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第 10 節 観 想 的 生 活 と 活 動 的 生 活 ――『 人 間 の 条 件 』における 理 解<br />

アーレントは、アリストテレス 解 釈 を 踏 まえたハイデガーの 人 間 の 存 在 可 能 性 理 解 ――すなわち<br />

ビ オ ス ビ オ ス・ テ オ レティ コ ス<br />

二 つの「 生 活 」――を 受 け 継 ぎながらも、 観 想 的 生 活 が 優 位 に 考 えられているという 点 に 疑 問 を 抱<br />

き、 二 種 の 生 活 様 式 の 関 係 を 捉 え 直 そうと 試 みる。『 人 間 の 条 件 』――そのドイツ 語 版 のタイトルは<br />

ビ オ ス・ テ オ レティ コ ス<br />

既 述 の 如 く『ウィータ・アクティーワ』、つまり「 活 動 的 生 活 」であった――においても、 観 想 的 生 活<br />

ビ オ ス ・ ポ リ テ ィ コ ス ウ ィ ー タ・ ア ク テ ィ ー ワ<br />

(ウィータ・コンテンプラティワ)は、 政 治 的 生 活 ( 活 動 的 生 活 ) 99 との 対 照 において 捉 えられている。<br />

ビ オ ス・ テ オ レティ コ ス<br />

アーレントは、アリストテレスにおいて 観 想 的 生 活 は、「 永 遠 なる 事 物 の 探 究 と 観 照 に 捧 げられる 哲<br />

学 者 の 生 活 であって、この 永 遠 なる 事 物 の 不 朽 の 美 は、 人 間 が 介 入 してもたらすこともできなけれ<br />

ば、 人 間 がそれを 消 費 することによって 変 えることも 出 来 ないのである」 100 と 述 べる。それに 対 して<br />

ビ オ ス ・ ポ リ テ ィ コ ス<br />

政 治 的 生 活 は、「 人 間 事 象 の 領 域 だけをはっきりと 指 し 示 しており、しかもその 領 域 を 確 立 し 維 持<br />

プラクシス<br />

するのに 必 要 な 活 動 を 強 調 している」 101 。アリストテレスにおけるこの 二 種 の 生 活 様 式 の 対 置 は、 中<br />

世 哲 学 においてより 著 しい 対 照 をなすようになる。「〈 活 動 的 生 活 〉vita activa という 用 語 はその 特 殊<br />

に 政 治 的 な 意 味 を 失 って、この 世 界 の 物 事 にたいするあらゆる 種 類 の 積 極 的 な 係 わりを 意 味 する<br />

ようになった」 102 。アリストテレスにおいては、 活 動 は、 労 働 ・ 仕 事 の 活 動 力 に 対 して 相 対 的 に 上 位<br />

に 置 かれていたが、 中 世 哲 学 に 至 り「 活 動 も 今 や 現 世 的 生 活 の 必 要 物 の 一 つとなり 下 がり、したが<br />

って 観 照 生 活 (vita contemplativa, bios theoretikos)だけが 唯 一 の 真 に 自 由 な 生 活 様 式 として 残 っ<br />

たのである」 103 。すなわち、 活 動 もまた、 労 働 ・ 仕 事 同 様 、 観 想 という 人 間 の 存 在 仕 方 を 妨 げるもの<br />

として、 貶 められたのだった。「〈 活 動 的 生 活 〉vita activa という 用 語 はすべての 人 間 の 活 動 力 を 包<br />

含 し、 観 照 という 絶 対 的 な 静 との 対 比 において 定 義 されて」 104 いる。この 対 比 において、すべての<br />

活 動 力 の 目 的 は 観 想 ( 的 生 活 )である。「あらゆる 種 類 の 活 動 力 は、 単 なる 思 考 の 過 程 でさえ、 観<br />

照 の 絶 対 的 静 の 極 みに 達 しなければならない」 105 のだ。「したがって 伝 統 の 面 からみれば、〈 活 動<br />

的 生 活 〉vita activa という 用 語 はその 意 味 を〈 観 照 的 生 活 〉vita contemplativa から 得 ている。そして<br />

98 Ibid., p.17.<br />

ビ オ ス ・ ポ リ テ ィ コ ス ウィータ・ アクティーワ<br />

99<br />

実 は 政 治 的 生 活 と 活 動 的 生 活 は、 厳 密 にイーコールであるとは 言 えない。ビオス・ポリティコスは、ポリスにおける<br />

プラクシス アクション<br />

政 治 的 な 活 動 を 内 実 とした 生 活 様 式 であり、アーレントの 言 う 活 動 と 実 質 的 に 一 対 一 対 応 している。それに 対 して<br />

ウィータ・アクティーワという 概 念 は、 観 想 に 対 立 する( 観 想 を 妨 げる)すべての 人 間 的 活 動 力 を 内 包 しており、もち<br />

ろん 政 治 的 な 活 動 力 である 活 動 をも 含 むのであるが、それ 以 上 に 広 く 労 働 や 仕 事 をも 含 みこんでいる。アリストテレ<br />

プラクシス<br />

スのビオス・ポリティコスという 概 念 は、むしろそれでも 活 動 が 上 位 に 位 置 づけられていたということを 意 味 しているの<br />

だ。ウィータ・アクティーワに 対 応 する 概 念 はというと、それは「アリストテレスがすべての 活 動 力 を 示 すのに 用 いたギ<br />

アンクワイエット<br />

リシア 語 のアスコリア(「 非 静 寂 」)という 語 にいっそう 近 い」(ARENDT, The Human Condition [op.cit.], p.15 〔 前 掲 訳<br />

書 、29 頁 〕)。アスコリア ἀσχολία という 語 そのものは、「ひま」や「 余 暇 」を 表 わすスコレーσχολή という 語 に 否 定 接 頭<br />

辞 がついた 形 をしている。つまり、 暇 でないという 意 味 で「 多 忙 business」を 意 味 する 語 である。アリストテレスにおい<br />

ては、スコレーは 観 想 に 捧 げられるべきものであった。アスコリアはその 観 想 に 対 立 する 時 間 をすべて 包 括 してい<br />

る。<br />

100 Ibid., p.13. ( 前 掲 訳 書 、26-27 頁 。)<br />

101 Ibid. ( 前 掲 訳 書 、27 頁 。)<br />

102 Ibid., p.14.( 前 掲 訳 書 、27-28 頁 。)<br />

103 Ibid.( 前 掲 訳 書 、28 頁 。)<br />

104 Ibid., p.15.( 前 掲 訳 書 、29 頁 。)<br />

105 Ibid.( 同 上 。)<br />

26

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