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国際交流旅行の教育プログラムとしての意義 一米国 ... - 筑波技術大学

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筑 波 技 術 短 期 大 学 テクノレポートV01.9(1)March2002<br />

国 際 交 流 旅 行 の 教 育 プログラムとしての 意 義<br />

一 米 国 交 流 プログラムを 通 して-<br />

筑 波 技 術 短 期 大 学 電 子 情 報 学 科 情 報 工 学 専 攻 ') 同 電 子 情 報 学 科 電 子 工 学 専 攻 2) 同 建 築 工 学 科 3)<br />

新 井 孝 昭 1) 加 藤 伸 子 2) 萩 田 秋 雄 3)<br />

要 旨 : 開 学 以 来 10 回 におよぶ 米 国 研 修 旅 行 は、その 都 度 参 加 した 学 生 に、 海 外 旅 行 体 験 という<br />

人 生 における 単 なる 思 い 出 作 りであることのみならず、「コミュニケーションについて」「ろうに<br />

ついて」「 文 化 について」「 大 学 について」などを 考 える 貴 重 な 時 間 を 学 生 の 一 人 一 人 にもたらし<br />

てきた。その10 回 目 に 当 たる 昨 年 3 月 の 米 国 交 流 プログラムの 報 告 を 通 して、 国 際 交 流 プログ<br />

ラムがもつ 教 育 的 意 義 を 論 ずる゜<br />

キーワード: 国 際 交 流 コミュニケーション 教 育 プログラムろう 教 育 研 修 旅 行<br />

1.はじめに<br />

筑 波 技 術 短 期 大 学 聴 覚 部 では1991 年 ( 平 成 3 年 ) 度 か<br />

ら、 毎 年 、ニューヨーク 州 ロチェスター 市 にあり 本 学 の<br />

姉 妹 校 でもある 米 国 立 聾 工 科 大 学 (NationalTechnical<br />

InstimtefbrtheDeaf: 以 下 NTIDとする)を 中 心 として、<br />

ろう 学 生 が 学 んでいる 大 学 の 授 業 参 観 ・ 施 設 見 学 及 びろ<br />

う 学 生 同 士 の 交 流 などを、 学 生 の 研 修 旅 行 として 実 施 し<br />

てきた。1999 年 度 からは、その 名 称 を「 大 学 間 交 流 協 定<br />

に 基 づく 学 生 交 流 プログラム」と 変 えはしたが、その 参<br />

加 規 模 をほぼ 保 った 形 で 昨 年 度 (2001 年 3 月 )もその 第<br />

2 回 目 として 実 施 をした。 通 算 してちょうど10 回 、200<br />

名 近 くの 学 生 がこの 研 修 ・ 交 流 旅 行 を 体 験 したことにな<br />

る。<br />

本 稿 では、このような 国 際 的 な 交 流 プログラムが、 本<br />

学 の 聴 覚 部 学 生 にとって、 豊 かな「 教 育 プログラム」と<br />

して 機 能 していることを 昨 年 度 (2001 年 3 月 )に 実 施 し<br />

た「 交 流 プログラム」の 報 告 もかねて 論 ずるとともに、<br />

「 教 育 プログラム」としての 国 際 交 流 を 用 意 ・ 提 供 して<br />

いくことの 意 義 についても 考 察 する。<br />

2 交 流 プログラムの 概 要<br />

今 回 (20013.9~3.18)のプログラムは、カリフォルニ<br />

ア 州 ロサンゼルス 市 にあるカリフォルニア 州 立 大 学 ノー<br />

スリッジ 校 (CalifbmiaStateUniversityぅNorthridge: 以 下<br />

CSUN)とワシントンDCにあるギヤローデット 大 学<br />

(GallaudetUniversity)、そして 姉 妹 校 であるNTIDとい<br />

う、 難 聴 学 生 及 びろう 学 生 が 学 んでいる 米 国 では 代 表 的<br />

な3 大 学 の 訪 問 とそこでの 交 流 、 及 びロサンゼルス 在 住<br />

の 難 聴 者 及 びろう 者 ( 約 20 名 )との 交 流 会 開 催 を 合 わせ<br />

たもので、 全 行 程 10 日 間 ( 移 動 に 時 間 がかかるため、 目<br />

的 地 での 利 用 可 能 時 間 は、 実 質 的 に6 日 間 ほどであった)<br />

を、 総 勢 26 名 ( 学 生 21 名 、 引 率 教 職 員 4 名 、 日 本 語 と<br />

英 語 の 音 声 通 訳 担 当 者 1 名 )でこなすという 内 容 であった。<br />

21「CSUN」 訪 問 とプログラム<br />

日 程 初 日 のCSUN 訪 問 は、 疲 労 で 学 生 が 風 邪 を 引 き 発<br />

熱 するものが 数 人 でた。 飛 行 機 の 中 で 睡 眠 をとって、 現<br />

地 に 朝 着 いてそのまま 動 き 始 めるというスケジュールは、<br />

学 生 集 団 を 引 き 連 れてのプログラムとしては 少 々 負 担 が<br />

大 きいものであった。<br />

まず、CSUNで 学 ぶろう 学 生 5 人 をパネラーにして、<br />

本 学 学 生 との 質 疑 応 答 及 び 交 流 を 行 った。このときのコ<br />

ミュニケーションスタイルは、ASLを 直 接 読 みとる 学 生<br />

もいたが、 基 本 的 にはASL→ 音 声 英 語 一 音 声 日 本 語 → 日<br />

本 の 手 話 (または、その 逆 )であった。 時 間 がかかり、 時 々<br />

読 みとり( 聞 き 取 り)の 間 違 いもあったが、 本 学 学 生 の<br />

目 は、 眠 い 時 間 帯 にもかかわらず 終 始 パネルの 学 生 へ 注<br />

がれていた。 通 訳 体 制 が 整 った 総 合 大 学 での、パネル 学 生<br />

たちのそれを 賞 賛 する 発 言 の 繰 り 返 しは、 大 学 のあり 方<br />

についての 強 烈 なアピールとなっていた。そして、 通 訳<br />

者 の 養 成 ・ 確 保 が 重 要 な 課 題 になっているとの 支 援 セン<br />

ターでの 説 明 を 通 して、「 聴 障 学 生 への 教 育 は、その 言 語<br />

(コミュニケーション) 環 境 が 保 障 されていることが 必<br />

要 最 低 条 件 である」との 認 識 が 徹 底 されていることが 伺<br />

えたことは、 大 きな 収 穫 であった。そして、 人 数 を 絞 っ<br />

てではあったが、 要 望 していた 授 業 見 学 (2つのクラス)<br />

も 実 現 した。 一 つは 要 約 筆 記 での 情 報 保 障 を 行 っている<br />

講 義 であり、もう 一 つは 通 訳 をおいての 講 義 である。 見<br />

学 をした 学 生 からは、 単 にすばらしい 講 義 保 障 だという<br />

感 想 だけではなく、 通 訳 を 通 しての 講 義 というのは 教 官<br />

の 表 情 を 見 ることが 少 なくなってしまい 当 事 者 性 を 共 有<br />

しにくいという 感 想 も 出 された。<br />

また、キャンパスの 中 での 昼 食 時 には、 日 本 からの 留<br />

学 生 等 にも 出 会 い、お 互 いの 交 流 が 展 開 されていた。<br />

CSUNでは、 聴 学 生 とろう 学 生 が 同 じキャンパスで 講 義<br />

159


を 受 けることを 前 提 にしているために、 学 内 にある 支 援<br />

センターが 核 となって、ろう 学 生 の 学 習 や 生 活 等 への<br />

様 々な 支 援 を 行 っており、ろう 学 生 への 情 報 保 障 ・ 通 訳<br />

制 度 が 整 っていることは 言 うまでもないが、キャンパス<br />

内 で 出 会 う 聞 こえる 人 々にも、ろう 者 に 対 して 気 軽 にふ<br />

れあう 雰 囲 気 が 身 に 付 いているようであった。<br />

22ロサンゼルス 在 住 の 難 聴 者 、ろう 者 との 交 流 会<br />

ロサンゼルスを 中 心 に 活 動 しているろうのアクター<br />

( 芸 人 )とろう 者 の 団 体 である「 世 界 リクレーションろ<br />

う 者 協 会 (WRAD)」の 協 力 で、ユニバーサルスタジオ<br />

見 学 と 交 流 会 が 実 現 した。ユニバーサルスタジオの 見 学<br />

は、 現 地 手 話 通 訳 者 ( 英 語 とASL)3 人 とろうのアクタ<br />

ーと 共 に 様 々なコミュニケーションを 楽 しみながら 行 う<br />

ことができた。 現 地 の 手 話 通 訳 者 3 人 は、 共 に 日 本 の 手<br />

話 にも 興 味 を 持 ち、ASLと 日 本 の 手 話 の 表 現 についての<br />

交 換 が 随 時 行 われた。このやり 取 りは、 学 生 たちにも 通<br />

訳 者 たちにも 非 常 に 好 感 を 与 えたようである。 本 来 は、<br />

米 国 に 住 んでいるろう 者 でなければ、 通 訳 者 ( 費 用 は 一<br />

切 不 要 )はこのように 派 遣 されることはないとのことで<br />

あったが、WRADの 会 長 の 要 請 を 受 けて 派 遣 が 可 能 にな<br />

ったとのことであった。 国 際 交 流 の 醍 醐 味 を 実 感 できた<br />

- 時 であった。<br />

ユニバーサルスタジオ 見 学 後 の 交 流 会 には、ロス 近 郊<br />

のろう 者 が 約 20 名 も 集 まり、 非 常 にあたたかい 歓 迎 を 受<br />

けた。その 中 には、ロス 在 住 の 日 本 入 ろう 者 の 顔 もあり、<br />

うち 解 けるのに 時 間 はかからなかった。 集 まったろう 者<br />

の 中 には、 人 工 内 耳 をした 人 やこれから 手 術 を 受 ける 予<br />

定 であるという 人 もいたが、 手 話 は 自 分 の 言 葉 として 持<br />

ち 続 けることを 明 るく 明 言 していたのには、 驚 きと 共 に<br />

すがすがしさも 感 じた。 学 生 からの 質 問 にも 蠕 躍 するこ<br />

となく 答 えてくれた。<br />

また、あるろう 者 は、ギヤローデット 大 学 やNTIDと<br />

CSUNとの 比 較 についても、 個 人 的 にとの 断 りを 入 れな<br />

がら、CSUNの 雰 囲 気 が 一 番 良 いと 自 らの 経 験 をもとに<br />

学 生 に 語 っていた。 体 調 を 崩 してホテルに 先 に 帰 った 学<br />

生 たちを 心 配 しながらも、 交 流 会 に 参 加 した 我 々は 快 い<br />

交 流 の 余 韻 を 残 して、また 会 える 日 を 期 待 しながら 交 流<br />

会 を 終 わった。しかし、その 期 待 が5ケ 月 後 の8 月 に 現 実<br />

すると、その 時 の 誰 が 考 えただろうか。 我 々との 交 流 を 実<br />

現 してくれたろうのアクターであるCJジョーンズとの<br />

再 会 が、 昨 年 8 月 終 わりに 本 学 のキャンパスで 実 現 した<br />

のである。 彼 は、プロのアクターとして、 学 生 たちに 自 己<br />

表 現 のワークショップを 本 学 で 開 催 してくれたのである。<br />

学 生 たちも 再 会 の 喜 びを 間 違 いなく 味 わったに 違 いない。<br />

23「ギヤローデット 大 学 」 訪 問 とプログラム<br />

ギヤローデット 大 学 への 訪 問 は、 残 念 なことに 大 学 が<br />

学 期 休 みに 入 ってしまい 学 生 たちがほとんどいない 時 期<br />

となってしまった。しかし、ギャローデット 大 学 の 名 誉<br />

教 授 、 世 界 ろうあ 連 盟 の 前 会 長 で 現 在 は 国 連 の 委 員 でも<br />

あるアンダーソン(YerkerAndersson) 氏 と 事 前 にコンタ<br />

クトを 計 り、 忙 しい 中 での 時 間 調 整 の 結 果 、 特 別 講 義 が<br />

実 現 したことは 大 きな 成 果 であった。その 際 の 通 訳 とし<br />

て、アメリカに 留 学 中 であったASL 協 会 の 日 本 支 部 事 務<br />

局 長 ( 野 崎 氏 )に 依 頼 できたことも 幸 運 であった。「 世 界<br />

のろう 者 」というテーマで 語 られるアンダーソンの 手 話<br />

は、 疲 れているはずの 学 生 たちを 眠 らせることなくその<br />

目 を 最 後 まで 引 きつけた。「 人 工 内 耳 についてどう 思 う<br />

か」という 学 生 からのアンダーソンヘの 質 問 にはろう 者<br />

として 否 定 的 な 反 応 を 示 していた。この 質 問 をした 学 生<br />

は、ロサンゼルスで 人 工 内 耳 をつけたばかりのろう 者 に<br />

会 い、 人 工 内 耳 の 需 要 が 増 えてきていることやその 論 争<br />

が 出 ていることなどからろう 者 の 中 のろう 者 のように 見<br />

えるアンダーソンの 考 えを 聞 きたかったのである。いろ<br />

いろなろう 者 がいるという 現 実 を 再 確 認 できたようであ<br />

った。<br />

また、 本 学 の 第 3 期 卒 業 生 でギヤローデットに 留 学 中<br />

の 早 川 君 とその 友 人 たちのおかげで、 学 内 見 学 も 緊 張 す<br />

ることなく、くつろいだ 中 で 行 うことができた。 大 学 説<br />

明 の 時 には、 早 川 君 にASLと 日 本 の 手 話 との 通 訳 をお 願<br />

いしたのだが、 彼 は 日 本 の 手 話 を 得 意 としないままに 米<br />

国 に 行 ってASLを 身 につけたので、 通 訳 としては 不 十 分<br />

なものになってしまった。 大 学 説 明 者 のASLでの 話 にう<br />

なずく 彼 を、 話 の 内 容 がわからない 学 生 たちがもどかし<br />

く 眺 めているという 状 況 がしばし 生 じていた。「 話 を 聞 い<br />

て 大 変 すばらしい 大 学 だということは 分 かりましたが、<br />

何 か 問 題 点 はないのですか」という 学 生 の 質 問 に 対 して<br />

「ありません」と 即 答 されて、 質 問 した 学 生 も 驚 いてい<br />

たようである。 自 分 の 大 学 に 対 する 誇 り、 自 信 の 現 れであ<br />

ろう。そして、ギャローデット 大 学 でのプログラム 終 了<br />

後 、その 夜 にはギャローデット 大 学 のろう 者 のスタッフ<br />

と 通 訳 者 を 交 えての 会 食 ・ 交 流 も 行 うことができた。 学<br />

生 の 中 には、 片 言 のASLではあるが、ろうのスタッフと<br />

のコミュニケーションを 楽 しくとるものもいて、 次 第 に<br />

交 流 の 雰 囲 気 を 高 めていった。<br />

このように、いろいろな 人 との 出 会 いが、 学 生 たちの<br />

中 に 異 国 でのコミュニケーション 力 を 強 めていき、 最 後<br />

の 訪 問 地 であるNTIDでの 活 力 を 蓄 えることになったの<br />

ではないだろうか。<br />

160


国 際 交 流 旅 行 の 教 育 プログラムとしての 意 義<br />

24「NTlD」 訪 問 とプログラム<br />

交 流 プログラムの 最 後 の 訪 問 地 、ロチェスターにある<br />

NTIDには4 泊 である。4グループに 分 かれての 授 業 見<br />

学 、 我 々 教 職 員 に 対 するⅢIDの 将 来 計 画 の 説 明 、ASL<br />

の 模 擬 授 業 体 験 、アジア 系 留 学 生 を 中 心 にした 学 生 同 士<br />

の 交 流 会 、 筑 波 技 術 短 期 大 学 とのインターネットコミュ<br />

ニケーション、 毎 年 のように 日 本 からの 訪 米 を 歓 迎 して<br />

くれるNTID 卒 業 生 との 再 会 ・ 歓 談 、というように 次 か<br />

ら 次 へと 交 流 プログラムは 続 いた。<br />

授 業 見 学 では、 特 に、 教 師 の 魅 力 的 な 手 話 での 授 業 に 対<br />

して 本 学 との 違 いを 感 じているようであった。また、 教<br />

師 が 話 すときは 学 生 の 顔 をきちんと 見 ていることにその<br />

魅 力 を 感 じた 学 生 もいた。アイコンタクトをしっかりす<br />

ることは 内 容 を 伝 えたいと 思 う 教 員 にとっての 重 要 な 技<br />

術 の 一 つなのであろう。また、ASLの 模 擬 授 業 体 験 はと<br />

ても 学 生 に 評 判 が 良 かった。 授 業 を 楽 しいものにしよう<br />

という 雰 囲 気 が 日 本 の 授 業 よりも 多 いのではないだろう<br />

か。 大 切 な 内 容 を 学 生 たちが 考 えるためには、 教 師 側 か<br />

らの 働 きかけはこれもまた 重 要 な 技 術 の 一 つなのであ<br />

る。<br />

学 生 同 士 の 交 流 は、 何 らかの 形 で 毎 晩 のように 行 われ<br />

た。 学 生 の 感 想 でもここでの 交 流 が 一 番 の 思 い 出 になっ<br />

ていた。 振 り 返 って、CSUNやギャローデット 大 学 でも<br />

学 生 との 交 流 の 時 間 をもっととれたら 良 かったという 声<br />

は 多 かった。 訪 問 した 大 学 の 中 では、NTIDが 好 きだと 答<br />

えたものが 多 くなったのも、 過 ごした 時 間 、 学 生 同 士 の<br />

楽 しい 交 流 の 時 間 の 長 さが 影 響 していると 考 えられる。<br />

お 別 れパーティーの 時 、NTIDの 学 生 がノートパソコン<br />

を 持 ち 込 んでレポートを 作 りながら 参 加 していた 姿 に、<br />

少 なくともその 時 は、 本 学 学 生 も 学 生 の 本 分 は 勉 強 であ<br />

るということを 認 識 したに 違 いない。 交 流 を 楽 しむこと<br />

とレポート 作 りに 一 生 懸 命 になること、そのどちらも 米<br />

国 学 生 たちにとって 大 切 なことであったようだ。<br />

本 学 と 姉 妹 校 であるNTIDでの 交 流 プログラムについ<br />

ては、いくらかのオプションを 付 け 加 えながら 毎 年 同 じ<br />

ような 形 が 定 着 してきた。 今 回 の 内 容 で 言 えば、ASLの<br />

模 擬 授 業 体 験 は 今 後 も 続 けて 欲 しいプログラムの 一 つで<br />

あった。 単 なる 見 学 ではなく、 学 生 自 らも 参 加 できる 交 流<br />

プログラムが 学 生 にとって 魅 力 的 ということである。 将<br />

来 的 には、 集 中 的 な 授 業 体 験 をNTIDで 行 うことを 通 し<br />

て、 単 なる 交 流 ではなく 単 位 認 定 までも 視 野 に 入 れた 授<br />

業 の 可 能 性 も 考 えられるのではないだろうか。<br />

3 教 育 プログラムとしての 意 義<br />

本 学 の 交 流 プログラムへ 学 生 が 参 加 することの 意 義 は、<br />

今 までも 繰 り 返 し 述 べられてきている[l][213]ように、こ<br />

のプログラムに 参 加 することによって 一 人 一 人 の 学 生 が<br />

日 本 とは 全 く 違 う 環 境 の 中 で 自 ら 判 断 して 行 動 し 積 極 的<br />

に 周 りと 関 わることと 関 係 している。 特 に、 同 じ 聴 覚 障<br />

害 という 身 体 的 条 件 を 共 有 している 他 国 の 人 たちとコミ<br />

ュニケーションをとりながら 交 流 をするということが、<br />

自 分 の 中 に 隠 されていた 意 識 や 活 力 を 見 直 す 機 会 になっ<br />

ているということなのではないだろうか。<br />

例 えば、 帰 国 後 のアンケートの「 手 話 に 対 する 考 え 方<br />

の 変 化 」という 質 問 に 次 のように 答 えている。<br />

「 思 ったことが 伝 わるから 良 い」<br />

「 初 めはASLに 興 味 がなかったが、その 必 要 性 が 分 かっ<br />

てきた」<br />

「 日 本 では、 手 話 より 口 話 が 多 いが、アメリカの 場 合 、<br />

手 話 で 楽 しそうに 話 している。 手 話 は 楽 しくやる 方 が<br />

いいかなと 考 えた」<br />

「ASLもJSLも 覚 えるべきだという 考 え 方 が 強 くなっ<br />

た」<br />

「ASLでもがんばれば 通 じるんだなと 思 った」<br />

「 手 話 が 魅 力 的 だと 実 感 した」<br />

「 以 前 と 変 わらない。 手 話 の 大 切 さを 知 っているから」<br />

「 変 わった。 技 短 の 先 生 たちも 手 話 を 覚 えるべき」<br />

「 手 話 で 世 界 の 人 々と 通 じ 合 えること。ますます、 魅 力<br />

的 だと, 思 いを 強 くした」<br />

異 国 の 人 々との 交 流 を 行 うということは、 生 活 のあり<br />

方 や 人 とのコミュニケーションのスタイルなど 様 々な 面<br />

で 自 分 のあり 方 を 見 直 すきっかけになるということであ<br />

る。 特 に、 本 学 聴 覚 部 学 生 にとって、 手 話 について 考 える<br />

ことは 単 に「 手 話 」の 問 題 を 考 えることに 留 まらない。<br />

自 分 を 取 り 巻 く 人 々のことを 考 え、 自 分 にとってのこと<br />

ばを 考 え、 今 まで 何 気 なく 感 じていたことを 再 確 認 しよ<br />

り 自 分 のものにしていくための 重 要 な「キーワード」な<br />

のである。このような 交 流 プログラムが、 教 育 プログラ<br />

ムとしての 意 義 をもつ 所 以 である。<br />

また、 今 回 のプログラムの 中 で 出 会 い、 交 流 を 行 った<br />

米 国 のろうのアクターと 日 本 で 再 会 し、 本 学 でのワーク<br />

ショップ 開 催 へと 発 展 した 経 緯 には、この 交 流 プログラ<br />

ムを 請 け 負 った 卒 業 生 の 存 在 が 大 きな 力 となっている。<br />

参 加 学 生 たちが、 社 会 人 として 働 く 先 輩 の 存 在 やその 力<br />

量 を 視 野 に 入 れながら 自 分 の 中 の 力 を 高 めていくことは、<br />

学 びの 姿 として 非 常 に 貴 重 なものである。そのようにし<br />

て、 他 者 と 関 わる 力 を 伸 ばしていくことが 見 て 学 ぶ、 経<br />

験 して 学 ぶということだからである。3 月 の 米 国 経 験 か<br />

ら5ヶ 月 後 、 学 生 中 心 になって 行 った 本 学 でのワークシ<br />

161


ヨップの 成 功 は、 交 流 プログラムが 教 育 プログラムとし<br />

て 有 機 的 に 機 能 しその 影 響 を 少 なからず 与 えたことの 成<br />

果 であると 推 察 できる。<br />

今 回 のプログラムに 通 訳 として 参 加 された 聾 学 校 教 頭<br />

の 原 田 氏 からは、 教 育 プログラムとしての 意 義 が 述 べら<br />

れている 感 想 ・ 期 待 が 送 られてきた。 原 田 氏 の 許 可 を 得 て<br />

いるので 以 下 に 引 用 する。<br />

「 今 回 、 初 めて 交 流 プログラム 参 加 させていただいた。<br />

相 手 校 との 折 衝 もあることなので、 筑 波 技 短 の 方 でも、<br />

プログラム 作 りには 大 変 苦 労 されたことと 推 察 する。 時<br />

期 はともあれ、 私 のように 義 務 校 で 勤 務 している 者 にと<br />

っては、 大 変 新 鮮 な 内 容 であり、どのプログラムも 興 味<br />

を 引 くものであった。 特 に、 筑 波 技 短 の 学 生 との 触 れ 合<br />

いは 殆 どなかっただけに、 大 変 貴 重 な 体 験 であった。 全<br />

国 各 地 から 集 まった 学 生 (おそらく 彼 らにとってもエキ<br />

サイティングなものであろう)と 海 外 で 共 通 体 験 をする<br />

ことは、 義 務 段 階 での 聾 教 育 を 考 える 上 でも 新 たな 視 点<br />

を 見 出 してくれた 気 がする。<br />

また、 引 率 に 当 たられた 筑 波 技 短 の 先 生 達 とも 交 流 す<br />

る 好 機 を 得 ることができた。その 意 味 では、 個 人 的 に 本<br />

当 に 有 意 義 な 経 験 をすることができたと 感 謝 している。<br />

できれば、このような 機 会 を 多 くの 聾 学 校 ( 難 聴 学 級 他 )<br />

の 先 生 達 にも 与 えてくれたらと 願 っている。 更 に 欲 を 言<br />

えば、 交 流 プログラムに 参 加 した 学 生 達 の 帰 国 後 の 成 長<br />

も 見 てみたいと 思 っている。いずれにしても、 本 交 流 プ<br />

ログラムは 筑 波 技 短 の 学 生 にとって 極 めて 大 きな 意 味 が<br />

あると 信 じる。<br />

今 日 の 国 際 化 社 会 を 考 えたとき、 現 地 の 各 大 学 での 学<br />

生 や 地 域 の 人 々の 交 流 は、 少 なくとも 社 会 性 や 視 野 を 広<br />

げる 上 でとても 大 切 である。 今 後 は、 例 えば、- 週 間 ほ<br />

ど 同 じ 場 所 に 滞 在 し、それぞれの 学 生 が 独 自 にじっくり<br />

と 見 聞 したり 交 流 することも、 教 育 的 に 意 義 があると 思<br />

われる。 筑 波 技 短 には 是 非 とも、 継 続 した 取 り 組 みを 期<br />

待 したい。」<br />

ここには、 参 加 する 学 生 にとっての 教 育 的 意 義 に 留 ま<br />

らず、 同 行 する 聾 学 校 教 員 にとっても 研 修 的 意 義 の 大 き<br />

いプログラムであるとの 感 想 が 述 べられている。そして、<br />

このようなプログラムのより 発 展 的 な 取 り 組 みと 継 続 に<br />

対 する 期 待 が 込 められているのである。<br />

今 後 の 大 学 教 育 を 考 えたとき、そこで 学 ぶ 学 生 や 学 ぼ<br />

うとする 学 生 にとって 魅 力 的 な 教 育 カリキュラムの 存 在<br />

がますます 重 要 になることは 誰 の 目 にも 明 らかである。<br />

そのことを 踏 まえたとき、 担 当 教 官 の 個 人 的 な 負 担 に 支<br />

えられて 始 められた 研 修 プログラムではあるが、その 成<br />

果 を 継 続 する 形 で 現 在 にいつたっていること、ろう 学 生<br />

を 中 心 にした 国 際 的 な 交 流 プログラムは、 本 学 の 特 質 に<br />

合 った 特 徴 ある 学 生 参 加 の 教 育 プログラムになっている<br />

ことを 今 再 確 認 しておくことは 重 要 であろう。<br />

4 教 育 プログラムを 用 意 するために<br />

今 回 のプログラムを 進 めるに 当 たってどのような 準 備<br />

がなされ、それがどのように 機 能 したかを 考 察 しておく<br />

ことは 今 後 このような 交 流 プログラムを 進 めるときの 参<br />

考 になると 考 える。<br />

まず、 今 回 の 特 徴 の 一 つは、 旅 行 に 同 行 する 本 学 卒 業<br />

生 ( 依 頼 先 の 旅 行 会 社 員 )の 役 割 ( 職 務 )を、 旅 行 会 社 ( 本<br />

人 )との 間 で、コミュニケーション 及 び 企 画 サポート 要<br />

員 として 明 確 にしたことである。このことで、 予 定 訪 問<br />

先 との 事 前 交 渉 を 行 う 場 合 にも、すべてを 一 人 で 行 うの<br />

ではなく、 必 要 に 応 じた 分 担 作 業 が 可 能 になり、また、<br />

両 者 の 相 談 を 通 して 自 由 度 のある 企 画 の 提 案 や 工 夫 がで<br />

きたと 考 えられる。もちろん、このようなサポート 要 員<br />

としての 仕 事 を 依 頼 できるためには、 人 的 なネットワー<br />

クを 持 ち、 訪 問 先 との 連 絡 をこまめにとってもらえるよ<br />

うな 人 材 の 存 在 と 旅 行 会 社 の 理 解 ・ 協 力 が 不 可 欠 である。<br />

今 回 の 交 流 プログラムを 通 して、 国 際 的 な 交 流 プログラ<br />

ムが 教 育 的 なプログラムとして 有 機 的 に 機 能 するための<br />

貴 重 な 連 携 スタイルを 模 索 することができた。<br />

それから、 公 的 な 場 所 での 通 訳 体 制 の 確 保 である。もち<br />

ろん 完 全 に 確 保 できたわけではないが、 直 前 までその 確<br />

保 を、 模 索 したことが 結 果 的 にコミュニケーションの 幅<br />

の 広 い 交 流 プログラムを 用 意 できたことにつながったの<br />

である。<br />

上 述 のような 準 備 の 結 果 として、CSUNでのパネル 形<br />

式 のコミュニケーション、 現 地 通 訳 者 同 行 のユニバーサ<br />

ルスタジオ 見 学 、ギャローデット 大 学 名 誉 教 授 アンダー<br />

ソンの 特 別 講 義 などの 実 現 があげられる。<br />

さらに 今 回 のプログラム 準 備 の 特 徴 として、 電 子 メー<br />

リングリストや 電 子 掲 示 板 ・ホームページの 開 設 ・ 運 用<br />

がある。これについての 実 践 報 告 及 び 考 察 は、テクノレ<br />

ポートの 前 号 に 報 告 されている[4]ので 詳 しくはふれな<br />

いことにするが、 学 生 集 団 が 参 加 するプログラムの 実 行<br />

には、 今 後 は 必 要 不 可 欠 になる 準 備 だと 考 える。そして、<br />

電 子 ネットワークは 情 報 を 共 有 するメディアとしての 利<br />

用 価 値 が 今 後 ますます 高 まるので、それを 利 用 できない<br />

者 へのきめ 細 かい 配 慮 を 欠 かさないことが 極 めて 重 要 で<br />

あることを、 今 回 の 教 訓 の 一 つとして 最 後 に 明 記 してお<br />

きたい。<br />

5おわりに<br />

本 学 の 聴 覚 部 に 入 ってくる 学 生 の 中 には、 米 国 研 修 旅<br />

行 ( 交 流 プログラム)に 参 加 することを 楽 しみにしている<br />

162


国 際 交 流 旅 行 の 教 育 プログラムとしての 意 義<br />

者 が 毎 年 何 人 かいる。 卒 業 生 を 通 して、 異 国 のろう 者 と<br />

の 交 流 やろう 文 化 の 豊 かさにふれることの 魅 力 を 感 じて<br />

入 学 してくるのである。また、 子 どもが 海 外 でのろう 者 と<br />

の 交 流 を 経 験 し、 聞 こえない 人 間 として 成 長 したという<br />

感 想 をもつ 保 護 者 もいる。 積 極 的 に 応 援 する 保 護 者 も 少<br />

なくない。 今 回 の 交 流 プログラムに 参 加 希 望 した 学 生 と<br />

保 護 者 の 中 にもそのような 気 持 ちをはっきり 述 べる 者 が<br />

いたことを 明 記 しておきたい。 重 い 経 済 的 な 負 担 を 参 加<br />

者 ( 保 護 者 )にかけながらも、 学 生 の 積 極 的 な 参 加 意 識<br />

と 行 動 は、まさに 短 大 版 総 合 学 習 であったと 言 えるであ<br />

ろう。 今 回 のプログラムも、 総 合 学 習 的 な 場 を 学 生 たち<br />

に 提 供 できたということを 明 記 して 本 稿 を 終 わる。<br />

参 考 文 献<br />

[1] 新 井 孝 昭 : 聾 教 育 におけるコミュニケーションを 考<br />

える-アメリカ 研 修 旅 行 を 通 して-. 筑 波 技 術 短 期<br />

大 学 テクノレポート6:223-229,1999.<br />

[2] 及 川 力 :アメリカ 研 修 旅 行 を 通 した 学 生 の 成 長 .<br />

筑 波 技 術 短 期 大 学 テクノレポート2:31-36,1995.<br />

[3] 今 井 計 : 第 2 回 アメリカ 研 修 旅 行 に 参 加 して. 第<br />

2 回 アメリカ 研 修 報 告 資 料 :1993.<br />

[4] 加 藤 伸 子 、 新 井 孝 昭 、 萩 田 秋 雄 : 聴 覚 障 害 者 のネット<br />

ワークコミュニケーション- 平 成 12 年 度 アメリカ<br />

研 修 旅 行 における 活 用 事 例 一 筑 波 技 術 短 期 大 学 テ<br />

クノレポート8(2):2001.<br />

163


Tsukuba College of Technology Techno Report, 2002 Vol. 9 (1)<br />

Significance of Short-Stay Program in the U.S. for Students of<br />

Tsukuba College of Technology<br />

Through association with deaf and hard of hearing people at NTID,<br />

CSUN, Gallaudet Univ. etc. —<br />

ARAI Takaaki0, KATO Nobuko2) and HAGITA Akio3)<br />

l) Department of Information Science and Electronics -Information Science Course-,<br />

Tsukuba College of Technology<br />

2) Department of Information Science and Electronics - Electronics Engineering Course-,<br />

Tsukuba College of Technology<br />

3) Department of Architectural Engineering, Tsukuba College of Technology<br />

Abstract : The short-stay program in the U.S., each time it is put into practice, has presented a worthwhile<br />

experience for each student. It was a valuable time for thinking of "communication", "deaf and deaf culture",<br />

"education for the deaf and so on, besides providing a happy memory of their travels in the U.S. In this paper,<br />

we make a report of the 10lh short-stay program and refer to the significance of the short-stay program for<br />

international exchange.<br />

Key Words : Association, Communication, Educational program, Hearing impaired<br />

164

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