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スペイン語と日本語の音声の対照的研究 - 東京大学

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ン語話者にとっては、なおさらその傾向が強い。一方日本人は E:/θ/を J. /s/に置き換えるため、<br />

thin と sin の区別が困難になる。これは日本語では閉鎖音(stop:/t/, /d/) と摩擦音 (fricative:/s/,<br />

/z/) が弁別されるためである。このように同じ E. /θ/の受け入れ方が S と J で異なるのは、S<br />

では円熟性:粗擦性、J では閉鎖性:摩擦性の対立が弁別的であるためであり、このような弁<br />

別的特徴を用いた説明が可能になる 12 。<br />

(5)生成音韻論的方法はどうだろうか。Chomsky and Halle (1968) によれば、文法の一部門を<br />

構成する音形部門は統語部門によって生成された表層構造に、音形解釈を与える。そこで、<br />

基底音形表示と音声表示の 2 つの表示のレベルが、音形規則によって結び付けられる。構造<br />

主義の音素論が、具体的な音声の資料から音素を抽出させていく帰納的方法をとるのに対し、<br />

生成音韻論では基底の形態音素的なレベルから具体的な音声を生成させるという演繹的方法<br />

をとるのが特徴である。生成音韻論でも弁別的特徴が用いられるが、Jakobson-Fant-Halle 流<br />

の音響音声学的特徴よりも、調音音声学的特徴を用いている点が注目される 13 。教育的には調<br />

音音声学のほうが有効であるため、それを主とし、機械による観察 (音響音声学) を従とする<br />

分析が望ましいであろう。<br />

生成音韻論的方法による対照分析の例として、Di Pietro (1971; 1974) がある。ここでは、ま<br />

ず個々の言語の音声の複合形式を引き出す普遍的な音素性の貯蔵庫 (stock) を設定し、普遍<br />

的な選択規則によって一般的な階層をなす素性の順序付けをおこなう。たとえば、<br />

[consonantal]と[vocalic]は、この階層の頂点を占める。つぎに、個々の言語がそれらの素性の<br />

全体をどのように利用するかを見ながら音素間の相違を論じるのである。たとえば、北京語<br />

(Ch)では[aspiration]は各種の閉鎖子音の特徴であるが、[voice]が無気息音に現れるのは任意で<br />

ある。一方英語(E)では[voice]を使って[b], [d], [g]と[p], [t], [k]を弁別するが、[aspiration]は位置<br />

的変異音である。以上を弁別的特徴で示すと、次のようになる。<br />

弁別的特徴 Ch:[p h ] Ch:[p] E:[p] E:[b]<br />

voice - ± - +<br />

aspiration + - ± -<br />

これを言語の学習の場面にあてはめると、英語話者が北京語を学ぶ場合は[p h ]を正しく調音<br />

するが、北京語の Ch. [p]は E. [b]のように聞こえる。一方、英語を学ぶ北京語話者は、E. bill<br />

を[bil]のようにも[pil]のようにも発音する傾向がある。E. [b]が Ch. /p/に対応し、これが[±voice]<br />

であるためである。<br />

また、英語話者がスペイン語の ciudad「都市」/θyu'dad/の複数形 ciudades/θyu'dades/を<br />

*/θyu'dadz/とするような干渉も音素論のレベルで扱われる (同:p. 199).<br />

Di Pietro の論述を追ってきたが、彼の方法はすべて構造主義的音素論の枠組にも無理なく<br />

置き換えることができる。たとえば、*/θyu’dadz/の例は形態論、または音素配列論で扱われ<br />

る問題である。このような母国語の類推による干渉と、たとえば強勢のない S. /a/を E. /ə/のよ<br />

12 弁別的特徴による個別言語の分析は Muljacic (1969; 1974)が参考になる。<br />

13 Harms (1968), Chomsky and Halle (1968).<br />

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