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スペイン語と日本語の音声の対照的研究 - 東京大学

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その典型が類型的音韻論である 3 。また、音声上の類型論の試みもある 4 。形式的音素論として、<br />

デンマーク学派の音素論 (Fischer-Jorgensen, 1952; Togeby, 1951) があげられるが、この方法を<br />

用いた対照研究は少ない(林, 1958)。対照分析がすべて具体的な音声によってなされるならば、<br />

純粋に形式的な音素論を用いての分析は不可能である。しかし、音声事実の観察が不完全な<br />

ために、安易な簡略化をするならば 5 、それは形式的音素論の欠点となるだろう。<br />

(3) 統計的方法は、音声の性質よりもむしろその頻度や確率を扱うものである。統計的処理<br />

のためには離散的な (discrete) 単位が便利なので音素の出現頻度の研究が多いが、基本的な<br />

異音についても頻度調査が可能である 6 。この方法の難点は音素分析法が異なると比較ができ<br />

なくなることである。たとえば、スペイン語の非音節主音[i̯ ], [u̯ ]をそれぞれ/i/, /u/と解釈する<br />

か、/y/, /w/と解釈するかで、結果が大きく異なることになる。また、音素の出現頻度とその<br />

機能負担量(functional load)は必ずしも一致しない。機能負担量に関わるのは頻度よりもむしろ<br />

音素の情報量であるから、頻度(確率)の syntagmatic な分析が必要である 7 。<br />

次に、(4)弁別素性分析(distinctive feature analysis) による方法について見よう。Jakobson, Fant<br />

and Halle (1952) は、スペクトログラフに現れる各音の音響的性質に基づいて、12 組の対立を<br />

なす特徴を取り出し、このなかにすべての言語の音素の弁別的特徴が含まれる、と主張した。<br />

それが正しいならば対照研究の有効な方法として採用できるはずである 8 。しかし、二項対立<br />

説や示差的特徴の設定そのものに批判があり 9 、また世界のすべての言語の研究がなされてい<br />

ないうちに普遍性を唱えるような apriorism の危険も指摘されている 10 。筆者は、弁別的特徴<br />

を用いて対照分析を試みたが、余剰的特徴を含めても、まだ記述し得ない重要な点が残るの<br />

で、この方法を断念せざるを得なかった。弁別的特徴は極度に記号的であり、+や-で表す<br />

ことのできない調音点の相違や複雑な調音器官の運動を記述するには不向きである。<br />

しかし、ある音素的対立を観察するときに何が弁別的特徴であるかを見ることは重要であ<br />

る。たとえば、スペイン語(S)話者が英語 (E) の[θ]を[t]に置き換えて発音することが観察され<br />

る。これは、E. [θ]が円熟的(mellow) であるために、対立する粗擦性 (strident) の S. [θ]に同化<br />

されず、類似の調音点をもつ S. /t/を代用したと解釈できる 11 。/θ/音素のない中南米のスペイ<br />

3 Trubetzkoy (1939), Hockett (1955), Voegelin (1956, 1957), Voegelin and Yegerlehner (1956). しか<br />

し、類型論は個々の対照研究を目的としていないので、ここに分類するのは適当ではないだ<br />

ろう。<br />

4 Robins (1964; 1969): 376 ff.<br />

5 たとえば、「日本語には[l]がないので、日本語話者は[l]と[r]の区別がつかない」というよう<br />

な説明である。<br />

6 英語については Hayden (1950), Trnka (1966); スペイン語では Zipf and Rogers (1939), Navarro<br />

Tomás, Delattre (1965); 日本語では Edwards (1903; 1935), 大西(1937), 中野(1973)などがある。<br />

7 Hockett (1955: pp215-218), 上田(1975: p. 107ff).<br />

8 たとえば、Singh (1968)は、弁別的特徴を用いて error analysis を行っている。<br />

9 小泉(1971: p. 117ff).<br />

10 Martinet (1955: pp. 73-75).<br />

11 S:[θ]の粗擦性については cf. 原(1975)。<br />

8

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