San Diego Yu Yu, May 16,2016

68 SAN DIEGO YU-YU MAY 16, 2017
何 かが 始 まることはわくわくする。1 日 のスター
ト の 日 の 出 、 歴 史 の ル ー ツ 、あ る い は 人 生 の 出 発 — 。
「あけぼの」を 探 して 世 界 の 各 地 を 旅 する。
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いくつもの 丘 を 越 え、 畑 や 草 原 、 空 き 地 がパッチ
ワークのように 広 がる 中 を 車 で 走 ると、 道 端 に 白 や
紫 、 黄 色 の 花 畑 が 目 に 入 った。 運 転 手 のジュスティ
ニアーノさん が「 パ パ !」と 指 さ す。 現 地 の 言 葉 で ジャ
ガイモのことだ。2 〜 3 月 のペルー・アンデス 山 脈
の 麓 は、ジャガイモの 花 の 季 節 。 今 も「 数 百 種 が 出
回 る」というこのあたりは、ジャガイモのふるさとだ。
かつてのインカ 帝 国 の 首 都 クスコから、さらに
上 ったチンチェロ 村 の 郊 外 。 車 を 降 りると 畑 には、
黄 色 の 花 に 白 い 花 が 交 ざって 咲 いている。「 病 気 に
負 けないよう、いくつかの 種 類 を 交 ぜて 植 えるん
だ。 空 豆 も 植 えるよ」とジュスティニアーノさん。
例 年 、6 月 ごろ 収 穫 されるという。
畑 仕 事 をする 家 族 が 目 に 入 った。「 昨 年 9 月 、 早
畑 でとれたジャガイ
モ。 薄 茶 色 の 方 が
「 パ パ・デ・ブ ラン
カ 」、 赤 い 方 が「 パ パ・
デ・ス ィ カ 」= ペ ル ー・
チンチェロ
めに 植 えたジャガイモを 収 穫 している」とのこと。
畑 に 下 りて、 作 業 を 見 せてもらう。
日 本 でも 見 る 皮 が 薄 茶 色 のものと、 小 型 のサツ
マイモみたいな 赤 いものが 混 在 。「パパ・デ・ブラ
ンカとパパ・デ・スィカよ」。 赤 い 方 がスィカだ。
クスコの 大 学 に 通 う 娘 のベロニカさんは、 週 末 の
収 穫 のために 里 帰 りした。 機 械 は 使 わず 家 族 の 手
で 掘 り 進 めていく。
ボリュームたっ
ぷりの 鶏 とジャ
ガイモのスープ
= ペルー・ウル
バンバ
人 類 の 発 展 支 えた 食 材
ジャガイモのふるさとへ
畑 の 土 手 を 上 ると、すぐに 息 が 切 れた。ここは
標 高 約 3800 メートル。 富 士 山 の 山 頂 より 高 いた
め、 空 気 は 薄 い。
チンチェロの 日 曜 市 をのぞくと、いろいろなジャ
ガイモが 山 積 みされていた。イモの 干 物 風 のもの
が 並 んでいる。「 白 い 方 がモラヤ。 色 が 濃 い 方 が
チューニョよ」と 店 番 の 女 性 。
寒 い 冬 にジャガイモを 外 に 並 べておくと、 夜 は
凍 って 昼 は 溶 ける。それを 繰 り 返 すと、 日 本 のし
み 豆 腐 のような 保 存 食 になる。「こうすると、 毒 も
抜 け る の 」。 ジ ャ ガ イ モ に は ソ ラ ニ ン と 呼 ば れ る 毒
素 が 含 まれるおかげで、 病 気 や 害 虫 に 強 い。
インカ 帝 国 を 征 服 したスペイン 人 は、ジャガイモ
を 持 ち 帰 った。その 後 品 種 改 良 されて 欧 州 で 広 ま
り、 産 業 革 命 に 伴 う 人 口 の 拡 大 を 支 えた。しかし
19 世 紀 のアイルランドでは 病 害 が 流 行 し、 壊 滅 的
被 害 が 出 て 飢 饉 が 発 生 する 悲 劇 が 起 きた。 一 方 、
ペルー・アンデス 山 麓
市 場 のジャガイモ 店 には、たくさんの 種 類 のジャガイモが 山 積 みだ = ペルー・ウルバンバ
マチュピチュ 遺 跡 に 残 された 農 地 の 跡 。 水 が 満 遍 なく
流 れるよう、 区 画 が 整 備 されている = ペルー・マチュ
ピチュ
インカ 帝 国 時 代 の 建 物 を 破 壊 して 造 られたアルマス 広 場
= ペルー・クスコ
ペルーでは 気 象 条 件 が 厳 しい 高 地 にもかかわらず、
混 栽 の 知 恵 などで 病 害 を 防 いできた。
谷 あいの 町 ウルバンバの 食 堂 では、 家 族 連 れが
昼 食 を 楽 しんでいた。 大 人 も 子 どもも、 大 盛 りの
1 人 前 をぺろりと 平 らげる。「ペルーの 人 は、 食 べ
るのが 大 好 きなんだ」とジュスティニアーノさんが
片 目 をつむった。
ペルー 料 理 は 今 、ガストロノミー( 美 食 学 )の 世 界
でも 注 目 を 集 める。 海 から 山 、 乾 燥 地 帯 からジャン
グルまで 幅 広 い 地 域 にまたがるこの 国 の 人 々は、 多
様 な 食 材 を 生 かした 料 理 を 食 べてきた。さらに 流 入
し た 移 民 の 影 響 で 、 多 彩 な 食 文 化 が 構 築 さ れ た の だ 。
「その 基 盤 がジャガイモ」と 話 すのは 国 立 民 族 学
博 物 館 ( 大 阪 府 吹 田 市 ) 名 誉 教 授 の 山 本 紀 夫 さん。
「さまざまな 標 高 や 気 候 に 合 わせ、 数 えきれないほ
どの 種 類 のジャガイモを 栽 培 することでリスクを 分
散 してきた。それが、アンデス 山 麓 の 人 々の 食 生
にぎわう 日 曜 市 で 店
番 をするケチュアの
女 性 。 昼 食 はもち
ろん、ジャガイモを
使 った 料 理 だ = ペ
ルー・チンチェロ
活 を 支 えてきたのです」と 指 摘 する。
クスコの 北 西 に 広 がるインカ 帝 国 時 代 の 遺 跡 、サ
クサイワマンに 足 を 延 ばした。 刃 の 1 枚 も 入 り 込 む 隙
間 がないほど、ぴったりと 積 み 上 げられた 巨 石 の 壁 。
その 足 元 に、 紫 色 の 小 さな 花 が 咲 いていた。よく 見
ると、 野 生 のジャガイモの 花 だ。 誰 も 気 に 留 めないよ
うな 地 味 な 花 だが、これが 人 類 の 発 展 を 支 えてきた
と 思 うと、 感 謝 の 気 持 ちで 胸 がいっぱいになった。
( 共 同 )
インカ 帝 国 時 代 の
遺 跡 サクサイワマ
ンに 咲 いていた、
野 生 のジャガイモ
の 花 =ペルー・ク
スコ
農 業 大 国 だったインカ 帝 国
子 孫 はケチュア 人
ペルー・アンデス 山 麓 のクスコを 中 心 に、 最 盛
期 にはチリ 北 部 からコロンビア 南 部 までを 版 図 と
したのがインカ 帝 国 だ。13 世 紀 ごろに 前 身 の 王
国 が 成 立 し、16 世 紀 にスペイン 人 の 軍 隊 に 征 服
されるまで 続 いた。
高 度 な 農 業 技 術 を 誇 り、その 名 残 はマチュピ
チュ 遺 跡 に 残 された 農 地 跡 などで 見 ることができ
る。ただ 正 規 軍 を 持 たなかったインカ 帝 国 は、 収
穫 期 に 軍 が 弱 体 化 してスペイン 軍 に 敗 れたという
説 も 有 力 だ。
文 字 を 持 たなかった 帝 国 の 言 語 ケチュア 語 は
今 も、 子 孫 とされるケチュア 人 の 間 で 話 されてい
る。 山 高 帽 にカラフルなスカートとカーディガン
姿 に、タイヤをリサイクルしたサンダルを 履 いた
女 性 の 独 特 のファッションは 目 を 引 く。