Jaguar Magazine 03/2017 – Japanese

線 画 の 達 人
ジャガーのデザインディレクター、
イアン・カラムが 自 在 に 描 くスケッチの 価 値 を 語 る。
写 真 : DFT ONE LINE ART; KEREM BAKIR; TRENT MCMINN
う 挑 戦 は、さまざまな 分 野 の 創 造 的 精 神 の 持 ち 主 を 魅 了 してきた。タ
トゥーアーティストのモー・ガンジーは、ベルリンにある 自 分 のスタジ
オで「 一 筆 書 きタトゥー」というニッチ 市 場 を 勝 ち 取 った。イラン 生 ま
れのガンジーは 美 しい 山 並 みなどの 優 雅 なイメージを 細 いインクの 線 で
スケッチする。そうしたイメージが「エネルギー、 連 続 性 、 生 命 力 の 循
環 」を 象 徴 すると 信 じているからだ。 一 筆 書 きアートでは、 線 は 形 を
定 めるだけではなく、 絵 の 一 部 でもある。シンガポール 出 身 のグラ
フィックデザイナー、チャン・フェー・チョンは、レオナルド・ダ・ヴィ
ン チ の「 モ ナ・リザ」 とヨ ハ ネ ス・フェ ルメール の「 真 珠 の 耳 飾 りの 少
女 」を1 本 の 渦 巻 き 状 の 線 で 模 写 した。 円 を 描 く 動 きは 時 に 速 く、 時
に 遅 く、インクペンを 押 す 力 を 加 減 して、 鼻 、 口 、 目 を 立 体 的 に 描 き 出
している。
一 筆 書 きアートは、そのシンプルさゆえに 自 然 発 生 的 に 生 まれる 芸
術 だと 思 われることが 多 いが、 実 際 は 念 入 りな 下 準 備 なくしては 制 作
できないという 性 質 を 持 っている。もちろんミスは 許 されない。そして
誰 が 挑 戦 するにしても、 確 実 に 見 る 者 の 注 意 を 引 きつける 職 人 芸 術 な
のだ。ディフェラントリーのステファンは 言 う。「 一 筆 書 きアートを 作 る
工 程 は、 本 質 的 に 困 難 なものです。その 多 様 性 とミニマリズムは 魅 力
的 ですけれどね。 絶 えず 冷 徹 な 決 断 に 迫 られ、 余 分 なものは 捨 て 去 ら
なければなりません。でも 間 違 いなくその 価 値 はありますよ」。
「 初 期 段 階 のアイデアはさっとスケッチを 描 いて 伝 えるのが
理 想 的 です。 言 葉 よりはるかに 正 確 で、 頭 の 中 に
描 いているものの 真 髄 を 伝 えられる。 本 当 にうまくいくときは、
思 考 過 程 が 線 をコントロールして、スケッチは 慣 れ 親 しんだ
言 語 を 話 すように 無 意 識 に 描 けます。まったく 新 しいデザインの
アイデアは、 得 てして 紙 の 上 で 偶 然 に 生 まれることが
多 いですね。 一 筆 書 きアートと 同 じように、 線 は 車 両 の 本 質 と
特 性 を 表 現 する 最 良 の 方 法 です。 魅 力 的 な 車 両 の
基 本 スケッチは 3、4 本 の 線 で 描 けるはずです。
F-TYPEのようなスポーツカーの 場 合 、 最 も 重 要 なのは
横 方 向 の 動 きのある 線 で、 基 本 線 にどのように
関 連 させるかです。サイドで 強 調 される 線 形 の 溝 は 力 強 さと
品 質 を 象 徴 します。 新 しいコンパクトな E-PACE のような
SUV はまったく 違 う 形 状 です。 線 はもっと 高 い 位 置 にあり、
曲 線 が 強 く、ホイールとルーフで 意 図 的 に 誇 張 されています。
ホイールの 上 のわずかな 隆 起 部 は 自 信 を 感 じさせるし、
シルエットははっきりとしていながらドラマチックです。
ジャガーの 最 初 の 電 気 自 動 車 であるI-PACEコンセプトの
ラインも 完 全 にデザインし 直 しました。2018 年 半 ばに
ローンチされるこの 車 両 は、 見 た 目 の 重 心 が 前 部 にあり、
後 部 が 引 き 下 がると 同 時 にノーズが 前 に 投 げ 出 されたかの
ように 見 えます。かなりドラマチックで、アクションに
備 えているかのようですよ。アイデアは 紙 の 上 で 生 まれました。
レンダリングや 3D モデルよりずっと 前 の 段 階 です。つまり
手 で 描 かれた 線 と、 鉛 筆 と 紙 の 相 互 作 用 がデザイン 工 程 の
基 礎 なのです。デザインにおけるこの 素 晴 らしい 導 入 作 業 は
時 代 が 進 んでも 取 り 入 れていくつもりです」。
THE JAGUAR 73