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近代日本における、ある異邦人の宿命 - subsite

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94<br />

いたものであるし、これがノグチの 出 発 点 だからである。ノグチの 英 詩 は、これ<br />

まで 日 本 で 正 式 に 評 価 されて 来 なかった。 大 正 ・ 昭 和 時 代 の 文 壇 にあり、かつ 英<br />

米 文 学 に 興 味 を 持 った 日 本 の 知 識 人 たちは、 英 国 やアメリカで 話 題 になっている<br />

詩 人 の 作 品 、たとえば、ホイットマンやウィリアム・ブレイクなどを 読 んだり 翻<br />

訳 したりし、『 草 の 葉 』などは、いくつもの 邦 訳 が 出 ていたが、そのホイットマ<br />

ンの 弟 子 ミラーの 弟 子 であるノグチの 英 語 の 作 品 は、 全 くと 言 ってよいほど 注 目<br />

してこなかった。 亀 井 俊 介 は『 近 代 文 学 におけるホイットマンの 運 命 』 (66) の 中<br />

で、ホイットマンとノグチの 詩 の 相 違 点 を 述 べているが、それ 以 外 のノグチと 同<br />

時 代 の 殆 どの 日 本 の 詩 人 たちは、ノグチの 英 詩 を 実 際 に 読 みもしないで、ノグチ<br />

が 英 語 で 詩 を 書 くという 行 為 に 対 して、 批 判 していたのだ。<br />

その 議 論 は、『 二 重 国 籍 者 の 詩 』が 出 版 された 5 年 前 には、 既 に 読 売 新 聞 上 で<br />

繰 り 広 げられていた。 同 じく 詩 人 であった 岩 野 泡 鳴 は、ノグチが 英 語 で 詩 を 書 く<br />

事 について、「 自 国 語 を 以 て 歌 っていない 点 において 多 大 の 根 本 的 間 隔 があ<br />

る」 (67) と 非 難 した。これに 対 してノグチは「あたかも 赤 子 が 言 葉 を 学 んだやう<br />

に、 自 然 に 静 かに[ 英 語 を] 習 練 した 自 分 、 之 を 言 替 えると 私 が 使 用 する 文 章 上<br />

の 英 語 は 所 謂 英 語 で 無 くて、 私 自 身 が 創 作 した 特 種 の 言 語 であれば、 私 のみが 自<br />

由 と 秘 密 を 握 っているのであると 思 って 居 るのですから、 自 分 は 普 通 の 論 理 で 律<br />

せられるのを 不 愉 快 に 思 ひます」 (68) と 反 論 している。 更 に、「 私 の 確 信 と 熟 練 は<br />

如 何 なる 路 を 辿 って 来 たのであるかを、 英 語 の 文 章 上 では 実 際 に 経 験 を 持 って 居<br />

られぬ 岩 野 君 は 恐 らくは 知 られまいと 思 います」 (69) と 続 けているが、ノグチの<br />

このような 反 論 は 充 分 に 納 得 できる。<br />

ノグチの 英 語 がどの 程 度 のものだったのか、 詩 の 完 成 度 や、 英 米 で 知 名 度 を 得<br />

るに 至 るまでの 苦 労 は、 日 本 の 外 で 実 際 に 暮 らし、 外 国 人 として 諸 国 で 何 かを 成<br />

し 遂 げようと 試 みた 人 でない 限 り 理 解 するのは 難 しいであろう。ノグチは、どの<br />

くらいの 自 信 を 持 ってロンドンへ 向 かったのか 定 かではないが、ロンドンで 得 た<br />

反 応 で、 非 常 に 大 きな 自 信 と 満 足 を 得 たことが、 次 の 文 章 にあらわれている。<br />

「… 別 にして 置 いた 三 磅 (3£)を 棒 に 振 り 十 六 頁 の 小 冊 子 を 作 って 倫 敦 の 面 上 へ

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