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2007 年の写真の進歩 - 日本写真学会

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追い求めた作者の到達点ともいえる「天界の道」が評価さ<br />

れた.<br />

・作家賞:水谷章人<br />

スポーツ写真を職業として確立した先駆者の一人である<br />

氏は多くのスポーツ雑誌のグラビアを飾ってきた.特に<br />

「Number」への掲載は 5 年に渡った.またスポーツプレス<br />

協会の会長としても活動を行い,会は昨年 30 周年を迎え<br />

た.更にスポーツ写真講座を開き,後進の指導にあたり実<br />

力あるスポーツ写真家を育てている.<br />

・新人賞:北野謙<br />

作品「our face」は個と集団という普遍的で現代的でもあ<br />

るテーマを示している.この作品は,撮影した何十人もの<br />

ネガを一枚の印画紙に正確に重ねて作品としたポートレー<br />

トであり,一人一人の肖像でありながら同時に撮影された<br />

総ての人の肖像となっている.この作品をとおし,肖像分<br />

野のみならず写真の新しい可能性に満ちた方法論を提起し<br />

ている.<br />

・新人賞:吉村和敏<br />

1998 年の初個展,2000 年の写真集出版以来,受賞対象<br />

となった再近作「林檎の里の物語」までカナダの自然風景<br />

と人々の暮らしをテーマに作品制作を続けている.人と自<br />

然が対立するのではなく,まさに調和の中に共存していく<br />

風景の美しさは理想郷としての魅力を捉えている.自らの<br />

写真的原点を揺るがすことなく,ヨーロッパにも取材範囲<br />

を広げている.<br />

・特別賞:ジェイ・ウォーリー・ヒギンズ<br />

「発掘カラー写真 昭和 30 年代鉄道原風景(4 巻)」「発<br />

掘カラー写真 昭和 30 年代乗物のある風景(2 巻)」等を<br />

出版.この時代にカラーフィルムで撮影するのは大変で<br />

あったにもかかわらず,これら作品は鉄道写真という範疇<br />

に止まらず,当時の環境を記録した貴重なものである.決<br />

して豊かではなかったが,人々が意欲にあふれていた時代<br />

そのものを車両達と共に記録したのであり,日本の文化記<br />

録として大変価値が高い.<br />

〈「写真の日」記念写真展・<strong>2007</strong>〉(新宿パークタワー・ギャ<br />

ラリー 3・オープンデッキギャラリー,5 月 31 日~ 6 月 6 日)<br />

は全国から 910 名,2282 点の応募があった.応募人数,点数<br />

ともに前回を上回った.作品は自由作品部門とネイチャー<br />

フォト部門に分けられ,その両方から外務大臣賞 1 名が選ば<br />

れた.それ意外は両部門から,最優秀賞各 1 名,優秀賞各 5<br />

名,準優秀賞各 5 名,レディース賞各 5 名,協賛会社賞各 42<br />

名,入選は自由作品部門 121 名,ネイチャーフォト賞 120 名<br />

が選ばれ,展示された.<br />

恒例の〈1000 人の写真展「わたしのこの 1 枚」〉(新宿パー<br />

クタワー,ギャラリー 3・オープンデッキギャラリー,5 月<br />

26 日~ 29 日)は,今回で 12 回目となった.「みんなに見せ<br />

たい!わたしの写真…」キャッチフレーズに,風景,家族の<br />

写真,心に残る光景などバラエティーにとんだ写真が展示さ<br />

れた.<br />

<strong>日本写真学会</strong>誌 71 巻 3 号(2008 年,平 20)<br />

12.4 出版<br />

・写真集「Light Navigation」片桐飛鳥,ADP(アートデザイ<br />

ンパブリッシング)<br />

光を,大気を,世界に存在する色を捉えた写真集である.<br />

被写体自体はこの世に存在する風景の一部であるが,それ<br />

を作者が抽象化している.それは人工的な後処理で生み出<br />

されるものではなく,撮影時点ですべて終わっているスト<br />

レートな写真である.この空気感,色を出すのは高い技術<br />

が必要であろう.作品をとおして壮大な宇宙を感じた.<br />

・写真集「二月 Wintertale」小畑雄嗣,蒼穹舍<br />

白黒写真とカラー写真の両方で構成されている.冬の北<br />

海道が舞台であるが,ストーリや説明的ではなく,白く冷<br />

たい大地を失踪するスケート選手,馬,大気を舞う雪の結<br />

晶,動く天体,そこで暮らす人などを通して,雄大な自然<br />

とそこに暮らす小さな人間の存在を全体で感じさせてくれ<br />

る.<br />

・写真集「NEW DIMENSION」石川直樹,赤々舍<br />

世界各地の壁画へ至る旅の写真集である.太古の壁画へ<br />

至る現代の様々な道,例えば草原,海原,荒れた大地など<br />

を辿って行くうちに,現代の時間が過去へと遡っていくよ<br />

うな感覚を与えられる.たどり着いた先の壁画に潜む太古<br />

の人々の思いを感じると,現代と太古の時空が絡み合って<br />

新しい次元を構成しているように思える.<br />

・写真集「CANARY」志賀理江子,赤々舍<br />

写真集「Lilly」志賀理江子,アートビートパブリッシャーズ<br />

同作者による 2 冊の写真集が 12 月に相次いで出版され<br />

た.ともにカラーによる作品であり,死生観を表現してい<br />

る.内容は世界の断面の集積であり,殊更ストーリーがあ<br />

るわけでもなく全体としてこの世にある光と闇,生と死の<br />

存在を共に感じさせる映像である.写真が現実のみしか写<br />

し出せないといった印象を打破するものであり,静まり<br />

返った音の世界を感じさせられた.<br />

・写真集「密やかな記憶」阿佐見昭彦,蒼穹舍<br />

世界各地の街角などで撮り集められた作者の記憶の集積<br />

といえる黒白の写真集である.それぞれに特徴ある溢れる<br />

光と,被写体の構成力が素晴らしく,しかも一枚一枚の写<br />

真にストーリー性が感じられた.特に建築物の捉え方が独<br />

特で,魅力的である.<br />

13. 写真家から見た画像技術の進歩<br />

矢部國俊(写真家,光藝工房)<br />

13.1 総括<br />

今年は,ハードウエア的にはあまり目立ったおもしろいも<br />

のはなかった.価格競争にあおられたせいか,進歩と言える<br />

のかどうか難しいものが多かった.<br />

逆に,目に見えない部分での革新は著しく,様々な分野で<br />

地道に変化していることが市場動向などから伺える.特に画<br />

像技術とは関係ない電池の容量など,ひと昔前とは比べ物に<br />

ならないほど長く使用することができる.これが直接因果関

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