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近代日本における、ある異邦人の宿命 - subsite

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80<br />

萩 原 朔 太 郎 はノグチより 11 歳 も 年 下 で、ノグチについて 論 じたときは 40 歳 で<br />

あった。 萩 原 朔 太 郎 は、ノグチの 詩 集 に 一 定 の 評 価 を 与 え、「 真 に 充 実 した 内<br />

容 」 (9) であり、 特 に 観 念 、 哲 学 、 思 想 という 西 洋 の 詩 の 特 徴 を 有 している 点 に 於<br />

いては、「 日 本 詩 壇 への 教 訓 」 (10) としなければならないほどだと 認 めている。だ<br />

が、 西 洋 からの 教 訓 を 日 本 に 紹 介 したノグチは、 萩 原 朔 太 郎 の 言 葉 を 借 りると、<br />

その 詩 の 題 材 の 選 び 方 や 表 現 からみえるように、「 根 本 から 西 洋 詩 人 の 情 操 」 (11)<br />

を 持 つ「 完 全 な 外 国 人 」 (12) であった。そして、 日 本 と 西 洋 の 間 には 距 離 があり、<br />

「 欧 米 人 が 真 に 日 本 の 文 明 や 文 学 を 知 るというのは… 直 接 的 には 絶 望 的 」 (13) であ<br />

るため( 日 本 人 が 欧 米 人 の 文 明 や 文 学 を 知 る 可 能 性 には 一 切 触 れず)、「 和 洋 両 語<br />

に 通 づる 混 血 児 」 (14) が 媒 体 となることにより、その 困 難 極 めた、 不 可 能 と 思 わ<br />

れる 理 解 を 可 能 にする、とまとめている。しかし、 一 度 も 国 外 へ 出 なかった 萩 原<br />

朔 太 郎 は、ノグチが 海 外 で 達 成 した 業 績 は 知 らなかったであろう。 萩 原 朔 太 郎 に<br />

とってノグチは「 悲 劇 」 (15) であり、 彼 の 書 く 詩 を「 不 満 」 (16) と 感 じていたの<br />

だった。「 表 現 が 甚 だ 下 手 カス」 (17) であるがために「 地 中 に 埋 もれている 宝 玉 の<br />

光 を 連 想 」 (18) してしまう、というのだ。これほど 辛 口 に 評 価 されているにもか<br />

かわらず、 具 体 的 な 詩 を 例 にあげて 論 じられていないため、 客 観 的 に 考 えれば 説<br />

得 力 に 欠 ける 議 論 である。だが、そこから、 日 本 と 西 洋 の 相 互 理 解 へと 議 論 を 大<br />

きく 展 開 させ、 東 洋 や 日 本 の 象 徴 としてノグチを 見 ていた 欧 米 の 視 線 と、 日 本 人<br />

のノグチへの 理 解 があまりに 対 照 的 であるように、 要 するに 西 洋 と 日 本 の 間 には<br />

驚 くべき 間 隙 がある、と 論 じたのであった。 当 時 から、 萩 原 朔 太 郎 は「 二 重 国 籍<br />

者 としての 野 口 氏 は、その 立 場 からしてエトランゼ」 (19) といい、 日 本 の 文 壇 に<br />

とって 有 益 な 存 在 となり 得 たノグチを、 受 け 入 れようとしなかった。このような<br />

萩 原 朔 太 郎 の 主 観 的 な 解 釈 がその 後 のノグチの 理 解 を 全 て 狂 わせてしまったの<br />

だ。<br />

ノグチがこのように 異 質 の 日 本 人 として 軽 視 され、 疎 外 されたまま 終 わってし<br />

まうような 人 物 でないことは、 彼 の 経 歴 を 見 れば 明 らかである。 先 に 述 べたよう<br />

に、ノグチは 自 身 を 詩 人 として 見 ていた。ノグチの 全 著 作 はのべ184 冊 ( 改 訂 版

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