2007 年の写真の進歩 - 日本写真学会
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プおよび毒性のない古典印画法などの検証報告と,デジタル<br />
およびアナログアーカイブの事例報告,文化財保存修復・画<br />
像保存・映画の復元と保存等に関する各セミナーを取り上げ,<br />
紹介する.<br />
デジタルアーカイブにおいて,樫村(慶應義塾大学)は<br />
2006 年から 12 回(予定)に渡る連載の中で,HUMI プロジュ<br />
クトの貴重書デジタルアーカイブについて解説している.<br />
<strong>2007</strong> 年はデジタル画像の利用とコンピュータの活用度合い<br />
に応じたデジタル書物学についての研究事例とデジタルアー<br />
カイブの Web 公開事例を紹介した.活用の度合いを「レベル<br />
1:原資料の代替品としての利用」「レベル 2:パソコン上の<br />
汎用ツールの活用」「レベル 3:専用ツールの開発による処<br />
理」と考え,デジタル画像の研究利用の一般化に向けて考慮<br />
すべき点を言及した(情報の科学と技術,57(2),89).HUMI<br />
プロジュクトでは,保存用の高解像度からなるデジタルファ<br />
クシミリのためのデジタルアーカイブと,一般利用者用の<br />
Web 公開デジタルアーカイブを個々に構築して運営してい<br />
る.デジタルアーカイブはまだ過渡期であり,過去に構築し<br />
たデジタルアーカイブを維持しながら最新の技術で更新して<br />
いくためには,標準化や管理維持のための社会的環境づくり<br />
が課題であると結んでいる(同,57(3).125).日本経済新<br />
聞社経営企画室は,日本経済新聞創刊 130 年の軌跡として,<br />
マイクロフィルムで保存してきた創刊以来の紙面の電子化を<br />
行った.作成した PDF ファイルは 94 万枚に及んだという(月<br />
刊 IM,46(3),10).山崎(東京工業大学)は,設計資料の<br />
保管スペースの問題があるものの,「原資料の永久保存」「複<br />
製資料のマイクロフィルム・デジタルデータの併用」という<br />
捉え方を近代建築関係の資料の保存にも適用させるべきと<br />
し,自身が行った設計資料のマイクロフィルムからデジタル<br />
データに変換する仮定で生じた①撮影縮小率のばらつき(縮<br />
率誤差),②透過濃度のばらつき,についての問題を述べてい<br />
る(月刊 IM,46(4),10).<br />
アナログの保存関係では,沖縄県公文書館研究紀要の中で,<br />
戦後 27 年間の米国統治下における沖縄の行政記録である琉<br />
球政府文書の総合保存利用計画および緊急保存措置事業に関<br />
するプロジェクトの報告がなされている.大湾(沖縄県文化<br />
振興会)は,保存と利用を両立させるために「整理」「保存・<br />
修復」「複製」の側面から保存措置の方針作りや対策を検討<br />
し,15 万簿冊におよぶ琉球政府文書の用紙別の褪色度合いや<br />
劣化要因などの保存状態調査をまとめた(沖縄県公文書館研<br />
究紀要,9,37).吉嶺(沖縄県文化振興会)は,緊急保存措<br />
置としてマイクロ化に至る経緯を述べ,「素材調査」「保存状<br />
態調査」を踏まえた資料の優先順位についても詳細に言及し<br />
ている.マイクロフィルムを選択した理由として,長期保存<br />
性,長期利用性,裸眼可視媒体であることを挙げている(同,<br />
9,49).元興寺文化財研究所は,15 万簿冊の琉球政府文書の<br />
うち,沖縄県公文書館が抽出した 23 簿冊を対象に,形式・紙<br />
質分類・記録方式・褪色・pH・劣化状況について調査し,劣<br />
化傾向を分析した.さらに紙質の異なるサンプルを用いて,<br />
加熱劣化試験および水銀ランプ照射による褪色試験を実施し<br />
<strong>日本写真学会</strong>誌 71 巻 3 号(2008 年,平 20)<br />
た.この結果は劣化傾向の分析と同様,保存措置の優先度に<br />
反映されている(同,9,137).笹隈(ケイアイピー)は,建<br />
築物の社会的責任を果たすため,竣工図面・構造計算書・建<br />
築緒言などの建築情報の永年保存する重要性を述べ,その保<br />
存にデジタルイメージデータを直接マイクロフィルムに描画<br />
して圧縮記録する方法を推薦する.この方法は IT と融合した<br />
情報の永年保存媒体と期待している(月刊 IM,46(2),26).<br />
野外で使用される大型インクジェット印刷は,様々な気象<br />
条件(雨,湿度,光,オゾン等)により退色を余儀なくされる.<br />
Kline(Rochester Institute of Technology)は,加速度試験では<br />
なく実測で多変量解析し,環境変数の特定をおこなった<br />
(IS&T’s Archiving Conference, 113).<br />
媒体の長期保存性について,渡部(デジタルコンテンツ協<br />
会)は,DVD ディスクの寿命推定法を構築し,その加速度試<br />
験による寿命推定から,ディスクの選択によって 30°C・80%<br />
RH の保存条件下であっても 50 年あるいはそれ以上の寿命を<br />
持つと推定した.また,DVD ディスクの寿命推定法の国際標<br />
準化の動向についても述べている(月刊 IM,46(7),29).<br />
デジタル修復では,市川(写真工業出版)らは,変退色し<br />
たカラー写真の救済として,市販の 3 機種のスキャナを用い<br />
たカラーリバーサルフィルムの簡易的な退色復元作業につい<br />
て解説し,各機種に付加されている変退色復元モードを利用<br />
した復元の結果から,フィルムスキャナとしての性能を比較<br />
検討した(日本写真芸術学会誌,16(1),37).<br />
古典技法の脱有害性として,Bjørngård ら(千葉大学)は,<br />
重クロム酸塩ゴム印画法に代わる毒性のない写真法を考案し<br />
た.ゴム印画法の感光化剤として従来使用されてきた有害な<br />
重クロム酸カリウムや重クロム酸アンモニウムは,クエン酸<br />
鉄(III)アンモニウムで代替えできると証明した(日写誌,<br />
70(2),106).<br />
展示照明の報告として,石井(共立女子大学)らは,最も<br />
変退色や劣化が生じやすい天然染料染色布とブルースケール<br />
の変退色挙動から,白色 LED ランプが美術・博物館用照明<br />
としての適性を検証した.変退色は光源の色温度,放射照度<br />
の波長域や放射束値と高い相関が認められ,LED ランプ特有<br />
の 400 ~ 500 nm の発光ピークに応答し,退色を生じた染料<br />
があった.既存の白色蛍光ランプよりも退色が少ないものの,<br />
白色 LED ランプを美術・博物館用照明として実用化するた<br />
めには,さらなる改良が必要とした(照明学会誌,91(2),78).<br />
6 月に開催された文化財修復学会第 29 回大会研究発表は,<br />
セッション 31 件,ポスターにおいては 125 件にのぼり,多<br />
くの参加者の情報交換の場となった.海外輸送時の文化財へ<br />
の負荷,紙資料の劣化度評価や紙へのサイズ剤の影響,シミュ<br />
レーションによる温湿度解析,展示ケースの雰囲気の改善,<br />
水害資料の救済,文化財防災,虫害,IPM 活動など,各方面<br />
からの発表があった.ここではセッション報告のみを取り上<br />
げる.大会要旨のページにのみ括弧内に記した.<br />
神庭(東京国立博物館)らは,文化財輸送の安全対策を講<br />
じるために振動計測を行っている.海外輸送の全行程の振動・<br />
加速度発生時刻と輸送行程ごとの梱包ケースの状態を分析