30.01.2015 Views

yusyu23_08

yusyu23_08

yusyu23_08

SHOW MORE
SHOW LESS

Create successful ePaper yourself

Turn your PDF publications into a flip-book with our unique Google optimized e-Paper software.

第 二 章 アーレント 政 治 学 の 基 礎 的 な 概 念 範 疇<br />

レーベン<br />

時 間 とは 生 活 である。<br />

――ミヒャエル・エンデ『モモ』<br />

第 7 節<br />

、、、、<br />

アーレントの「 政 治 学 」――「 形 而 上 学 」に 裏 打 ちされたものとして<br />

我 々はアーレントの 時 間 論 を 問 題 にするわけであるが、その 時 間 論 は 彼 女 の 政 治 学 の 全 体 と 連<br />

関 し、なかでも 人 間 存 在 や 人 間 的 活 動 力 の 彼 女 の 理 解 の 仕 方 と 深 く 結 びついている。それゆえま<br />

、、、、、、<br />

ずアーレントの 哲 学 的 な、あるいは 形 而 上 学 的 な、 基 本 的 概 念 範 疇 を 参 看 しよう。<br />

アーレントの「 政 治 学 」における 時 間 論 を 我 々は 見 るのだが、その 概 念 範 疇 の 一 番 基 礎 として、<br />

「 政 治 学 」という 範 疇 の 意 味 から 出 発 する 必 要 があろう。というのも、 彼 女 が 自 らの 理 論 を「 政 治 学 」<br />

と 呼 んでいること 自 体 が、 彼 女 の 政 治 学 に 対 する 誤 解 を 招 いている 側 面 があることは 否 めないと 思<br />

われるからだ。 彼 女 の 学 問 を「 政 治 学 」と 呼 ぶのは、 実 際 彼 女 自 身 である。「 自 分 が『 哲 学 者 』である<br />

とか、カントが 皮 肉 抜 きで 職 業 思 想 家 (Denker von Gewerbe)と 呼 んだ 者 のうちに 数 えられるとか、<br />

ポリティカル・セオリー」を<br />

私 はそういう 主 張 もしなければそういう 野 心 もない」 77 ポリティカル・サイエンス<br />

彼 女 はと 述 べて、「 政 治 学 と 政 治 理 論<br />

、、、<br />

「 比 較 的 安 心 な 分 野 」と 呼 んでいる 78 。 彼 女 の 主 要 な 問 題 関 心 はたしかに 政 治 学 であるし、それを<br />

否 定 することは 実 際 その 著 作 を 読 み 損 ねることに 違 いない。 勿 論 ここで 彼 女 の 関 心 が 政 治 学 でな<br />

、、、、、、、、<br />

かったと 主 張 するつもりはない。しかしその 著 作 を 精 密 に 読 むならば、 彼 女 が、 狭 義 の 政 治 学 がそ<br />

、、<br />

、、、、<br />

うするように哲 学 や 形 而 上 学 を 無 視 するということはせず、むしろそれらと 正 面 から 取 り 組 み、その<br />

対 決 において 自 身 の 理 論 を 組 み 上 げているということに 気 づくであろう。<br />

このような 問 題 を 考 える 上 で 示 唆 的 な 一 節 が、『 人 間 の 条 件 』のなかに 見 出 せる。すなわち、 労<br />

働 ・ 仕 事 ・ 活 動 という「 三 つの 活 動 力 とそれに 対 応 する 諸 条 件 は、すべて 人 間 存 在 の 最 も 一 般 的 な<br />

条 件 である 生 と 死 〔birth and death〕、 出 生 と 必 死 性 〔79〕 〔natality and mortality〕に 深 く 結 びついてい<br />

る。〔 略 〕 創 始 〔initiative〕という 点 では、 活 動 の 要 素 、したがって 出 生 の 要 素 は、すべての 人 間 の 活<br />

動 力 に 含 まれているものである。その 上 、 活 動 がすぐれて 政 治 的 な 活 動 力 である 以 上 、 必 死 性 で<br />

77 ARENDT, Hannah, The Life of the Mind: One/Thinking, Harcourt Inc., San Diego/New York/London, 1978, p.3.<br />

( 佐 藤 和 夫 訳 『 精 神 の 生 活 上 第 一 部 思 考 』 岩 波 書 店 、1994 年 、5 頁 。)<br />

78 Ibid. ( 同 上 。)<br />

79 ここで「 必 死 性 」としたのは、mortality である。 志 水 訳 では「 可 死 性 」となっているが、 可 死 性 とした 場 合 、 文 字 通 り<br />

「 死 ぬことが 可 能 である」ということを 意 味 してしまうと 思 われる。この mortalityという 表 現 は、ラテン 語 の mortalis、ギリ<br />

シア 語 の βροτός という 形 容 詞 の 訳 語 mortal の、 名 詞 形 にあたる。その 古 典 語 の 形 容 詞 の 意 味 の 中 心 は「 死 に 得 る」<br />

という 可 能 性 よりは、「 死 なねばならない」という 不 可 避 性 にあり、この 死 の 不 可 避 性 が 古 代 ギリシア 人 やローマ 人 の<br />

哲 学 や 思 考 の 基 礎 にあった。たとえばホメロスの『イリアス』を 見 ると、その 基 底 に 流 れる 感 覚 は、まさにこの「 死 なね<br />

ばならない」という 不 可 避 性 の 感 覚 である。「『イーリアス』には、 人 間 の 悲 惨 に 対 する 嘆 きが、 全 編 を 通 奏 低 音 のよう<br />

に 流 れて」いる( 川 島 重 成 『『イーリアス』 ギリシア 英 雄 叙 事 詩 の 世 界 』 岩 波 書 店 、1991 年 、44 頁 。また、 同 書 、234<br />

頁 以 下 なども 参 照 )。<br />

とにかく、この mortal は 死 の 不 可 避 性 を 表 わしており、それゆえ 一 般 に「 死 すべき」と 訳 される。その 名 詞 形<br />

mortality は「 死 すべきこと」を 意 味 するが、その「…べき」は 可 能 を 表 すのではなく 不 可 避 を 表 わすゆえ、ここでは<br />

「 必 死 性 」という 耳 慣 れない 訳 語 を 当 てた。( 加 えてここで 断 っておくが、 以 下 ここでするように 訳 語 を 本 論 の 論 旨 に<br />

合 わせて 変 更 することがある。その 際 ここでしたようには 特 に 断 らないこともあるが 容 赦 されたい。ただし、その 際 は<br />

改 めた 訳 語 の 横 に 亀 甲 括 弧 〔…〕に 入 れて 原 語 をなるべく 表 示 することにする。)<br />

20

Hooray! Your file is uploaded and ready to be published.

Saved successfully!

Ooh no, something went wrong!