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2007 年の写真の進歩 - 日本写真学会

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はゼラチン研究会の設立時から重要な働きをされており,こ<br />

れらの貢献による受賞となった.<br />

銀塩写真に直接関わる研究としては,柴ら(千葉大)が物<br />

理抑制性について本質的な考察を行った.通常の物理抑制度<br />

試験では分離することができない核形成と結晶成長の二つの<br />

要素を分けて議論することが可能な方法として,コントロー<br />

ルドダブルジェット法による単分散塩化銀粒子形成を利用<br />

し,粒子成長速度論に基づく議論を行った(日写誌,70,238).<br />

ゼラチンはタンパク質であり,劣化・分解をおこす.バイ<br />

ンダーの劣化は写真画像そのものの保存性にも重大な影響を<br />

与える.Abrusci ら(スペイン マドリードコンプルテンス大)<br />

はこれまでも写真フィルム,映画フィルムのゼラチンバイン<br />

ダーの微生物分解について報告している.今回は黒白フィルム<br />

のゼラチンバインダーの微生物分解を,発生する二酸化炭素<br />

を電気的に検出する間接インピーダンス法によって追跡した<br />

(Internat. Biodeter. Biodegrad.,60,137).画像銀が存在する<br />

場合には微生物の増殖は抑えられる一方,ゼラチンはグルタ<br />

ルアルデヒドによる架橋の有無にかかわらず分解された.い<br />

くつかのバクテリアについて,この方法で生分解効率を相対<br />

的に比較した.山口ら(東京都写真美術館,千葉大)は,ゼ<br />

ラチンバインダーの経年劣化を,分解によって生ずる可溶性<br />

成分によって評価することを試み,強制劣化試料から冷水抽<br />

出される成分をサイズ排除クロマトグラフィーで調べた(日<br />

写春).モデルゼラチン薄膜と実際の印画紙のどちらも劣化の<br />

進行に伴い可溶性成分は増加し,バインダーの劣化の指標と<br />

なる可能性が示された.<br />

重クロム酸塩の光還元によって生じるCr3+ によるゼラチン<br />

の架橋反応は,古典印画法やホログラム記録に利用されてき<br />

た.Bjørngård ら(千葉大)は重クロム酸塩を用いない安全な<br />

代替法として,鉄塩を感光材料として用い,光生成した Fe(II)<br />

と過酸化水素の反応から始まるラジカル重合でゼラチンを硬<br />

化させる印画法を提案した(日写春,日写誌,70,106).<br />

電子ペーパーはさまざまな原理のものが提案されている<br />

が,銀塩感材同様にゼラチンをバインダーやマトリクスとし<br />

て利用しようという研究が行われている.林ら(千葉大)は<br />

電子ペーパーへの応用を目的とし,ゼラチンで包括固定化さ<br />

れた粒子内包液滴を用いる電気泳動表示素子の調製条件につ<br />

いて検討した(電気化学会第 74 回大会,1L01).泳動粒子を<br />

分散した絶縁性オイルをゼラチンゾル中で液滴として分散<br />

し,これを電極上でゲル化させずに乾燥することで,オイル<br />

滴を稠密に 2 次元配置して固定化できる.ゼラチンは分散時<br />

の保護コロイド,固定化時のマトリクスとして機能する.光<br />

学特性は主にオイル滴内の粒子分散の程度に強く依存し,ゼ<br />

ラチンの影響は小さいとした.原田ら(富士ゼロックス)は,<br />

ゼラチンゾル中でコレステリック液晶を液滴化し,同様にゼ<br />

ラチンをマトリクスとして用いるタイプの高分子分散型液晶<br />

素子を提案し,やはりゾル状態からゲル化させることなく水<br />

分を乾燥除去することで,2 次元的に稠密な液適配置を達成<br />

している(液晶学会討論会,3aA08).光学特性を向上させる<br />

ためには表面の平滑化が有効であるが,そのためにゾルゲル<br />

<strong>日本写真学会</strong>誌 71 巻 3 号(2008 年,平 20)<br />

変換挙動の異なる寒天ゲルで表面を覆ってその状態からゼラ<br />

チンゾルを乾燥させる方法(同,3aA09),さらに積層化のた<br />

めに,ゼラチンを架橋処理する方法(同,3aA10)も示して<br />

いる.電気化学デバイスには電解質溶液が必要であり,その<br />

固体化は実用的に大きな意味を持つ.ゼラチンは水溶液をゲ<br />

ル化できるため,その利用が検討されている.Avellaneda ら<br />

(ドイツ Leibniz 新材料研究所)は Nb 2 O 5 :Mo を表示層に用い<br />

るエレクトロクロミック素子の電解質に,ゼラチンゲルを利<br />

用した(Electrochim. Acta,53,1648).ゲル電解質について<br />

は,Choudhury ら(Indian Institute of Science)が,塩化ナト<br />

リウム水溶液をグルタルアルデヒドで架橋したゼラチンでゲ<br />

ル化し,電気化学スーパーキャパシタ用電解質に適用した(J.<br />

Electrochem. Soc.,155,A74).<br />

ゼラチンと他の有機 / 無機材料を組み合わせた複合材料に<br />

ついても多くの研究が見られるが,写真関係に応用可能性が<br />

ありそうなものをひとつ紹介しておく.Smitha ら(インド<br />

CSIR)は,ゼラチン溶液中でのテトラエトキシシランの加水<br />

分解によってシリカ–ゼラチン複合体を得,いくつかの性質を<br />

調べた.この複合体をガラスに 300 nm の厚みで被覆したと<br />

ころ,透明(透過率 90%以上)で高い強度を示した(Mater.<br />

Chem. Phys.,103,318).彼らはコロイダルシリカにメチル<br />

トリメトキシシランを反応させ,これをゼラチンと複合化す<br />

ることで高い撥水性の透明なコーティング材料が得られるこ<br />

とも報告している(Colloids Surf. B,55,38).光学材料や感<br />

光材料,メディア等への応用もあり得るだろう.<br />

Okonkwo ら(ナイジェリア国立化学技術研究所)は , ゼラ<br />

チン製造時の骨原料からの脱灰処理に通常用いられる塩酸に<br />

換えて,硫酸を用いることを検討した.硫酸を用いることで<br />

製造コストを下げることができ,できあがったゼラチンも工<br />

業用や医薬用に利用可能なグレードであるとした(Global J.<br />

Pure Appl. Sci.,13,189).<br />

<strong>2007</strong> 年度ゼラチン賞の小林隆氏の研究もそのひとつとい<br />

えるが,ゼラチンの最も特徴的な性質である熱可逆的なゾル<br />

ゲル変化については,現在もなお多くの研究者の興味の対象<br />

であり続けている.Osorio ら(チリ サンチアゴ大)は,ゼラ<br />

チンの融解とゲル化の両方について,濃度,ブルーム,pH の<br />

影響を微小振幅振動型レオメータを用いて温度掃引法で検討<br />

した.融解温度,ゲル化温度と濃度,pH を結びつけるモデ<br />

ル式を提案した(Internat. J. Food Prop.,10,841).ゼラチン<br />

の特性パラメータとしてブルーム値を用いており,分子量分<br />

布のような分子論的な視点からの議論がない点が惜しまれ<br />

る.Elharfaoui ら(フランス ESPCI)は分子量の異なるアル<br />

カリ法骨ゼラチン試料を用い,旋光度測定から求めたへリッ<br />

クス含有量,へリックス形成と融解のエンタルピー,粘弾性<br />

挙動を比較した.これらを総合することで,貯蔵弾性率のマ<br />

スターカーブを得,濃度との関係を議論した(Macromol.<br />

Symp.,256,149).Matsunaga ら(東大物性研)は,冷却時<br />

の時間分解動的光散乱と粘弾性測定によってゼラチンゲルの<br />

ゲル化点を求めた.ゲル化温度においては散乱強度の顕著な<br />

増大を始め,特徴的な現象が観察された.このようにして求

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