San Diego Yu Yu, June 1, 2017

24 SAN DIEGO YU-YU JUNE 1, 2017
霧 が 辺 り 一 面 に 立 ち 込 める 中 、 籠 をかついだ 女
性 たちが 山 の 斜 面 に 広 がる 畑 で 茶 摘 みをしていた。
ネパールに 近 いインド 北 東 部 。1840 年 代 には 英 国
人 開 拓 者 によって 茶 の 栽 培 が 始 まっていたという 標
高 2,000 メートルの 町 ダージリン。 香 り 高 く、「 紅
茶 のシャンパン」として 世 界 的 に 知 られるダージリ
ンティーの 都 だ。
最 寄 りのバグドグラ 空 港 から 車 で 3 時 間 強 。く
ねくねとうねる 細 い 山 道 を、 車 はクラクションを 鳴
らしながら 豪 快 に 駆 け 上 がっていく。 日 本 のように
カーブミラーやガードレールはない。カーブで 出 合
い 頭 に 衝 突 すれば、 崖 の 下 に 真 っ 逆 さまかも…。ス
リル 満 点 だ。
「 美 しいダージリンの 茶 畑 が 見 えるよ」とガイド
のブーアン・タパさんが 車 外 を 指 した。 背 が 低 く、
濃 い 緑 の 葉 を 付 けた 木 々。 空 港 近 くの 平 地 で 見 掛
紅 茶 専 門 店 でダージリン
ティーを 試 飲 。 茶 葉 ( 左 )をか
いで、 香 りを 楽 しむ = インド・
ダージリン
けた 茶 葉 は 濃 厚 で
ミルクティー 向 きと
いうアッサムだった
が、 標 高 が 高 くなる
につれ、ダージリン
に 変 わっていった。
ニューデリーを 出
発 したときは 気 温
45 度 を 超 えていた
この 日 も、ダージリ
ンは 20 度 前 後 で 少
し 肌 寒 く 感 じた。そ
れもそのはず。インド 有 数 の 避 暑 地 で、 昼 夜 の 寒 暖
の 差 が 大 きい。 中 国 の 銘 茶 生 産 地 と 気 象 条 件 が 似
ていたことから 中 国 種 の 茶 葉 が 栽 培 されたことが、
紅 茶 の 都 の 出 発 点 だった。
町 の 中 心 部 に 近 い「ハッピーバレー 紅 茶 園 」を 訪
霧 がかかるハッ
ピーバレー 紅 茶
園 を 歩 く 茶 摘 み
の 女 性 = イ ンド・
ダージリン
ねた。 工 場 に 入 った 瞬 間 、 豊 かな 香 りが 全 身 を 包 む。
「 英 語 でも 説 明 するから 安 心 して」。インド 国 内 の 避
暑 客 に 交 ざって 見 学 して い る と、 案 内 役 の ジュ ニタ・
ラマさんが 茶 葉 の 特 徴 や 製 造 工 程 を 丁 寧 に 教 えて
くれた。
ここでは 伝 統 的 な 製 法 が 用 いられ、 人 の 手 で 摘
み 取 られた 茶 葉 は 水 分 を 減 らす「 萎 凋 」、 酸 化 酵 素
の 働 き を 高 め る「 発 酵 」な ど の 工 程 を へて 良 質 な「 紅
茶 」になる。「( 葉 の 細 胞 をもみつぶす)ローリング
の 作 業 は 味 と 香 りに 大 きな 影 響 を 与 えます」とラマ
さん。
茶 葉 は 春 ( 3 〜 4 月 )、 夏 ( 5 〜 6 月 )、 雨 期 ( 7
〜 8 月 )、 秋 (9 〜 11 月 )と 年 4 回 、 収 穫 される。
雨 期 は 雨 のせいで 品 質 が 落 ち、フレーバーティーな
どのブレンド 用 に 回 されるという。
紅 茶 の 都 は 霧 の 町
寒 暖 の 差 が 香 り 育 む
インド 東 部 ダージリン
ハッピーバレー 紅 茶 園 で、 国 内 外 の 観 光 客 に 茶 葉 の 説 明 をするジュニタ・ラマさん( 右 端 )= インド・ダージリン
登 校 途 中 の 児 童 ら
多 くの 人 が 行 き 交
う 町 の 中 心 部 = イ
ンド・ダージリン
世 界 遺 産 「ダージリン・ヒマラヤ 鉄 道 」の 車 内
で 笑 顔 を 見 せるインド 人 の 親 子 = インド・ダー
ジリン
「 春 に 収 穫 す る 茶 葉 を フ ァ ー ストフ ラ ッ シ ュ 、 夏 の
茶 葉 をセカンドフラッシュと 呼 び、 味 、 香 りともに
素 晴 らしいですよ。ファーストの 方 がお 茶 の 色 も 味
も 軽 めです」
実 際 に 町 中 の 紅 茶 専 門 店 で 飲 み 比 べをしてみる
と、ファーストフラッシュで 入 れたお 茶 は 黄 色 っぽい。
味 は 日 本 の 緑 茶 に 近 くてほっこりした。
日 本 紅 茶 協 会 によると、 世 界 の 茶 葉 ( 紅 茶 、 緑 茶 、
ウーロン 茶 など)の 総 生 産 量 は2015 年 の 速 報 値
で 約 520 万 トン。そのうちダージリンは 約 1 万 トン
にすぎず、 価 格 が 高 い。 主 にドイツと 日 本 で 好 まれ
ているという。
その 魅 力 は 上 品 で 繊 細 な 香 り。 栽 培 時 に 寒 暖 の
差 が 大 きいほど 香 りが 豊 かになるといい、ダージリ
ン 地 方 はまさに 最 適 。 訪 れた 日 も 空 模 様 がめまぐ
「ダージリン・ヒマラヤ 鉄 道 」の 車 内 。 英 国 風 の
天 井 の 装 飾 が 印 象 的 = インド・ダージリン
るしく 変 わり、 真 っ 白 な 深 い 霧 が 時 折 、 山 の 斜 面
に 並 び 立 つ 色 とりどりの 建 物 を 覆 い 隠 した。
「 ダ ー ジ リ ン は 霧 の 町 だ ね 」 と ガ イド の タ パ さ ん
に 話 し 掛 けると、「その 通 り」と 笑 って 言 葉 を 続 け
た。「11 月 にまた 来 てよ。 雲 も 霧 もなくて、 空 はとっ
てもクリア。( 世 界 第 3 位 の 高 さの)カンチェンジュ
ンガをはじめ、ヒマラヤ 山 脈 を 一 望 できて 最 高 だ
から」。 霧 の 向 こうに 世 界 最 高 峰 の 山 々が 連 なる。
その 雄 大 な 景 色 を 眺 めながら 紅 茶 を 楽 しめるなら、
どんなに 幸 せなことだろう。 ( 共 同 )
世 界 遺 産 の「ダージリン・ヒマラヤ 鉄 道 」。 小 さくて 愛
らしい 姿 から「トイトレイン」と 呼 ばれている = インド・
ダージリン
生 活 感 あふれる 世 界 遺 産
ゆっくり 走 る 小 さな SL
ダージリンには 名 物 がもう 一 つある。1881 年
に 開 業 した 山 岳 列 車 で 世 界 遺 産 の「ダージリン・
ヒマラヤ 鉄 道 」。 小 さな 蒸 気 機 関 車 (SL)がゆっ
く り 走 る 姿 は 愛 ら し く 、「 ト イ ト レ イ ン 」( お も ち ゃ
の 列 車 )と 呼 ばれて 親 しまれている。
町 中 では 路 面 電 車 のように 道 路 上 を 走 り、 渋
滞 を 引 き 起 こしながら 民 家 や 商 店 の 軒 先 をかす
めて 進 む。アイスクリームを 食 べて 休 んでいる 人
の 姿 も 丸 見 え。 生 活 感 にあふれ、ほほえましい。
ニューデリーから 妻 と 旅 行 で 訪 れた 小 学 校 教 諭
のアバニ・マンダルさんも「 楽 しい 列 車 だね」と
笑 顔 を 見 せていた。
記 事 & 写 真 提 供 : 共 同 通 信 社