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ロノスの 表 象 の 少 なさは、 時 を 意 味 する「クロノス」の 性 格 づけの 少 なさを 裏 付 けていると 言 えるので<br />

はないか。 言 い 換 えれば、 類 概 念 としての「 時 」をそれは 指 しているのではないか。 日 本 語 でも「 時<br />

間 」ではなく「とき」といった 場 合 、 類 概 念 的 な 包 括 性 を 持 っているのと 同 様 であると 思 われる 27 。<br />

b)カイロス<br />

すでに 上 でも 出 てきたカイロス καιρός は、「( 時 間 的 に) 正 しい 時 期 、 行 動 をおこすのに 正 しい 時 、<br />

決 定 的 瞬 間 」 28 を 意 味 するという。ラテン 語 の opportunitas にあたるというから 29 、「 機 会 」「チャンス」と<br />

言 い 換 えることも 出 来 る。 先 ほど「とき」という 日 本 語 も 類 概 念 的 な 包 括 性 を 持 つということについて<br />

とき<br />

若 干 言 及 したが、「 秋 」という 漢 字 をあてるとき、「 秋 」はカイロスに 近 い 意 味 を 持 つ。 神 話 において<br />

擬 人 化 されていて、「のち 彼 は 前 部 には 長 い 頭 髪 があるが、 後 部 は 禿 の 姿 で 彫 刻 に 表 わされてい<br />

る」 30 。 所 謂 西 洋 の 諺 に 言 うところの、「チャンスの 後 ろ 頭 は 禿 げている」というものを 思 い 浮 かべれ<br />

ばよい(だからチャンスは 通 り 過 ぎてからは 捕 まえることができない)。<br />

ところでカイロスの 語 はヒポクラテスが 用 いたことでも 有 名 であり、「ヒポクラテス 文 書 は、 重 症 の 疾<br />

患 においては、 患 者 の 状 態 が 悪 化 に 向 かうか 軽 快 に 向 かうかの 分 かれ 目 の 瞬 間 が 存 在 すると 教 え<br />

ている。 短 期 間 しか 続 かない 症 状 がいくつも 現 れるが、 熟 練 した 医 師 はそれらを 即 座 に 何 であるか<br />

と 同 定 して、ただちに 望 ましい 処 置 を 講 じなければならない。『 技 術 は 長 く、 時 は 短 く、 機 会 (カイロ<br />

ス)は 去 りやすく、 経 験 は 間 違 いを 犯 す』という 有 名 な 金 言 はこのことをいわんとしている」 31 。すなわ<br />

ち、カイロスという 語 は「 二 千 五 百 年 前 には 一 般 医 学 の 用 語 であって、 医 学 的 介 入 のまさにしかる<br />

とき とき<br />

べき 秋 を 意 味 していた〔 略 〕( 例 えば 腫 瘍 が 熟 して 切 開 すべき 秋 である。)」 32 。しかし、エランベルジ<br />

ェによれば、その 用 法 は 姿 を 消 してしまった。その 後 この 語 は 新 約 聖 書 に 現 われ、「 宗 教 的 回 心 に<br />

とき<br />

適 した 秋 のことを 指 す」 33 ものとして 用 いられたという。いずれにしても、カイロスは、そのような 機 会 、<br />

特 権 的 瞬 間 として、クロノスとは 異 なる「 時 」であったことは 間 違 いない。クロノスという 時 に 質 的 な 飛<br />

躍 や 強 度 がないのに 対 して、カイロスには 時 間 を 意 味 付 ける 強 度 がある、とでも 言 えばよいだろう<br />

か。<br />

27 ちなみに 近 年 の 時 間 をめぐる 議 論 においては、クロノスを「 時 計 的 時 間 」と 見 做 す 場 合 が 多 い。しかしこの 傾 向 は、<br />

現 代 の 論 者 が、 後 述 するカイロスという 時 間 性 の 特 殊 性 と 対 置 して、「 特 殊 でない」 時 間 性 、すなわち 我 々が 慣 れ 親<br />

しんでいる 時 間 性 としての 時 計 的 時 間 を、クロノスと 名 指 した、というのが 実 際 のところではないかと 思 われる。たとえ<br />

ば、 河 合 隼 雄 は 次 のように 書 いている。「われわれは 時 計 によって 計 測 しうる 時 間 としてのクロノスと、 時 計 の 針 に 関<br />

係 なく、 心 のなかで 成 就 される 時 としてのカイロスとを 区 別 しなければならない。 時 計 にこだわる 人 は、 重 大 なカイロ<br />

スを 見 失 ってしまう」( 河 合 隼 雄 『 昔 話 の 深 層 ユング 心 理 学 とグリム 童 話 』 講 談 社 プラスアルファ 文 庫 、1994 年 、<br />

165-166 頁 )。たしかに、 真 木 悠 介 が 円 環 的 時 間 としてまとめた 時 間 性 は 数 量 性 を 含 んでおり、その 限 りでは 時 計 的<br />

時 間 とも 呼 びうるのかもしれないが、なによりも 現 実 問 題 として、 当 時 時 計 が 一 般 化 してはいなかったという 点 を 考 え<br />

ても、クロノスを 時 計 的 と 見 做 すことは 過 ちに 繋 がっていると 考 えてよいだろう。 現 代 の 議 論 において、 特 殊 的 な 時<br />

間 性 としてのカイロスをまず 措 定 し、その 後 、そのカイロスと 対 立 する 没 特 殊 的 な 時 間 性 としてのクロノスを、 時 計 的<br />

時 間 性 として 設 定 した、というのが、 彼 らの 概 念 設 定 の 実 状 ではないかと 思 われる。<br />

28 LIDDELL & SCOTT, op.cit., the article on “καιρός”.<br />

29 Ibid.<br />

30<br />

高 津 春 繁 『ギリシア・ローマ 神 話 辞 典 』 岩 波 書 店 、1960 年 、「カイロス」の 項 。<br />

31 とき<br />

ELLENBERGER, Henri F. 中 井 久 雄 訳 「 精 神 療 法 におけるカイロスの 意 味 ―― 理 解 と 真 の 解 釈 の 秋 」 中 井 久 雄 編<br />

訳 『エランベルジェ 著 作 集 2 精 神 医 療 とその 周 辺 』みすず 書 房 、1999 年 、233 頁 。<br />

32<br />

同 上 、243 頁 。<br />

33<br />

同 上 。<br />

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