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2007 年の写真の進歩 - 日本写真学会

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とで物体を構成する質点の変位ベクトルを求め,外力の作用<br />

点からの距離に応じた影響率関数を考慮することで,自然な<br />

変形を行わせることを可能にしたが,今後は,影響率関数で<br />

近似した梁モデルの精度評価を行い,剥離などの具体的な手<br />

技の訓練が行えるようなアプリケーションの完成を目指すと<br />

報告している(日写誌,70(別),14).<br />

9. 科学写真<br />

9.1 文化財<br />

城野誠治(東京文化財研究所)<br />

<strong>2007</strong> 年の概況として,科学写真の枠組みでとらえると,文<br />

化財の分野では,新たな技術開発や既存の技術に対する応用<br />

に大きな進展はみられなかった.しかし,すでに公表された<br />

技術の応用事例が数件報告されている.小澤(筑波大)らが<br />

発表したデジタルカメラ撮影を利用した顔料,染料同定の試<br />

み(第 29 回文化財保存修復学会)は,赤外線の物性を利用<br />

して有機物と無機物の材質を簡便に識別することを目的とし<br />

て行っている.これは,イメージセンサが実用域に達し,多<br />

機能化されたデジタルカメラが普及し,機器の一部機能を利<br />

用することで,これまで困難であった赤外線の撮影が簡易な<br />

範囲であるが容易に行えるようになり,科学的な見地での応<br />

用範囲が広がったものと言える.また,文化財を写真に記録<br />

する際,より正確な色再現が重要となるが,岩城(富士フィ<br />

ルム)らは,印刷や写真において「好ましい色再現」を実現<br />

させるために重要と思われる要因を,撮影条件の補正,ガマッ<br />

トマッピング,記憶色再現,意図的色再現とし,その技術を<br />

紹介している(日印誌,44(2),91–97).色に関連して,小島<br />

(東海大)らは,人が金色を認識するメカニズムについて報告<br />

している.人が金色と感じるものの物理的測定結果は黄色で<br />

あるが,対象物の形状(3 次元情報)の認識により金色を認<br />

識できるという仮説を下に検証実験を行っている.この結果,<br />

金色は青や赤といった単なる色とは別格の,対象の形状に対<br />

応した反射特性を認識したときに得られるより上位の認識概<br />

念であるとしている(日画誌,46(5),357–362).文化財に<br />

おいて金色は絵画や工芸品などで様々な材質を用いて表現さ<br />

れている.光の当て方によって輝きの度合いが変化し,金色<br />

は色としての認識が困難である.この検証は科学的に色味を<br />

論証する際に重要となるであろう.鈴木(工芸文化研)は,<br />

歴史学における計測技術の発展を概観するとともに,3 次元<br />

デジタル計測データの応用とデータベース化について述べ<br />

た.古物のデータベースの構成要素として,拡大写真,エッ<br />

クス線写真,3 次元デジタル計測データ,観察記録①表面上<br />

の傷,突線,凹線などの有無,観察記録②表面上の付着物の<br />

有無(錆,土等)の 5 つを揚げている.ここで,写真を写生<br />

技術の発展とし,優れた客観的な観察手段としながらも恣意<br />

的に欲しい結果に近づける工夫がなされることがあるとし<br />

て,注意を促している.デジタルアーカイブが盛んに作られ<br />

る中,データベース化に向けた客観性を確立するためにも何<br />

らかの基準が求められるであろう(Museum,609,21–62).<br />

<strong>日本写真学会</strong>誌 71 巻 3 号(2008 年,平 20)<br />

9.2 天体写真<br />

山野泰照(天体写真家)<br />

<strong>2007</strong> 年も天体写真の世界は,引き続きデジタル化が進んだ<br />

年であった.デジタルカメラなどの,撮影機材の性能や機能<br />

の進化だけでなく,撮影目的に応じて,ワークフローを最適<br />

化するための統合環境づくりに向けた取り組みが進んでいる<br />

ことが注目される.<br />

まず撮影機材の中の静止画機材では,デジタルカメラ全般<br />

に相変わらず高画素化が続いている中で,デジタル一眼レフ<br />

カメラの高性能化,特に天体写真で注目すべき性能面では,<br />

低ノイズ,高感度化が進んだ.<br />

カメラが設定できる最高感度に着目すると,ISO6400,増感<br />

設定では ISO25600 相当まで設定が可能な製品(ニコン D3)<br />

が登場した.ほとんどのデジタル一眼レフカメラで,実用的<br />

な感度設定として ISO800 で,数分間の露出が安心して行え<br />

るようになり,天文ファンだけでなく一般ユーザーにも簡単<br />

に美しい天体画像が撮影できるようになった.<br />

銀塩フィルムに見られた低照度相反則不軌というような,<br />

感度を低下させるような現象はデジタル機材にはないので,<br />

ISO800 の数分間の露出で予想以上に暗い天体が撮影できる<br />

ようになったことは,天体撮影の底辺拡大に大きく貢献する<br />

ものである.<br />

一部の天体写真ファンの間では,Hα の波長(656 nm)を<br />

確実に撮影するために,視覚的な色再現性が損なわれること<br />

を承知の上で,市販のデジタル一眼レフカメラを天体望遠鏡<br />

ショップで改造(赤外線カットフィルターの換装など)する<br />

ことはますます一般化してきた.<strong>2007</strong> 年は,上述したような<br />

分光感度分布を天体写真ファン好みに改造するだけでなく,<br />

さらにノイズを低減するために,冷却 CCD カメラと同様な<br />

ペルチエ素子を用いた冷却機構を搭載する改造カメラを販売<br />

する天体望遠鏡ショップも登場してきた.<br />

動画関連では,主たる鑑賞機材である HDTV の高性能化<br />

(フルハイビジョン化など)も背景にあって,撮影機材もフル<br />

ハイビジョン(1920×1080)の解像度を持つ製品が相次いで<br />

登場した.(キヤノン iVIS HF10,ソニー HDR-SR12 など)<br />

解像度だけではなく,色域の拡大やノイズの低減などの性<br />

能も向上し,また小型化,軽量化も進み,より高画質が手軽<br />

に得られるようになった.撮影可能な最低照度も 5lux程度<br />

と一般撮影には十分な高感度になってきたため,天文の世界<br />

でも,皆既日食や月面,惑星撮影などで威力を発揮すること<br />

が期待されている.<br />

さて,天体撮影のひとつに,遠征先で手軽に星景や星座を<br />

自動追尾撮影したいというニーズがある.以前から,カメラ<br />

を搭載して天体を追尾(日周運動による星の動きを追尾)さ<br />

せる機材として,撮影前に極軸合せをしておけば,あとは赤<br />

道儀のモーターの自動追尾機能に任せて撮影できるポータブ<br />

ル赤道儀というものがあったが,ピリオディックモーション<br />

が±5秒角を下回る高性能なポータブル赤道儀が発売された.<br />

(TOAST TECHNOLOGY)高感度のデジタルカメラと,そう<br />

いうポータブル赤道儀との組み合わせによって,気軽に天体

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