Global Passport to Modern Direct Democracy 2008 – Japanese edition
Your guide to Active Citizenship and Participatory Democracy
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アクティブな 市 民 権 と<br />
参 加 型 デモクラシーへのご 案 内<br />
現 代 のダイレクトデモクラシーへの<br />
グローバル・パスポート
ようこそ<br />
アクティブな 市 民 権 と<br />
参 加 型 デモクラシーの 世 界 へ<br />
あなたは、 住 んでいる 市 町 村 、 都 道 府 県 、 国 の 市 民 として 様 々<br />
な 決 断 を 下 す 代 表 を 選 ぶ 権 利 をもつだけでなく、 周 囲 の 人 や 選 挙<br />
で 選 ばれた 代 表 者 達 に 対 して、 自 分 で 提 案 を 投 げかける 権 利 も<br />
持 っています。そして、 直 接 、 投 票 箱 で 個 別 の 議 題 ( 地 域 の 予 算<br />
から 国 全 体 の 憲 法 改 正 などにわたる)の 決 定 をくだす 権 利 もある<br />
かもしれません。<br />
この 現 代 のダイレクトデモクラシー( 直 接 民 主 制 【 訳 注 1】)<br />
へのグローバル・パスポートは、 現 代 のダイレクトデモクラシー<br />
のツールについて 基 本 的 な 情 報 を 提 供 します。カギとなる 定 義<br />
や、 多 岐 にわたる 方 法 を 紹 介 し、また、どのようにイニシアチブ<br />
( 発 議 )やレファレンダム( 国 民 / 住 民 投 票 )、プレビシット(P.29 参<br />
照 )を 利 用 するかも 提 案 します。<br />
このグローバル・パスポートは、ブルーノ・カウフマンによっ<br />
て 書 かれ、International Institute for <strong>Democracy</strong> and<br />
Elec<strong>to</strong>ralAssistance (International IDEA) によって 出 版 されま<br />
した。<br />
何 年 にもわたり、International IDEAは 世 界 中 のダイレクトデモ<br />
クラシーの 手 順 と 実 施 の 発 展 を 支 援 してきました。このダイレク<br />
トデモクラシー・データベースはデモクラシーの 実 践 者 や 行 政 関<br />
係 者 やオブザーバーにとって 特 別 な 情 報 源 です。<br />
また、このパスポートは<strong>2008</strong> 年 に 出 版 された<strong>Direct</strong><br />
<strong>Democracy</strong>:TheInternationalIDEAHandbookを 補 足 するもので、<br />
そこには 世 界 中 のさまざまな 政 治 的 レベルのダイレクトデモクラ<br />
シーの 機 能 の 比 較 と、たくさんの 実 践 例 の 研 究 が 紹 介 されていま<br />
す。<br />
1
目 次<br />
アクティブな 市 民 権 と 参 加 型 デモクラシーの 世 界 へ ・・・・・・・・・・・・・・ 1<br />
これはあなたの 基 本 的 人 権 です ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 3<br />
現 代 のダイレクトデモクラシーへのガイド ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4<br />
現 代 のダイレクトデモクラシー:イニシアチブ、レファレンダムとその 先 ・・・・ 6<br />
現 代 のダイレクトデモクラシーであなたの 役 割 と 興 味 を 定 義 しよう ・・・・・・・ 8<br />
どこであなたは 参 加 する 権 利 を 行 使 しますか? ・・・・・・・・・・・・・・・10<br />
あなたのダイレクトデモクラシーのツールを 選 ぼう ・・・・・・・・・・・・・・13<br />
市 民 イニシアチブ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16<br />
民 衆 レファレンダム ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・21<br />
一 人 でやらなくてもいいのです ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・23<br />
参 加 しよう: 段 階 的 に 進 めるためのガイド ・・・・・・・・・・・・・・・・・・25<br />
義 務 的 レファレンダム: 法 律 が「 国 民 によって」と 定 めるとき・・・・・・・・・ 27<br />
プレビシット:トップダウンの 合 成 物 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 29<br />
リコール: 民 衆 を 混 ぜ 合 わせる、そしてボトムアップの 課 題 ・・・・・・・・・・ 31<br />
さまざまなやり 方 で 人 々を 巻 き 込 む・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 33<br />
どのように 現 代 のダイレクトデモクラシーを 機 能 させるか・・・・・・・・・・・ 36<br />
参 考 文 献 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・40<br />
参 考 WEB・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 42<br />
International IDEA: 世 界 のダイレクトデモクラシーをサポートします ・・・・・・43<br />
スイス: 参 考 点 とサポートセンター ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・44<br />
著 者 について/ 訳 注 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・45
あなたの 権 利<br />
これはあなたの 基 本 的 人 権 です<br />
この 権 利 は 世 界 人 権 宣 言 の 第 21 条 の1によると、<br />
「すべての 人 々は、 直 接 にまたは 自 由 に 選 んだ 代 表 者<br />
を 通 じて、その 国 の 政 治 に 参 加 する 権 利 をもつ」<br />
とあります。<br />
この 現 代 のダイレクトデモクラシーへの<br />
グローバル・パスポートの 所 有 者 は<br />
.......................................................................................................................................................................<br />
名 前<br />
.......................................................................................................................................................................<br />
連 絡 先<br />
私 は 以 下 の 有 権 者 です。<br />
( 当 てはまるところにチェックを 入 れる)<br />
◦ 市 町 村 .....................................................................................................................................................<br />
◦ 都 道 府 県 ..................................................................................................................................<br />
◦ ...............................................................................................................................................................<br />
国 名<br />
◦ ........................................................................................................................................<br />
国 を 超 える 組 織<br />
◦ ........................................................................................................................................<br />
その 他 の 政 治 的 な 組 織<br />
もしも 自 分 の 市 民 権 の 状 態 がわからない 場 合 は、あなた<br />
の( 旅 行 )パスポートか 国 のIDカードを 確 認 するか、<br />
あなたの 在 住 する 市 か 県 の 役 所 に 聞 いてみましょう。<br />
3
現 代 のダイレクトデモクラシー<br />
現 代 のダイレクトデモクラシーへのガイド<br />
デモクラシーの 中 では、 正 式 な 一 般 投 票 【 訳 注 2】は 人 々の<br />
力 の 行 使 のために 重 要 です。 伝 統 的 に 大 部 分 の 代 議 制 民 主 主<br />
義 において 市 民 が 投 票 箱 で 決 める 権 利 は、 役 所 や 議 会 のため<br />
に 代 表 や 政 党 を 選 ぶことに 限 られていました。<br />
しかしながら 近 年 、より 多 くの 国 が 市 民 の 声 を 聞 くため<br />
に、 新 しい 可 能 性 や 手 段 を 取 り 入 れ 始 めました。それは 選 挙<br />
のない 時 期 においてもです。 実 際 にInternational IDEAのダイ<br />
レクトデモクラシーのデータベースによると、1980 年 から 世<br />
界 中 の8 割 以 上 の 国 が 少 なくとも 国 全 体 で 一 回 は 何 かしらの 事<br />
案 についての 一 般 投 票 を 行 っています。 大 抵 は、それはレ<br />
ファレンダムの 形 で 行 われています。2017 年 の 半 ばまでに、<br />
世 界 中 で 総 計 1,707 件 の 国 全 体 での 一 般 投 票 が 行 われました。<br />
内 訳 は、1,042 件 はヨーロッパで(スイスにおける627 件 を 含<br />
む)187 件 はアフリカで、185 件 はアジアで、176 件 はアメリ<br />
カで、113 件 はオセアニアです。<br />
近 年 のレファレンダムは、 例 えばイギリスのEU 離 脱 (いわ<br />
ゆるブレグジット 国 民 投 票 )や、コロンビアの 紛 争 を 終 結 す<br />
る 条 約 や、トルコにおける 新 しい 大 統 領 制 の 憲 法 の 採 択 や、<br />
スイスの 原 発 の 未 来 についてなど、 重 要 な 政 治 的 問 題 につい<br />
て 行 われています。このようにいくつかの 例 を 上 げるだけで<br />
も 一 般 投 票 は 幅 広 く 重 要 な 問 題 を 提 起 してきています。それ<br />
らは、 例 えば、 自 由 な 報 道 の 役 割 、レファレンダムを 招 集 す<br />
る 方 法 、 政 府 にとってレファレンダムは 拘 束 力 のあるものな<br />
のか、それとも 拘 束 力 のない 勧 告 的 なものなのか、 直 接 的 な<br />
一 般 投 票 はどのような 問 題 の 解 決 に 有 効 なアプローチなの<br />
か、という 問 題 などについてです。<br />
4
現 代 のダイレクトデモクラシー<br />
代 表 を 選 出 したり、ある 事 案 について 決 断 を 下 すために 投<br />
票 することは、 社 会 の 中 で 市 民 の 担 う 一 番 重 要 な 責 任 のひと<br />
つです。そのような 投 票 はあなたの 国 の 未 来 を 形 づくること<br />
になり、 高 度 な 情 報 と 知 識 を 必 要 とすることでしょう。<br />
そのような 理 由 から、この 現 代 のダイレクトデモクラシー<br />
へのグローバル・パスポートは、 世 界 で 成 長 している 参 加 型<br />
ダイレクトデモクラシーの 中 でのあなたのアクティブな 市 民<br />
としての 権 利 をより 深 く 理 解 できるようにデザインされてい<br />
ます。 現 代 の 代 議 制 民 主 主 義 の 中 で、どのようにダイレクト<br />
デモクラシーのツールやプロセスがうまく 機 能 するのか(ま<br />
たはしないのか)カギとなる 情 報 を 提 供 します。 読 者 の 対 象<br />
は 幅 広 く 多 様 な 人 々で、それは、イニシアチブやレファレン<br />
ダムのプロセスの 国 際 的 なオブザーバーや、ジャーナリスト<br />
や、 選 挙 管 理 人 や 憲 法 の 起 草 者 も 含 みます。<br />
このパスポートの 中 で、「 現 代 のダイレクトデモクラ<br />
シー」という 用 語 は、 伝 統 的 な 集 会 型 デモクラシー( 大 抵 は<br />
ギリシャ 時 代 と 関 連 する)との 混 乱 を 避 けるために 使 われて<br />
います。この 集 会 型 デモクラシーは 特 に 地 域 レベルなどで<br />
( 自 治 会 の 会 合 など) 現 在 も 使 われています。このような 会<br />
合 は、 投 票 の 匿 名 性 を 尊 重 しないという 点 で 前 近 代 的 なもの<br />
で、その 投 票 の 匿 名 性 の 尊 重 は 現 代 のダイレクトデモクラ<br />
シーの 中 では 非 常 に 重 要 なものです。<br />
現 代 のダイレクトデモクラシーは、 伝 統 的 な 間 接 民 主 主 義<br />
にとって 代 わるものではなく、とって 代 わるべきものでもあ<br />
りません。それよりも、どちらかというと 代 表 者 たちをより<br />
代 表 にふさわしくするために 他 の 形 のデモクラシーを 補 うも<br />
のであり、それぞれのデモクラシーの 良 い 部 分 を 融 合 させる<br />
ことにより、 自 発 的 で 責 任 感 のある 市 民 と 選 挙 の 信 頼 性 と 妥<br />
当 性 を 可 能 にするのです。<br />
5
ツールボックス<br />
現 代 のダイレクトデモクラシー:<br />
イニシアチブ、レファレンダムとその 先<br />
3つのタイプの 直 接 かつ 参 加 型 のデモクラシーが 今 日 使 われて<br />
います:<br />
市 民 によって 開 始 されるツール、 政 府 によって 主 導 される 一<br />
般 投 票 、および 他 の 参 加 型 手 法 。<br />
1. 市 民 によって 始 められる 直 接 民 主 的 な<br />
(ボトムアップ)ツール<br />
市 民 イニシアチブは、 市 民 自 身 の 手 に 委 ねられる 最 も 強 力<br />
なダイレクトデモクラシーのツールです。 新 しい 法 律 ( 規<br />
制 や 憲 法 改 正 など)を 提 案 するイニシアチブと 選 挙 で 選 ば<br />
れた 統 治 機 構 の 法 的 意 思 決 定 を 停 止 (または 修 正 、 展 開 、<br />
変 更 )する「 民 衆 レファレンダム」を 含 みます。どちらの<br />
場 合 も、 市 民 は 次 の 正 式 なステップの 資 格 をえるために、<br />
特 定 の 数 の 他 の 市 民 ( 通 常 は 署 名 を、 普 通 は 紙 で、 区 域 に<br />
よっては 電 子 的 に 集 めて)の 支 持 を 得 る 必 要 があります。<br />
2. 政 府 によって 開 始 される(トップダウン) 一 般 投 票<br />
政 府 もまた、 特 定 の 案 件 に 関 する 一 般 投 票 を 提 案 するかも<br />
しれません。 法 規 定 の 変 更 や 他 の 意 思 決 定 ( 例 えば 国 際 条 約 )<br />
に 関 して、 法 律 に 基 づいて 区 域 の 有 権 者 に 提 示 される「 義<br />
務 的 レファレンダム」と、 選 挙 で 選 ばれた 公 的 機 関 によっ<br />
て 始 められる 任 意 の 一 般 投 票 である「プレビシット」の2<br />
つの 異 なる 形 式 があります。<br />
6
ツールボックス<br />
3.その 他 の 参 加 型 ( 助 言 を 与 える) 手 法<br />
新 たな 形 式 の 参 加 型 の 手 法 が 出 現 しており、 多 くの 場 合 、<br />
直 接 民 主 的 な 意 思 決 定 よりもパブリックな 討 議 を 可 能 に<br />
するように 設 計 されています。 例 えば、 市 民 が 自 分 たち<br />
の 声 を 聞 くように 求 められる 請 願 方 式 のプロセスは、 一<br />
般 的 に 純 粋 な 勧 告 的 メカニズムとみなされます。<br />
しかし、 参 加 型 の 予 算 編 成 などの 参 加 型 の 手 法 は、 市 民<br />
の 意 思 決 定 を 含 む 場 合 、レファレンダムと 同 じ 効 果 を 得<br />
ることができます。<br />
図 1:198 0-2 0 17 年 の 間 に 国 規 模 で( 国 に 準 じる)<br />
一 般 投 票 が 行 われた 国<br />
行 われた 国<br />
行 われていない 国<br />
出 典 : International IDEA <strong>Direct</strong> <strong>Democracy</strong> Database,<br />
<br />
7
ステップ1<br />
現 代 のダイレクトデモクラシーで<br />
あなたの 役 割 と 興 味 を 定 義 しよう<br />
◦ 私 は 現 代 のダイレクトデモクラシーのツールを<br />
使 用 する 権 利 をもつ 有 資 格 者 です。<br />
PASS<br />
どのタイプの 参 加 型 ツールを 使 用 しようとしていますか?<br />
あなたまた 又 はあなたの 仲 間 の 市 民 によって 開 始 されたも<br />
の? あるいはおそらく 政 府 によって? 地 域 、 地 方 、 国 、ま<br />
たは 国 境 を 越 えて、どの 政 治 レベルで 関 与 するよう 求 めら<br />
れましたか?<br />
どのツールを 自 由 に 使 えますか? このパスポートはあなた<br />
にいくつかのガイダンスを 提 供 するでしょう。<br />
◦ 私 は 現 代 のダイレクトデモクラシーの 実 践 に<br />
関 するリポーターです。<br />
ジャーナリストまたはイニシアチブやレファレンダムのプ<br />
ロセスのオブザーバーとして、あなたは、 実 行 されている<br />
プロセスの 政 治 的 状 況 とそのプロセスの 法 的 影 響 をよく<br />
知 っている 必 要 があります。 重 要 な 質 問 : 投 票 は 拘 束 力 が<br />
あるのか、それとも 勧 告 だけなのか? このパスポートを<br />
勉 強 することで、あなたのレポートに 役 立 つ 重 要 な 情 報 を<br />
得 ることができます。<br />
◦ 私 は 現 代 のダイレクトデモクラシーの<br />
サポーターです。<br />
参 加 型 市 民 ツールの 確 立 と 利 用 を 促 すためには、ダイレク<br />
トデモクラシーの 手 法 がもつ 効 果 と 機 能 を 十 分 に 理 解 して<br />
いる 必 要 があります。 現 代 の 代 議 制 民 主 主 義 の 一 部 とし<br />
て、 公 の 意 思 決 定 に 直 接 参 加 することについての 基 本 的 そ<br />
して 具 体 的 な 質 問 の 両 方 に 対 する 答 えを 見 つける 必 要 があ<br />
ります。このパスポートはあなたに 答 えを 提 供 するでしょ<br />
う。<br />
8
ステップ1<br />
◦ 私 は 現 代 のダイレクトデモクラシーの<br />
手 続 きの 管 理 者 です。<br />
この 役 割 は、 正 しく 効 率 的 にイニシアチブやレファレンダムや<br />
他 の 政 治 参 加 へのツールを 利 用 するためのカギとなります。な<br />
ぜなら、あなたが 全 ての 工 程 を 最 初 から 最 後 まで 的 確 に 行 う 責<br />
任 を 担 っているからです。 管 理 者 として、あなたはダイレクト<br />
デモクラシーのプロセスを 守 り、 従 事 しなくてはなりません。<br />
そして、 全 てのダイレクトデモクラシーに 関 連 する 規 則 に 精 通<br />
していなくてはなりません。このパスポートを 読 むことで、 全<br />
体 像 を 理 解 することができるでしょう。<br />
◦ 私 は 現 代 のダイレクトデモクラシーのツールの<br />
デザイナーです。<br />
市 民 の 立 法 への 直 接 参 加 に 関 する 規 制 を 制 定 したり、 発 展 させ<br />
たり、 定 義 したり、 調 整 したりするのはとても 難 しい 立 場 であ<br />
り、 参 加 型 で 直 接 的 なデモクラシーの 選 択 肢 や 制 限 に 対 しての<br />
偏 見 のない 思 考 と 深 い 見 識 を 必 要 とします。このパスポートに<br />
記 載 されているさまざまな 推 奨 を 学 ぶことはとても 役 に 立 つこ<br />
とでしょう。<br />
◦ 私 は 現 代 のダイレクトデモクラシーの 反 対 者 です。<br />
自 発 的 な 市 民 活 動 や 参 加 型 デモクラシーに 対 して<br />
懐 疑 的 な 人 達 には、このパスポートは 様 々なツールやプロセス<br />
の 情 報 を 提 供 します。これらは、 世 界 のさまざまな 場 所 でどん<br />
どん 需 要 が 増 えている 現 代 のダイレクトデモクラシーについて<br />
語 る 上 で 役 に 立 つでしょう。<br />
9
ステップ2<br />
どこであなたは 参 加 する<br />
権 利 を 行 使 しますか?<br />
◦ 地 域 レベルで<br />
大 抵 の 民 主 的 な 社 会 では、 地 域 の 行 政 がとても<br />
重 要 な 役 割 を 担 います。 教 育 、インフラ、 社 会 福 祉 、ごみ<br />
処 理 、 水 道 の 管 理 などを 担 っているかもしれません。 大 き<br />
な 都 市 は 自 治 会 や 地 区 レベルの 行 政 機 関 を 設 立 していて、<br />
市 民 が 予 算 会 議 に 参 加 する 仕 組 みがあったりもするでしょ<br />
う。 地 域 のコミュニティーは 一 番 大 胆 に 参 加 型 で 直 接 的 な<br />
デモクラシーの 手 法 を 導 入 している 場 です。 現 在 、 世 界 の<br />
半 分 の 国 が 地 域 のダイレクトデモクラシーを 提 供 してお<br />
り、そのうち、ヨーロッパが 一 番 パーセンテージが 高 く、<br />
アフリカ、アメリカ、オセアニア、アジアがあとに 続 いて<br />
います。<br />
◦ 地 方 レベルで<br />
あなたの 住 む 地 方 は 教 育 、 環 境 、 経 済 発 展 、 交 通 網 、<br />
都 市 計 画 などの 特 定 の 分 野 で 非 常 に 突 出 しているかもしれま<br />
せん。 連 邦 管 轄 において(それぞれの 地 方 政 府 が 強 い 力 を 持<br />
つ 構 造 の 国 の 場 合 ) 州 は 憲 法 の 制 定 や 国 際 協 力 の 面 で 独 立 し<br />
た 幅 広 い 権 限 を 持 っていることがあります。このような 地 方<br />
の 幅 広 い 権 限 は、ダイレクトデモクラシーや 市 民 の 参 加 権 と<br />
しばしば 比 例 しています。アメリカ 合 衆 国 やメキシコを 含<br />
む、いくつかのアメリカの 連 邦 州 政 府 は、イニシアチブとレ<br />
ファレンダムの 権 利 を 地 方 レベルで 提 供 していますが、 国 の<br />
レベルではそれらの 権 利 は 制 限 されています。<br />
10
ステップ2<br />
◦ 国 レベルで<br />
国 民 国 家 は 世 界 の 統 治 において 主 導 的 な 役 割 を<br />
果 たし、すべての 政 治 レベルでの 意 思 決 定 の 主 要 な 源 泉 で<br />
す。 この 役 割 が 優 位 なことは、 国 が 公 共 の 資 源 を 管 理 し、<br />
公 共 政 策 をつくり、 政 府 間 の 組 織 においても 決 定 的 な 地 位<br />
があることで 説 明 できます。あなたは 独 立 国 の 市 民 とし<br />
て、 憲 法 、 法 律 または 政 府 規 制 によって 確 立 された 直 接 民<br />
主 的 な 権 利 を 持 つことができます。 今 日 、 約 90%の 国 が 国<br />
レベルで 現 代 のダイレクトデモクラシーを 利 用 していま<br />
す。<br />
◦ 超 国 家 レベルで<br />
国 以 上 の 直 接 的 かつ 参 加 型 の 権 利 はまれです。<br />
例 えば、 国 連 やアフリカ 連 合 のような 団 体 で 発 言 を 望 む 場<br />
合 は、 非 政 府 組 織 (NGO)や 国 の 代 表 を 通 じて 指 示 する 必<br />
要 があります。 NGOは、 現 代 の 技 術 とデジタル 請 願 プラッ<br />
トフォームを 使 って 意 思 決 定 に 影 響 を 与 える 力 がありま<br />
す。 環 境 問 題 に 関 するオーフス 条 約 を 含 む 数 少 ない 国 際 条<br />
約 だけが、 市 民 参 加 と 市 民 のエンパワーメントを 提 供 して<br />
います。いくつかの 機 関 では、 世 界 的 な 調 査 を 使 って 意 見<br />
を 収 集 しています。たとえば、 国 連 は、アジェンダ2030の<br />
優 先 事 項 について、 世 界 中 の 市 民 の 意 見 を 収 集 するために<br />
MyWorldサーベイを 使 いました。<br />
11
ステップ2<br />
あなたの 権 利 を 行 使 しよう<br />
あなたの 権 利 についてもっと 知 るために<br />
International IDEAのダイレクトデモクラシー・<br />
データベースをチェックしてください:<br />
<br />
もう 一 つの 便 利 なリソースはダイレクトデモクラ<br />
シー・ナビケーターです:<br />
<br />
しかし、 目 立 った 例 外 がひとつあります: 欧 州 連 合 。EU<br />
は、 人 口 約 5 億 人 にのぼる28の 加 盟 国 で 構 成 されています<br />
が、 多 くの 直 接 的 かつ 参 加 型 の 権 利 とツールを 提 供 してい<br />
ます。 特 に、 欧 州 市 民 イニシアチブは 新 しい 民 主 主 義 の 領<br />
域 を 壊 し、 欧 州 連 合 (EU) 市 民 にデジタル 技 術 を 使 って<br />
欧 州 への 法 案 を 提 出 する 権 利 を 提 供 しています。<br />
12
ステップ3<br />
あなたのダイレクトデモクラシーの<br />
ツールを 選 ぼう<br />
現 在 、あなたの 意 見 を 反 映 させるための 主 な 直 接 ・ 参 加 型 デモ<br />
クラシーには、 市 民 イニシアチブによるダイレクトデモクラ<br />
シー、 政 府 主 導 の 一 般 投 票 、 他 の 参 加 型 手 段 など、いくつかの<br />
ツールがあります。<br />
◦ 市 民 イニシアチブ<br />
市 民 イニシアチブは、 少 数 の 市 民 に、 法 律 で 考 慮<br />
されるべき 問 題 を 政 治 的 なアジェンダとして 提 示 する 権<br />
利 を 与 えます。しかし、あなたが 住 んでいる 場 所 でこの<br />
権 利 を 行 使 するためには、そのための 特 定 の 規 則 を 理 解<br />
する 必 要 があります。たとえば、 地 域 、 地 方 、 国 家 、ま<br />
たは 国 家 間 など、どのレベルで 市 民 イニシアチブをはじ<br />
める 必 要 があるかを 考 えなければなりません。 提 出 でき<br />
る 問 題 の 種 類 に 関 して 制 限 されることもあります。さら<br />
に、その 地 域 特 有 のやり 方 があるかもしれません。<br />
市 民 によるイニシアチブには 主 に2つのタイプがありま<br />
す。 民 衆 イニシアチブでは、すべての 有 権 者 による 投<br />
票 に 至 るプロセスが 提 供 されます。そうした 場 合 、 市<br />
民 の 提 案 は 決 定 的 、あるいは 勧 告 的 な 一 般 投 票 にかけ<br />
られることになります( 市 民 の 提 案 に 対 して、 選 挙 に<br />
よる 統 治 機 構 による 対 案 が 出 されることも 多 くありま<br />
す)。 一 方 、アジェンダ・イニシアチブは、 市 民 は 提<br />
案 をすることしかできません。 一 般 投 票 にかけられ<br />
ず、その 提 案 が 選 挙 で 選 ばれた 統 治 機 構 によって 議 論<br />
されるにとどまります。 他 にも 請 願 など 市 民 イニシア<br />
チブには 様 々な 名 前 がついていることがあります。<br />
13
ステップ3<br />
◦ 民 衆 レファレンダム<br />
市 民 イニシアチブはダイレクトデモクラシーを<br />
先 導 的 に 進 める「アクセル」のようなもので、 民 衆 レ<br />
ファレンダムは 抵 抗 的 な「ブレーキ」のようなもので<br />
す。 典 型 的 には、 民 衆 レファレンダムは、 少 数 派 の 市 民<br />
に、 選 挙 で 選 ばれた 統 治 機 関 による 規 制 や 法 律 、または<br />
憲 法 事 項 の 決 定 に 対 して、 全 有 権 者 の 最 終 的 な 一 般 投 票<br />
にかける 権 利 を 与 えています。<br />
それと 同 時 に、 民 衆 レファレンダムのプロセスは、いつ、<br />
どこで、どのように 登 録 、 署 名 収 集 、 提 出 すべきかなど、<br />
形 式 上 の 制 限 が 市 民 イニシアチブの 過 程 と 似 ています。<br />
民 衆 レファレンダムの 権 利 には、 新 しく 制 定 された 法 律 や<br />
既 存 の 法 律 に 対 して、 市 民 の「チェック 機 能 」が 含 まれ<br />
ており、 決 定 的 な( 拘 束 力 のある)または 勧 告 的 ( 拘 束<br />
力 のない)レファレンダムにつながる 可 能 性 がありま<br />
す。 実 際 、 市 民 イニシアチブとレファレンダムは、 同 じ<br />
法 的 規 定 の 下 で 行 われ、 全 く 新 しいものを 提 案 したり、<br />
すでに 存 在 しているものを 廃 止 する 選 択 肢 を 提 供 する 司<br />
法 的 権 利 があります。さらに、「リコール」と 呼 ばれる<br />
民 衆 レファレンダムの 一 種 は、 選 挙 で 選 ばれた 代 表 者 を<br />
追 放 することを 可 能 にしています。<br />
14
ステップ3<br />
◦ 義 務 的 レファレンダム<br />
現 代 ダイレクトデモクラシーの 三 つ 目 のツールは、<br />
法 的 に 強 制 されたレファレンダムです。 署 名 を 集 める 必 要<br />
はありません。 特 定 の 課 題 について、 全 ての 有 権 者 から 広<br />
く 意 見 を 聞 くために 行 われます。 主 に、 義 務 的 レファレン<br />
ダムは、 課 税 問 題 や 憲 法 の 変 更 などの 重 要 な 課 題 がさしせ<br />
まっている 場 合 に 行 われます。そのような 投 票 は 決 定 的 な<br />
( 拘 束 力 のある)または 勧 告 的 な( 拘 束 力 のない)もので<br />
ある 可 能 性 があります。<br />
◦ 政 府 主 導 の 一 般 投 票<br />
大 統 領 、 政 府 、 議 会 などの 選 挙 による 統 治 機 構 が<br />
投 票 を 命 じることもあります。これらの 国 民 投 票 はプレビ<br />
シットと 呼 ばれています。 義 務 的 レファレンダムと 同 様<br />
に、 投 票 する 前 に 署 名 を 集 める 必 要 はありません。 決 定 的<br />
な( 拘 束 力 のある)または 勧 告 的 な( 拘 束 力 のない) 結 果<br />
が、 全 ての 有 権 者 によってもたらされます。 実 際 には、あ<br />
なたの 投 票 が 影 響 を 及 ぼす 可 能 性 もありますが、 単 に 政 府<br />
への 勧 告 と 見 なされるかもしれません。<br />
◦ 参 加 型 民 主 制 の 他 のかたち<br />
他 の 多 くの 参 加 型 民 主 制 の 形 態 は、すべての 政 治 的<br />
レベルで 存 在 します。これらは、 市 民 の 対 話 、 参 加 型 予 算 編<br />
成 、タウン・ミーティング、または 電 子 請 願 と 討 論 型 世 論 調<br />
査 などの 民 主 的 プロセスによって、 主 に 対 話 を 通 して 広 がっ<br />
ていきます。この 種 の 参 加 型 プロセスは、 正 式 なダイレクト<br />
デモクラシーの 手 続 を 補 い、 市 民 や 政 府 を 起 点 にした 独 立 型<br />
の 仕 組 みとして 機 能 することがあります。<br />
15
イ ニ シ ア チ ブ を 行 う<br />
市 民 イニシアチブ<br />
市 民 イニシアチブは、 帝 国 時 代 の 中 国 で、すべての 市 民 が<br />
皇 帝 に 提 案 または 苦 情 などの 請 願 をすることから 始 まりまし<br />
た。しかしこれらの 請 願 には 正 式 な 拘 束 力 はありませんでし<br />
た。18 世 紀 後 半 のフランス 革 命 の 後 、 市 民 は 署 名 を 集 めるこ<br />
とで、 新 しい 法 律 を 制 定 するために 正 式 にイニシアチブ( 発<br />
議 )ができると 初 めて 国 の 憲 法 に 書 かれました。<br />
現 在 では、 市 民 イニシアチブはスイスや 米 国 などの 連 邦 国<br />
で、 最 も 頻 繁 に 行 われています。スイスは、1891 年 の 憲 法 改<br />
正 によって、 全 国 規 模 の 市 民 イニシアチブ 権 を 導 入 しまし<br />
た。それから2017 年 中 頃 までに、200 以 上 の 市 民 イニシアチブ<br />
が 一 般 投 票 にかけられました。(スイス 連 邦 事 務 局 2017)<br />
米 国 における 市 民 イニシアチブ 権 は、20 世 紀 初 めに 州 と 地 方<br />
レベルに 広 がりました(1898 年 のサウスダコタ 州 が 初 )。し<br />
かしその 権 限 はまだ 国 家 レベルに 達 していません。<br />
20 世 紀 初 め、ヨーロッパの 多 くの 新 しい 民 主 主 義 国 が 市 民<br />
イニシアチブ 権 を 国 の 憲 法 に 導 入 しましたが、 独 裁 と 戦 争 が<br />
大 陸 を 席 巻 したので、これらの 権 利 は 何 十 年 も 姿 を 消 してし<br />
まいました。1989 年 以 降 はヨーロッパだけでなく、ラテンア<br />
メリカやアジアの 多 くの 国 々でも、さまざまな 形 式 で、 再 び<br />
行 われるようになってきています。 最 近 では、アルゼンチ<br />
ン、カナダ、ドイツ、メキシコなどの 連 邦 諸 国 において、 市<br />
民 イニシアチブ 権 が 急 速 に 広 がっています。<br />
(Altman 2011)<br />
16
イニシアチブを 行 う<br />
市 民 イニシアチブ 権 は、しばしば 市 民 が 自 治 体 、 地 方 、ま<br />
たは 国 の 政 治 的 アジェンダを 設 定 する 手 段 として 見 られま<br />
す。 国 際 的 な 欧 州 レベルでは、2012 年 に 欧 州 市 民 イニシアチ<br />
ブ(ECI)が 初 めて 制 定 されましたが、それはアジェンダ 設 定<br />
に 限 定 されており、 一 般 投 票 をともないません。 他 にもオー<br />
ストリア、ブラジル、フィンランド、モロッコ、スペイン、<br />
タイなどの 多 くの 国 で、このようなアジェンダ 設 定 のみの 権<br />
利 が 認 められています。( 図 2. 参 照 )<br />
図 2. 世 界 の 市 民 イニシアチブ<br />
幅 広 く 使 用 している 国 と 地 域 :ドイツ、ハンガリー、リヒテンシュタイン、<br />
パラオ、サンマリノ、スロバキア、スイス、 台 湾 、 米 国<br />
使 用 している 国 と 地 域 :オーストリア、ブルガリア、カナダ、コスタリカ、<br />
フィンランド、イタリア、ラトビア、リトアニア、マルタ、マーシャル 諸 島 、<br />
ミクロネシア、ニュージーランド、フィリピン、ポーランド、スペイン、ス<br />
ウェーデン、ウルグアイ<br />
17
イニシアチブを 行 う<br />
市 民 イニシアチブの 取 り 組 み<br />
ウルグアイでは、 有 権 者 の10%の 市 民 により、 憲 法<br />
修 正 案 を 提 案 できる 権 利 があります。 最 終 投 票 には<br />
市 民 は 強 制 的 に 参 加 させられ、 有 権 者 の 少 なくとも35%が 提<br />
案 を 承 認 した 場 合 、その 改 革 が 進 められます。2014 年 10 月 26<br />
日 、 犯 罪 の 最 低 年 齢 を18 歳 から16 歳 まで 引 き 下 げる 憲 法 改 正<br />
案 が 市 民 イニシアチブで 提 出 されました。しかしその 提 案<br />
は、 投 票 者 の53%が 拒 否 しまた。(2014 年 のウルグアイ 選 挙<br />
裁 判 所 )<br />
スイスでは、 連 邦 憲 法 を 改 正 するイニシアチブを 行 うた<br />
めには、 少 なくとも10 万 人 の 有 権 者 の 署 名 を18ヶ 月 以 内<br />
に 集 める 必 要 があります。その 後 の 一 般 投 票 では、 主 催 側 は 二<br />
つの 過 半 数 ( 投 票 総 数 の 過 半 数 と26の 連 邦 州 (カントン)の<br />
過 半 数 )を 得 なければなりません。また、 法 定 市 民 のイニシア<br />
チブ 権 は、すべての 州 (カントン)で 認 められていますが、 連<br />
邦 レベルでは 利 用 できません。【 訳 注 3】2016 年 6 月 5 日 、 全 住<br />
民 の 無 条 件 のベーシック・インカムを 得 る 権 利 を 導 入 する 市 民<br />
イニシアチブが、 全 国 的 な 一 般 投 票 にかけられました。 投 票 者<br />
の 約 77%( 投 票 率 は47%)が、この 憲 法 改 正 を 拒 否 しまし<br />
た。(スイス 連 邦 事 務 局 2016 年 )<br />
18
イニシアチブを 行 う<br />
米 国 のオレゴン 州 では、 市 民 のイニシアチブによ<br />
り、 新 しい 法 律 や 憲 法 改 正 を 提 案 することができま<br />
す。 主 催 者 は、そのために 直 前 の 州 知 事 選 挙 に 参 加 した 有 権 者<br />
数 の6%( 憲 法 改 正 の 場 合 は8%)に 相 当 する 数 の 署 名 を 収 集 す<br />
る 必 要 があります。2016 年 11 月 8 日 には、4つの 市 民 のイニシア<br />
チブが 提 案 されました。 約 70%の 有 権 者 がウミガメ、クジラお<br />
よびサメを 含 む12 種 類 の 動 物 の 製 品 および 一 部 の 販 売 を 禁 止 す<br />
る 取 り 組 みを 支 持 しました。(オレゴン 州 務 長 官 、2016 年 )<br />
ニュージーランドでは、 市 民 は 法 的 拘 束 力 のない<br />
一 般 投 票 を 提 案 することができます。そのために<br />
は、 国 の 有 権 者 の 少 なくとも10%が1 年 以 内 に 提 案 書 に 署 名 を<br />
することが 必 要 です。2013 年 後 半 には、 国 有 エネルギー 会 社<br />
の 一 部 を 民 営 化 する 政 府 の 計 画 に 対 して、 主 催 者 は310,000 以<br />
上 の 署 名 を 集 め、11 月 22 日 から12 月 13 日 にかけて 郵 便 投 票 が<br />
行 われました。 投 票 率 は45%で 投 票 者 の3 分 の2 以 上 が 反 対 に<br />
投 じました。(ニュージーランド 選 挙 委 員 会 2013)<br />
オーストリアは、 少 なくとも10 万 人 の 市 民 の 要 求 に<br />
より、 国 レベルでの 新 たな 法 律 案 を 提 出 するアジェ<br />
ンダ・イニシアチブ 権 が 認 められています。 提 出 されたイニ<br />
シアチブは 議 会 で 必 ず 検 討 されます。1960 年 代 半 ば 以 来 、<br />
オーストリアでは 全 部 で40の 全 国 的 なアジェンダ・イニシア<br />
チブが 行 われてきました。このうち34のイニシアチブは、 指<br />
定 された 期 間 内 に 少 なくとも10 万 の 署 名 を 収 集 しました。<br />
2017 年 1 月 、オーストリアが 米 国 とカナダとの2つの 自 由 貿 易<br />
協 定 に 加 盟 することに 反 対 するイニシアチブには562,552の 署<br />
名 が 集 まりました。(オーストリア 内 務 省 2017 年 )<br />
19
イ ニ シ ア チ ブ を 行 う<br />
モロッコでは、2011 年 の 憲 法 で 市 民 の 立 法 動 議 権 を<br />
規 定 しています( 第 14 条 )。しかし、この 憲 法 上 の<br />
基 本 権 を 市 民 が 行 使 できるような 実 施 法 はまだ 策 定 されてい<br />
ません。<br />
欧 州 連 合 レベルでは、 市 民 のイニシアチブはアジェ<br />
ダ 設 定 の 権 限 に 限 定 されています。7つの 加 盟 国 から<br />
合 計 100 万 人 のEU 市 民 の 賛 同 を 得 ることにより、EU 全 体 の 立<br />
法 案 を 提 出 する 権 利 が 認 めてられています。その 署 名 は、<br />
ネット 上 、もしくは 署 名 用 紙 で1 年 以 内 に 集 められなければな<br />
りまません。 2012 年 以 来 、EUで60 以 上 の 市 民 イニシアチブ<br />
が 起 こりましたが、そのうち、わずか4つがEUの 意 思 決 定 プ<br />
ロセスに 参 加 するための 十 分 な 賛 同 を 集 めることができまし<br />
た。 最 近 では2017 年 の 夏 にグリホサートベースの 除 草 剤 の 禁<br />
止 を 要 求 したイニシアチブが 成 功 裏 に 欧 州 委 員 会 に 提 出 され<br />
ました。<br />
20
レファレンダムを 行 なう<br />
民 衆 ファレンダム<br />
市 民 が 議 会 の 決 定 を 確 認 または 撤 回 するために 行 う 一 般 投<br />
票 は 今 日 のイタリアとスイスのアルパイン 渓 谷 において 近 代<br />
前 から 引 き 継 がれています。ここでは、それぞれの 谷 の 代 表<br />
者 が 中 央 の 町 に 集 まって 共 通 の 関 心 であるさまざまな 問 題 に<br />
ついて 議 論 した 後 に、その 決 定 を 自 分 たちのコミュニティに<br />
もち 帰 りました。 代 表 者 は 自 分 の 仕 事 をラテン 語 の 用 語<br />
"refe-rendum"(「もち 帰 る」)を 用 いて 表 しました。<br />
その 後 、 近 代 国 家 は、 特 にスイスと 米 国 の 地 方 レベルで、<br />
民 衆 の 拒 否 権 を 投 票 所 で 利 用 し 始 め、 選 挙 で 選 ばれた 政 権 に<br />
対 して、 効 率 的 で 民 主 的 なチェックがされるようになりまし<br />
た。スイスでは1848 年 に( 義 務 的 レファレンダムで 承 認 され<br />
た) 共 通 の 憲 法 を 制 定 する 前 でさえも、いくつかの 州 はすで<br />
に1830 年 にザンクトガレンの 市 と 州 で 始 まった 独 自 の 民 集<br />
レファレンダムの 投 票 手 続 きを 導 入 していたのです。<br />
民 衆 レファレンダムの 理 念 と 実 践 は、1874 年 にスイスの 全<br />
国 レベルで 最 初 に 採 択 されましたが、それは 国 の 憲 法 のイニ<br />
シアチブ 権 が 確 立 される17 年 前 でした。アルプスからオース<br />
トラリア、ロシア、 米 国 へ 移 住 した 人 々はそのレファレンダ<br />
ムの 考 え 方 をそれぞれの 地 に 持 ち 込 みました。 革 命 的 なロシ<br />
アはこの 現 代 のダイレクトデモクラシーのツールのための 実<br />
りある 土 壌 を 育 みませんでしたが、オーストラリアと 米 国 は<br />
20 世 紀 初 めに 州 レベルで 民 衆 レファレンダムを 導 入 しまし<br />
た。<br />
21
レファレンダムを 行 なう<br />
民 衆 レファレンダムは 政 府 に 対 して、 間 接 的 にしか 影 響 を<br />
及 ぼしません。しかし 民 衆 レファレンダムの 可 能 性 があるこ<br />
とで、 選 挙 で 選 ばれた 統 治 機 構 は、 住 民 の 要 求 に 対 してより<br />
積 極 的 に 対 応 する 傾 向 にあります。<br />
図 3. 世 界 の 民 衆 レファレンダム<br />
広 く 使 用 している 国 :イタリア、ラトビア、サンマリノ、スロベニ<br />
ア、スイス、 合 衆 国<br />
使 用 している 国 :ボリビア、ドイツ、リヒテンシュタイン、ルクセ<br />
ンブルク、マルタ、メキシコ、オランダ、ウルグアイ<br />
22
共 同 アクション<br />
一 人 でやらなくてもいいのです<br />
市 民 イニシアチブの 一 般 投 票 は(アジェンダ・イニシアチブ<br />
やリコールの 取 組 みと 同 じように)あなたの 提 案 を 政 府 に、そ<br />
して 最 終 的 には 全 有 権 者 に 提 出 する 前 に、 市 町 村 、 地 域 、また<br />
は 国 の 特 定 数 の 市 民 の 支 持 を 集 める 必 要 があります。<br />
いつ、どのようにあなたが 支 持 声 明 書 等 を 集 める 準 備 をし、<br />
実 施 をしてフォローする 必 要 があるのかは、 特 定 の 区 域 とその<br />
ツールに 大 きく 依 存 します。 支 持 声 明 には 紙 面 の 署 名 、 電 子 承<br />
認 、 時 には 役 人 や 公 証 人 が 監 督 する 公 的 な 場 所 での 個 人 による<br />
記 入 さえも 含 まれます。 従 って、 特 定 のケースでどのような 種<br />
類 の 問 題 が 提 起 されるかについての 必 要 な 知 識 とともに、 場 合<br />
によっては、 長 期 的 でコストもかかる 署 名 収 集 過 程 に 関 連 する<br />
すべての 項 目 を 調 査 して 準 備 する 必 要 があります。<br />
おおむね( 例 えば、 議 会 の 決 定 を 撤 回 するための) 民 衆 レ<br />
ファレンダムよりも、( 新 しい 法 令 または 改 正 案 を 提 案 するた<br />
めの) 市 民 イニシアチブを 使 用 すれば、 署 名 収 集 プロセスに 利<br />
用 可 能 な 時 間 がより 長 くなります。<br />
その 理 由 は 二 つのツールの 異 なった 機 能 によります。つま<br />
り、 市 民 イニシアチブは 可 能 な 限 りの 新 しい 考 えを 促 進 するた<br />
めに 考 えられた 事 前 のプロセスであり、 一 方 民 衆 レファレンダ<br />
ムは 既 存 の 法 律 や 議 会 の 決 定 をチェックすることを 意 味 してい<br />
るからです。(Box1 参 照 ) 民 衆 レファレンダムにおいては、<br />
できるだけ 早 く 一 般 投 票 を 求 めるのが 理 にかなっていますが、<br />
市 民 イニシアチブのプロセスは 最 終 的 な 一 般 投 票 が 予 定 される<br />
前 に( 長 くて 詳 しい 審 議 を 含 んで) 数 年 かかることもあるかもし<br />
れません。<br />
23
共 同 アクション<br />
同 じことはリコールとは 対 照 的 に、アジェンダ・イニシア<br />
チブの 支 持 を 集 めることにも 当 てはまります。 市 民 によるア<br />
ジェンダ・イニシアチブは、 一 定 期 間 内 に 署 名 などを 集 め、<br />
統 治 機 構 に 政 策 論 点 を 議 論 するよう 要 求 することを 目 的 とし<br />
ていますが、 市 民 によるリコール 運 動 は、 選 挙 による 公 職 の<br />
権 限 を 停 止 するために 一 般 投 票 をすることを 求 めます。<br />
Box1<br />
ダイレクトデモクラシーの 先 導 ・ 抵 抗 ツール<br />
先 導 ツール<br />
市 民 イニシアチブ<br />
アジェンダ・イニシアチブ<br />
抵 抗 ツール<br />
民 衆 レファレンダム<br />
リコール<br />
あなたは 署 名 収 集 プロセスを 非 常 に 慎 重 に 準 備 する 必 要 があ<br />
ります。 実 際 には、これにはオンライン 署 名 収 集 システムの 設<br />
定 と 認 証 が 含 まれます( 多 国 籍 の 欧 州 市 民 イニシアチブの 場 合<br />
も 同 様 )。あるいは、( 米 国 の 一 部 の 州 、 特 にカリフォルニア<br />
の 場 合 のように) 署 名 収 集 の 専 門 家 を 雇 うこともあります。ま<br />
た、 署 名 を 正 式 に 検 証 してもらうために、 収 集 したすべての 署<br />
名 をあなたの 支 持 者 の 地 方 自 治 体 、 地 域 または 国 に 送 り 返 す 責<br />
任 もあるかもしれません。<br />
市 民 が 起 点 となるダイレクトデモクラシーのプロセスを 組 織<br />
し、 支 援 し、 管 理 して 見 守 ることは、 非 常 に 熟 慮 が 必 要 で、 民<br />
主 的 に 有 益 な 経 験 かもしれませんが、 準 備 、 法 律 知 識 、 財 政 的<br />
な 能 力 と 忍 耐 が 必 要 とされます。<br />
24
マイルストーン<br />
参 加 しよう: 段 階 的 に 進 めるためのガイド<br />
市 民 から 始 動 する 形 の 現 代 のダイレクトデモクラシーは、<br />
担 当 する 市 民 と、これらの 手 続 きを 承 諾 し 監 視 する 人 々とに<br />
よる 一 連 の 行 動 を 常 に 必 要 とします。 一 般 に、このような 行<br />
動 に 対 してカギとなる 少 なくとも10の 段 階 と 特 質 がありま<br />
す。<br />
1 知 識 を 得 る。 利 用 可 能 な 手 続 きについての 市 民 への 適 切<br />
な 情 報 は、そのプロセスの 合 理 的 な 使 用 のための 重 要 な<br />
前 提 条 件 です。<br />
2<br />
3<br />
アイデアを 発 展 させる。 選 択 された 特 定 の 手 段 に 応 じ<br />
て、 選 挙 で 選 ばれた 統 治 機 構 の 決 定 を 確 認 するために<br />
市 民 は 自 らの 政 策 提 案 や 政 治 的 取 り 組 みをしなければ<br />
なりません。<br />
組 織 する。イニシアチブやレファレンダムのような 市 民<br />
参 加 型 のプロセスを 申 請 し、 実 施 する 前 に 組 織 化 しま<br />
す。 多 くの 場 合 は 集 団 として 認 知 される 必 要 がありま<br />
す。<br />
4<br />
5<br />
登 録 する。これは、このプロセスを 公 的 に 行 うための 正<br />
式 なステップです。(この 段 階 で、 合 法 性 、 正 当 性 が 審<br />
査 されるかもしれません。)<br />
支 持 を 受 ける。 次 のステップに 進 むために、 特 定 の 時 間<br />
内 に 法 律 に 従 った 方 法 で 十 分 な 署 名 や 声 明 を 集 めます。<br />
6<br />
提 案 を 提 出 する。 所 轄 官 庁 に 必 要 な 支 持 証 明 を 提 出 し、<br />
それを 確 認 して 法 的 に 有 効 であると 認 めてもらいます。<br />
25
マイルストーン<br />
7<br />
他 者 と 関 わる。 市 民 主 導 のプロセスが 政 治 的 アジェンダ<br />
の 公 式 な 案 件 となったら、 政 府 との 交 渉 と 議 論 が 行 われ<br />
るかもしれません。<br />
8<br />
9<br />
10<br />
キャンペーン。 的 確 なプロセスに 応 じて、( 政 府 機 関 ま<br />
たは 全 有 権 者 のいずれかによる) 決 定 に 先 立 って 定 めら<br />
れた 規 則 に 従 ってキャンペーンを 行 います。<br />
一 般 投 票 を 行 う。 全 有 権 者 は、 決 定 を 下 すように 求 め<br />
られます(または、 拘 束 力 のない 票 の 場 合 は、その 勧 告<br />
を 求 められる)。<br />
結 果 を 履 行 する。 投 票 を 度 外 視 する 政 府 が 一 般 投 票 に 反<br />
対 したり 回 避 したりする 方 法 を 探 す 可 能 性 があるため、<br />
このステップはしばしば 最 も 困 難 です。<br />
もちろん、 市 民 主 導 の 現 代 のダイレクトデモクラシーのプ<br />
ロセスの 期 間 は、 数 日 から 数 年 まで 大 きく 変 動 する 可 能 性 が<br />
あります。どのような 場 合 でも、 関 係 するルールや 問 題 が 何<br />
であれ、あなたの 積 極 的 な 参 加 と 関 与 はダイレクトデモクラ<br />
シーを 達 成 するプロセスにとって 重 要 です。<br />
26
あ な た の 投 票 が 必 要 で す<br />
義 務 的 レファレンダム: 法 律 が<br />
「 国 民 によって」と 定 めるとき<br />
最 も 一 般 的 で 広 く 実 践 されている 現 代 のダイレクトデモクラ<br />
シーの 形 式 は 義 務 的 レファレンダム、つまり 署 名 集 めを 必 要 と<br />
しない 法 律 をきっかけとした 一 般 投 票 です。<br />
International IDEAのダイレクトデモクラシー・データベー<br />
スによると、 世 界 192カ 国 のうち111カ 国 には 全 国 的 なレファ<br />
レンダムの 規 定 があります。ほとんどの 場 合 、これらの 規 定<br />
は、 国 の 憲 法 の 改 訂 、 修 正 、 改 正 に 紐 づけされています。いく<br />
つかの 区 域 では、 国 際 協 定 や 超 国 家 組 織 への 加 盟 に 関 連 して 義<br />
務 的 なレファレンダムが 必 要 です。<br />
義 務 的 ( 憲 法 上 の)レファレンダムという 考 え 方 は、 米 国 の<br />
独 立 の 時 代 にまでさかのぼります。 最 初 のそうした 一 般 投 票 は<br />
アメリカの 植 民 地 コネチカットで1639 年 に 行 われましたが、<br />
その 次 は1770 年 代 にマサチューセッツ 州 とニューハンプシャ<br />
ー 州 で 憲 法 のレファレンダムが 行 われるまでありませんでし<br />
た。 最 初 の 真 の「 全 国 的 な」 投 票 は、モナコ、ベルギー、スイ<br />
スなど1790 年 代 後 半 にフランスの 影 響 を 受 けた 国 や 地 域 で 行<br />
われました。(Kaufmann et al. 2010)<br />
多 くの 連 邦 国 家 では、 義 務 的 レファレンダムは 憲 法 の 変 更 と<br />
法 令 の 改 定 または 公 的 支 出 の 提 案 ( 課 税 など)の 両 方 をカバー<br />
しています。 強 力 なダイレクトデモクラシーの 制 度 は、 市 民 に<br />
当 事 者 としての 主 体 性 を 生 み 出 すことができます。<br />
27
あなたの 投 票 が 必 要<br />
義 務 的 レファレンダムの 規 定 は、 政 府 が 政 策 決 定 プロセスの<br />
早 い 段 階 で 対 応 する 機 会 を 増 やすのにも 役 立 ちます。<br />
図 4. 世 界 の 義 務 的 レファレンダム<br />
包 括 的 に 使 用 している 国 :オーストラリア、バハマ、ボツワナ、アイ<br />
ルランド、 日 本 、 韓 国 、ミクロネシア、パラオ、スイス<br />
使 用 している 国 :アルゼンチン、ボリビア、デンマーク、ドイツ、グ<br />
アテマラ、アイスランド、イタリア、リベリア、リトアニア、モルジ<br />
ブ、マーシャル 諸 島 、メキシコ、ミクロネシア、ルーマニア、スロバ<br />
キア、スウェーデン、トルコ、ウルグアイ、 合 衆 国<br />
28
混 合 方 式<br />
プレビシット:<br />
トップダウンの 合 成 物<br />
ときどきダイレクトデモクラシーは、 市 民 が 参 加 を 求 めらた<br />
り、 時 には 義 務 付 けられたりする 一 般 投 票 プロセスを 表 すのに<br />
使 われることもあります。 一 般 投 票 は、 市 民 の 関 与 なしに、 選<br />
挙 で 選 ばれた 統 治 機 構 、 大 統 領 や 政 府 、または 議 会 によって 始<br />
められることもあります。これが 私 たちがプレビシットと 呼 ぶ<br />
ものです。<br />
実 際 、1793 年 以 来 全 世 界 で 行 われた 国 規 模 の1700の 一 般 投<br />
票 の 大 多 数 はプレビシットでした。しばしば、プレビシットは<br />
国 の 憲 法 で 規 定 されてもいないのに、 行 政 部 門 が 立 法 府 を 迂 回<br />
する 試 みとして 行 われます(Altman 2011)。<br />
それでもプレビシットは、より 確 立 されたデモクラシーの 枠<br />
組 みにも 存 在 します。レファレンダムとプレビシットの 主 な 違<br />
いはこのようにまとめられます:レファレンダムは( 市 民 自 身<br />
または 法 律 によって 始 められる) 法 律 やイニシアチブに 対 する<br />
民 衆 の 支 持 の 表 明 であり、プレビジットは 政 府 の 望 んでいるこ<br />
とを 正 当 化 することを 意 図 しています。 政 府 のリーダーシップ<br />
そのものを 正 当 化 するために 使 われることもあります。(ヴェ<br />
ニス 委 員 会 2017 参 照 )<br />
歴 史 的 にはプレビシット 型 の 一 般 投 票 は、ときに 独 裁 的 、さ<br />
らには 全 体 主 義 的 なリーダーによって、 権 力 の 強 化 、 任 期 の 延<br />
長 、 非 民 主 的 な 憲 法 改 革 の「 正 当 化 」に 悪 用 されてきました。<br />
1つの 例 は、1934 年 にドイツでアドルフ・ヒトラーによって 遂<br />
行 された 首 相 官 邸 と 大 統 領 府 を 併 合 するプレビシットです。<br />
2014 年 のロシアによるクリミア 半 島 の 併 合 を 促 す 投 票 のよう<br />
な 最 近 のプレビシットでも、 投 票 の 完 全 性 に 対 する 懸 念 がもた<br />
れました。どちらの 場 合 も、 自 由 で 公 平 な 投 票 プロセスという<br />
原 則 は 破 られました。<br />
29
混 合 方 式<br />
現 代 のダイレクトデモクラシーの 強 い 伝 統 を 持 つ 区 域<br />
(スイス、ウルグアイ、 米 国 を 含 む)が、プレビシット 型 の<br />
国 民 投 票 の 行 使 に 関 する 統 計 に 現 れないのは 偶 然 ではありま<br />
せん。トップダウンの 一 般 投 票 の 熱 心 なユーザーには、ボリ<br />
ビア、コロンビア、エクアドル、フランス、ニジェール、<br />
ポーランドなどが 含 まれるからです。<br />
最 近 のプレビジットはそれを 積 極 的 に 準 備 するリーダーに<br />
とって 政 治 的 説 明 責 任 のリスクが 伴 います。 例 えば、イギリ<br />
ス 首 相 のデビット・キャメロンはEU 離 脱 のプレビシットの<br />
後 で 辞 任 し、ハンガリーのビクトル・オーバン 首 相 は 亡 命 希<br />
望 者 に 関 するヨーロッパの 一 般 的 な 政 策 を 無 効 にしようとし<br />
て 失 敗 しました。さらにポピュリストのリーダーが 悪 用 する<br />
可 能 性 があるので、 社 会 の 分 断 を 悪 化 させる 危 険 がありま<br />
す。<br />
端 的 にいうと、プレビジット 型 の 一 般 投 票 はしばしば 現 代<br />
のダイレクトデモクラシーを 理 想 的 に 反 映 しないので、 注 意<br />
深 く 扱 われるべきです。<br />
30
混 合 方 式<br />
リコール: 民 衆 を 混 ぜ 合 わせる<br />
そしてボトムアップの 課 題<br />
政 府 よりむしろ 市 民 がリコールの 投 票 を 起 こします。 典 型<br />
的 には 選 挙 による 公 職 の 任 務 を 終 わらせる 一 般 投 票 を 行 うた<br />
めに、 一 定 数 の 選 挙 人 が 署 名 集 めを 行 います。<br />
リコールは 滅 多 に 使 われない 手 続 きです:10 分 の1に 満 た<br />
ない 国 と 地 域 で 選 挙 による 公 職 をリコールする 条 項 が 憲 法 か<br />
法 律 にあります。ほとんどの 場 合 、 市 民 は、 関 連 する 選 挙 区<br />
(または 大 統 領 をリコールする 場 合 は 全 国 )の 適 格 有 権 者 の<br />
少 なくとも20%の 書 面 による 支 持 を 集 めれば、リコールの 一<br />
般 投 票 を 直 接 起 こすことができます。<br />
例 えば2004 年 のベネズエラでは、ウゴ・チャベス 大 統 領 の<br />
リコールの 最 後 の 一 般 投 票 は、 選 挙 違 反 という 主 張 の 中 で 多<br />
数 をとれませんでした。2016 年 、 独 裁 色 を 強 めるベネズエラ<br />
政 府 はリコールを 中 止 させることさえしました。<br />
(Kennedy 2016)しかし、 他 の 国 では、 選 挙 による 統 治 機<br />
構 だけがリコールを 主 導 し、 一 般 投 票 で 有 権 者 によって 承 認<br />
されます。<br />
市 民 主 導 型 のリコール 手 続 きの 基 本 的 な 考 え 方 は、 選 挙 で<br />
選 ばれた 代 表 者 たちは、 選 んだ 人 たちに 対 して 責 任 を 負 い 続<br />
けなければならないということです。だから、 市 民 は、 代 表<br />
者 が 有 権 者 の 期 待 を 満 たさない 場 合 は、 任 期 終 了 前 に 代 表 者<br />
の 任 務 を 終 了 することを 選 択 できます。 多 くの 場 合 、 単 純 に<br />
選 挙 で 選 ばれた 権 限 とダイレクトデモクラシーの 手 続 きの 堅<br />
固 な 組 み 合 わせが、 選 挙 による 公 職 の 対 応 を 促 します。<br />
31
混 合 方 式<br />
ダイレクトデモクラシーのツールとしてリコールの 一 般 投<br />
票 を 行 うことは、 反 対 するグループが 選 挙 による 公 職 に 取 っ<br />
て 代 わるインセンティブが 生 じるので、どちらかというと 対<br />
決 的 な 手 法 です。 顕 著 な 例 がアメリカのカリフォルニア 州 で<br />
2003 年 に 起 こりました。ここで、 前 回 の 選 挙 で 投 票 した 人 の<br />
12% 以 上 の 署 名 が、グレイ・デイヴィス 知 事 のリコール 投 票<br />
を 支 持 しました。2003 年 10 月 8 日 の 最 終 投 票 では、リコール<br />
は 投 票 者 の55%に 支 持 されました。アーノルド・シュワ<br />
ルツェネッガーは、134 人 の 候 補 者 の 中 から49%の 得 票 で 勝<br />
利 しました(Mathews 2006)。<br />
リコールの 制 度 は、ほとんど 使 われませんが、アメリカの<br />
地 域 、 地 方 レベルであります。アルゼンチン、コロンビア、<br />
エクアドル、ベネズエラなど 多 くの 中 南 米 諸 国 と 同 様 に、 合<br />
計 18のアメリカの 州 がこのプロセスを 提 供 しています。<br />
32
他 の 方 式<br />
さまざまなやり 方 で 人 々を 巻 き 込 む<br />
伝 統 的 な 間 接 民 主 主 義 の 形 式 に 加 えて、コミュニケ<br />
ーション・ツールとしてインターネットを 大 いに 活 用 してきた<br />
この 過 去 25 年 間 は、 現 代 のダイレクトデモクラシー・ツール<br />
の 実 行 数 と 範 囲 が 世 界 的 に 増 えている 傾 向 があります。より 質<br />
の 高 いデモクラシーへの 要 求 は、 一 層 の 熟 議 と 協 議 型 の 参 加 方<br />
法 を 主 とする 発 展 を 促 しました。これらの 新 しい 考 えの 目 標<br />
は、 頻 繁 に 新 しいデジタル 技 術 を 用 い、 公 的 機 関 と 市 民 の 間 の<br />
対 話 の 機 会 を 増 やしていくことです。<br />
参 加 型 デモクラシーに 巻 き 込 む 手 順 として 有 力 で 良 く 知 られ<br />
ている 例 には、 参 加 型 予 算 編 成 、オンライン 請 願 プラット<br />
フォーム、 審 議 会 などがあります。それぞれの 形 態 は、 選 挙 で<br />
選 ばれた 統 治 機 構 の 裁 量 で 機 能 し、 市 民 が 発 議 するために 認 め<br />
られる 規 則 に 基 づき、そして、 政 府 の 明 確 な 支 援 なしにこれら<br />
の 方 法 を 使 用 します。これらのプロセスはほとんど 個 人 ででき<br />
ることであり( 意 思 決 定 プロセスでは 拘 束 力 のない 役 割 に 限 定<br />
されることが 多 い)、 市 民 のイニシアチブやレファレンダムの<br />
プロセスの 準 備 段 階 としても 使 用 されるかもしれません。<br />
参 加 型 予 算 編 成<br />
参 加 型 の 予 算 編 成 は 世 界 中 で 一 般 的 になっており、 主 に 地 域<br />
レベルですが、 時 には 地 方 や 国 レベルでも 行 われています。 最<br />
初 の 完 全 参 加 型 予 算 編 成 プロセスは、1989 年 、ブラジルのポ<br />
ルト・アレグレで 確 立 され、 自 治 体 予 算 の 一 部 をどのように 使<br />
うかについて 公 的 に 審 議 し 決 定 する 機 会 が 市 民 に 与 えられまし<br />
た。(Participedia <strong>2008</strong>)<br />
33
他 の 方 式<br />
この 方 法 は、 世 界 の 何 千 もの 都 市 に 広 がっています。 特 に 選<br />
挙 で 選 ばれた 統 治 機 構 が 汚 職 の 問 題 を 抱 えるところで。より<br />
最 近 の 例 としては、スペインの 首 都 マドリッドで、 市 民 がイ<br />
ンターネットで 地 域 投 資 の 優 先 順 位 を 特 定 し、デジタル 投 票<br />
を 行 いました(Abati 2017)。<br />
オンライン 請 願<br />
オンライン 請 願 アプリケーションは 人 気 があって 増 えてい<br />
ます。 例 として、 米 国 大 統 領 のオフィスが 主 催 する 請 願 プ<br />
ラットフォーム「We the People」、 英 国 政 府 の 請 願 ウェブ<br />
サイト、およびAvaaz、Change.org、Common Causeなどの<br />
非 公 式 な 国 際 的 な 請 願 ウェブサイトがあります。 街 や 地 方 、<br />
国 、 大 陸 を 越 え、 世 界 全 体 で 同 様 の 考 えをもつ 個 人 や 組 織 を<br />
集 めることにより、 申 請 者 やプラットフォームの 所 有 者 は 将<br />
来 のキャンペーンのために 膨 大 な 量 の 有 用 なデータを 収 集<br />
し、 管 理 することができます。 最 近 の 成 功 例 には、 世 界 気 候<br />
協 定 を 推 進 する 国 際 的 な 請 願 (Avaaz 2016)と、レイプ 被 害<br />
者 の 権 利 を 強 化 することを 求 める 米 国 の 申 請 (Change.org<br />
2016)があります。<br />
審 議 会<br />
タウンホール・スタイルの 審 議 会 もまた 復 活 しています。<br />
ますます 多 くの 国 で、 社 会 環 境 影 響 評 価 プロセスの 背 景 にあ<br />
る 一 般 の 意 見 集 約 が 必 要 となっています。さらに、 自 由 意 思<br />
による 事 前 の 十 分 な 情 報 に 基 づく 同 意 (FPIC)の 実 施 も 増 加<br />
しています。 特 に 意 思 決 定 が 先 住 民 族 やその 他 のマイノリ<br />
ティーの 権 利 に 影 響 を 及 ぼすか、または 影 響 を 及 ぼす 可 能 性<br />
がある 場 合 です。(OHCHR 2013)もう 一 度 言 いますが、こ<br />
のような 形 式 は、その 後 の 議 会 や 一 般 投 票 による 決 定 のため<br />
の 準 備 として 使 用 することもできます。<br />
34
他 の 方 式<br />
現 代 のダイレクトデモクラシーの 憲 法 上 拘 束 力 のあるツー<br />
ルは、 情 報 、 運 営 、 管 理 のための 適 切 な 公 共 インフラストラ<br />
クチャーを 伴 わなければなりません。 歴 史 的 に 政 府 は 一 般 投<br />
票 日 の 間 に 市 民 による 参 加 型 インプットに 対 応 するのが 遅<br />
かった。しかし、 世 界 各 地 のますます 多 くの 都 市 や 地 域 にお<br />
いて、 政 府 はアクティブな 市 民 により 開 放 的 な 姿 勢 で 対 処 し<br />
始 めています。 韓 国 のソウル 市 は、 市 役 所 という 名 前 を 市 民<br />
ホールに 変 更 し、 人 々に 場 所 を 提 供 し、 仕 事 を 支 援 していま<br />
す。ベルン 州 とベルン 市 はデモクラシー・センターを 設 け、<br />
自 由 な 形 式 の 参 加 型 インフラをすべての 人 に 提 供 し、マイノ<br />
リティーや 疎 外 されたグループの 声 が 聞 こえるようにしてい<br />
ます。<br />
参 加 型 のツールとサポートでダイレクトデモクラシーの 権<br />
利 を 置 き 換 えることはできませんが、それを 補 完 することは<br />
できます。 同 じように、 市 民 のイニシアチブやレファレンダ<br />
ムを 含 む 現 代 のダイレクトデモクラシーのツールは、 代 議 制<br />
民 主 主 義 に 取 って 代 わることはできませんが、 現 代 民 主 主 義<br />
の 主 要 な 柱 である 政 党 とともに、 代 議 制 をより 機 能 させるの<br />
に 貢 献 します。<br />
35
ギ ャ ッ プ に 注 意 す る<br />
どのように 現 代 のダイレクトデモクラシー<br />
を 機 能 させるか<br />
多 くの 国 では、ダイレクトデモクラシーの 参 加 ツールには<br />
署 名 を 収 集 するための 非 常 に 短 い 時 間 枠 や 面 倒 な 書 類 提 出 の<br />
要 求 など 制 限 があります。 問 題 に 関 する 投 票 手 続 には、 高 い<br />
定 足 投 票 率 が 含 まれることもあり、 市 民 投 票 が 有 効 とみなさ<br />
れる 可 能 性 は 限 られています。 決 定 は 拘 束 力 のないものとみ<br />
なされ、ダイレクトデモクラシーの 正 当 性 を 傷 つける 情 報 操<br />
作 などが 行 われるかもしれません。<br />
長 く 紆 余 曲 折 のある 未 完 のダイレクトデモクラシーの 歴 史<br />
は、 多 くの 新 しい 考 えや 革 新 的 な 対 策 を 生 み 出 しました。 当<br />
初 はそれらは( 例 えば 普 通 選 挙 )も 容 易 に 認 められないもの<br />
でしたが、やがて 自 明 の 不 可 欠 なものになりました。 現 代 の<br />
ダイレクトデモクラシーでも 同 じことが 言 えるでしょう。 今<br />
日 では、ダイレクトデモクラシーについては、 問 題 は 機 能 す<br />
る「かどうか」ではあまりなく、むしろ「どのように」 機 能<br />
させるかです。International IDEAや 法 による 民 主 主 義 の<br />
ための 欧 州 委 員 会 (ヴェニス 委 員 会 ) 等 の 国 際 機 関 や、 各 国<br />
政 府 、NGOや 研 究 機 関 は、 現 代 のダイレクトデモクラシーの<br />
優 秀 な 実 践 例 を 評 価 し、その 主 要 機 能 を 定 義 することにます<br />
ます 関 わっています。<br />
こうした 世 界 的 な 経 験 を 反 映 して、 現 代 のダイレクトデモ<br />
クラシーのあなたの 手 続 きや 実 践 のやりとりにおいて 以 下 の<br />
アドバイスは 役 立 つかもしれません。<br />
36
ギ ャ ッ プ に 注 意 す る<br />
✔ シンプルにする<br />
現 代 のダイレクトデモクラシーの 法 律 や 規 則 を 作 るときは<br />
は、 可 能 な 限 りシンプルで 分 かりやすいものにしてくださ<br />
い。ダイレクトデモクラシーのツールは、 選 挙 で 選 ばれた<br />
統 治 機 構 と 望 ましい 市 民 の 間 の 橋 渡 しをすることを 目 的 と<br />
しているので、プロセスの 定 義 付 けと 規 則 化 に 使 用 される<br />
法 律 用 語 は、 少 数 の 専 門 家 だけではなく 誰 にでも 理 解 可 能<br />
なものにすべきです。<br />
✔<br />
✔<br />
しきい 値 に 注 意 する<br />
現 代 的 なダイレクトデモクラシーのツールは、 社 会 の 主 流<br />
から 取 り 残 された 人 々やマイノリティと 言 われる 人 々が 政<br />
府 に 関 与 し、 多 数 派 の 人 々が 耳 を 傾 ける 機 会 を 与 えます。<br />
こうした 理 由 から、ひどく 高 い 署 名 要 件 ( 例 えば、 選 挙 人<br />
の5~10% 以 上 )は 小 さなグループの 参 加 機 会 を 妨 げ、ダイ<br />
レクトデモクラシーの 影 響 を 制 限 する 可 能 性 があります。<br />
例 えば、スイスでは、 市 民 イニシアチブのために 人 口 の<br />
2%、 一 般 レファレンダムのために 約 1%の 署 名 が 必 要 で<br />
す。 他 の 区 域 では、 要 件 がはるかに 高 い。ウルグアイは 署<br />
名 ( 憲 法 上 のイニシアチブの 場 合 )が10%、 現 行 の 法 律 に<br />
関 する 一 般 レファレンダムの 場 合 は25%の 署 名 が 必 要 で<br />
す。<br />
適 切 な 時 間 を 与 える<br />
合 理 的 な 時 間 制 限 は、より 集 中 的 な 議 論 と 十 分 な 署 名 を 集<br />
める 可 能 性 を 確 かにする 一 方 で、 過 度 に 短 い 時 間 を 割 り 当<br />
てると、 弱 いグループが 議 論 して 効 果 的 に 関 与 する 機 会 を<br />
妨 げます。<br />
37
ギ ャ ッ プ に 注 意 す る<br />
オーストリアでは、アジェンダ・イニシアチブの 主 催 者 は<br />
公 的 機 関 で10 万 の 署 名 を 集 めるのにわずか8 日 間 しかな<br />
く、 隣 のスイスでは 市 民 イニシアチブで 主 催 者 が18ヶ 月 間<br />
で 同 じ 数 の 署 名 を 集 めることができます。その 中 間 にはア<br />
メリカのカリフォルニア 州 があり、 主 催 者 は 資 格 を 持 つ 有<br />
権 者 の 最 低 8%の 署 名 を180 日 以 内 に 集 めます。<br />
✔ 定 足 投 票 率 がないまたは 低 いこと<br />
定 足 投 票 率 は 現 代 のダイレクトデモクラシーの 世 界 で 大 きく<br />
異 なります。 定 足 率 は 活 動 的 な 少 数 派 が 一 般 投 票 をハイジャ<br />
ックすることを 防 ぐことを 想 定 していますが、 選 挙 人 の50%<br />
にも 及 ぶ 定 足 率 のネガティブな 影 響 は 十 分 に 研 究 されていま<br />
す。そのためヴェニス 委 員 会 は、 定 足 投 票 率 を 採 択 しないよ<br />
うに 勧 告 しており、かわりに 特 別 な 必 要 がある 場 合 には、 単<br />
純 な 投 票 者 の 過 半 数 に 加 えて、その 手 段 を 認 めるために 全 選<br />
挙 人 の 一 定 のパーセントを 承 認 投 票 率 とするよう 勧 告 してい<br />
ます。<br />
✔ ダイレクトデモクラシーの 主 題 にはほとんど 制 限 がないこと<br />
原 則 として、 市 民 は 議 会 で 選 出 された 代 表 者 と 同 じ 決 定 権 を<br />
持 つべきです。それでも 政 治 問 題 を 現 代 のダイレクトデモク<br />
ラシーのプロセスから 除 外 しなければならない 場 合 、 禁 止 項<br />
目 のリストを 短 くし、その 除 外 の 理 由 を 明 確 に 示 すべきで<br />
す。イタリアでは、 税 務 問 題 や 国 際 条 約 に 対 して 一 般 投 票 は<br />
認 められておらず、スイスの 一 般 投 票 は、 一 定 の 拘 束 力 のあ<br />
る 国 際 法 では 実 施 できません。<br />
38
ギ ャ ッ プ に 注 意 す る<br />
✔ 拘 束 力 のある 決 定<br />
ダイレクトデモクラシーとは、アジェンダを 設 定 し、 決 定<br />
を 下 すことであり、トップダウンプロセスで 人 々に 意 見 を<br />
求 めることではありません。もう 一 度 、 世 界 的 な 実 践 と<br />
ヴェス 委 員 会 のワークの 両 方 が 明 確 なメッセージを 出 して<br />
います。 勧 告 型 のレファレンダムとトップダウンのプレビ<br />
シットは、デモクラシーをより 民 主 的 にする 理 想 的 な 方 法<br />
ではありません。このようなツールの 主 な 欠 点 は、 参 加 し<br />
た 市 民 が、 投 票 が 行 われたら 何 が 起 きるかほとんど 考 えな<br />
い「 盲 目 的 な 投 票 」をうむリスクがあることです。<br />
✔ 法 律 に 準 拠 する<br />
他 のすべての 選 挙 の 事 項 と 同 じように、 現 代 のダイレク<br />
トデモクラシーの 手 続 きは、 既 存 の 法 的 規 定 および 規 則 の<br />
範 囲 内 で 厳 密 に 処 理 されるべきです。これは、 参 加 プロセ<br />
スと 結 果 をより 受 け 入 れやすく 適 法 なものにします。その<br />
区 域 で 他 の 選 挙 のプロセスに 使 用 されているのと 同 様 に、<br />
自 由 意 志 と 公 平 さの 原 則 と 保 護 が 市 民 イニシアチブやレ<br />
ファレンダムにも 適 用 されるべきです。<br />
自 由 で 公 平 な 選 挙 のための 国 際 基 準 が 既 に 作 成 されていま<br />
す。その 基 準 に 従 いながら 選 挙 は 異 なった 形 態 や 制 度 を 採<br />
用 する 可 能 性 もあります。しかし、 自 由 で 公 平 なイニシア<br />
チブやレファレンダムについて 言 えば、そのような 国 際 基<br />
準 の 完 全 版 はまだ 用 意 できていません。ますます 増 えてい<br />
る 法 的 デザインと 実 践 的 な 経 験 は、ダイレクトデモクラ<br />
シーをどのように、 利 用 可 能 な 方 法 で、 活 用 できるかにつ<br />
いて 多 くの 教 訓 をもたらしています。そして、それらをう<br />
まく 使 うことで、 対 立 やプレビシット、リコールなどの 諸<br />
問 題 を 避 けることができるのです。<br />
39
も っ と 探 す<br />
参 考 文 献<br />
Abati, Y. B., ‘Spain tests new forms of citizen participation’, Swissinfo, 11 April<br />
2017, <br />
Altman, D., <strong>Direct</strong> <strong>Democracy</strong> Worldwide (Cambridge: Cambridge University<br />
Press, 2011)<br />
Austrian Ministry of the Interior, ‘Wahlen: Volksbegehren “Gegen TTIP/CETA”’<br />
[Elections: Referendum against TTIP/CETA], January 2017, <br />
Avaaz, ‘World leaders: protect the Paris Agreement’ [petition], 2016, <br />
Beramendi, V. et al., <strong>Direct</strong> <strong>Democracy</strong>: The International IDEA Handbook<br />
(S<strong>to</strong>ckholm: International Institute for <strong>Democracy</strong> and Elec<strong>to</strong>ral Assistance,<br />
<strong>2008</strong>), <br />
Change.org, ‘Urge Congress <strong>to</strong> support common sense rape survivor rights’<br />
[petition], 2016, <br />
Elec<strong>to</strong>ral Court of Uruguay, ‘Acta No. 9414’ [On the citizens’ initiative proposing<br />
a constitutional amendment <strong>to</strong> lower the minimum age at which a person can<br />
be charged with a crime], <br />
European Commission for <strong>Democracy</strong> through Law (Venice Commission),<br />
‘Elections and referendums, political parties’, [n.d.], <br />
—, ‘Compilation of Venice Commission Opinions and Reports Concerning<br />
Referendums’, 10 March 2017, <br />
International IDEA Constitution-Building Primer No. 3, <strong>Direct</strong> <strong>Democracy</strong>, <br />
40
も っ と 探 す<br />
Kaufmann, B. et al., Guidebook <strong>to</strong> <strong>Direct</strong> <strong>Democracy</strong> in Switzerland and Beyond<br />
(Marburg: Initiative and Referendum Institute Europe, 2010)<br />
Kennedy, M., ‘Venezuelan authorities halt drive <strong>to</strong> recall President Nicolas<br />
Maduro, National Public Radio (USA), 21 Oc<strong>to</strong>ber 2016, <br />
Kornblith, M., ‘<strong>Direct</strong> democracy in Venezuela’, in International IDEA, <strong>Direct</strong><br />
<strong>Democracy</strong>: the International IDEA Handbook (S<strong>to</strong>ckholm: International IDEA,<br />
<strong>2008</strong>)<br />
Leterme, Y., ‘2016: The year of direct democracy?, International IDEA Commentary,<br />
21 December 2016, <br />
Mathews, J., ‘The People’s Machine: Arnold Schwarzenegger and the Rise of<br />
Blockbuster <strong>Democracy</strong>’, Public Affairs, 2006<br />
New Zealand Elec<strong>to</strong>ral Commission, ‘2013 Citizens initiated referendum’,<br />
22 November<strong>–</strong>13 December 2013, <br />
Oregon Secretary of State, ‘November 8, 2016, General Election Abstract of Votes:<br />
Measure 100’, <br />
Participedia, ‘Participa<strong>to</strong>ry Budgeting: Por<strong>to</strong> Alegre 2005<strong>–</strong>07’, 28 November<br />
2009, <br />
Swiss Federal Chancellery, ‘Volksinitiative vom 04.10.2013 «Für ein<br />
bedingungsloses Grundeinkommen»’ [People’s initiative from 10 April 2013,<br />
‘For an unconditional basic income’], 5 June 2016, <br />
—, ‘Übersicht in Zahlen [Overview in figures: Swiss citizens’ initiatives]’, as at<br />
20 July 2017, <br />
United Nations, MyWorld surveys, 2015, <br />
—Office of the High Commissioner for Human Rights, ‘Free, Prior and Informed<br />
Consent of Indigenous Peoples’, September 2013, <br />
41
もっと 探 す<br />
参 考 WEB<br />
Aarhus Convention, <br />
Avaaz, <br />
British Government, Petitions website, <br />
Change.org, <br />
City of Seoul, ‘Citizen’s Hall’, <br />
Common Cause, <br />
<strong>Democracy</strong> International, <br />
<strong>Direct</strong> <strong>Democracy</strong> Naviga<strong>to</strong>r, <br />
European Citizens’ Initiative, <br />
European <strong>Passport</strong> <strong>to</strong> Active Citizenship, <br />
European <strong>Passport</strong> <strong>to</strong> Active Citizenship (interactive version), <br />
Falun <strong>Democracy</strong> <strong>Passport</strong>, <br />
<strong>Global</strong> Forum on <strong>Modern</strong> <strong>Direct</strong> <strong>Democracy</strong>, <br />
International IDEA <strong>Direct</strong> <strong>Democracy</strong> Database, <br />
People2Power, <br />
Swiss <strong>Democracy</strong> Foundation, <br />
Swissinfo, <br />
Universal Declaration of Human Rights, <br />
US Government, ‘We the People’, <br />
42
InternationalIDEA : 世 界 のダイレクト<br />
デモクラシーをサポートします<br />
民 主 主 義 ・ 選 挙 支 援 国 際 研 究 所 (International IDEA)は、<br />
世 界 的 にデモクラシーを 支 援 する 政 府 間 組 織 です。<br />
ダイレクトデモクラシー:International IDEAのハンドブッ<br />
クは、ダイレクトデモクラシーに 関 する 最 初 の 大 きな 世 界 規<br />
模 の 研 究 で、<strong>2008</strong> 年 に 出 版 され、 幅 広 く 関 連 する 組 織 や 専 門<br />
家 を 巻 き 込 んだ 世 界 的 な 研 究 活 動 を 基 に 作 成 されました。ハ<br />
ンドブックのために 集 められたデータは 後 にInternational<br />
IDEAのダイレクトデモクラシー・データベースに 移 管 されま<br />
した。<br />
現 代 のダイレクトデモクラシーのプロセスは、 近 年 勢 いを<br />
増 しています。International IDEAの 事 務 総 長 イブ・ルテルム<br />
は、2016 年 を「 国 際 政 治 のアジェンダにダイレクトデモクラ<br />
シーを 取 り 戻 す 年 」と 述 べています。 結 果 として、2017 年 に<br />
International IDEAは、この 課 題 について 世 界 中 の 対 話 に 参 加<br />
し、 更 新 したダイレクトデモクラシー・データーベースを 再<br />
スタートさせることにより、 現 代 のダイレクトデモクラシー<br />
の 選 択 肢 と 限 界 についての 調 査 、 支 援 活 動 と 評 価 作 業 を 強 化<br />
しました。<br />
この 現 代 のダイレクトデモクラシーへのグローバルパス<br />
ポートの 出 版 と、2017 年 の 国 際 民 主 主 義 デーでの 発 表 は、こ<br />
の 努 力 の 一 部 です。<br />
43
スイス: 参 考 点 と<br />
サポート・センター<br />
1793 年 以 来 、 世 界 中 で 実 施 されている 実 質 的 な 案 件 に<br />
関 する 国 規 模 の 一 般 投 票 が1,700 件 あり、うち3 分 の1 以<br />
上 がスイスで 行 われています。これにより、スイスは<br />
ダイレクトデモクラシーに 関 してより 経 験 豊 かな 国 のひとつ<br />
であり、 現 代 の 代 議 制 民 主 主 義 の 発 展 の 中 で 自 然 な 基 準 点 で<br />
す。<br />
スイス 連 邦 外 務 省 は、 独 立 した 専 門 家 と 協 力 して、 現 代 の<br />
ダイレクトデモクラシーに 関 する 情 報 資 料 を 作 成 しました。<br />
スイスはまた、アーラウのCentre for Democratic Studies<br />
(ZDA)とチューリッヒ 大 学 のNational Center of Competence<br />
in Research Challenges <strong>to</strong> <strong>Democracy</strong> (NNCR)を 含 む 現 代 の<br />
ダイレクトデモクラシーに 関 する 研 究 センターを 主 催 してい<br />
ます。<br />
スイス 政 府 は、Swiss Broadcasting Companyに 市 民 ジャー<br />
セリズムと 参 加 型 メディアを 開 発 する 権 限 を 与 えています。<br />
その 結 果 、 公 共 放 送 局 (Swissinfo)の 国 際 サービスは、 現 代<br />
のダイレクトデモクラシーに 関 する 特 別 なオンライン・プ<br />
ラットフォームを10の 世 界 言 語 で 提 供 しています。プラット<br />
フォームの 名 前 である#deardemocracyもソーシャルメディア<br />
のハッシュタグです。<br />
参 加 型 政 治 に 関 する 世 界 的 な 努 力 へのスイスの 貢 献 は、 非<br />
政 府 系 のスイス・デモクラシー 財 団 によるオンラインの<br />
Naviga<strong>to</strong>r <strong>to</strong> <strong>Direct</strong> <strong>Democracy</strong>、 隔 年 で 開 催 される 直 接 民 主<br />
主 義 に 関 する<strong>Global</strong> Forum on <strong>Modern</strong> <strong>Direct</strong><br />
<strong>Democracy</strong>、<strong>Democracy</strong> Internationalのネットワークやメ<br />
ディア 主 導 のpeople2powerを 通 じて 補 完 されています。<br />
44
著 者 について<br />
ブルーノ・カウフマンは 放 送 ジャーナリスト、 政 治 学 者 であ<br />
り、Falun <strong>Democracy</strong> <strong>Passport</strong>とEuropean <strong>Passport</strong> <strong>to</strong><br />
Active Citizenship(23ヶ 国 語 で 出 版 )の 著 者 です。 Swiss<br />
Broadcasting Companyの 国 際 サービスであるスイスイン<br />
フォ(Swissinfo)のグローバルなデモクラシー 特 派 員 であ<br />
り、<strong>Global</strong> Forum on <strong>Modern</strong> <strong>Direct</strong> <strong>Democracy</strong>の 共 同 議 長<br />
です。<br />
日 本 語 翻 訳 :<br />
大 芝 健 太 郎 、 鈴 木 美 歌 里 、 伊 藤 千 恵 、 佐 々 木 重 人<br />
編 集 : 白 崎 一 裕<br />
【 訳 注 】<br />
【1】:<strong>Direct</strong> <strong>Democracy</strong> は、カタカナ 表 記 の「ダイレクト<br />
デモクラシー」としました。 民 主 主 義 の 運 動 的 理 念<br />
として 新 しい 概 念 であることを 示 すためです。<br />
【2】:Polular voteは、 選 ばれた 人 のみの 制 限 された 投 票<br />
ではなく、 一 般 市 民 ・ 国 民 が 広 く 参 加 する 投 票 をさ<br />
すために 一 般 投 票 と 訳 しました。<br />
【3】:スイス 憲 法 第 39 条 第 三 項 何 人 も、その 政 治 的<br />
権 利 を 二 つ 以 上 の 州 (カントン)で 行 使 することは<br />
できない。による)<br />
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Notes<br />
46
Notes<br />
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Notes<br />
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ISBN: 978-91-7671-126-2 (English <strong>edition</strong>)<br />
Design and layout: KSB Design (English <strong>edition</strong>)<br />
<strong>Japanese</strong> <strong>edition</strong> translated by Kentaro Ohshiba, Mikari Suzuki, Chie I<strong>to</strong>h and<br />
Shigehi<strong>to</strong> Sasaki, and edited by Kazuhiro Shirosaki
アクティブな 市 民 権 と<br />
参 加 型 デモクラシーの 世 界<br />
デモクラシーでは、 正 式 な 一 般 投 票 は 人 々の 力 の 行 使 にとって 大<br />
切 です。 伝 統 的 には、ほとんどの 代 議 制 民 主 主 義 国 では、 投 票 箱<br />
で 意 思 決 定 を 行 う 市 民 の 力 は、 役 所 や 議 会 にいく 他 の 人 や 政 党 を<br />
選 ぶことに 限 られていました。しかし、 近 年 、 選 挙 の 狭 間 でも 市<br />
民 が 声 を 聞 かせる 新 しい 可 能 性 とチャネルを 採 用 する 国 はますま<br />
す 増 えています。 現 代 のダイレクトデモクラシーへのグローバ<br />
ルパスポートは、 現 代 のダイレクトデモクラシーのツールに 関 す<br />
る 基 本 的 な 情 報 を 提 供 します。カギとなる 定 義 を 紹 介 し、さまざ<br />
まなツールについて 説 明 し、イニシアチブ、レファレンダム、お<br />
よびプレビシットをどう 使 うか 推 奨 事 項 を 書 いています。