聴覚障害学生のバレーボール指導について3 - 筑波技術大学
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聴 覚 障 害 学 生 のバレーボール 指 導 について3<br />
- 世 界 ろうあ 者 競 技 大 会 (デンマーク)に 参 加 して-<br />
聴 覚 部 建 築 工 学 科 今 井 計<br />
要 旨 : 平 成 3 年 から 本 学 に 着 任 し、テクノレポート 第 3 号 では、 平 成 7 年 度 の 本 学 バレーボール 部 の 活<br />
動 について 報 告 した。 現 在 指 導 7 年 目 を 迎 えている。97 年 7 月 13~26 日 にデンマーク(コペンハーゲン)<br />
で 開 催 された 第 18 回 世 界 ろうあ 者 競 技 大 会 の 日 本 選 手 団 役 員 として 派 遣 させていただいた。そこで 世 界<br />
のろうバレーを 見 、 現 在 の 日 本 ろうバレーの 現 状 と 今 後 の 課 題 が 自 分 なりにわかった 気 がする。そこで<br />
今 大 会 の 男 子 バレーボール 競 技 を 通 じて、 今 後 の 日 本 ろうバレーの 方 向 と 本 学 のバレー 部 の 果 たす 役 割<br />
を 報 告 する。<br />
キーワード: 聴 覚 障 害 学 生 、バレーボール 指 導 、 世 界 ろうあ 者 競 技 大 会 、 日 本 ろうバレー<br />
1. 世 界 ろうあ 者 競 技 大 会 について<br />
1.1 概 略 目 的 は「 国 際 的 親 善 ・ 友 愛 の 精 神 を 養 うと<br />
ともに、スポーツの 発 展 と 向 上 に 寄 与 するために、4 年<br />
に1 回 各 国 で 持 ち 回 りで 開 催 する」とされている。 主 催<br />
は 国 際 ろう 者 スポーツ 委 員 会 ( 略 称 :cIss)である。<br />
今 大 会 の 参 加 国 は58カ 国 であった。<br />
1.2 競 技 種 目 個 人 競 技 : 陸 上 ・バトミントン.ボウ<br />
リング・ 自 転 車 ・テニス・オリエンテーリング・ 卓 球 ・<br />
射 撃 ・ 水 泳 ・レスリングで、 団 体 競 技 :バレーボール.<br />
バスケットボール・サッカー・ハンドボールである。<br />
1.3 日 本 代 表 選 手 参 加 種 目 個 人 競 技 : 陸 上 .バトミ<br />
ントン・テニス・ 卓 球 ・ 水 泳 で、 団 体 競 技 :バレーボ<br />
ール( 男 女 ) 選 手 44 名 ( 男 子 23 名 、 女 子 21 名 ) 役 員 13<br />
名 の 合 計 57 名 である。<br />
1.4 国 内 の 現 状 国 内 のろうあ 者 大 会 での 参 加 種 目 を<br />
あげてみると、97 年 9 月 の 香 川 県 での 全 国 大 会 では、 野<br />
球 ( 軟 式 )・ 卓 球 ・ 陸 上 ・バレーボール・ 柔 道 ・サッカ<br />
ー・テニス・ゲートボール・ボウリング・バトミント<br />
ン・ソフトボールが 行 われた。 世 界 ろうあ 者 競 技 大 会<br />
( 以 後 世 界 大 会 と 略 す)では、 国 内 で 行 われていない 種<br />
目 もあり、まだまだ 聴 覚 障 害 者 のスポーツの 幅 を 広 げら<br />
れる 可 能 性 があると 感 じた。しかし、 国 内 での 聴 覚 障 害<br />
者 (スポーツ)に 対 する 指 導 者 がいないというのが 課 題<br />
である。これは 既 存 の 競 技 種 目 にも 言 えることであり、<br />
ろう 者 ・ 聴 者 の 指 導 者 がともに 不 足 している。<br />
2. 日 本 男 子 代 表 チームの 選 考<br />
2.1アジアろうあ 者 競 技 大 会 96 年 3 月 末 から4 月 初<br />
旬 にかけて、マレーシア(クアラルンプール)でアジア<br />
ろうあ 者 競 技 大 会 ( 以 後 アジア 大 会 と 略 す)に 参 加 のた<br />
めに、95 年 9 月 に 行 われた 全 国 大 会 ( 茨 城 県 )で12 名 が<br />
選 考 された。この 時 点 で 出 場 国 は、イラン・インド・イ<br />
ンドネシア・ 日 本 の4カ 国 でアジア 代 表 枠 の3つを 争 う<br />
ことになっていた。しかし、インドネシアの 棄 権 という<br />
ことで、 自 動 的 に3カ 国 が 決 まり、バレーボール 競 技 に<br />
ついては 行 われなかった。<br />
2.2 国 内 合 宿 について96 年 5 月 に、 第 1 次 合 宿 を 東<br />
京 で 行 った。96 年 9 月 全 国 大 会 ( 大 分 県 )で 新 たに4 名<br />
が 選 出 され、96 年 11 月 の 全 国 身 体 障 害 者 スポーツ 大 会<br />
( 以 後 身 障 者 国 体 と 略 す) 終 了 後 に、 第 2 次 合 宿 を 広 島<br />
で 行 い、 最 終 メンバーが 決 まった。その 年 の 年 末 年 始 に<br />
沖 縄 で、97 年 5 月 に 広 島 で、 同 年 6 月 に 鳥 取 で 合 宿 を 行<br />
った。 内 容 は3 人 サーブレシーブ 制 でコンビバレーをす<br />
る 戦 術 を 使 い、 地 元 社 会 人 ・ 学 生 チームとの 練 習 試 合 の<br />
中 で、サーブレシーブの 返 球 率 を 上 げることが 課 題 だっ<br />
た。 前 回 の 世 界 大 会 (ブルガリア)の 時 よりは 合 宿 の 回<br />
数 は 増 えた。 男 子 代 表 チームのレベルは、 高 校 生 の 全 国<br />
レベルよりも 落 ちるというのが 実 状 だ。<br />
3. 世 界 大 会 に 望 むにあたって<br />
3.1 情 報 収 集 前 回 の 世 界 大 会 の 成 績 (1 位 イタリア、<br />
2 位 アメリカ、3 位 ブルガリア、4 位 ポーランド、5 位<br />
ロシア、6 位 フィンランド、7 位 オランダ、8 位 イラン、<br />
9 位 ドイツ、10 位 日 本 、11 位 インド、12 位 ベルギー)を<br />
調 べて、 強 豪 のヨーロッパチームの 情 報 を 入 手 すること<br />
にした。ヨーロッパ 選 手 権 が 開 催 されており、その 結 果<br />
を 知 ることができた。1 位 イタリア、2 位 ドイツ、3 位<br />
フィンランド、4 位 ウクライナ、5 位 ポーランド、6 位<br />
41 筑 波 技 術 短 期 大 学 テクノレポートNo5Marchl998
ロシア、7 位 オランダ、8 位 ベラルーシだった。また、<br />
世 界 大 会 の' 情 報 はインターネットを 通 じて 知 ることがで<br />
きた。<br />
32 組 合 せ 決 定 男 子 はグループBでイタリア・ドイ<br />
ツ・フィンランドに 決 まり、ヨーロッパ 選 手 権 のベスト<br />
3と 当 たることになった。イタリアは 前 回 優 勝 チーム、<br />
フィンランドには 今 まで1 度 も 勝 ったことがなく、ドイ<br />
ツには 前 回 初 めて 負 けたということで、とにかく 初 戦 の<br />
ドイツに 照 準 を 合 わせることになった。その 勢 いでフィ<br />
ンランドと 戦 い、たとえイタリアに 負 けたとしてもB 組<br />
2 位 の 通 過 を 考 えていた。 決 勝 トーナメントにいけば、<br />
ウクライナとの 対 戦 の 可 能 性 が 高 く、 厳 しい 戦 いが 予 想<br />
された。<br />
4. 予 選 リーグ<br />
4.1 結 果 第 1 戦 ドイツ0-3(12-159-15.6-15)、 第 2 戦 フィ<br />
ンランド3-0(15-715-9.15-2)、 第 3 戦 イタリア0-3(12‐<br />
15.11-1516-17)の1 勝 2 敗 の3 位 で9~16 位 決 定 戦 にま<br />
わった。<br />
42ドイツ 戦 0-2となった 段 階 で、 監 督 が3セット 目 の<br />
スタートからレギュラー4 人 をベンチに 下 げるという 采<br />
配 を 振 るい、チーム 内 に 不 信 感 を 持 たせた。 初 戦 という<br />
のはチームにとっても 勢 いをつけるための 大 切 な 試 合 で<br />
あり、 大 会 でのチームの 戦 い 方 に 非 常 に 左 右 するもので、<br />
チームにとっては 出 鼻 をくじかれた 感 じがあった。3セ<br />
ット 目 もレギュラーメンバーで 戦 い、 大 差 をつけられる<br />
試 合 運 びならば、ムードを 変 えるためにベンチのメンバ<br />
ーを 出 すのがベストと 考 えていた。これならレギュラー<br />
メンバーも 交 代 させられても 納 得 できるはずである。 今<br />
回 も 監 督 は 男 女 兼 任 ということなので、 第 2 戦 以 降 は 女<br />
子 との 試 合 時 間 とも 重 なることもあり、 女 子 の 監 督 に 専<br />
念 してもらった。 私 が 監 督 代 行 を 務 めた。<br />
4.2フインランド 戦 初 戦 を 落 としたという 気 持 ちとフ<br />
ィンランドには 勝 ったことが 無 いという 気 持 ちと 全 敗 で<br />
は 帰 れないという 気 持 ちが 交 錯 して、 試 合 前 からずいぶ<br />
んと 硬 かったように 思 えたが、 試 合 が 始 まると 相 手 のミ<br />
スに 助 けられ、 終 始 こちらのペースだった。 試 合 中 はと<br />
にかくリラックスすることしか 指 示 は 出 さなかった。 勝<br />
利 が 決 まり、なんとか 立 ち 直 ったようだった。<br />
4.3イタリア 戦 イタリアとの 試 合 は、 今 までの 練 習 の<br />
成 果 を 最 大 限 出 すことができた。 各 セットともサイドア<br />
ウトの 繰 り 返 しで10 点 くらいまでは 互 角 それ 以 上 の 戦 い<br />
が 出 来 ていた。 最 後 の 詰 めの 段 階 で 自 力 の 差 が 出 た 形 と<br />
なった。 客 席 からも 熱 い 声 援 が 送 られ、 予 選 リーグで 一<br />
番 の 盛 り 上 がりを 見 せてくれた。 結 果 的 には0-3だが、<br />
試 合 時 間 は2 時 間 近 くかかった。それだけサイドアウト<br />
が 多 かったということにもなる。 彼 らがやろうとしてい<br />
るバレーが 間 違 っていなかった 試 合 でもあった。 前 回 優<br />
勝 のイタリアを 予 選 の 段 階 から 苦 しめた 日 本 チームの 評<br />
価 が 高 くなった。しかし、このあとにもっとすごいこと<br />
が 起 こるとは 誰 も 予 想 していなかった。<br />
5. 順 位 決 定 戦<br />
5.1 結 果 9~16 位 決 定 戦 の 第 1 戦 D 組 3 位 インド3-0(15-<br />
3.15-415-7)、9.10 位 決 定 戦 でロシア3-1(13-15.15-315‐<br />
8.15-6)に 勝 ち、 最 終 順 位 は9 位 となった。( 前 回 は10 位 )<br />
5.2インド 戦 実 力 的 にも 差 があり、2セット 目 からは<br />
ベンチのメンバーを 先 発 させ、 勝 利 をおさめることが 出<br />
来 た。<br />
5.3ロシア 戦 1セット 目 相 手 のライトへの 速 い 平 行 ト<br />
スに 手 を 焼 き、ブロックアウトばかり 取 られて 先 取 され<br />
てしまった。2セット 目 のスタートでタイミングが 合 う<br />
ようになり、あとは 相 手 のミスにも 助 けられて、その 後<br />
の3セットを 連 取 できた。<br />
5.4 試 合 を 通 じてヨーロッパの 強 豪 と 試 合 ができて、<br />
メンバーもいい 勉 強 になったと 思 う。ここまでできるの<br />
だったら、 本 当 にドイツ 戦 の 敗 戦 が 悔 やんでも` 悔 やみき<br />
れない。いかに 初 戦 がチームにとって 大 切 であるかを 身<br />
にしみてわかったと 思 う。 監 督 代 行 として 敗 戦 のショッ<br />
クもありながらも 最 後 まで 戦 ってくれたメンバーには 感<br />
謝 している。 今 回 の 教 訓 を 是 非 4 年 後 のイタリアの 世 界<br />
大 会 に 活 かして 欲 しい。<br />
6. 決 勝 トーナメント<br />
6.1ベスト8アメリカ・ポーランド・オランダ・イラ<br />
ン・ウクライナ・ドイツ・イタリア・カナダが 残 った。<br />
前 回 もベスト8に 残 っているのは、イタリア・アメリ<br />
カ・ポーランド・オランダ・イランである。 世 界 を 考 え<br />
た 場 合 、やはりヨーロッパ 中 心 になっている。これは 聴<br />
者 のバレーでも 同 じことが 言 える。 高 さとパワーが 主 流<br />
になっているのは、ろう 者 でも 同 じである。 日 本 のろう<br />
者 では 考 えられないような 高 さから 打 ち 込 まれるスパイ<br />
クと 覆 い 被 さるようなブロック 合 戦 を 見 ていると、 今 後<br />
の 日 本 の 方 向 は「 速 さと 正 確 さ」となるだろう。<br />
62 台 風 の 目 イランは 練 習 会 場 が 一 緒 で 練 習 を 見 るこ<br />
とができて、 内 容 も 簡 単 でアップが 終 わるとネットを 挟<br />
んで、3 対 3に 分 かれて 延 々と 乱 打 を 繰 り 返 しているだ<br />
けだった。 公 式 練 習 をよく 見 ているとスパイクはしっか<br />
りコーナーを 狙 って 打 つし、レシーブも 山 なりではなく、<br />
直 線 的 にセッターへ 返 球 しているところを 見 ていると、<br />
相 当 練 習 とトレーニングを 積 んできているなという 印 象<br />
を 持 った。とにかく 反 応 は 速 いし、 跳 躍 力 もあった。 予<br />
筑 波 技 術 短 期 大 学 テクノレボートNo5Marchl99842
選 ではアメリカには 負 けたもののロシアに 勝 ち、 準 々 決<br />
勝 でも 高 さのオランダを3-1で 下 し、 準 決 勝 へ 進 んだ。<br />
6.3 準 決 勝 イランがイタリアに 勝 った。これは 聴 者 の<br />
世 界 でもなかったことで、すごい 衝 撃 を 受 けた。それも<br />
2-0でイタリアが3セット 目 も14-10で 誰 もが「 勝 負 あっ<br />
た」と 思 ったら、そこから 大 逆 転 でセットを 取 ったら、<br />
完 全 に 形 勢 逆 転 でイランのペースとなり、イタリアが 受<br />
け 身 になってしまい、そのまま3-2で 押 し 切 られてしま<br />
った。やはり 試 合 は 終 わるまで 何 が 起 こるかわからない<br />
と 言 うことを 教 えられた。<br />
6.4イランの 特 徴 特 別 に 何 か 戦 術 があるということで<br />
はないが、とにかくよく 拾 うし、 基 本 に 忠 実 でミスを 出<br />
さないこと、 攻 撃 はサイド 中 心 ですべてブロックアウト<br />
を 使 い、 相 手 ブロッカーがサイドに 意 識 し 始 めるとクイ<br />
ックを 使 うものだった。この 時 点 で 日 本 がイタリアと 熱<br />
戦 を 繰 り 広 げたことは、 吹 っ 飛 んでしまった。イタリア<br />
戦 でマッチポイント 取 りながら 勝 てなかった 日 本 とマッ<br />
チポイントを 取 られながらそれをひっくり 返 したイラ<br />
ン、ここに 大 きな 差 があると 思 う。<br />
6.5 決 勝 イランはウクライナに0-3と 破 れはしたが、 大<br />
健 闘 と 言 っていいだろう。 同 じアジアの 代 表 として、こ<br />
こまでやれることを 証 明 したのだから、 日 本 も 出 来 ない<br />
ことはないだろう。 優 勝 したウクライナは 準 々 決 勝 でド<br />
イツに1セット 落 としただけで、あとはすべてストレー<br />
ト 勝 ちだった。ここは 強 烈 なジャンピングサーブが 主 体<br />
で、 両 エースが 決 定 力 があり、ブロックも 強 力 だった。<br />
イランのスパイカーが 準 決 勝 まで 通 用 していたブロック<br />
アウトをさせてもらえなかった。<br />
6.6 全 試 合 を 通 じて 今 回 初 めて 世 界 大 会 に 派 遣 してい<br />
ただき、ろう 者 のトップレベルのバレーを 見 ることが 出<br />
来 た。 男 子 については 前 回 が10 位 と 振 るわなかっただけ<br />
に、 今 回 は 将 来 上 位 に 入 るきっかけを 作 る 布 石 を 作 らな<br />
くてはならない 大 会 で9 位 とは 残 念 で 仕 方 ない。でも 実<br />
力 的 に 言 えば、8 位 のカナダ、7 位 のドイツあたりには<br />
十 分 勝 てる 布 陣 であった。ランク 的 に 言 えば5~8 位 と<br />
自 負 している。 今 回 はベスト8に 残 り、 今 後 の 日 本 は 怖<br />
いぞという 印 象 を 各 チームに 植 え 付 けておく 必 要 があっ<br />
た。<br />
7. 大 会 を 通 じて<br />
7.1 代 表 者 会 議 英 語 はもちろんのこと、 国 際 手 話 と<br />
アメリカ 手 話 が 中 心 で 会 議 が 進 められていた。 進 め 方 は、<br />
組 織 委 員 会 のメンバーが 説 明 したことを、まず 国 際 手 話<br />
と 音 声 で 英 語 に 変 えて、それを 各 国 の 通 訳 者 が、 音 声 と<br />
手 話 に 変 えていた。 日 本 選 手 団 役 員 には 今 回 専 属 の 音 声<br />
通 訳 団 はいないので、 役 員 の 負 担 もかなり 大 きかった。<br />
やはり、 今 後 も 音 声 通 訳 団 の 派 遣 が 難 しいとなると、 国<br />
際 手 話 かアメリカ 手 話 のできる 役 員 の 養 成 も 必 要 になっ<br />
てくる。<br />
72 監 督 各 国 の 監 督 を 見 て、 一 種 のプロ 監 督 のよう<br />
に 思 えた。 自 分 の 生 活 をかけて 戦 っているという 雰 囲 気<br />
が 伝 わってくる。それと 試 合 以 外 では 対 戦 相 手 の 分 析 も<br />
監 督 自 らメモを 取 ったり、 選 手 個 人 のデータ 表 を 作 成 し<br />
たり、コンピューターを 駆 使 するチームもあり、 情 報 収<br />
集 に 関 しても 聴 者 のバレーに 近 づきつつある。おそらく、<br />
国 のバレーボール 協 会 から 派 遣 されていると 思 う。そう<br />
いう 国 はバレーボール 協 会 の 中 にろうバレーボール 協 会<br />
が 組 織 化 されているのでないかと 思 う。イタリア・オラ<br />
ンダ.ウクライナ・アメリカなどは、 聴 者 のナショナル<br />
チームと 同 じデザインのユニフォームを 着 用 しているの<br />
を 見 るとそう 思 えてならない。 日 本 は 監 督 についても 組<br />
織 にしても 遅 れをとっているのは 間 違 いない。<br />
7.3ルール 今 回 は 先 に5 点 、10 点 を 取 ったらテクニ<br />
カルタイムアウトを、セットに1 回 通 常 のチャージドタ<br />
イムアウトの 合 計 3 回 のタイムアウトがあった。 国 内 の<br />
聴 者 の 国 際 試 合 では 行 われているが、ろう 者 の 大 会 では<br />
行 われていない。 監 督 は 試 合 当 日 になって、 自 分 が 説 明<br />
するまでわからないと 言 うのは 困 る。また、 選 手 もその<br />
ことを 把 握 できていなかった。<br />
7.4オフイシヤル 主 審 と 副 審 は 国 際 審 判 員 が 担 当 し<br />
ていた。スコアは 組 織 委 員 会 のバレーボール 担 当 がロー<br />
テーションを 組 んでいた。 一 番 驚 いたのはラインズマン<br />
である。なんと 対 角 線 上 に2 人 しかいないのである。こ<br />
れは 日 本 国 内 の 大 会 でもたとえレベルが 低 かろうと4 人<br />
はいる。 世 界 大 会 でこんなことがあっていいのだろうか。<br />
しかもおそよルールなど 知 らない 地 元 の 中 学 生 あたりが<br />
ポールポーイを 兼 ねながらラインの 判 定 をするのであ<br />
る。 大 会 規 定 には「ラインズマンは 組 織 委 員 会 が 任 命 す<br />
る2 名 」と 書 いてあるのには 違 う 意 味 で 驚 いた。 是 非 改<br />
善 して 欲 しい。<br />
7.5ドーピング 自 分 自 身 聴 者 のオリンピックをイメ<br />
ージしていた。コペンハーゲンというところには 国 際 オ<br />
リンピック 委 員 会 のドーピング 検 査 機 関 があること 知<br />
り、 出 発 前 に 入 念 にチェックした。 大 会 が 始 まると 病 人<br />
やけが 人 が 出 ても、 医 師 には「ドーピングにかからない<br />
処 方 を」とお 願 いしていた。しかし、 日 本 選 手 団 でメダ<br />
ル 獲 得 者 が 出 ても、ドーピング 検 査 は 行 われず、 拍 子 抜<br />
けをしてしまった。ドーピング 検 査 をやったという 情 報<br />
さえなかった。ただ、 大 会 期 間 中 に 無 作 為 で 選 ばれた 選<br />
手 の 聴 力 検 査 はあった。 日 本 選 手 団 役 員 にドクターやト<br />
レーナーやアナリストの 同 行 を 希 望 する。たとえろう 者<br />
でも 日 本 代 表 である。 彼 らたちは 選 ばれた 者 でそれなり<br />
43 筑 波 技 術 短 期 大 学 テクノレポートNo5Marchl998
の 処 遇 を 受 けることが 当 然 なはずである。 他 国 は 最 低 で<br />
もトレーナーはいた。<br />
8. 曰 本 チームの 今 後 の 課 題<br />
8.1バレースタイル 目 指 す 方 向 は 間 違 っていないと<br />
思 う。 複 雑 なコンビバレーが 出 来 るいうことではトップ<br />
クラスと 言 える。これをいかに 浸 透 させ、 正 確 に 出 来 る<br />
ようになるかだと 思 う。 同 じ 速 いバレーでもイランとは<br />
違 うタイプの 日 本 ならではのものを 作 れるかである。 世<br />
界 を 見 ても、3 人 もしくは2 人 サーブレシーブ 制 を 採 用<br />
しているし、ジャンピングサーブも 打 つし、バックアタ<br />
ックも 取 り 入 れている。ろうのバレーも 聴 者 と 同 じバレ<br />
ースタイルに 変 わりつつある。しかし、リードブロック<br />
をやっているチームはいなかった。<br />
8.2 今 回 のセッターコンビバレーをやるためには、<br />
セッターが 重 要 になってくるのは 当 然 である。 今 回 の 代<br />
表 チームのセッターは、 幸 いにも 中 学 ・ 高 校 と 聴 者 の 中<br />
でのバレー 経 験 が 豊 富 で、 高 校 時 代 にはレギュラーセッ<br />
ターとして、 春 の 高 校 バレーや 夏 のインターハイにも 出<br />
場 した 経 歴 の 持 ち 主 である。 今 後 このようなキャリアを<br />
持 ったセッターは 出 てこない。バレーボール 競 技 に 関 し<br />
ては 聾 学 校 の 全 国 大 会 は 無 いし、インテグレートの 学 生<br />
はほとんどスパイカーが 多 い。 彼 に 続 く 若 手 のセッター<br />
が 育 っていないのが 現 状 である。また、インテグレート<br />
のプレイヤーの 発 掘 も 必 要 である。<br />
8.3セッターの 育 成 今 大 会 の12 名 のメンバーとして、<br />
たとえ 試 合 には 出 られなくても、 世 界 のバレーを 見 てお<br />
くことが 次 回 への 貴 重 な 財 産 になるはずである。それが<br />
出 来 なかったことは 今 後 に 大 きく 響 いてくるだろう。 若<br />
手 のアタッカーは 今 回 大 活 躍 をしたので、その 経 験 が 活<br />
かされると 思 う。そうなると、4 年 後 だけではなく、8<br />
年 後 も 見 据 えたセッターの 人 選 が 必 要 となってくる。し<br />
かし、 国 内 のろうあ 者 体 育 大 会 を 見 ている 限 りでは、 上<br />
げているのが 精 一 杯 というセッターが 多 く、コンビバレ<br />
ーをやれるような 有 望 な 人 は 見 当 たらない。そうなると<br />
現 在 16~20 才 位 の 若 手 のセッターを 発 掘 して、 育 ててい<br />
かないとどんどん 世 界 からは 置 いて 行 かれることにな<br />
る。<br />
8.45セットマッチ 導 入 世 界 大 会 は 予 選 からすべて<br />
5セットマッチである。 国 内 では3セットマッチである<br />
ため、5セットマッチの 試 合 の 流 れや 運 び 方 を 知 らない<br />
のと、5セットを 持 ちこたえるだけの 体 力 が 無 い。メン<br />
バーの 中 には1セットの 終 盤 でスタミナ 切 れをする 人 が<br />
いた。これでは 世 界 では 戦 えない。まずは 国 内 の 大 会 を<br />
5セットマッチに 切 り 替 える 必 要 がある。(せめて 準 決<br />
勝 からでも)その 動 きはあるようだ。<br />
8.5 国 内 の 様 子 全 国 大 会 に 出 場 するチームのほとん<br />
どが 社 会 人 中 心 で、 週 末 や 連 休 の 練 習 のみである。そう<br />
なると 時 間 も 限 られているため、ポール 使 う 練 習 が 中 心<br />
になるのは 当 然 である。よほど 時 間 を 取 らない 限 りはト<br />
レーニングはできない。それに 彼 らは 土 日 関 係 なく 夜 勤<br />
をする 人 も 多 く、 全 員 そろっての 練 習 もできないことも<br />
あるし、 夜 勤 明 けの 練 習 では、 肉 体 的 にもつらいものが<br />
ある。それぞれのチームがそういう 厳 しい 環 境 の 中 でバ<br />
レーボールをやり、 選 抜 されて 日 本 代 表 としての 練 習 を<br />
各 地 から 集 まって、 世 界 大 会 を 目 指 すのだから、 条 件 的<br />
にもかなりの 負 担 になる。これから 長 期 に 渡 って、 強 化<br />
をしていくとなれば、 彼 らには 今 以 上 に 練 習 に 打 ち 込 め<br />
る 環 境 作 りと 会 社 の 理 解 が 必 要 である。<br />
8.6 当 面 の 目 標 今 回 は 幸 いにも 男 女 とも 各 12 名 派 遣<br />
してもらえたが、 次 回 もそうなるとは 限 らない。 他 国 の<br />
チームでもほとんどが12 名 は 揃 っていなかった。そうい<br />
う 環 境 の 中 で 世 界 大 会 を 目 指 しているのである。だから<br />
こそ 今 回 は 好 成 績 をおさめなければいけなかったのであ<br />
る。2 大 会 続 けて 男 子 はベスト8を 逃 し、 女 子 はメダル<br />
を 逃 したことをスタッフも 選 手 も 厳 粛 に 受 け 止 めるべき<br />
である。 男 子 に 関 しては 当 面 は 次 回 のアジア 大 会 でイラ<br />
ンと 互 角 に 戦 えるだけのチームが 作 れるかが 課 題 となる<br />
だろう。そうなれば、 他 国 のチームに 警 戒 してくるだろ<br />
う。もし、 中 国 や 韓 国 が 本 気 で 強 化 に 乗 り 出 してきたら、<br />
アジアでも 勝 てず、 世 界 大 会 にさえ 出 られなくなる 日 が<br />
来 るかもしれない。<br />
8.7 今 後 の 動 き 身 障 者 国 体 は98 年 神 奈 川 以 降 のバレ<br />
ーボール 競 技 の 実 施 の 計 画 が 出 ていない。そうなると 公<br />
式 試 合 数 の 減 少 という 問 題 も 出 てくる。そこで 日 本 ろう<br />
あバレーボール 協 会 の 設 立 の 動 きがあるようだ。そこで<br />
ランキング 大 会 など 実 施 して、よりいい 選 手 を 発 掘 ・ 育<br />
成 したいということらしい。<br />
9. 本 学 の 役 割<br />
9.1メリットそこで 本 学 ではどういうことができるの<br />
かというと、まずは 学 生 であること、つまり 時 間 は 自 由<br />
に 使 えること、 練 習 やトレーニングに 打 ち 込 める 環 境 が<br />
整 っていること、これが 一 番 のメリットである。 本 人 の<br />
気 持 ち 次 第 では、 好 きなだけバレーができるのである。<br />
しっかりとトレーニングを 積 んでいけば 体 はできあがる<br />
と 思 う。あとは 聴 者 との5セットマッチの 公 式 試 合 がで<br />
きることである。ご 存 じのように 本 学 は 関 東 大 学 バレー<br />
ボール 連 盟 に 加 盟 しているので、 大 学 生 の 試 合 に 参 加 で<br />
きるのである。これは 他 のチームには 絶 対 に 真 似 出 来 な<br />
いことであり、 貴 重 な 経 験 が 出 来 る 場 でもある。 審 判 ・<br />
記 録 講 習 会 にも 参 加 が 義 務 づけられているので、ルール<br />
筑 波 技 術 短 期 大 学 テクノレポートNo5Marchl99844
など 理 解 できるようになるし、 他 校 との 交 流 もできる。<br />
茨 城 県 内 でも97 年 12 月 から 新 たに、 筑 波 大 学 大 学 院 生 が<br />
中 心 となって、T-CUPという 県 内 リーグ 戦 もスター<br />
トした。<br />
92デメリット 本 学 入 学 とともにバレーボールを 始<br />
める 学 生 が 多 く、3 年 間 でやっとバレーがわかり 始 める<br />
頃 に 卒 業 と 言 うことで、もっと 時 間 が 欲 しいというのが<br />
本 音 である。しかし、 卒 業 生 のほとんどは、バレーを 続<br />
けてくれ、「 在 学 中 にもっとやっておくべきだった」と<br />
反 省 する 人 が 多 く、いかに 本 学 が 恵 まれた 環 境 下 にある<br />
かということが 改 めてわかる 瞬 間 でもある。<br />
9.3 今 後 バレーボールも「 教 育 」という 観 点 から 考 え、<br />
スポーツでも 本 学 がろう 者 の 拠 点 となるような 環 境 作 り<br />
をしていきたい。 現 在 の 新 チームは 春 季 大 学 リーグに 向<br />
けて 練 習 をスタートさせている。 現 在 新 たにビジョント<br />
レーニングを 開 始 し、 今 後 科 学 的 なトレーニングも 始 め<br />
る 方 向 で 動 いている。このような 経 験 を 是 非 卒 業 後 も 活<br />
かして 欲 しいと 思 う。<br />
10. 最 後 に 図 1~16は 今 大 会 の 写 真 である。 雰 囲 気<br />
がわかってもらえれば 幸 いである。<br />
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図 l 出 発 前 の 結 団 式<br />
図 2 成 田 空 港 にて 松 平 ご 夫 妻 から 激 励<br />
図 3 試 合 会 場 での 練 習<br />
図 4 開 会 式 でサマランチ 会 長 の 挨 拶<br />
図 5 開 会 式 ( 本 学 の 学 生 と)<br />
図 6 公 式 練 習 の 様 子<br />
へ 嚢 零 月<br />
図 7 試 合 の 様 子 (ドイツ 戦 )<br />
図 8 試 合 の 無 い 日 の 練 習 会 場<br />
筑 波 技 術 短 期 大 学 テクノレポートNo5Marchl9984G
図 9ドイツのメンバーと<br />
図 10フィンランドのメンバーと<br />
図 1lイタリアのメンバーと<br />
図 l2ロシアのメンバーと<br />
図 13 観 客 席 の 様 子 図 14 応 援 してくれた 現 地 の 方 々<br />
図 15 組 織 委 員 会 の 担 当 者 ( 共 にろう 者 )<br />
図 16 閉 会 式 の 様 子<br />
4ア 筑 波 技 術 短 期 大 学 テクノレボートNo5Marchl998
TheStudyofVolIeyballExerciseforDeafStudents3<br />
‐froml8thWorldGamesfOrTheDeaf(DENMARK)‐<br />
keywords<br />
:DeafStudents,Volleyball<br />
JapanDeafVolleyball<br />
Exercise,WorldGamesfbrTheDeaf,<br />
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