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スペイン語と日本語の音声の対照的研究 - 東京大学

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来語と固有語の比較による日本文化の性格の研究、(4) 外来語を通じての日本語の基本的性格<br />

の研究がある。言語の対照研究においては (1) も重要であるが、(4) の研究も興味深い。楳<br />

垣 (同: 4) は次のように述べている。<br />

外国語が日本語の中に取り入れられるときには音韻、文法、語彙のあらゆる面で、<br />

外国語そのままでは無理が生じる。そこで、どうしても外国語を日本語の体系に合<br />

うように順応化しなくてはならない。(…) 外来語が取り入れられて、その結果どん<br />

な変化を起こすか、その点を追究すると日本語という言語体系の基本的な構造が外<br />

国語のそれとどんなに違うか、かなりはっきりと観察することができる。<br />

一口に外来語といっても、その母国語化の程度にはいくつかの段階が考えられる。(1) 原語<br />

の意味と形態が十分に保持されている「外国語」、(2) 意味と形態が著しくくずれ、母国語の<br />

構造にかなり同化している「借用語」、(3) 原語の特色を失い母国語と同じ扱い 34 をうけてい<br />

る「帰化語」の 3 種に分類できるだろう。<br />

対照研究の立場からは、(1) の「外国語」の段階が興味深い。小川 (1954: 11)によれば、「〔明<br />

治時代の書生の〕発音の多くはオランダ語やポルトガル語の影響の強いものであったが、耳<br />

から聞いて正しく移そうとしたものもある。たとえば、y を『ウワイ』とし、right を『ウラ<br />

イト』とし、Perry を『ペルリ』としたなどは正しい音声を移そうとした態度である」。この<br />

ような「耳経路」(ear-route) で受け入れられた外国語 35 の方が資料として適している。通常の<br />

外来語では文字の影響が強いので、音声の干渉の資料としては具合が悪い。<br />

また、外来語は社会規範的な観点からも見なくてはならない。つまり、多くの外来語が教<br />

養語 (Lehnwörter) であって、そのためかなり規範的な力が作用しやすい。とくに国際化とマ<br />

スコミュニケーションが発達した現代においては、この規範 (上からのお仕着せ) の作用が強<br />

い。現代日本語の表記法は、大量の外来語の流入によって新しいモーラが出現し、大幅な改<br />

変や追加が余儀なくされている 36 。現代日本語の音韻体系を理解する上で、このような言語外<br />

的要因をも考慮する必要があるだろう。<br />

しかし、英語と日本語の対照音声学においては外来語は資料とするだけの量的な価値が十<br />

分あるが、日本語が取り入れたスペイン語語彙や逆にスペイン語が取り入れた日本語語彙の<br />

数はきわめて少ない 37 。このため、本研究で用いられる外来語の資料は、新聞その他の経路か<br />

らとった筆者のメモによるものであって、各種の外来語辞典によるものではない。<br />

以上が主な資料であるが、その他スペイン語圏の人々のもつ日本語の印象、日本語を習う<br />

34 言語外的な扱いと、言語内的な扱いがあり、前者には社会的な受け入れの程度、使用頻度、<br />

使用範囲(一般的か専門的か)、使用者の意識、使用される形式 (日本語のカタカナ、スペイン<br />

語のイタリック体) などがある。後者には音韻や文法の面での同化の程度があげられる。<br />

35 Weinreigh (1953; 1976): 58.<br />

36 菅野(1976).<br />

37 国立国語研究所(1964)によれば、中国語以外の外来語の 81%が英語で、次にフランス語が<br />

6%, ドイツ語が 3%で、他は 2%以下である。<br />

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