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近代日本における、ある異邦人の宿命 - subsite

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110<br />

私 は 礼 儀 正 しい 東 洋 人 であることを 喜 んだ……<br />

チェルシーで、カーライルの 銅 像 へ 朝 の 挨 拶 さえしたこともある。」<br />

「ああ、 一 体 どなたですか。」<br />

「 幾 千 万 とある 旅 行 者 の 一 人 だといって 置 かう。<br />

幻 のように 感 激 と 反 省 との 間 を 歩 いて、<br />

風 の 如 く、 空 中 にきえてゆく 人 間 に 過 ぎない。<br />

君 は 私 の 名 前 を 聞 いて、どうなさる。」<br />

両 者 ともに、 祖 国 におさまって 生 きて 来 た 者 の 質 問 に 答 えるという 形 式 で 書 い<br />

ている。 質 問 者 たちは、この 異 人 / 旅 行 者 それぞれを、もっと 確 かなものと 結 び<br />

つけて、そのアイデンティティを 確 立 させようとしているが、その 期 待 を 裏 切 る<br />

かのように、 彼 等 は 質 問 者 の 理 解 の 範 疇 を 越 えた 広 い 世 界 で 生 きていると 応 じ<br />

る。ボードレールの、「そんなら 君 は 何 を 愛 するのか、 風 変 わりの 異 人 」という<br />

問 いへの、「 僕 はあの 雲 を 愛 する」という 答 えは、 詩 的 で、 広 がりと 強 さを 感 じ<br />

させるが、 同 時 に 寂 しさも 漂 わせている。 一 方 、ノグチも、 何 者 か 問 われている<br />

にも 関 わらず、「 幾 千 万 とある 旅 行 者 の 一 人 」で、「 風 の 如 く、 空 中 にきえてゆく<br />

人 間 にすぎない」と 答 え、やがて 忘 れられるのなら、 初 めから 気 にされない 方 が<br />

余 程 良 い、と 言 わんばかりだ。 雲 と 風 、どちらもその 時 には 存 在 しても、 永 遠 に<br />

続 くことは 約 束 されていないどころか、あまりにも 儚 い。 両 者 とも、 家 や 家 族 や<br />

故 郷 などどこにも 持 つまい、という 決 心 と 孤 独 を 必 死 に 詩 的 に 表 現 しようとして<br />

いるが、 強 がりに 聞 こえる 節 もある。 孤 独 感 を 今 更 告 白 しても、 何 も 変 わらない<br />

のだ。ボードレールとノグチが 生 きた 時 代 は 異 なるが、 両 者 の 共 通 点 の 一 つは、<br />

この 地 球 上 での 移 動 が 現 在 よりもはるかに 困 難 だった 時 代 に 外 国 を 体 験 してし<br />

まった 者 のみが 感 じた 疎 外 感 だろう。<br />

「 異 邦 人 」 的 な 人 物 は、 彼 等 自 身 のトランスカルチュラルな 人 生 を 通 して 創 り

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