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アメリカ 健 康 ノート (212)<br />
Medical<br />
パセドウ 病 ( 上 )<br />
(Graves’Disease)<br />
金 一 東 日 本 クリニック・サンディエゴ 院 長<br />
金 一 東<br />
日 本 クリニック 医 師 。 神 戸 市 出 身 。 岡 山<br />
大 学 医 学 部 卒 業 。 同 大 学 院 を 経 て、 横 須<br />
賀 米 海 軍 病 院 、 宇 治 徳 洲 会 等 を 通 じ 日 米<br />
プライマリケアを 経 験 。その 後 渡 米 し、コ<br />
ロンビア 大 学 公 衆 衛 生 大 学 院 を 経 て、エー<br />
ル 大 学 関 連 病 院 で 内 科 ・ 小 児 科 合 併 研 修<br />
を 終 了 。 スクリップス・クリニックに 勤 務<br />
の 後 、 現 職 に。 内 科 ・ 小 児 科 両 専 門 医 。<br />
50 SAN DIEGO YU-YU DECEMBER 1, <strong>2019</strong><br />
バセドウ 病 は、 自 己 免 疫 疾 患 と 呼 ばれる<br />
疾 患 群 の 一 つで、 自 分 の 体 の 免 疫 システム<br />
が 自 分 の 甲 状 腺 に 対 して 抗 体 を 作 り、その<br />
結 果 、 甲 状 腺 の 機 能 が 亢 進 する 病 気 です。<br />
アメリカでは バセドウ 病 はグレーブス 病<br />
(Graves’Disease) と 呼 ばれています。 甲<br />
状 腺 機 能 亢 進 症 の 最 も 多 い 原 因 で、 眼 が<br />
突 出 してくることもあります。 他 に、 甲 状 腺<br />
機 能 亢 進 症 の 原 因 になる 病 気 としては、 中<br />
毒 性 多 結 節 性 甲 状 腺 腫 、 中 毒 性 腺 腫 、 甲<br />
状 腺 炎 、 薬 の 副 作 用 などがあります。<br />
甲 状 腺 機 能 亢 進 症 とは<br />
甲 状 腺 機 能 亢 進 症 とは 甲 状 腺 の 機 能 が<br />
異 常 に 亢 進 する 病 気 で、 比 較 的 多 くみら<br />
れる 病 気 ですが、ゆっくり 進 行 して 症 状 に<br />
気 づかない 人 もいます。 アメリカでは 毎 年<br />
の 健 康 チェックで 甲 状 腺 機 能 を 検 査 します<br />
が、 日 本 では 人 間 ドックでも 甲 状 腺 の 機 能<br />
検 査 は 含 まれていないことがあります。 甲<br />
状 腺 機 能 は 血 液 検 査 で 簡 単 にできるので、<br />
1 年 に 1 回 はチェックしたいものです。<br />
甲 状 腺 とその 働 き<br />
甲 状 腺 はホルモンを 分 泌 する 内 分 泌 腺<br />
で、 首 の 下 部 に 左 右 、 喋 々のような 形 で 存<br />
在 しています。この 甲 状 腺 からサイロキシン<br />
■ 筆 者 閑 談 「 本 気 」<br />
(T4) とトリヨードサイロニン (T3) という2 種<br />
類 の 甲 状 腺 ホルモンが 分 泌 されます。サイ<br />
ロキシンは 身 体 の 末 梢 でトリヨードサイロニ<br />
ンに 変 化 します。 甲 状 腺 ホルモンが 血 中 に<br />
増 えると 脳 の 視 床 下 部 が 感 知 し、 脳 下 垂 体<br />
に 甲 状 腺 刺 激 ホルモン ( サイロトロピン=<br />
TSH) の 分 泌 量 を 下 げるようシグナルを 出 し<br />
ます。その 結 果 、 甲 状 腺 の 活 動 は 抑 えられ<br />
ます。<br />
逆 に、 甲 状 腺 の 活 動 が 低 下 し、 甲 状 腺<br />
ホルモンの 血 中 量 が 少 なくなると、 脳 下 垂<br />
体 からの TSH の 分 泌 量 が 増 え、 甲 状 腺 の<br />
働 きは 活 発 化 し、 甲 状 腺 ホルモンの 分 泌 が<br />
高 まります。<br />
甲 状 腺 ホルモンは、 体 内 のあらゆる 細 胞<br />
が 行 う 炭 水 化 物 や 脂 肪 の 代 謝 速 度 を 調 整 ・<br />
維 持 しています。 甲 状 腺 ホルモンの 分 泌 量<br />
が 増 えると、 全 身 での 代 謝 速 度 が 増 し、 静<br />
かに 座 っていても 走 っているような 状 態 に<br />
なります。<br />
バセドウ 病 の 原 因<br />
バセドウ 病 は 前 述 したように、 自 己 免 疫<br />
疾 患 という 範 疇 に 入 る 甲 状 腺 の 病 気 で、 自<br />
分 の 体 の 免 疫 システムによって 作 られた 自<br />
己 抗 体 が 甲 状 腺 を 刺 激 して 甲 状 腺 ホルモン<br />
の 分 泌 過 多 を 起 こします。 本 来 、 抗 体 は 体<br />
だんだん 年 を 取 ってくると、 本 気 で 怒 ったり、 泣 いたり、<br />
好 きになったり、 嫌 いになったり、 悲 しくなったりすることが<br />
少 なくなってきましたが、 本 気 で 笑 うことだけは 相 変 わらず<br />
多 いですね。<br />
内 に 侵 入 してきた 外 敵 であるウイルスや 細<br />
菌 を 攻 撃 して 体 を 防 御 するものですが、バ<br />
セドウ 病 の 場 合 は、 甲 状 腺 や 眼 球 の 後 部<br />
組 織 をターゲットにするのです。<br />
バセドウ 病 では、 甲 状 腺 に 存 在 するTSH<br />
レセプター ( サイロトロピンレセプター ) に<br />
対 する 抗 体 (TRAb =サイロトロピンレセプ<br />
ター 抗 体 ) が 作 られ、この 抗 体 がそのレセ<br />
プターに 結 合 して 甲 状 腺 ホルモンの 分 泌 を<br />
促 します。まったく TS H と 同 じような 働 き<br />
をするのです。 甲 状 腺 ホルモンが 増 えると、<br />
脳 下 垂 体 からの TSH の 分 泌 が 少 なくなっ<br />
て 甲 状 腺 ホルモンの 分 泌 が 抑 えられるのが<br />
健 康 な 状 態 ですが、バセドウ 病 の 場 合 は、<br />
TS H の 分 泌 量 が 少 なくなってもサイロトロ<br />
ピンレセプター 抗 体 が 存 在 するので、 甲 状<br />
腺 ホルモンの 分 泌 が 抑 えられず、 甲 状 腺 機<br />
能 はますます 亢 進 していきます。サイロト<br />
ロピンレセプター 抗 体 は、T S I など3 種 類<br />
があります。<br />
バセドウ 病 の 症 状<br />
バセドウ 病 の 症 状 は 広 範 囲 で、 下 痢 が<br />
続 いて 腸 炎 と 誤 診 されたり、 不 安 症 状 が 強<br />
くて 精 神 疾 患 に 間 違 えられることもありま<br />
す。<br />
主 な 症 状 は、 甲 状 腺 の 腫 れ ( 甲 状 腺 腫 )、<br />
眼 球 の 突 出 、 頻 脈 、 短 期 間 での 体 重 減 少 、<br />
疲 労 感 、 不 整 脈 、 不 安 、 動 悸 、 食 欲 増 進 、<br />
男 性 の 女 性 化 乳 房 、 集 中 力 の 低 下 、いらい<br />
ら 感 、 指 や 手 の 震 え、 便 通 の 回 数 が 増 える 、<br />
髪 の 毛 が 抜 ける、 多 汗 、 下 痢 、 食 欲 が 増 す、<br />
生 理 不 順 、 月 経 過 多 または 過 少 、 暑 さに 弱<br />
くなる、 抜 け 毛 、 筋 肉 痛 、 四 肢 麻 痺 、 筋<br />
力 低 下 、 情 緒 不 安 定 、 怒 りやすくなる、 睡<br />
眠 障 害 、 健 忘 傾 向 、 勃 起 不 全 、 皮 膚 の 発 赤 、<br />
下 腿 の 皮 膚 の 一 部 が 腫 れて 黒 くなる、 低 コ<br />
レステロールなどです。<br />
眼 球 の 突 出 は、 眼 球 の 後 ろにある 組 織<br />
や 筋 肉 がある 種 の 炭 水 化 物 の 蓄 積 で 腫 れて<br />
起 こるのですが、それによって 眼 球 が 本 来<br />
ある 位 置 から 前 方 に 突 出 します。 眼 の 乾 燥 、<br />
発 赤 ( ほ っ せ き ) 、 光 線 過 敏 、 視 覚 の ぼ や け 、<br />
複 視 、 眼 球 運 動 の 減 少 などが 起 こります。<br />
バセドウ 病 が 無 治 療 で 悪 化 すると 甲 状 腺<br />
クリーゼと 呼 ばれる 状 態 になり、 意 識 混 濁 、<br />
発 熱 、 頻 脈 や 不 整 脈 が 悪 化 、 血 圧 低 下 、<br />
幻 覚 などで 命 にかかわる 状 態 になることが<br />
あります。<br />
合 併 症 としては、 心 房 細 動 などのような<br />
不 整 脈 、うっ 血 性 心 不 全 、 長 期 的 には 骨 粗<br />
しょう 症 、 眼 球 突 出 による 光 線 過 敏 、 複 視<br />
などがあります。 妊 娠 中 は、 死 産 、 流 産 、<br />
早 産 、 胎 児 の 甲 状 腺 異 常 、 胎 児 の 成 長 遅 滞 、<br />
母 親 の 心 不 全 、 妊 娠 高 血 圧 腎 症 などの 合<br />
併 症 があります。<br />
パート 2 (1 月 1 日 号 ) では、「バセドウ 病<br />
のリスク 因 子 」「バセドウ 病 の 診 断 」「バセド<br />
ウ 病 の 治 療 」「 眼 球 突 出 に 対 する 治 療 」に<br />
ついて 解 説 いたします。<br />
* * * * *<br />
この 記 事 に 関 するご 質 問 は 日 本 クリニッ<br />
ク ☎︎ 858-560-8910 まで。 過 去 の 「アメリ<br />
カ 健 康 ノート」の 記 事 は、 私 のウェブサイト<br />
www.usjapanmed.com で 読 むことができ<br />
ます。