2007 年の写真の進歩 - 日本写真学会
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膜から超薄膜まで高精度で作製できるようになってきたの<br />
で,今後ますますエレクトロニクス関連分野に利用されてい<br />
くものと考えられる.<br />
12. 写真芸術<br />
<strong>日本写真学会</strong>誌 71 巻 3 号(2008 年,平 20)<br />
西垣仁美(日本大学芸術学部)<br />
12.1 概況<br />
21 世紀に入り,写真の世界では急速にデジタル化が進んで<br />
きた.このわずか 7 年の間に,デジタルはもはや特別なもの<br />
ではなく,当たり前の技術として人々の間に広まっている.<br />
2006 年の報告で,銀塩との共存状態であると報告したが,<br />
<strong>2007</strong> 年には,逆に銀塩写真が特別な存在として,その魅力を<br />
主張した時代であった.すなわち銀塩であることを強調し,<br />
銀塩の魅力を示す写真展が特別なものとして目を引いたので<br />
ある.その代表的なものが「ゼラチンシルバーセッション展」<br />
(アクシスギャラリー,10 月 2 日~ 20 日)である.黒白,カ<br />
ラーともに銀塩の作品の写真展であったが,名だたる写真家<br />
が 2 人 1 組になり,自作の作品と他者がフィルムからプリン<br />
トした作品を 2 枚並べて展示した.この方法により,銀塩写<br />
真には作者の個性がプリントに反映されること,幅広い表現<br />
が可能であることが示され,銀塩写真の幅広い魅力を伝える<br />
ものであったが,同時にデジタルプリントによる制作でも,<br />
個性の反映は可能ではないかと考えさせられるものであっ<br />
た.<br />
また <strong>2007</strong> 年は,写真関係各社が有する写真ギャラリーの<br />
存続が危ぶまれたことが印象深い.相次ぎ写真会社の合併が<br />
発表され,銀塩関係部門が縮小され,写真ギャラリーの移転<br />
や,閉鎖の可能性が話題になった年であった.<br />
一方,写真が写真としての枠を超えて,現代美術として取<br />
り上げられ,現代美術展の中に他分野の作品とともに展示さ<br />
れた展覧会が多かったことも特徴であった.例えば国立新美<br />
術館で行われた「異邦人(エトランジェ)たちのパリ 1900–<br />
2005 ポンピドー・センター所蔵作品展」(2 月 7 日~ 5 月 7<br />
日),森美術館の「六本木クロッシング <strong>2007</strong>:未来への脈動<br />
(10 月 13 日~ 2008 年 1 月 14 日)などがあげられる.この傾<br />
向は今後も続いていくように感じられる.<br />
12.2 写真展<br />
・グレゴリー・コルベール「ashes and snow」<br />
(ノマディック美術館,3 月 11 日~ 6 月 24 日)<br />
東京のお台場に,この展覧会専用の移動美術館として期<br />
間限定で建てられた建物自体も作品の一部となり,写真作<br />
品,映画,小説,建築すべてが一体となった企画展であっ<br />
た.カナダ出身のコルベールが世界 40 カ国以上で,人間<br />
と動物たちの交流の姿を捉えたものであった.すべてがス<br />
トレートな写真であるというのが信じがたいほどの素晴ら<br />
しい瞬間が写されており,心温まる写真展であった.<br />
・アンリ・カルティエ=ブレッソン「知られざる全貌」<br />
(東京国立近代美術館,6 月 19 日~ 8 月 12 日)<br />
カルティエ=ブレッソンの写真,フィルム,油彩やデッ<br />
サン総てを集めた大きな作品展であった.写真も世界各地<br />
で撮影された幅広い作品が数多く展示されていた.最大の<br />
見所は,日本初公開であった彼のヴィンテージプリントが<br />
数多くまとめて展示されたことである.ガスマンプリント<br />
との違いを目の当たりにでき,大変興味深かった.また 7<br />
本のフィルムも見る事ができた.<br />
・森村康昌「森村泰昌-美の教室,静聴せよ」展<br />
(横浜美術館,7 月 17 日~ 9 月 17 日)<br />
森村泰昌の創作の秘密を解き明かすかのような展覧会で<br />
あった.彼が制作してきた写真作品に写し出された被写体<br />
を同時に展示することにより,その作品の芸術性を新ため<br />
て感じさせられた.回顧展に止まらず新しい見方が提示さ<br />
れ,最新作も出品され,余すところなく森村の魅力を展示<br />
していた.<br />
・日本建築写真家協会「銀座ジャック」<br />
(品川キヤノン S タワー 2 階 オープンギャラリー,キヤノン<br />
サロン S タワー,オープンギャラリー,4 月 19 日(木)~<br />
5 月 17 日)<br />
日本建築写真家協会創設 5 周年を記念して,メンバーが<br />
東京銀座の 1 丁目から 8 丁目までの 30 m を撮影し,オー<br />
プンギャラリーの長い展示会場をいかした横長のプリント<br />
を制作し両壁面に銀座通りを再現した.左右で昼と夜と撮<br />
影時間を変えることにより,銀座の 2 つの印象をも示して<br />
いた.通常道路を歩いている時に,建築物の目線のみしか<br />
注視していないことを改めて感じさせられた.非日常の興<br />
味深い写真展であった.<br />
12.3 「東京写真月間 <strong>2007</strong>」開催<br />
第 12 回を迎えた「東京写真月間 <strong>2007</strong>」が,東京写真月間<br />
<strong>2007</strong>」実行委員会と社団法人日本写真協会,東京都写真美術<br />
館の主催で,6 月 1 日の「写真の日」を中心に開催された.<br />
今回のメイン企画は「東京の肖像」であった.一昨年の企<br />
画が写真の歴史を展望する垂直の視線であり,昨年の企画が<br />
現代における日本各地の写真活動を通じた文化交流を展望し<br />
た水平の企画であったのに対し,今回はその交点である東京<br />
写真月間開催地である巨大都市東京に視線を注視し,その過<br />
去・現在・未来の姿を浮かび上がらせるものであった.特に<br />
「生活者」の視線を大事にし,同じ目線でそこに暮らす人々の<br />
生活を捉え,都市の環境の変化を浮かび上がらせていた.<br />
ハービー・山口の「my favorite faces」(ペンタックスフォー<br />
ラム,5 月 18 日~ 31 日)は東京の街で見かけ現代に生きる<br />
人々の様々な表情をテーマにしたものであった.神山洋一の<br />
「東京生活 1992–2002」(ポートレートギャラリー,5 月 29 日<br />
~ 6 月 10 日)は東京に暮らしている環境や生活レベルの違<br />
う様々な人々が『生きている』ということに対しては誰しも<br />
が平等であるという考えのもと,東京 23 区とその周辺を歩<br />
き回りスナップショットで急速に変貌する都市とそこに住む<br />
人々を撮り集めたものであった.春日昌昭の「TOKYO・1963–<br />
1966」(FUJIFILM SQUARE(東京ミッドタウン)富士フイル<br />
ムフォトサロン,6 月 1 日~ 7 日)は 40 年前の東京オリン<br />
ピック前後に変貌する都市東京の街並みを写しとったもので