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2007 年の写真の進歩 - 日本写真学会

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感度を示した.ヨウ化銀に吸着する R-SH 型の還元剤を加え<br />

ると,正孔濃度の減少を伴って,感度が上昇した.ヨウ化銀<br />

は熱現像中に溶解消失して定着されるが,この溶解はベヘン<br />

酸銀とフタラジンの共存下で強められた.(JIST,51,207).<br />

熱現像型写真感光材料は超微粒子乳剤を用いているため解<br />

像度が高く,ホログラム記録が可能である.御舩らは,ヨウ<br />

化銀乳剤を用いた熱現像型写真感光材料でホログラム記録を<br />

行った(特許,特開 <strong>2007</strong>-171566).久下らは,熱現像型写真<br />

感光材料に記録した現像銀像からなる回折格子を臭素で漂白<br />

して位相型に変換することで,より高い回折効率が得られる<br />

ことを示した(ホログラフィック・ディスプレイ研究会,4:<br />

日写秋,21:特許,特願 <strong>2007</strong>-237517).<br />

熱現像型写真感光材料での感光過程については不明の点が<br />

多い.この過程の研究が進められ,従来の湿式感光材料との<br />

違いが示唆されている.<br />

Kimura ら(コニカミノルタ,千葉大)は,脂肪酸銀共存下<br />

での超微粒子乳剤のマイクロ波光導電を調べた.脂肪酸銀が<br />

存在すると光導電信号強度が減少することから,ハロゲン化<br />

銀粒子上に吸着した脂肪酸銀や銀イオンは浅い電子トラップ<br />

を提供しており,脂肪酸銀から供給される銀イオンが,感光<br />

過程に影響を与えていることが示された(JIST,51,540).<br />

さらにキムラらは,脂肪酸銀共存下での超微粒子乳剤のイ<br />

オン伝導度を調べた.イオン伝導度はナノサイズからマイク<br />

ロサイズ領域へと,連続的に粒径に反比例する関係を示した.<br />

脂肪酸銀が少量でも存在するとイオン伝導度が大きく低下<br />

し,これは格子間銀イオンの形成エネルギーが大きくなるた<br />

めと説明した.これらより熱現像型写真感光材料での潜像形<br />

成には,格子間銀イオンよりは表面吸着銀イオンが使用され<br />

ており,通常の湿式感光材料とは潜像形成過程が異なること<br />

を示唆した.(日写誌,70,306).<br />

2.1.5 銀塩写真感光材料の応用と商品開発<br />

銀塩写真感光材料のめだった新しい商品の発表はなかっ<br />

た.一方,銀塩写真感光材料システムを用いた新しい用途が<br />

発表されている.<br />

Shapiro(ロシア)は,写真銀像をメルカプト誘導体の銀塩<br />

や 2 価金属硫化物に変換して,そこに吸着した色素によるル<br />

ミネセンス発光で信号を読み取るシステムを提案した.反射<br />

式より SN 比の小さな多層の光学ディスクへの応用が可能と<br />

した(High Energy Chemistry,41,43).<br />

長谷川ら(千葉大)は,フィラメント構造を持つ現像銀を<br />

使った電界放出陰極を作製して,その電界放出を確認し,画<br />

像デバイスとしての応用を探った(日写秋,25).<br />

原子核乳剤を用いた放射線飛跡検出の手法はこれまで大量<br />

データの取得に難があったが,Ultra track selector(UTS)を<br />

用いた高速自動解析システムが開発されており,測定速度と<br />

精度が向上している.田中(東大)は,宇宙線中のミューオ<br />

ンを用いた非破壊検査の手法に UTS を用いて,浅間山の火山<br />

中のマグマの挙動を調べた例を紹介している(日写誌,70(4),<br />

230).歳藤らのグループ(高エネルギー研,名大など)は,重<br />

粒子線がん治療に用いられる炭素イオンビームの核破砕反応<br />

<strong>2007</strong> <strong>年の写真の進歩</strong> 139<br />

を,UTS で詳細に調べた(日写春,2).<br />

飛跡検出への金沈着現像の応用が図られ,測定精度の向上<br />

が得られている.Kuge は金沈着現像法を飛跡検出に用い<br />

ることで,飛跡がより精細に記録されることを見いだし,<br />

UTS 測 定 精 度が向上 することを見いだした(Radiation<br />

Measurements,42,1335).またグレイン・デンシティの測<br />

定に応用して,同じく測定精度が向上することを見いだした<br />

(日写誌,70,44).久保田ら(名大他)は,この手法で飛跡<br />

上に形成された潜像核個数の線密度を求め,グレイン・デン<br />

シティの測定より高い精度でエネルギー損失が測れることを<br />

見いだした(応物秋,133).<br />

金沈着現像法による金微粒子形成とそれを応用した金膜写<br />

真についての報告が引き続きなされている.Kuge ら(千葉<br />

大)は,感光材料中のハロゲン化銀粒子のサイズの小さな超<br />

微粒子乳剤では,生成する金微粒子のサイズ分布が狭くなり,<br />

比較的小さな金微粒子が形成されることを見いだし,粒子間<br />

の金イオンの獲得競争で説明した(JIST,51,96).<br />

さらに同グループの陳ら(千葉大)は,金チオシアネート<br />

錯体が主成分の金沈着液処方の検討を行い,金イオンに対す<br />

るチオシアネートイオンの比率を下げると,金微粒子形成速<br />

度が向上すること(日写春,128)や,また硫酸ナトリウム<br />

を添加しても速度の向上が得られること(日写春,130)を<br />

報告した.<br />

中西,久下らは,金微粒子からなる写真を焼成して得られ<br />

る金膜写真が,観察角度によってネガ像とポジ像が反転する<br />

ことを報告し,その調子再現特性を求めた(日写春,132).<br />

金膜写真は高解像度を有するため,金膜の凹凸からなるホ<br />

ログラムが作製できる.同じグループの大木らは,赤色光感<br />

度を持つ感光材料を調製して,金膜ホログラムの作製につい<br />

て(日写秋,17),武田らは,金膜ホログラムの調製における<br />

焼成条件を検討し(日写春,8),金膜の回折格子の構造解析<br />

を行った(日写秋,19).<br />

2.2 感光材料用結合素材<br />

大川祐輔(千葉大学)<br />

銀塩写真材料の基礎研究,学術研究が表に出ることは少な<br />

くなり,結合材料関係も例外ではない.永く銀塩写真におけ<br />

る結合材料として不動の地位を保ち続けるゼラチンも,研究<br />

の主流は食品応用,医療応用,基礎物性,新規用途開拓など<br />

に集中し,写真分野に直接関係するものは少なくなっている.<br />

この傾向は今後も変わることはないと思われる.ゼラチン研<br />

究自体のニーズ,ポテンシャルはあるが,写真学会での役割<br />

についてはゼラチン研究会としても引き続き検討しなければ<br />

ならない課題である.<br />

<strong>2007</strong> 年度の<strong>日本写真学会</strong>ゼラチン賞は,ゼライス株式会社<br />

の小林隆氏に贈られた.氏はゼラチンのセット性に関して,<br />

新しいセッティングポイント測定法の提案,それを用いての<br />

セット特性の系統的な評価,セット性を支配する要因の検討,<br />

さらにはゲル化過程を旋光度測定やサイズ排除クロマトグラ<br />

フィによる分子量分布解析等を駆使して分子論的な視点から<br />

調べ,セット特性,ゲル化現象についての考察を行った.氏

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