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San Diego Yu Yu, January 1, 2024

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アメリカ 健 康 ノート (255)<br />

Medical<br />

動 物 咬 傷<br />

(Animal Bites)<br />

金 一 東 日 本 クリニック・サンディエゴ 院 長<br />

金 一 東<br />

日 本 クリニック 医 師 。 神 戸 市 出 身 。 岡 山<br />

大 学 医 学 部 卒 業 。 同 大 学 院 を 経 て、 横 須<br />

賀 米 海 軍 病 院 、 宇 治 徳 洲 会 等 を 通 じ 日<br />

米 プライマリケアを 経 験 。その 後 渡 米 し、<br />

コロンビア 大 学 公 衆 衛 生 大 学 院 を 経 て、<br />

エール 大 学 関 連 病 院 で 内 科 ・ 小 児 科 合 併<br />

研 修 を 終 了 。スクリップス・クリニックに 勤<br />

務 の 後 、 現 職 に 。 内 科 ・ 小 児 科 両 専 門 医 。<br />

26 SAN DIEGO YU-YU JANUARY 1, <strong>2024</strong><br />

今 回 のトピックは 動 物 咬 傷 ( どうぶつ<br />

こうしょう ) ですが、 特 に、イヌとネコ<br />

による 動 物 咬 傷 (=ペット 咬 傷 ) につい<br />

て 説 明 します。イヌとネコによる 咬 み 傷<br />

は、アメリカでは 救 急 室 を 訪 れる 人 の 約<br />

1% を 占 め、 毎 年 亡 くなる 人 が 10 〜 20<br />

人 ほど 存 在 し、 経 済 的 なインパクトも 小<br />

さくありません。<br />

アメリカでは 年 間 約 50 0 万 件 の 動 物 咬<br />

傷 が 報 告 されていますが、そのほとんど<br />

はイヌの 咬 傷 ( 約 450 万 件 ) で、 次 に 多<br />

いのがネコによる 咬 傷 ( 約 40 万 件 )、ヘ<br />

ビによるものが 45,000 件 、それ 以 外 は<br />

スカンク、 馬 、リス、ネズミ、ウサギ、<br />

豚 、サルとされていますが、 全 動 物 咬 傷<br />

の1%にもなりません。<br />

イヌ ・ ネコ 咬 傷 の 傾 向<br />

アメリカの 年 間 450 万 件 のイヌ 咬 傷 の<br />

うち、 医 療 機 関 を 受 診 するのはその 5 分<br />

の 1 の 約 90 万 人 、そして 3 万 人 は 咬 傷<br />

による 様 々な 変 形 障 害 に 対 する 再 建 術 を<br />

受 けます。3 〜 18%の 人 が 感 染 し、10 〜<br />

20 人 ほどが 亡 くなっています。また、ネ<br />

コによる 40 万 件 の 咬 傷 のうち、 約 6 分<br />

の 1 の 66,000 人 が 救 急 室 を 訪 問 してい<br />

ます。<br />

イヌの 咬 傷 の 被 害 者 は 多 くが 子 供 で、<br />

咬 まれる 部 位 は 手 足 が 多 く (4 分 の 3)、<br />

顔 を 咬 まれるのは 約 1 割 です。イヌの 咬<br />

傷 で 救 急 室 を 訪 れる 子 供 のうち 5% は 入<br />

院 しています。 男 の 子 はイヌに、 女 の 子<br />

はネコにかまれる 傾 向 があります。<br />

イヌ ・ ネコ 咬 傷 の 特 徴<br />

ネコの 咬 傷 は、ネコの 歯 がより 鋭 利 で<br />

細 いため、イヌの 傷 より 深 く、 感 染 する<br />

確 率 がイヌ 咬 傷 よりも 高 くなっています。<br />

感 染 の 原 因 になる 細 菌 は、 動 物 の 口 の 中<br />

に 存 在 する 細 菌 と 咬 まれた 人 間 の 皮 膚 表<br />

面 に 存 在 する 細 菌 によって 決 まりますが、<br />

一 般 的 には 好 気 性 菌 と 嫌 気 性 菌 のミック<br />

スです。ブドウ 球 菌 、 連 鎖 球 菌 、バクテ<br />

ロイデス、 ポルフィロモナスなどが 原 因<br />

菌 になります。 他 に、 狂 犬 病 、パスツレ<br />

ラ 症 、 猫 ひっかき 病 、 破 傷 風 なども 発 症<br />

することがあります。<br />

イヌやネコに 咬 まれた 傷 は 感 染 するこ<br />

とがあるため、 基 本 的 には 縫 合 せず、 開<br />

放 創 のままで 治 療 させることが 多 いので、<br />

そのため 咬 傷 の 傷 跡 は 縫 合 した 傷 よりも<br />

目 立 ちます。<br />

狂 犬 病 の 懸 念 は?<br />

イヌに 咬 まれると 狂 犬 病 を 心 配 する 人<br />

がいますが、アメリカでは 狂 犬 病 のほと<br />

んどがイヌ 以 外 の 野 生 動 物 から 感 染 して<br />

います。アライグマ、スカンク、コウモリ、<br />

キツネなどが 感 染 源 です。そして、 狂 犬<br />

病 で 亡 くなる 人 のほとんどがコウモリか<br />

らの 感 染 です。 狂 犬 病 に 感 染 していると<br />

報 告 されている 動 物 のうちイヌは 約 1%<br />

にすぎません、それも 狂 犬 病 の 予 防 接 種<br />

を 受 け ていないイヌで す。 アメリカでは<br />

飼 いイヌの 狂 犬 病 予 防 接 種 は 法 律 で 定<br />

められているので、ペットのイヌの 咬 傷<br />

で 狂 犬 病 に 感 染 することはまずありませ<br />

ん。<br />

イヌ ・ ネコ 咬 傷 の 検 査<br />

汚 染 している 咬 傷 、 中 等 度 以 上 の 咬 傷 、<br />

複 雑 な 咬 傷 、 異 物 の 存 在 や 骨 折 の 可 能<br />

性 がある 咬 傷 では、 傷 口 の 細 菌 培 養 やレ<br />

ントゲン 検 査 が 行 われます。また、 発 熱 、<br />

膿 ( うみ ) が 存 在 している 場 合 、 重 症 例<br />

では 血 液 検 査 、 血 液 培 養 、 脳 脊 髄 液 の<br />

■ 筆 者 閑 談 「 2 0 2 4 年 / お 正 月 」<br />

ここ 数 年 、お 正 月 は 故 郷 の 神 戸 ( 弟 の 家 ) で 過 ごすこ<br />

とが 多 くなりました。 義 理 の 妹 が、 彼 女 の 故 郷 のお 雑 煮 と、<br />

韓 国 風 のお 雑 煮 の 両 方 を 作 ってくれて、それも 味 が 最 高 。<br />

感 謝 感 激 、 雨 あられ! ですね。<br />

検 査 などが 必 要 になることがあります。<br />

イヌ ・ ネコ 咬 傷 の 手 当 と 治 療<br />

< 傷 口 の 手 当 ><br />

イヌやネコに 咬 まれたら、まず 傷 口 を<br />

きれいな 水 ( 水 道 水 ) と 石 鹸 で 十 分 に<br />

洗 浄 します。 簡 単 に 取 れそうな 異 物 を 除<br />

去 し、 出 血 があれば 清 潔 なガーゼで 圧<br />

迫 してください。そして 速 やかに 医 療 機<br />

関 を 受 診 してください。<br />

医 療 機 関 では、 傷 の 評 価 をして 治 療<br />

を し ま す。 傷 の 深 さ や 広 が り 、 方 向 、 腫 れ・<br />

赤 み・ 痛 みや 壊 死 の 有 無 、 異 物 の 存 在 、<br />

リンパ 管 炎 や 膿 の 有 無 、 神 経 ・ 関 節 ・ 骨<br />

への 関 与 などを 評 価 し、 治 療 方 針 を 決 定<br />

します。 生 理 的 食 塩 水 による 傷 口 の 洗 浄 、<br />

死 滅 および 壊 死 した 組 織 の 除 去 ( デブリ<br />

ドマン )、 損 傷 が 軽 度 、および 効 果 的 に<br />

洗 浄 された 傷 は 縫 合 の 対 象 になることが<br />

ありますが、 約 8 割 の 咬 傷 は 開 放 したま<br />

まです。<br />

特 に、 深 い 傷 、 手 の 傷 、 性 器 ・ 会 陰<br />

部 の 傷 、 数 時 間 経 過 した 傷 、 汚 染 があ<br />

る 傷 、 浮 腫 や 炎 症 のある 傷 などは 開 放<br />

のままにしておくことが 原 則 です。<br />

< 抗 菌 薬 による 予 防 ><br />

傷 の 部 位 や 重 症 度 、 受 傷 者 の 免 疫 状<br />

態 が 抗 菌 薬 による 予 防 が 必 要 かどうかの<br />

判 断 材 料 になります。 免 疫 が 低 下 してい<br />

る 人 にはオーグメンチンによる 3 〜 5 日<br />

間 の 予 防 が 必 要 です。 他 に、 浮 腫 、リン<br />

パ 系 や 静 脈 の 循 環 障 害 のある 人 、 挫 滅<br />

創 、 関 節 や 骨 に 影 響 のある 傷 、 深 い 傷 、<br />

中 等 度 から 重 症 の 傷 ( 特 に、 顔 面 や 陰<br />

部 、 手 の 傷 ) も 抗 菌 薬 の 適 応 になりま<br />

す。ペニシリンアレルギーのある 人 は、<br />

ST 合 剤 、キノロン 系 、ドキシサイクリン<br />

などにクリンダマイシンやメトロニダゾー<br />

ルを 加 えて 治 療 をします。<br />

感 染 している 傷 は、まず 傷 の 培 養 検<br />

査 をして 抗 菌 薬 を 開 始 します。 軽 度 の 傷<br />

感 染 症 には 経 口 の 抗 菌 薬 を 最 大 2 週 間<br />

投 与 します。 骨 や 関 節 が 関 与 している 時<br />

は もっと 長 い 投 与 が 必 要 で す。 重 症 の 傷 、<br />

特 に 敗 血 症 など 全 身 状 態 に 関 係 のある<br />

場 合 は、 静 脈 注 射 による 抗 菌 薬 治 療 が<br />

必 要 です。 他 に、 腱 、 神 経 、 血 管 など<br />

と 関 係 のある 場 合 は、 挫 滅 創 、 手 の 感<br />

染 などにも 適 応 があります。 多 くの 抗 菌<br />

薬 に 耐 性 のある M RSA ( メチシリン 耐 性<br />

黄 色 ブドウ 球 菌 ) のある 場 合 、あるいは<br />

MRSA の 可 能 性 がある 場 合 は、MRSA に<br />

対 応 した 抗 菌 薬 の 選 択 が 必 要 です。<br />

< 破 傷 風 や 狂 犬 病 の 予 防 接 種 ><br />

これまでに 破 傷 風 の 予 防 接 種 ( 沈 降<br />

破 傷 風 トキソイド ) を 3 回 受 けていない<br />

人 は、きれいな 軽 度 の 咬 傷 であれば、<br />

破 傷 風 の 予 防 接 種 を 1 回 、 汚 染 された 傷<br />

や 中 等 度 以 上 の 傷 の 場 合 は、 破 傷 風 の<br />

予 防 接 種 と 破 傷 風 の 免 疫 グロブリンの 注<br />

射 が 必 要 になります。<br />

過 去 に 3 回 以 上 破 傷 風 の 予 防 接 種 を<br />

受 けている 人 は、きれいな 軽 度 の 咬 傷 の<br />

場 合 は、 最 後 の 接 種 から10 年 以 上 経 っ<br />

ていれば 破 傷 風 の 予 防 接 種 を 1 回 打 ちま<br />

す。 汚 染 された 傷 や 中 等 度 以 上 の 傷 の 場<br />

合 は、 最 後 の 接 種 から 5 年 以 上 経 って<br />

いれば 予 防 接 種 が 1 回 必 要 です。 免 疫 グ<br />

ロブリンは 必 要 ではありません。<br />

野 良 犬 や 狂 犬 病 ワクチン 接 種 を 受 けて<br />

いないイヌに 咬 まれた 場 合 は、 狂 犬 病 ワ<br />

クチンを 受 けることになりますが、その<br />

場 合 は 救 急 室 に 行 きます。 受 傷 当 日 は、<br />

狂 犬 病 ワクチンと 共 に、 狂 犬 病 の 免 疫 グ<br />

ロブリンという 注 射 を 1 回 受 ける 必 要 が<br />

あります ( 今 まで 狂 犬 病 ワクチンを 受 け<br />

ていない 人 )。その 後 、 狂 犬 病 ワクチン<br />

を3 日 後 、7 日 後 、14 日 後 にも 受 けます。<br />

イヌ ・ ネコ 咬 傷 の 予 防<br />

子 供 たちへの 教 育 が 重 要 です。 子 供 た<br />

ちにイヌ 咬 傷 の 危 険 性 を 教 え、 野 良 犬 を<br />

避 けるよう 指 導 し、 子 供 たちだけで 犬 の<br />

近 くに 行 かないように 伝 えます。<br />

* * * * *<br />

*この 記 事 に 関 するご 質 問 は 日 本 クリ<br />

ニック ☎ 858-560-8910 まで。

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