スペイン語と日本語の音声の対照的研究 - 東京大学
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であるため無声化しないが、nos basta (われわれには十分である) [nos'βasta]に[ɯ]が添加されて<br />
>J. [nosɯbasɯta]とするため、前者との区別がつかなくなる。JP は先にあげたような対を聞き<br />
分けて、S. /u/を後舌・円唇・有声母音で調音するようにしなければならない。<br />
一方、SP は日本語の無声化母音の習得が一般に困難で、文字から学習した人は有声母音に<br />
して発音する傾向がある。例:「助ける」[taskeɾɯ] > S. [tasu'keɾu] 55 。<br />
(4) J. 長母音<br />
Hara (1964: 371f)によれば、10 分の 1 秒より長いスペイン語の強勢母音は、日本人の耳には<br />
長母音/VH/に聞こえる。よって、JP にとっては S. [Vˑ]と S. [Vː] (先述:2. 1. 1) が >J/VH/のよ<br />
うに聞こえる 56 。<br />
一方、SP は Jp の/V/ : /VH/の対立を聞き分けることが困難で (「おばさん」:「おばあさん」) 、<br />
両者を同一視するか、後者を 2 つの母音の連続 (後述) と再解釈する。とくに、「短歌」/taNka/:<br />
「タンカー」/taNkaH/のようなアクセントのない部分の識別が困難である 57 。逆にアクセント<br />
のある音節は母音が長音化されるので、たとえば「心」[kokoro]を >S. /kokoro/ [kokoːɾo]のよ<br />
うにしがちである。Jp ではアクセント母音と非アクセント母音の長さにほとんど違いがない<br />
ので注意が必要である。<br />
以上をまとめると次のような図になる。<br />
2. 2. 半母音<br />
半母音は、音声学的には「母音類」(vocoid)に属するが、音素論では子音に分類される。両<br />
言語において、半母音は母音の前の位置と後の位置で、その音声的実現にかなりの相違があ<br />
55 文字からではなく、音声から (耳経路で) 学習した人は、[tas'keɾu]のように 3 音節にして、<br />
[sɯ̥ ke]の部分を[-ske-]のような子音結合にする。これは後述する日本語のモーラ単位のリズム<br />
に反するので、とくに外国人らしさが目立つ発音となる。<br />
56 ただし、Jp には/VHN/という連続が、擬音語などを除いては他にない「特別な長音節」 (先<br />
述:2. 1. 2) であるため、これを回避する。例:S: balcón[bal'koːn] > J. /barukoN/. また、JP は<br />
Sp の下降二重母音/ey/, /ow/を長母音化(>J. /eH/, /oH/)する傾向があるがこれについては後述す<br />
る(2. 2)。<br />
57 川瀬(1974)の書き取りの調査(対象はメキシコ人とエルサルバドル人) には、「校長先生」<br />
/koHcyoHsensei/ > S:/kocosensei/, 「中央線」/cyuHoHsen/ > S:/cyuosen/,「聞いて」/kiHte/ >/kite/<br />
の例がある。<br />
J. /V/ [V]<br />
[Vˑ]<br />
J. /VH/ [Vː]<br />
29<br />
S:/V/