭 可 動 域 運 動 、 排 痰 法 からなる。
全 身 持 久 力 訓 練
運 動 療 法 の 指 導 に 際 しては、FITT〔 実 施 頻 度 (Frequency;F)、 負 荷 強 度
(Intensity;I)、 運 動 時 間 (Time;T)、 種 類 (Type;T)〕を 明 らかにして 指 導 す
ることが 重 要 である。 実 施 頻 度 は 3 回 / 週 以 上 が 望 ましく、 負 荷 強 度 は 2007 年
のアメリカ 胸 部 医 師 学 会 とアメリカ 心 血 管 ・ 呼 吸 リハビリテーション 協 会 によ
14

るガイドラインから 低 強 度 負 荷 と 高 強 度 負 荷 の 両 者 とも 有 用 とされている。 運
動 時 間 は 最 初 5 分 程 度 から 開 始 し、 徐 々に 時 間 を 延 ばして 20 分 以 上 を 目 標 とし
て、 実 施 期 間 は 6~8 週 間 以 上 継 続 することが 推 奨 されている 44) 。 訓 練 の 種 類 に
は 平 地 歩 行 、 階 段 昇 降 、 踏 み 台 昇 降 、 自 転 車 エルゴメータ、トレッドミルなど
があり、GOLD では、 歩 行 に 関 係 する 下 肢 の 訓 練 を 強 く 推 奨 している。
筋 力 増 強 訓 練
COPD 患 者 における 筋 力 増 強 訓 練 の 効 果 として、 筋 力 、 筋 持 久 力 の 増 大 、 筋 横
断 面 積 の 拡 大 、 筋 肉 内 の 代 謝 機 能 の 改 善 ( 酸 化 酵 素 活 性 の 増 大 など)による 有 酸
素 的 エネルギー 供 給 過 程 の 改 善 がある。 筋 力 増 強 訓 練 の 種 類 には、 自 重 、フリ
ーウェイト、 弾 性 ゴムバンド、トレーニングマシンを 用 いた 訓 練 がある。 歩 行
に 関 与 する 大 腿 四 頭 筋 や 下 腿 三 頭 筋 および、 上 肢 を 使 用 する ADL と 関 連 が 大 き
い 肩 関 節 周 囲 筋 や 肘 関 節 筋 群 を 訓 練 の 対 象 とする。
ADL 訓 練
ADL 訓 練 は、 起 居 ・ 移 動 動 作 、 基 本 動 作 能 力 の 回 復 をめざしたプログラムと、
基 本 および 応 用 動 作 における 具 体 的 動 作 法 の 工 夫 と 獲 得 、ADL 遂 行 のための 道 具
や 生 活 環 境 の 改 善 などの 応 用 的 なプログラムに 分 かれる。
息 切 れが 強 い 場 合 は、 動 作 は 基 本 的 に 呼 吸 と 同 調 して 行 うようにし、 呼 気 に
あわせて 動 作 するように 指 導 することが 重 要 である。 階 段 、トイレ、 浴 室 など
への 手 すりの 設 置 、 椅 子 の 設 置 や 高 さの 調 整 、 屋 内 外 の 段 差 の 解 消 、シャワー
の 位 置 の 調 整 、 酸 素 チューブの 延 長 なども 考 慮 する。
15

Ⅲ-2 全 身 振 動 訓 練
ロシアの 科 学 者 である Vladimir Nazarov は 宇 宙 飛 行 士 の 体 力 低 下 を 治 療 する
方 法 の 一 つとして 全 身 振 動 (whole body vibration:WBV)を 開 発 し、 柔 軟 性 と
筋 力 が 大 幅 に 増 加 するとの 結 果 を 得 ていたが、 公 表 はしていなかった 45) 。1960
年 に 開 催 されたローマオリンピックでロシアが 金 メダル 獲 得 数 で 初 めてアメリ
カを 抜 いて 首 位 になったことでその 効 果 が 後 に 明 らかとなった。
全 身 振 動 訓 練 (WBV training;WBVT)とは、 振 動 板 上 で 立 位 姿 勢 をとり、 足
腰 を 強 化 させるトレーニング 方 法 である。 最 近 では 臨 床 レベルで 応 用 されるよ
うになってきた( 図 7)。WBVT の 原 理 は、 鉛 直 方 向 の 振 動 刺 激 を 発 生 させる 板 上
に 立 ち、 機 械 的 振 動 により 筋 紡 錘 を 刺 激 し、α 運 動 ニューロンを 活 性 化 させ、
伸 張 反 射 により 高 頻 度 で 筋 収 縮 を 発 現 させるものである。この 筋 の 収 縮 と 弛 緩
を 素 早 く 交 互 させるような 通 常 の 運 動 負 荷 にはない 刺 激 は、 神 経 筋 系 の 動 作 経
路 の 強 化 と 調 整 をもたらし、より 多 くの 筋 および 神 経 線 維 を 動 員 させる。
Issurin らは、 全 身 振 動 刺 激 による 運 動 学 習 効 果 は、それまで 動 員 されていなか
った 運 動 単 位 が 動 員 されたことによるものであると 報 告 している 46) 。つまり、
十 分 に 使 われていない 神 経 経 路 への 刺 激 によって、より 高 い 運 動 能 力 が 可 能 に
なるということである。
本 研 究 で 使 用 した 機 器 は、シーソーの 動 きのように 左 右 交 互 に 振 動 するもの
で、 振 動 周 波 数 と 振 幅 が 変 更 可 能 なため、 運 動 強 度 を 調 整 することができる。
Hans らの 先 行 研 究 によると 低 周 波 数 ( 約 5~12Hz)では、クールダウンやリラ
クセーション 効 果 、 中 間 周 波 数 ( 約 12~20Hz)では、 筋 収 縮 の 学 習 や 筋 や 腱 の
ストレッチ 効 果 、 高 周 波 数 (20~30Hz)では 筋 力 増 強 効 果 があると 報 告 されて
いる 47) 。
WBVT の 有 効 性 については、 様 々な 報 告 がある。 健 常 高 齢 者 では 吉 田 らが 下 肢
筋 力 増 強 を 報 告 し 48) 、Iwamoto らはバランス 機 能 改 善 効 果 を 報 告 している 49) 。
また、Bosco らは、 垂 直 跳 びの 能 力 と 筋 パワーについて、 振 動 刺 激 を 取 り 入 れた
群 と 対 照 群 とで 比 較 を 行 い、 振 動 刺 激 を 取 り 入 れた 群 において、 筋 力 および 最
大 跳 躍 高 、 連 続 跳 躍 の 記 録 が 有 意 に 向 上 したと 報 告 している 50) 。さらに、
Cardinale らは 女 性 プロバレーボール 選 手 で 全 身 振 動 刺 激 の 周 波 数 を 変 化 させ
た 際 の 大 腿 四 頭 筋 活 動 について 検 討 し、 振 動 板 上 でスクワットの 姿 勢 を 保 持 し
たほうが、 従 来 型 のスクワット 姿 勢 よりも 筋 電 図 の 波 形 が 増 大 し、 全 身 振 動 刺
激 は 瞬 発 力 を 向 上 させるプライオメトリックトレーニングに 似 た 刺 激 を 与 える
ことが 可 能 であると 報 告 し 51) 、Ruiter らは 健 常 の 大 学 生 に 2 週 間 の WBVT を 行
い、 膝 伸 展 筋 力 の 増 加 を 報 告 している 52) 。さらに、Bosco らは、 振 動 刺 激 を 用 い
た 下 肢 筋 訓 練 は、 神 経 筋 系 のパフォーマンスや 筋 パワーの 向 上 、 筋 力 強 化 の 点
で、スポーツ 選 手 では、 従 来 のトレーニングよりも 効 率 的 で、より 短 時 間 で 筋
パワーの 向 上 が 可 能 であると 報 告 している 53) 。その 他 の WBVT の 効 果 としては、
16

高 齢 者 の 下 肢 筋 力 増 強
54) 、 筋 の 血 行 促 進
55) 、 慢 性 脳 卒 中 片 麻 痺 患 者 のバランス
能 力 の 改 善 などが 報 告 されている 56) 。しかし、WBVT の 呼 吸 器 疾 患 患 者 の 呼 吸 機
能 を 含 めた 検 討 は 極 めて 少 ない。
本 研 究 で 使 用 した 振 動 刺 激 訓 練 装 置 のメーカーマニュアルに 記 載 されている
禁 忌 事 項 を 表 4 に 示 す。また、マニュアルには WBVT により、 皮 膚 の 損 傷 や 水 泡 、
トレーニング 部 位 のかゆみ、 吐 き 気 やめまい、 一 時 的 な 低 血 圧 などがみられる
場 合 があると 記 載 されている。
Ⅲ-3 呼 吸 器 疾 患 における 全 身 振 動 訓 練 の 意 義
変 形 性 膝 関 節 症 患 者 やパーキンソン 病 患 者 などでの WBVT の 報 告 はごく 一 部 み
られるが、 呼 吸 器 疾 患 患 者 に 対 する 全 身 振 動 訓 練 の 報 告 は 少 ない。Rietschel ら
は 10 例 の 成 人 嚢 胞 性 線 維 症 (cystic fibrosis;CF) 患 者 を 対 象 に、20~25Hz
で 1 回 3 分 3 セットを 1 日 2 回 、 週 5 日 間 で 3 カ 月 間 実 施 し、5 回 立 ち 座 り 時 間 、
ジャンプ 力 の 改 善 を 報 告 している 57) 。Roth らは 11 例 の 同 じく 成 人 CF 患 者 で 自
宅 での 訓 練 を 6 カ 月 間 実 施 し、 筋 収 縮 速 度 、 片 脚 と 二 脚 ジャンプ 高 の 増 加 を 報
告 している 58) 。また、 小 林 らは 5 例 の 慢 性 呼 吸 器 疾 患 患 者 に Power Plate ® とい
う WBVT の 機 器 で 使 用 経 験 を 報 告 している 59) 。 呼 吸 器 疾 患 における WBVT は 従 来
の 自 重 による 下 肢 筋 訓 練 よりも 受 動 的 要 素 が 含 まれるため、ドロップアウトせ
ずに 継 続 可 能 な 訓 練 方 法 と 推 定 される。しかし、COPD 患 者 の WBVT の 応 用 的 研 究
は 極 めて 少 ない。
さらに、 最 近 、Web 上 のデータであるが、ドイツで COPD 患 者 を 対 象 に 本 研 究
と 類 似 した Rainer らの 臨 床 研 究 が 報 告 されている 60) 。その 研 究 は、 本 研 究 で 用
いた 振 動 刺 激 装 置 と 同 様 の 作 用 をもつ 機 器 を 使 用 しており、 主 要 評 価 項 目 とし
て 6MWD を 用 いている。 大 きく 異 なるのは、 本 研 究 の 介 入 期 間 が 週 2 日 の 12 週
間 であるのに 対 して、Rainer らの 研 究 は 週 5 日 の 3 週 間 でより 短 期 集 中 で WBVT
を 行 ったという 点 である。
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第 Ⅳ 章
慢 性 閉 塞 性 肺 疾 患 に 対 する whole body vibration training(WBVT)
の 臨 床 的 研 究
Ⅳ-1 研 究 目 的
慢 性 閉 塞 性 肺 疾 患 (chronic obstructive pulmonary disease;COPD)とは、
長 年 の 喫 煙 習 慣 や 大 気 汚 染 などによる 毒 性 物 質 の 吸 入 により、 気 道 の 炎 症 性 の
狭 窄 や 肺 胞 の 破 壊 が 生 じ、 換 気 機 能 やガス 交 換 障 害 など、さまざまな 障 害 を 呈
する 疾 患 である。 代 表 的 な 症 状 は、 慢 性 的 な 咳 や 痰 、 労 作 時 の 息 切 れである。
病 初 期 においては 安 静 時 には 症 状 の 自 覚 がなく、 階 段 昇 降 や 少 し 走 った 時 に 軽
い 息 切 れを 感 じる 程 度 であるが、 進 行 すると 歩 行 時 や 会 話 中 にも 息 切 れを 感 じ
るようになる。さらに 進 行 すると、 息 苦 しさのために 日 常 生 活 の 行 動 の 自 由 が
制 限 される。そのため、 大 変 な 身 体 的 ・ 精 神 的 苦 痛 を 伴 う 疾 患 である。
さらに、COPD 患 者 の 多 くは 労 作 時 呼 吸 困 難 が 原 因 で、 日 常 生 活 動 作 や 運 動 が
制 限 され、 日 常 的 な 活 動 性 が 低 下 する。 長 期 間 の 身 体 活 動 性 の 低 下 は
deconditioning 状 態 を 招 き、 以 前 より 少 ない 労 作 で 呼 吸 困 難 が 生 じるため、 図
8 に 示 すような 呼 吸 困 難 の 悪 循 環 を 形 成 する。 加 えて、COPD 患 者 は 労 作 時 呼 吸
困 難 のため、 家 に 引 きこもりがちになり、 社 会 的 孤 立 感 や 疎 外 感 などを 感 じや
すく、 抑 うつ 症 状 を 合 併 しやすく、こうした 精 神 的 な 要 素 も QOL 低 下 の 原 因 と
なる。
1)
本 邦 の 疫 学 調 査 による COPD 有 病 率 は、40 歳 代 3%、50 歳 代 5%であるに 対
して、60 歳 代 12%、70 歳 以 上 17%と 年 齢 とともに 増 加 しており、 今 後 、 高 齢
者 人 口 の 増 加 とともに 患 者 数 はますます 増 えるものと 予 想 される。そのため、
今 後 、 本 症 に 対 するより 有 効 な 治 療 ・ 予 防 法 の 確 立 と QOL(quality of life)
向 上 のための 新 たな 治 療 法 の 開 発 は 急 務 の 課 題 になっている。
呼 吸 リハビリテーションは COPD 患 者 の 労 作 時 呼 吸 困 難 を 軽 減 させ、 運 動 耐 容
能 を 向 上 させる 効 果 が 明 らかにされている 61) 。 一 方 、 全 身 持 久 力 訓 練 や 筋 力 増
強 訓 練 である 運 動 療 法 施 行 中 の COPD 患 者 は、dynamic hyperinflation や 内 因 性
PEEP のため、 運 動 負 荷 が 増 加 するほど 呼 吸 困 難 が 増 大 しやすい。そのため、 呼
吸 リハビリテーションの 現 場 では、 運 動 療 法 の 一 つである 自 重 を 利 用 した 下 肢
筋 訓 練 中 に 呼 吸 困 難 を 強 く 訴 えることがあり、 運 動 療 法 の 継 続 を 困 難 にするこ
とが 少 なくない。
全 身 振 動 訓 練 (whole body vibration training; WBVT)は 1960 年 代 に Vladimir
Nazarov らによって 考 案 された 高 頻 度 振 動 刺 激 を 加 える 新 しい 筋 力 訓 練 方 法 で
ある 62) 。これまでの WBVT に 関 する 研 究 報 告 は 決 して 多 いものではないが、スポ
ーツ 選 手 を 対 象 とした 研 究 では、バスケットボール 選 手 で 膝 伸 展 筋 力 とスクワ
ットジャンプ 高 の 増 加
63) 、 女 性 プロバレーボール 選 手 で 筋 電 図 の 波 形 の 増 大 に
よる 瞬 発 力 の 向 上 などが 報 告 されている 51) 。 患 者 を 対 象 とした 研 究 では、 慢 性
18

脳 卒 中 片 麻 痺 患 者 、およびパーキンソン 病 患 者 で 歩 行 能 力 とバランス 機 能 の 改
善 などが 報 告 されている 56、64) 。 呼 吸 器 疾 患 患 者 を 対 象 とした 研 究 では、 呼 吸 困
難 を 伴 う 成 人 嚢 胞 性 線 維 症 患 者 で、ジャンプ 力 、 筋 収 縮 速 度 の 改 善 などが 報 告
されている 57、58) 。しかし、COPD 患 者 の WBVT の 応 用 的 研 究 は 極 めて 少 ない。WBVT
は、 労 作 時 呼 吸 困 難 を 訴 えることが 多 い COPD 患 者 には、 従 来 の 筋 力 訓 練 法 より
も 呼 吸 リハビリテーションの 訓 練 方 法 として 効 率 的 でより 負 担 の 少 ない 訓 練 方
法 になりうるのではないかと 考 え、 本 研 究 を 行 った。
19

Ⅳ-2 研 究 方 法
1) 対 象
対 象 は 2011 年 1 月 から 10 月 までに 茨 城 東 病 院 呼 吸 器 内 科 で 外 来 治 療 中 の 男
性 COPD 患 者 である。COPD の 診 断 は 日 本 呼 吸 器 学 会 の 診 断 基 準
39) ( 表 1)に 従 っ
て、 気 管 支 拡 張 薬 吸 入 後 の 1 秒 率 (FEV 1 %)が 70% 未 満 で、 他 の 気 流 閉 塞 をき
たし 得 る 疾 患 を 除 外 した。 表 4 の WBVT の 除 外 基 準 に 当 てはまらず、24 回 ( 週 2
回 ×12 週 )の 呼 吸 リハビリテーションプログラムに 参 加 可 能 な 30 例 を 選 び、 介
入 前 に 封 筒 法 により、WBVT 群 と control 群 の 2 群 にわけて 本 研 究 に 用 いた。
30 例 中 26 例 からインフォームドコンセントが 得 られ、そのうち 4 例 が 同 意 撤
回 、 中 断 が 2 例 ( 心 疾 患 1 例 、 脳 疾 患 1 例 )で、 最 終 的 に 24 回 の 呼 吸 リハビリ
テーションプログラムを 最 後 まで 完 遂 したのは、WBVT 群 は 14 例 中 9 例 ( 64.3% )、
Control 群 は 12 例 中 11 例 (91.7%)の 合 計 20 例 であった。
2) 倫 理
本 研 究 は、 国 立 大 学 法 人 筑 波 技 術 大 学 研 究 倫 理 委 員 会 ( 平 成 22 年 12 月 14 日
承 認 )と、 国 立 病 院 機 構 茨 城 東 病 院 倫 理 委 員 会 ( 平 成 22 年 10 月 14 日 承 認 )の
承 認 を 得 て 実 施 した。 任 意 性 と 同 意 撤 回 の 自 由 、 利 益 ・ 不 利 益 、 研 究 結 果 の 公
表 、 個 人 情 報 の 保 護 について、 説 明 文 書 と 口 頭 による 説 明 を 行 い、 以 下 の 事 項
について 同 意 を 得 た。
1 文 章 による 同 意 を 行 い、 途 中 で 同 意 を 撤 回 しても 不 利 益 は 生 じない。 参 加 さ
れた 方 の 秘 密 は 守 られ、 名 前 や 個 人 を 識 別 する 情 報 は 一 切 公 表 しない。
2この 臨 床 研 究 で 得 られた 情 報 は 茨 城 東 病 院 および 筑 波 技 術 大 学 大 学 院 を 通 じ
て、 関 連 学 会 や 医 学 雑 誌 などへの 投 稿 を 予 定 している。 個 人 を 識 別 する 情 報
は 一 切 公 表 しない。
3この 臨 床 研 究 に 係 わる 関 係 者 、この 臨 床 研 究 を 審 査 する 当 院 の 委 員 会 担 当 者
が 対 象 患 者 のカルテ 等 を 閲 覧 する 場 合 があるが、この 場 合 であってもプライ
バシーは 保 護 される。
20

3) COPD 患 者 の 呼 吸 リハビリテーションプログラム
茨 城 東 病 院 機 能 訓 練 室 で 約 40 分 間 、 以 下 に 示 す1~5の 順 で 呼 吸 リハビリテー
ションプログラムを 行 った。 訓 練 スケジュールを 図 9 に 示 した。
1 呼 吸 筋 ストレッチ 体 操
2 呼 吸 補 助 筋 のストレッチ・リラクセーション
3 上 ・ 下 肢 の 訓 練
4 自 転 車 エルゴメータ
5 自 重 を 利 用 した 下 肢 筋 訓 練 (WBVT の 応 用 または 従 来 の 方 法 )
最 初 に 椅 子 座 位 で 呼 吸 筋 ストレッチ 体 操 を 行 った。 以 下 の 6 種 類 の 体 操 をい
ずれも 4 回 ずつ 行 った。その 間 、 吸 気 は 鼻 呼 吸 で、 呼 気 は 口 すぼめ 呼 吸 を 用 い
た。まず、 両 上 肢 を 開 いて 胸 の 筋 肉 を 伸 ばしながら 深 呼 吸 を 行 い、 次 に 吸 気 時
に 肩 を 上 げ、 呼 気 時 に 肩 を 下 げる 体 操 、 息 を 吸 う 胸 の 呼 吸 筋 のストレッチ、 息
を 吐 く 呼 吸 筋 のストレッチ、 息 を 吸 う 背 中 と 胸 の 呼 吸 筋 のストレッチ、 息 を 吐
く 腹 部 ・ 体 側 の 呼 吸 筋 のストレッチを 行 い、 最 後 に 深 呼 吸 を 行 った。
その 後 、 同 じく 椅 子 座 位 で 胸 部 と 背 部 、 頚 部 の 呼 吸 筋 のストレッチを 他 動 的
に 行 った 後 、 僧 帽 筋 を 中 心 に 頚 ・ 肩 の 呼 吸 補 助 筋 のマッサージを 実 施 した。
続 いて 上 肢 筋 の 訓 練 を 立 位 姿 勢 でやや 強 めの 弾 性 ゴムバンドを 使 用 し、 両 上
肢 約 90 度 屈 曲 位 から 水 平 外 転 させる 運 動 と 片 端 を 足 底 で 踏 み、 肘 関 節 伸 展 位
で 肩 関 節 最 大 屈 曲 位 までの 運 動 を 左 右 10 回 ずつ 行 った( 図 10)。 次 に 下 肢 筋
の 訓 練 を 椅 子 座 位 で 2kg の 重 錘 バンドを 足 関 節 付 近 に 装 着 し、 膝 関 節 約 90 度
屈 曲 位 で 股 関 節 の 屈 曲 運 動 と 膝 関 節 伸 展 運 動 を 左 右 10 回 ずつ 行 った( 図 11)。
引 き 続 き 自 転 車 エルゴメータは、 修 正 Borg scale( 表 7)3~5 で、 最 大 心
拍 数 130 未 満 、SpO 2 は 90% 以 上 になるように 最 大 負 荷 強 度 を 設 定 し、15 分 間
実 施 した。
最 後 に 自 重 を 利 用 した 下 肢 筋 訓 練 は、WBVT 群 は 振 動 板 上 で Control 群 は 非
振 動 の 床 上 で 行 った。 初 日 の 訓 練 を 1 回 として 23 回 自 重 による 下 肢 筋 訓 練 を
行 った。 訓 練 は、 図 12 に 示 すように、 基 本 姿 勢 ( 膝 関 節 軽 度 屈 曲 位 で 足 幅 は
肩 幅 より 狭 く、つま 先 は 約 7 度 外 向 きにし、 上 肢 は 下 垂 させ、 視 線 は 前 方 )を
1 分 間 保 持 → 軽 度 股 ・ 膝 関 節 屈 伸 を 1 分 間 →2 分 間 パイプ 椅 子 に 座 り 休 憩 →1
分 間 基 本 姿 勢 保 持 →1 分 間 カーフレイズの 順 に 行 った。 足 幅 は 11cm で 行 い、
膝 関 節 軽 度 屈 伸 とカーフレイズを 繰 り 返 す 動 作 速 度 は、SEIKO デジタルメトロ
ノーム(DM-70)を 使 用 し、2 秒 間 に 1 回 のペースとした。 足 幅 は 両 群 とも 同
じにするため、 床 にマーカーをした( 図 13)。 6 回 目 以 降 は、 軽 度 股 ・ 膝 関 節
屈 伸 とカーフレイズを 行 う 時 間 を 両 群 とも 1 分 増 やして 2 分 間 行 い、 足 幅 は 両
群 とも 22cm で、 動 作 速 度 は 両 群 とも 5 回 目 までと 同 様 のペースで 行 った。
21

振 動 刺 激 装 置 は、Novotec Medical 社 製 (Pforzheim 市 )のガリレオ G-900 を
用 いた。WBVT 群 は、 表 8 に 示 すように、 順 次 周 波 数 を 上 げていき、5 回 目 まで
は 最 大 周 波 数 を 20Hz までとした。6 回 目 以 降 、 最 大 周 波 数 を 24Hz として 行 っ
たが、3 名 の 患 者 が 20Hz を 超 えて 周 波 数 を 上 げると 負 荷 が 強 いと 訴 えたため、
その3 名 はその 後 の 訓 練 を 20Hz で 行 った。その 他 の 患 者 は 22Hz または 24Hz で
行 った。
22

4) 評 価 方 法
平 成 23 年 1 月 5 日 から 平 成 23 年 10 月 11 日 までの 期 間 に 評 価 及 び 介 入 を 行
った。
実 験 の 評 価 は 初 日 の 訓 練 開 始 前 に 行 い、 週 2 回 で 12 週 の 最 終 日 である 24 回
目 の 終 了 後 に 再 度 行 った。WBVT の 効 果 は 以 下 の 6 項 目 で 評 価 した。
1 6 分 間 歩 行 試 験 の 歩 行 距 離 (six-minute walk distance;6MWD)
運 動 耐 容 能 を 評 価 するのに 6MWD を 用 いた。 片 道 50m の 直 線 コースを 使 用 し、
呼 吸 リハビリテーションマニュアルの 6 分 間 歩 行 試 験 の 方 法 に 基 づいて 実 施
した 65) 。
26MWT 終 了 後 の 修 正 Borg Scale
表 7 に 示 す 修 正 Borg Scale 66) は、0 の「 何 も 感 じない」から 10 の「 非 常 にき
つい」の 12 段 階 で 表 現 されており、 被 験 者 に 6MWT 終 了 直 後 に 自 身 の 呼 吸 困 難
について 数 字 で 表 現 してもらい、 最 大 努 力 歩 行 直 後 の 息 切 れの 強 さについて 主
観 を 聴 き 取 り、 定 量 化 し 評 価 した。
330 秒 椅 子 立 ち 上 がりテスト(The 30-second chair-stand test ; CS-30 テス
ト)
下 肢 筋 力 の 評 価 は、Jones らによって 考 案 された CS-30 テストを 用 いた 67) 。テ
スト 法 は、 高 さ 40cm のパイプ 椅 子 を 使 用 し、 椅 子 からの 立 ち 座 りを 30 秒 間 全
力 で 反 復 させた。 開 始 肢 位 は 椅 子 座 位 とし、 両 足 の 間 隔 は 肩 幅 程 度 で 膝 と 膝 の
間 は 握 りこぶしひとつ 分 とした。 測 定 中 は、 上 肢 の 影 響 を 避 けるために 腕 を 胸
の 前 で 組 ませた。 開 始 の 合 図 で 立 ち 上 がり、 膝 ・ 股 関 節 は 完 全 伸 展 するように
指 示 した。その 後 、 再 び 椅 子 に 殿 部 が 接 するまでを 1 回 とし、この 動 作 の 30 秒
間 での 反 復 回 数 を 測 定 した。 立 ち 上 がり 動 作 の 途 中 で 30 秒 に 達 した 場 合 には 測
定 値 として 算 入 しなかった。
4MRC(British Medical Research Council) 質 問 票
表 9 に 示 す MRC 質 問 票
68) は、0~4 の 5 段 階 で 日 常 生 活 上 の 呼 吸 困 難 の 程 度 を
評 価 した。 日 常 生 活 の 活 動 において 経 験 する 息 切 れ、あるいは 遂 行 できない 活
動 を 0~4 のうち 1 つ 選 択 してもらい 評 価 した。
5SGRQ(St.George’s Respiratory Qustionnaire)
SGRQ は、COPD に 特 異 的 な 健 康 関 連 QOL を 測 定 する 自 己 記 入 式 の 質 問 票
69) で、
症 状 (Symptoms)に 関 する 質 問 が 8 問 、 活 動 (Activity)に 関 する 質 問 が 16 問 、
衝 撃 (Impacts)に 関 する 質 問 が 26 問 の 3 領 域 合 計 50 問 と 総 スコアからなる。
0~100 に 点 数 化 され、 点 数 が 高 いほど 健 康 関 連 QOL が 低 いことを 示 す。Symptoms、
Activity、Impacts、Total のそれぞれ 4 項 目 の 点 数 を 用 いた。
23

6 肺 機 能 検 査 ( 肺 活 量 、 予 測 肺 活 量 、1 秒 量 、1 秒 率 、 対 標 準 1 秒 量 )
チェスト 社 製 の 電 子 スパイロメータ(CHESTGRAPH ジュニア HI-101)を 用 い
て、 肺 活 量 (slow vital capacity;SVC)、 予 測 肺 活 量 、1 秒 量 、1 秒 率 、 対 標
準 1 秒 量 を 測 定 した。
5) 統 計 解 析
被 験 者 毎 に 介 入 前 後 の 差 を 求 め、 各 群 の 平 均 値 ± 標 準 偏 差 及 び、 群 間 比 較 を
行 った。 介 入 前 後 の 両 群 間 の 差 の 比 較 は、コンピュータソフトウェア IBM SPSS
Statistics 20 の t- 検 定 ( 独 立 サンプルの 検 定 )を 用 いて 行 った。 危 険 率 5% 未
満 を 統 計 的 有 意 とした。
24

Ⅳ-3 結 果 ( 表 5、 表 6、 表 10)
1) 実 験 開 始 前 の 検 査 値 の 群 間 比 較
検 査 値 に 影 響 を 与 える 基 本 的 な 項 目 である 年 齢 、 身 長 、 体 重 、BMI を WBVT 群
と Control 群 で 群 間 比 較 した。 表 5 に 示 すようにいずれの 項 目 も 両 群 間 内 に 有
意 な 差 は 認 められなかった。また、 評 価 項 目 についても 表 6 に 示 すように 実 験
開 始 前 の 両 群 間 の 値 を 比 較 したが、いずれの 項 目 も 両 群 間 に 有 意 差 は 認 められ
なかった。
2) 全 身 振 動 訓 練 の 効 果 の 群 間 比 較
実 験 終 了 後 の 全 13 項 目 の 評 価 結 果 を 表 10 にまとめて 示 した。
6MWD の 介 入 前 後 の 値 の 差 ( 介 入 後 - 介 入 前 )は、WBVT 群 で 64±26m、Control
群 の 差 は 31±27m で、WBVT 群 では Control 群 に 比 べて 歩 行 距 離 の 有 意 な 増 加 を
認 めた(p=0.014)。
修 正 Borg Scale の 介 入 前 後 の 差 は、WBVT 群 で-0.06±1.01、Control 群 の 差
は-0.41±1.02 で、 両 群 間 に 有 意 差 は 認 められなかった(p=0.440)。
CS-30 テストによる 立 ち 上 がり 回 数 の 介 入 前 後 の 差 は、WBVT 群 で 5.2±3.3 回 、
Control 群 の 差 は 1.2±1.7 回 で、WBVT 群 では Control 群 に 比 べて 立 ち 上 がり 回
数 の 有 意 な 増 加 を 認 めた(p=0.007)。
MRC 質 問 票 による 呼 吸 困 難 の 5 段 階 評 価 値 の 介 入 前 後 の 差 は、WBVT 群 で-0.8
±0.7、Control 群 の 差 は-0.1±0.5 で、WBVT 群 では Control 群 に 比 べて 日 常 生
活 上 の 呼 吸 困 難 の 程 度 の 有 意 な 減 少 を 認 めた(p=0.024)。
SGRQ の Symptoms の 介 入 前 後 のスコアの 差 は、WBVT 群 で-16.9±27.6、Control
群 の 差 は-9.4±14.2 で、 両 群 間 に 有 意 差 は 認 められなかった(p=0.474)。
SGRQ の Activity の 介 入 前 後 のスコアの 差 は、WBVT 群 で-19.7±16.0、Control
群 の 差 は-1.3±13.2 で、WBVT 群 では Control 群 に 比 べて Activity に 関 する 健
康 関 連 QOL の 有 意 な 改 善 が 認 められた(p=0.014)。
SGRQ の Impacts の 介 入 前 後 のスコアの 差 は、WBVT 群 で-8.3±9.5、Control
群 の 差 は-1.8±8.9 で、 両 群 間 に 有 意 差 は 認 められなかった(p=0.139)。
SGRQ の Total の 介 入 前 後 のスコアの 差 は、WBVT 群 で-13.1±11.4、Control
群 の 差 は-2.9±7.4 で、WBVT 群 では Control 群 に 比 べて 総 合 的 な 健 康 関 連 QOL
の 改 善 が 認 められた(p=0.036)。
肺 活 量 の 差 は、WBVT 群 で 0.23±0.42L、Control 群 の 差 は-0.02±0.24L で、
両 群 間 に 有 意 差 は 認 められなかった(p=0.140)。
予 測 肺 活 量 の 介 入 前 後 の 差 は、WBVT 群 で 7.13±13.21%、Control 群 の 差 は
-0.75±8.34%で、 両 群 間 に 有 意 差 は 認 められなかった(p=0.144)。
1 秒 量 の 介 入 前 後 の 差 は、WBVT 群 で 0.12±0.11L、Control 群 の 差 は 0.05±
25

0.13L で、 両 群 間 に 有 意 差 は 認 められなかった(p=0.194)。
1 秒 率 の 介 入 前 後 の 差 は、WBVT 群 で 0.75±2.21%、Control 群 の 差 は 0.96±
4.95%で、 両 群 間 に 有 意 差 は 認 められなかった(p=0.897)。
対 標 準 1 秒 量 の 介 入 前 後 の 差 は、WBVT 群 で 4.4±3.9%、Control 群 の 差 は 2.3
±7.4%で、 両 群 間 に 有 意 差 は 認 められなかった(p=0.424)。
全 13 の 評 価 項 目 中 、Control 群 の 肺 活 量 と 予 測 肺 活 量 でわずかな 低 下 がみら
れたが、 他 の 評 価 では 悪 化 した 項 目 はなかった。
26

Ⅳ-4 考 察
本 研 究 では、 外 来 通 院 中 の COPD 患 者 の 呼 吸 リハビリテーションプログラムに
おいて、 自 重 を 利 用 した 下 肢 筋 訓 練 に 振 動 板 上 で 行 う WBVT 訓 練 を 応 用 し、その
効 果 を 対 照 群 と 比 較 検 討 した。 運 動 耐 容 能 を 6MWD、 下 肢 筋 力 を CS-30、 呼 吸 困
難 を 修 正 Borg Scale と MRC 質 問 票 、 健 康 関 連 QOL を SGRQ、 呼 吸 機 能 は 肺 活 量 、
予 測 肺 活 量 、1 秒 量 、1 秒 率 、 対 標 準 1 秒 量 で 評 価 した。Control 群 に 比 べて WBVT
群 で 有 意 な 改 善 を 認 めた 項 目 は、6MWD、CS-30、MRC 質 問 票 、SGRQ の Activity
と Total であり、 有 意 差 を 認 めなかった 項 目 は、 修 正 Borg Scale、SGRQ の Symptoms
と Impacts、 呼 吸 機 能 の 全 項 目 であった。
本 研 究 では、 運 動 耐 容 能 の 評 価 方 法 として 6MWD が 用 いられた。6MWD は、6 分
間 にできるだけ 長 い 距 離 を 歩 かせて、そのときの 歩 行 距 離 を 測 定 する 検 査 法 で
ある。 本 来 、 運 動 耐 容 能 の 検 査 としてはトレッドミルやシャトル 歩 行 テストが
用 いられるが、COPD 患 者 は 労 作 時 呼 吸 困 難 を 伴 いやすいので 6MWD はそうした 患
者 にも 安 心 して 応 用 できる 検 査 であると 考 えられた。 一 方 、6MWD の 歩 行 スピー
ドは 患 者 自 身 の 努 力 に 影 響 されるため、 最 大 努 力 を 引 き 出 し、それを 維 持 する
ため 試 験 中 の 声 かけの 重 要 性 が 指 摘 されている 70) 。 本 研 究 においては、マニュ
アルに 沿 って 声 かけを 行 った。
本 研 究 では、6MWD は、WBVT 群 では Control 群 に 比 べて 33m の 有 意 な 歩 行 距 離
の 改 善 が 認 められた(p=0.014)。これまでに COPD 患 者 の WBVT の 効 果 に 関 する
研 究 は 著 者 が 調 べる 限 り 報 告 されていなかったが、 最 近 、Web 上 で Ralner らは
COPD 患 者 を WBVT 群 36 例 、Control 群 36 例 に 分 け、WBVT の 効 果 を 2 群 で 比 較 検
討 した 最 新 の 結 果 を 報 告 している(WBVT 群 :64±59m、Control 群 :37±52m、
27m の 差 で p=0.046) 60) 。 本 研 究 の 結 果 をそれと 支 持 するものであった。
下 肢 筋 力 の 評 価 は、Jones らによって 考 案 された CS-30 テストを 用 いた。CS-30
テストは、 起 立 機 能 を 中 心 とした 検 査 であり、 高 齢 者 にも 容 易 に 使 用 できると
報 告 されている 67) 。 本 研 究 では Control 群 に 比 べて WBVT 群 に 有 意 な 立 ち 上 がり
回 数 の 増 加 が 認 められた(p=0.007)。6MWD とともに CS-30 テストが WBVT 群 で 有
意 な 改 善 を 示 したことは、 振 動 刺 激 は 下 肢 中 心 のものであったことを 反 映 して
いると 考 えられる。Cardinale らは 女 性 バレーボール 選 手 でハーフスクワット 肢
位 での 外 側 広 筋 の 筋 電 図 による 筋 活 動 は WBVT 群 に 有 意 に 高 かったと 報 告 してい
る 51) 。また、 小 山 内 らは 整 形 外 科 疾 患 を 伴 わない 健 常 成 人 男 性 で、 静 止 立 位 と
スクワットで WBV なしに 比 べて WBV ありの 方 が 有 意 に 大 きな 筋 活 動 を 報 告 して
いる 71) 。これらが 報 告 された 生 理 学 的 機 序 としては、 微 細 振 動 刺 激 ( 本 研 究 で
は 最 大 振 幅 5.5mm)により 下 肢 骨 格 筋 が 急 速 に 引 き 伸 ばされると 筋 紡 錘 が 興 奮 し、
筋 紡 錘 からの 求 心 性 impulse は、Ⅰa 群 求 心 性 線 維 により、 単 シナプス 性 に 脊 髄
前 角 にあるα 運 動 ニューロンを 興 奮 ・ 活 動 させ、α 運 動 ニューロンの 活 動 は 遠
心 性 に 軸 索 を 通 って 同 名 筋 の 錘 外 筋 線 維 に 伝 えられ、 筋 を 収 縮 させる。WBVT に
27

よる 振 動 刺 激 は 筋 紡 錘 を 刺 激 し、 伸 張 反 射 を 促 通 することにより、 筋 活 動 が 増
加 したため、WBVT 群 に 下 肢 筋 力 の 有 意 な 増 加 が 認 められたと 考 える。
本 研 究 では、 下 肢 骨 格 筋 の 筋 収 縮 回 数 は 平 均 周 波 数 約 20Hz、 振 動 刺 激 時 間 の
平 均 時 間 は 5.6 分 (336 秒 )であったため、WBVT 群 は 1 回 の 訓 練 で 約 6,700 回 、
WBVT を 23 回 実 施 したため、 合 計 で 約 154,000 回 の 下 肢 骨 格 筋 の 緊 張 性 振 動 反 射
による 不 随 意 的 な 筋 収 縮 を 起 こした 計 算 になる。これにより、6MWT 時 に 活 性 化
された 運 動 単 位 が 増 加 し、 筋 が 力 を 発 揮 するのに 必 要 な 力 が 小 さな 筋 力 で 可 能
になり、 神 経 と 筋 の 協 調 が 改 善 し、 効 率 が 良 くなった 可 能 性 も 考 えられた。
また、この 反 射 的 な 筋 収 縮 は 循 環 系 にも 影 響 を 与 えると 考 えられる。 歩 行 や
走 行 などの 下 肢 の 運 動 時 には、 静 脈 弁 と 骨 格 筋 収 縮 の 協 調 による 筋 ポンプ 作 用
によって 静 脈 環 流 量 が 増 加
72) し、 心 臓 拡 張 期 容 積 を 増 大 させ Frank-Starling の
法 則 によって 1 回 拍 出 量 が 増 加 する。そのため WBVT 群 では 心 血 管 系 と 活 動 筋 間
の 血 液 循 環 効 率 がよくなり、 運 動 耐 容 能 の 改 善 に 貢 献 した 可 能 性 も 考 えられる。
本 研 究 の 結 果 では、 修 正 Borg Scale のスコアは 両 群 間 に 有 意 差 は 認 められな
かったが、MRC 質 問 票 のスコアで WBVT 群 に 有 意 な 改 善 が 認 められた。 修 正 Borg
Scale は 運 動 負 荷 による 直 接 的 な 呼 吸 困 難 の 程 度 を 反 映 しており、MRC 質 問 票 の
スコアは 日 常 生 活 上 の 息 切 れの 程 度 を 反 映 する 評 価 方 法 である。さらに SGRQ は
国 際 的 に 広 く 用 いられている 健 康 関 連 QOL を 反 映 する 評 価 法 である。 本 研 究 で
は、SGRQ 中 の Activity と Total で WBVT 群 に 有 意 な 改 善 が 認 められた。WBVT 群
の 健 康 関 連 QOL の 改 善 は、 運 動 耐 容 能 が 改 善 したことにより 身 体 活 動 量 が 増 し、
日 常 生 活 上 の 呼 吸 困 難 を 軽 減 できたためと 考 えられる。さらに、 呼 吸 困 難 の 改
善 には 心 理 学 的 な 要 素 も 関 係 しており、 運 動 機 能 の 改 善 は COPD 患 者 の 呼 吸 困 難
の 日 常 的 ストレスを 軽 減 できたのではないかと 考 える。 加 えて、 呼 吸 困 難 のた
めに 不 活 動 となり、deconditioning を 形 成 する 悪 循 環 ( 図 8)が 断 ち 切 られた
ことも 改 善 を 示 した 理 由 ではないかと 考 える。 一 方 、 修 正 Borg Scale が WBVT
群 で 改 善 しなかった 理 由 は、 呼 吸 筋 に 対 する 訓 練 が 少 なかったことが 推 察 され
る。 本 研 究 では、 下 肢 筋 の 機 能 改 善 を 目 的 とした 訓 練 を 中 心 に 行 ったため、 呼
吸 筋 に 関 しては 呼 吸 筋 ストレッチ 体 操 を 行 ったのみである。 泉 崎 らは、COPD 患
者 で 呼 吸 筋 シクソトロピーという 呼 吸 筋 訓 練 を 行 い、 呼 吸 困 難 の 軽 減 を 報 告 し
ている 73) 。
呼 吸 機 能 に 関 しては、 肺 活 量 、 予 測 肺 活 量 、1 秒 量 、1 秒 率 、 対 標 準 1 秒 量 の
すべての 項 目 において 両 群 間 に 有 意 差 は 認 められなかった。 多 くの 呼 吸 リハビ
リテーション 実 施 例 でも 呼 吸 機 能 が 改 善 することは 困 難 であるといわれている。
本 研 究 においても 呼 吸 機 能 の 有 意 な 改 善 はみられなかった。 呼 吸 リハビリテー
ションのガイドラインでは、 呼 吸 機 能 についてのエビデンスはないが、 今 後 の
研 究 で、 上 肢 や 体 幹 への 振 動 訓 練 や 呼 吸 筋 訓 練 、 胸 郭 可 動 域 訓 練 などの 呼 吸 リ
ハビリテーションにより、 呼 吸 機 能 が 変 化 するという 生 理 的 データが 集 められ、
エビデンスになっていくことが 望 まれる。また、6MWD 測 定 時 に 記 録 した 心 拍 数 、
28

経 皮 的 酸 素 飽 和 度 、 下 肢 疲 労 ( 修 正 Borg Scale)の 安 静 時 と 最 大 負 荷 時 の 各 項
目 のデータ 解 析 の 結 果 、 両 群 間 で 有 意 差 は 認 められなかった。
本 研 究 では、 呼 気 ガス 分 析 を 用 いた 心 肺 運 動 負 荷 試 験 を 行 える 条 件 が 整 って
いなかったため、 介 入 前 後 の 運 動 耐 容 能 を 最 大 酸 素 摂 取 量 で 群 間 比 較 すること
ができなかった。 今 後 の 課 題 として 最 大 酸 素 摂 取 量 に 加 えて、 最 大 換 気 量 や
O 2 -pulse、 無 酸 素 性 作 業 閾 値 等 の 心 肺 機 能 の 詳 細 の 評 価 も 取 り 入 れ、 上 肢 や 体 幹
への 振 動 刺 激 を 加 えることにより、 呼 吸 機 能 を 改 善 させる 応 用 的 研 究 が 望 まれ
る。
まとめ
1. 6MWD は WBVT 群 では Control 群 に 比 べて 歩 行 距 離 の 有 意 な 増 加 を 認 めた
(p=0.014)。
2. 修 正 Borg Scale は、 両 群 間 に 有 意 差 は 認 められなかった(p=0.440)。
3. CS-30 テストは、WBVT 群 では Control 群 に 比 べて 立 ち 上 がり 回 数 の 有 意
な 増 加 を 認 めた(p=0.007)。
4. MRC 質 問 票 は、WBVT 群 では Control 群 に 比 べて 日 常 生 活 上 の 呼 吸 困 難 の
程 度 の 減 少 を 認 めた(p=0.024)。
5. SGRQ の Symptoms は、 両 群 間 に 有 意 差 は 認 められなかった(p=0.474)。
6. SGRQ の Activity は、WBVT 群 では Control 群 に 比 べて 活 動 性 に 関 する 健
康 関 連 QOL の 改 善 が 認 められた p=0.014)。
7. SGRQ の Impacts は、 両 群 間 に 有 意 差 は 認 められなかった(p=0.139)。
8. SGRQ の Total は、WBVT 群 では Control 群 に 比 べて 総 合 的 な 健 康 関 連 QOL
の 改 善 が 認 められた(p=0.036)。
9. 呼 吸 機 能 検 査 はすべての 項 目 において 両 群 間 に 有 意 差 は 認 められなかっ
た。 肺 活 量 (p=0.140)、 予 測 肺 活 量 (p=0.144)、 1 秒 量 (p=0.194)、 1 秒
率 (p=0.897)、 対 標 準 1 秒 量 (p=0.424)
第 Ⅴ 章
結 論
本 研 究 では、COPD 患 者 の 呼 吸 リハビリテーションプログラムの 自 重 を 利 用 し
た 下 肢 筋 訓 練 に、 振 動 板 上 で 行 う WBVT を 応 用 し、その 効 果 を 対 照 群 と 比 較 検 討
した。その 結 果 、WBVT 群 で 運 動 耐 容 能 の 改 善 、 日 常 生 活 上 の 呼 吸 困 難 の 軽 減 、
健 康 関 連 QOL の 改 善 が 認 められ、COPD 患 者 の 新 たな 治 療 法 として WBVT の 有 用 性
が 示 唆 された。しかし、WBVT の 呼 吸 機 能 の 改 善 効 果 に 関 しては 課 題 が 残 された。
29

謝 辞
本 研 究 を 行 うにあたり、 多 くの 方 々のご 支 援 を 頂 きました。まず 本 研 究 施 行
に 際 し、ご 協 力 頂 きました 国 立 病 院 機 構 茨 城 東 病 院 副 院 長 齋 藤 武 文 先 生 に
心 より 感 謝 申 し 上 げます。
研 究 指 導 を 頂 きました 筑 波 技 術 大 学 技 術 科 学 研 究 科 柴 崎 正 修 教 授 、 薄 葉
眞 理 子 教 授 には、 謹 んで 感 謝 の 意 を 表 したいと 思 います。
筑 波 技 術 大 学 大 学 院 技 術 科 学 研 究 科 主 査 高 橋 憲 一 教 授 、 副 査 大 沢 秀 雄
准 教 授 にはご 指 導 ならびにご 鞭 撻 をいただき 心 より 厚 くお 礼 申 し 上 げます。
患 者 様 の 予 約 の 管 理 などで 大 変 お 世 話 になりました 治 験 コーディネーターの
加 藤 こずえさん、 小 野 瀬 八 千 代 さん、 佐 藤 和 佳 子 さん、 現 場 で 協 力 して 頂 い
た 伊 東 光 修 運 動 療 法 主 任 、 山 田 将 夫 理 学 療 法 士 、 古 川 雅 徳 理 学 療 法 士 に
心 よりお 礼 申 し 上 げます。
また、エルクコーポレーションの 進 藤 薫 さんには 機 器 貸 与 の 他 に WBVT に 関
しても 助 言 を 頂 き、 心 より 感 謝 申 しあげます。
最 後 に、 休 職 し 大 学 院 へ 通 うことを 理 解 し、 支 えてくれた 両 親 と 妻 子 に 深 く
感 謝 します。
30

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35

図 、 表
18000
16000
14000
12000
10000
8000
6000
4000
2000
0
平
成
1
0
年
平
成
1
1
年
平
成
1
2
年
平
成
1
3
年
平
成
1
4
年
平
成
1
5
年
平
成
1
6
年
平
成
1
7
年
平
成
1
8
年
平
成
1
9
年
平
成
2
0
年
平
成
2
1
年
平
成
2
2
年
日 本 におけるCOPD 死 亡
者 数 死 者 数
日 本 におけるCOPD 死 亡
者 数 男 性
日 本 におけるCOPD 死 亡
者 数 女 性
図 1 厚 生 労 働 省 人 口 動 態 統 計 COPD 死 亡 者 数
A. 正 常 な 肺 胞 と 気 道 B. 気 腫 型 COPD 患 者 の 肺 胞 と 気 道
図 2 呼 気 時 の 気 道 と 肺 胞 の 弾 性 との 関 係 ( 文 献 32 より 引 用 )
TLC
RV
図 3 呼 気 ・ 吸 気 フローボリューム 曲 線 ( 文 献 33 より 引 用 )
36

高 い V . A/Q . をもつ 領 域 は、 動 脈 血 の 酸 素 化 に
あまり 寄 与 しないが、 低 い V . A/Q . をもつ 領 域
は 低 酸 素 血 症 の 原 因 になる。
図 4 換 気 血 流 不 均 等 により、 動 脈 血 酸 素 含 量 低 下 の 理 由 ( 文 献 34 より 引 用 )
図 5 体 温 37℃、Paco 2 40Torr、pH 7.40 および Hb 15g/dl のときの
ヘモグロビン 酸 素 解 離 曲 線 ( 文 献 35 より 引 用 )
37

図 6 喫 煙 による 肺 機 能 低 下 状 況 ( 文 献 42 より 引 用 )
図 7 振 動 刺 激 トレーニング 装 置 (G-900)
38

換 気 の
亢 進
呼 吸 困 難
乳 酸 アシ
ドーシス
( 酸 血 症 )
慢 性
疲 労
身 体 機 能
の 低 下 と
失 調
日 常 生 活
の 活 動 量
の 低 下
図 8 COPD 患 者 にみられる 呼 吸 困 難 の 悪 循 環
COPD 患 者 の 呼 吸 リハビリテーションプログラム
呼
吸
筋
ス
ト
レ
ッ
チ
体
操
胸
背 頚
部 部
リ
ラ
ク
ス セ
ト ー
レ シ
ッ ョ
チ ン
上
肢
・
下
肢
の
訓
練
自
転
車
エ
ル
ゴ
メ
ー
タ
自 下
重 肢
を 筋
利 訓
用 練
し
た
W
B
V
T
or
非
振
動
(5 分 ) (7 分 ) (10 分 ) (15 分 )
(4~6 分 )
図 9 本 研 究 での COPD 患 者 の 呼 吸 リハビリテーションプログラム
39

図 10 上 肢 筋 訓 練 の 様 子
図 11 下 肢 筋 訓 練 の 様 子
自 重 の 下 肢 筋 訓 練
(
基 軽
本 い 1~
姿 ス
勢 ク 2
1ワ
分 )
分 ッ
後 ト
(
基
本 カー 1~
姿
勢 フ 2
1レ
分 )
分 イ
後 ズ
図 12 本 研 究 での 自 重 を 利 用 した 下 肢 筋 訓 練
40

図 13 足 幅 のマーカー WBVT 群 Control 群
41

表 1 COPD の 診 断 基 準
1. 気 管 支 拡 張 薬 投 与 後 のスパイロメトリーで FEV 1 /FVC

表 4 WBVT の 除 外 基 準
重 度 の 心 臓 ・ 神 経 ・ 整 形 外 科 疾 患
ペースメーカー
股 ・ 膝 の 人 工 関 節
コントロール 不 良 の 糖 尿 病
てんかんや 片 頭 痛
骨 粗 鬆 症
転 移 性 骨 折
急 性 椎 間 板 ヘルニア
椎 間 板 症
脊 椎 炎
表 5 対 象 症 例 の 群 間 比 較 ( 平 均 ± 標 準 偏 差 )
WBVT 群 (n=9) Control 群 (n=11) p-value
年 齢 ( 歳 ) 72.1±7.1 73.7±3.8 0.549
身 長 (cm) 159.9±6.9 158.9±5.1 0.730
体 重 (kg) 59.1±8.4 57.5±7.2 0.645
BMI 23.1±3.0 22.7±2.7 0.758
表 6 介 入 前 評 価 の 群 間 比 較 ( 平 均 ± 標 準 偏 差 )
評 価 項 目 WBVT 群 Control 群 p-value
6MWD 413.9±162.5 429.1±64.3 0.797
修 正 Borg
Scale
2.2±1.3 2.4±1.4 0.816
CS-30 14.0±3.8 15.0±2.8 0.518
MRC 1.1±1.1 0.9±0.8 0.646
Symptoms 52.4±18.8 49.8±16.4 0.753
Activities 47.2±26.6 38.7±12.4 0.394
Impacts 26.1±20.2 22.3±8.5 0.606
Total 36.9±20.9 31.8±6.1 0.499
VC 3.32±0.815 3.24±0.642 0.819
%VC 105.6±22.8 105.4±20.3 0.981
FEV 1 1.66±0.714 1.70±0.502 0.889
FEV 1 % 55.6±14.7 57.2±12.6 0.802
%FEV 1 77.4±28.5 84.2±24.2 0.578
43

表 7 修 正 Borg Scale
0 何 も 感 じない
0.5 非 常 に 弱 い
1 やや 弱 い
2 弱 い
3 ちょうどよい( 楽 である)
4 ややきつい
5 きつい( 強 い)
6
7 かなりきつい(とても 強 い)
8
9
10 非 常 にきつい
表 8 WBVT 群 の 訓 練 周 波 数 と 訓 練 時 間
訓 練 回 数 周 波 数 合 計 訓 練 時 間
1 回 12Hz 4 分 間
2 回 15Hz 4 分 間
3 回 18Hz 4 分 間
4 回 20Hz 4 分 間
5 回 20Hz 4 分 間
6 回 ~23 回 20Hz 以 上 で 最 大 24Hz 6 分 間
表 9 MRC 質 問 票
グレード 分 類 あてはまるものにチェックしてください(1つだけ)
0 激 しい 運 動 をした 時 だけ 息 切 れがある。
平 坦 な 道 を 早 足 で 歩 く、あるいは 緩 やかな 上 り 坂 を 歩 く 時
1
息 切 れがある。
息 切 れがあるので、 同 年 代 の 人 よりも 平 坦 な 道 を 歩 くのが
2 遅 い、あるいは 平 坦 な 道 を 自 分 のペースで 歩 いている 時 、
息 切 れのために 立 ち 止 まることがある。
平 坦 な 道 を 約 100m、あるいは 数 分 歩 くと 息 切 れのために 立
3
ち 止 まる。
息 切 れがひどく 家 から 出 られない、あるいは 衣 服 の 着 替 え
4
をする 時 にも 息 切 れがある。
44

表 10 介 入 前 後 の 差 の 群 間 比 較 ( 平 均 ± 標 準 偏 差 )および 差 の p 値
WBVT 群 WBVT 群
Control 群 Control 群
評 価 項 目
差
差 p-value
介 入 前 終 了 時
介 入 前 終 了 時
6MWD (m) 414±163 478±166 64±26 429±64 460±58 31±27 0.014
修 正 BS 2.2±1.3 2.4±1.4
-0.06
-0.41
2.4±1.4 1.9±1.4
±1.01
±1.02
0.440
CS-30 ( 回 ) 14.0±3.8 19.2±5.4 5.2±3.3 15.0±2.8 16.2±3.2 1.2±1.7 0.007
MRC 1.1±1.1 0.3±0.7 -0.8±0.7 0.9±0.8 0.8±0.9 -0.1±0.5 0.024
SGRQ
Symptoms 52.4±18.8 35.5±26.2 -16.9±27.6 49.8±16.4 40.5±13.6 -9.4±14.2 0.474
Activity 47.2±26.6 27.6±29.6 -19.7±16.0 38.7±12.4 37.4±16.2 -1.3±13.2 0.014
Impacts 26.1±20.2 17.8±20.1 -8.3±9.5 22.3±8.5 20.4±11.0 -1.8±8.9 0.139
Total 36.9±20.9 23.7±22.5 -13.1±11.4 31.8±6.1 28.9±9.2 -2.9±7.4 0.036
呼 吸 機 能
VC (L) 3.3±0.8 3.6±0.6 0.23±0.42 3.2±0.6 3.2±0.6 -0.02±0.24 0.140
%VC (%) 105.6±22.8 112.7±19.2 7.13±13.21 105.4±20.3 104.6±17.5 -0.75±8.34 0.144
FEV1 (L) 1.66±0.71 1.78±0.68 0.12±0.11 1.70±0.05 1.74±0.46 0.05±0.13 0.194
FEV1% (%) 55.6±14.7 56.4±15.5 0.75±2.21 57.2±12.6 58.2±12.6 0.96±4.95 0.897
%FEV1 (%) 77.4±28.5 81.8±26.5 4.4±3.9 84.2±24.2 86.5±22.5 2.3±7.4 0.424
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